ぐつぐつ、ことこと……
両手には包丁やお玉などの調理器具。
背中の腕には、塩や貴重な香辛料などの調味料を掴んだまま待機。
地球では見たこと無い、記憶にある野菜とは見た目と味が一致しない食材に悪戦苦闘しながら、大鍋を掻き混ぜて煮込み続ける。
うん。
調味料が希少だから薄味だけど、ちゃんとバランス良く味を引き出せている気がする。
お玉でスープを一掬いして味見すると、横から期待に満ちた5対の視線が見つめてくる。
それぞれ仕草に差異はあっても何を考えているのか明白な5人から、無言の催促がずっと続いているので、私は納得できる味になってきたところで白ちゃんに声をかける。
「白ちゃんー。おさらー」
「っ! よし来た!」
空納からスープを入れるのに適した深皿を人数分取り出した白ちゃんから、それを念力で受け取って空中に並べると、1つずつ熱々の液体と具材を注いでいく。
最後に仕上げとして、左腕の苔に酸属性を付与してピリピリする酸味を帯びるようにする。
それを、少量千切って浮かべたら完成です!
「出来たよー」
「スープだぁー!!」
「「「「……ッ!」」」」
普段の無表情っぷりが嘘のように破顔する白ちゃんと、無言ながらも大はしゃぎした動きで歓喜を表現するパペットタラテクトたち、5人合わせて料理出来ない腹ペコ組が大事そうにお皿を受け取っていく。
そしてお肉の扱いでは一流の腕前になりつつある白ちゃんから、マンガ肉と呼ばれるような巨大な骨付き肉を交換するように受け取ると、私たちは焼き肉パーティを始めた。
ポヤポヤした顔でスープを飲み、蜘蛛型の口でお肉を食べる白ちゃん。
よく考えたら液体であるスープをどうやって飲むのか疑問だったけれど、上手く糸に染み込ませ伝わせる事で本体に流し込むパペットタラテクトたち4人。
同じようなポーズで並んで食べているから、まるで年の離れた長女と妹4人といったイメージが頭の中に浮かんだ。
「ねえねえ、長女の白お姉ちゃん」
「だれがお姉ちゃんじゃい。むしろ私が末っ子か姪っ子のはずでしょ」
「では、末っ子か姪の白ちゃんから見て、パペットたちの姿はどう思う?」
「……うぅむ、もっと良く出来るはず」
というわけで、マネキン姿でしかないパペットタラテクトらの、美容改造施術が始まった。
白ちゃんがお手本として服の実物を作り、私は糸を使えるわけではないので形がおかしいところを指摘して手伝ったりしていると、シンプルなノースリーブの服を着た一目見ただけで少女だと理解出来るマネキンが4体並んでいた。
この段階でもだいぶ雰囲気が出てきたけれど、まだまだ無機質な人形感が強いので、さらに手を加えていく私たち。
髪? 鬘を被せよう! いや直接植え付けてみるのも……
顔はどうしよう? うーん土台から加工しないと、んん? この身体糸で出来ているみたい?
肌の質感を再現した! おー凄いモチモチ。
眼球を作った! ……え? 元々糸だよね? どうやって作ったの?
主に白ちゃんが動き回って改造を施していき、私はデザインの発案や調整をしながらサポートに回って一晩丸々時間を使い施術を施すこと数時間。
そして朝日が登る頃には……
「おかしいなー? いつのまにか別嬪さんが増えているぞ?」
街から帰ってきたアリエルさんは、本当に予想外の出来事に困惑していた。
みんなの視線が向かう先には可愛らしい顔立ちの少女が4人いて、よくよく見れば違うとわかるけれどパッと見では人間に見えるパペットタラテクトたちが、おしゃれに変わった自分の姿を喜び楽しんでいるのが映っていた。
白ちゃんが一晩で作って見せました。
いや本当凄い事をたった一晩で白ちゃんはやってのけた。
だから……、白ちゃんのほうも見てあげて。
自分の服装も変わっているのに全く気づいてもらえないから、拗ねちゃっているから……
結局かなり後になってから服装に触れられたので、微妙に不機嫌な白ちゃんをそっと宥めると、私たちは出発の準備を始めるのであった。
旅を再開した私たちは、日中に休み夜中に進んでいくというサイクルで日々を過ごしていた。
昼間はメラゾフィスさんが弱って動けないので、その間にエルロー大迷宮に帰ってコケダマたちの様子を確認する。
そして傷ついた子がいれば回復して回り、スキル上げなど修行方法を無茶じゃない範囲で教えていき、ときどき狩りなどを手伝ったりしてから、向こうの荷物に入れておいたマーキングを目印に転移して戻る。
日が暮れれば歩きはじめ、ソフィアちゃんがヒーヒー言っても強制的に修行をさせられながら、街道を外れた山道などを進む日々となっていた。
そして今日は……
「自分に攻撃魔法を撃ち込んで、魔法スキルと耐性スキルを上げる訓練をします」
『馬鹿じゃないの!? あんなの死んじゃうわ!?』
先程、うっかり白ちゃんに触れてしまった事で手首から先が消し飛んでしまったソフィアちゃんが無理だ不可能だと泣きわめきながら駄々をこねているので、さっきの事故の原因と訓練の必要性について懇切丁寧に説明した。
『わかったわ。……イヤ、やっぱりこれオカシイって!? めっちゃ辛いのだけど!?』
自分に撃ち込んだ魔法に悶絶するソフィアちゃんに、私は複数の苔玉を連ねて結んだ数珠みたいなブレスレットを着けた。
『あの? これは何かしら? ピリピリしたり気持ち悪い感じがしたり。かといえば身体の調子が良くなったりして、もの凄く変な感じなんだけど』
「それは技能付与と魔法付与で、「毒攻撃」「麻痺攻撃」「酸攻撃」「睡眠攻撃」「不快」「回復魔法」を付与させた状態異常耐性とかを上げるための修行用魔道具かな?」
技能付与は所持しているスキルを道具や武器などに付与させるスキル。
魔法付与は魔法を物体に込めて、使い切りの魔法を発動できる道具にしたり、魔道具と呼ばれるMPを込め続ければ半永続的に使える便利な道具を作るためのスキルだと知った。
その上手な使い方をアリエルさんから指導を受けることで憶えた私は、自分が纏う苔が付与するための触媒に最適な性質を利用して、何度も練習を繰り返して無数の失敗作の果てに出来上がった完成品をソフィアちゃんの腕に取り付けたのであった。
失敗作も使い物にならない品だからという訳ではなく、ただ単純に効果が強すぎて今のソフィアちゃんが着けると死にかねないから失敗作という、しょうもない理由でボツになっていた。
『ちょっ、これ……、気持ち悪くて吐きそうなんだけど、取っちゃダメなのこれ?』
「頑張って。後で属性耐性上げ用のも作るから、そっちも着けてね」
『なにこれ、外れなっ、いッ!? うぷッ……』
「あっ、メラゾフィスさんの分もあるので、どうぞ」
「……ありがとうございます。失礼、お嬢様が大変なことになっているので横を通りますね」
青い顔で首元を吐瀉物で汚したソフィアちゃんの背中を擦るメラゾフィスさんから目を逸らすと、何故か白ちゃんもアリエルさんも目を逸らしていた。
「……なに?」
「ないわー」
「白ちゃんも大概だと思っていたけれど、こっちもヤバかったか……」
私は首をかしげるけれど、余計に視線を逸らされるだけだった。
便利だと思うのに……、ちゃんと安全のために自動回復効果もついているのに。
旅を続けること数ヶ月くらい。
何度か街に寄っては進むのを繰り返していくうちに、人間関係も変化していった。
白ちゃんとアリエルさんとでは最初のギスギス感が薄れてきて、短めのコミュニケーション程度なら取れるような関係に。
とはいえ軽口や牽制しあいが無くなった訳ではないので、その度に間に入って空気が悪くならないように掻き回さないといけないので、少々気疲れする。
ソフィアちゃんからはトゲトゲしく反抗的だったのが比較的素直になり、文句を言いつつも修行に積極的になって、人との距離感も模索しているようだった。
かわりにメラゾフィスさんが日増しに表情が曇っていくのが心配だったけれど。
そのため辛気臭い表情が常に浮かぶ彼に対して、白ちゃんがイライラしたり、ソフィアちゃんも彼とどう接していいのか悩んだりと、微妙な空気になっていた。
パペットたちは幾度もの改造を経たことで、見た目だけなら何処からどう見てもただの女の子にしか見えず、触った時の感触も少し違和感はあるけど人肌に近い柔らかさを持つようになっていた。
姿形がはっきりして個性も明確に表現するようになったパペットたちは、勝手に白ちゃんが名前を付けようとしていたのをアリエルさんが慌てて止めて、次の日にはそれぞれ名前がついていた。
しっかり者だけど美味しいところは逃さず抜け目ない、溌剌そうな顔のアエル。
気弱で何をするにしても迷ってしまい助け舟がないと動けない、ぼんやり顔のサエル。
ときどき不自然に動きが止まったり変な行動をする不思議ちゃんな、微笑み顔のリエル。
お調子者でジッとしていられない見た目通りの子供っぽい活発さの、笑顔のフィエル。
それが、ただの人形から個性を獲得した彼女たち4姉妹の名前だった。
彼女たちはアリエルさんが召喚で呼んだり戻したり繰り返していたのだけれど、今では常に4人全員が呼び出されたまま、一緒に旅に同行していた。
そんな問題だらけな旅の途中だったけれど、その間にも無数のモノ造りをしていった。
いわゆる魔剣とよばれる特殊な効果を持った武器を制作してみたり、いい加減サイズの合わないボロボロの服でいるのも良くないと思ったので、白ちゃんに協力を仰ぎつつ神織糸を織り交ぜながら布を作って結果異常な耐久性を持った服が出来上がったりと、様々な装備品が出来上がっていた。
『翠苔の翅旗杖:
攻撃力:9413
耐久力:99999
特性:「魂喰」「破魂」「外道属性」「自動成長」「自動修復」』
『翠苔の魔女服:
攻撃力:13
耐久力:99999
特性:「魂喰」「ダメージ吸収」「魔法吸収」「魔力貯蓄」「自動修復」』
そこらの金属などよりも遥かに強度が高い自分自身の身体を利用して、苔や髪の毛を編むことで布地を作ったり、翅を根本から切り取ってそのまま取り付けたり布の裏地にして貼り合わせたりして装備品を作った結果が、このようなおかしな性能を持った品々が出来上がっていた。
旗杖は、持ち手を白ちゃんの脚の一本を芯にして持ちやすく加工し、先端に鎌の先端と4枚の翅を繋ぎ合わせて隙間を苔で埋めた、翅がはためく私の身長よりも巨大な杖。
付与された特性から見て分かる通り、普通に振るうと危険極まりない破魂の性質が宿っていて、また攻撃した相手の魂を削り取って吸収する「魂喰」という効果も付与されているので、普段は旗を巻きつけて封印させておかないと危なっかしくて使えない代物になっていた。
魔女服のほうは、バッサリ切り落とした私の髪と白ちゃんの神織糸を織り合わせて黒く染めた布に裏地として翅をパッチワークのように貼り合わせて縁取りに苔をファーのように並べた、広い鍔の魔女帽とAラインの足元まで覆うローブ合わせてワンセットの服である。
こっちにも「魂喰」の特性が付与されているけれど服自体に攻撃性能は無いので、メインとなる効果は受けた攻撃をMPに変換して貯蓄する機能だった。
補足として、一時的に髪が短くなったけれど切り落とした瞬間から少しずつ伸び始め、数分後には同じ長さの髪に戻っていたので、私はこの先ずっとロングヘアが固定されることを自覚した。
魔法とかスキルを使えば、そんなに汚れないし洗うのも簡単だから平気だけど、前世でこの髪型だったら、ケアや手入れがとてつもなく大変だったと思う。
武器と服が完成すれば、やることは1つ。
蜘蛛の大鎌を装備した白ちゃんとの模擬戦が勃発した。
クルクル手元で回転させて変則的な斬撃を繰り出す白ちゃんの攻撃を、こちらも同じ様に中程を持って杖を回転させることで鎌を弾き、弾いた衝撃と遠心力を乗せて旗布を束ねた穂先で横薙ぎを叩きつける。
それを鎌のカーブで受け流す白ちゃんは掬い上げるように弧を描くと、地面ごと斬り上げる。
斬撃を回避し素早く引き戻した旗杖を一回転させ旗布を一部展開させる。
遅れてやってきた土砂を広げた旗布でまとめて吹き飛ばし突きの型に戻そうとするが、その前に白ちゃんの大鎌が首の真横にあった。
「……参りました」
「49戦中42勝3敗4引き分け。ふふん、圧倒的なパワーには小細工など通用しない!」
「それ、アリエルさんと模擬戦しても言える?」
「……ぷひゅぅー、ひゅぅー」
「口笛吹けてないよ」
日々の日課に模擬戦が追加された私たちは、街に行ったアリエルさんと吸血鬼主従の買い出し班が帰ってくるまで、こうして鍛錬や修行に時間を使うのだった。
ストレス発散には無心になれる運動が効果的なのは、前世でもこちらでも変わらない事実なので、たまにはガス抜きをしないと2人とも参ってしまいそうだからね。
そうして時間を潰していると、帰ってきたアリエルさんが普段出さない、あるモノを食事に持ち出してきた。
「じゃじゃーん! 今日は気分を変えて、お酒行ってみようー!」
今まで街を覗いたときに酒場などで冒険者や肉体労働者などが浴びるように飲んでいたことで、お酒があることは知っていたけれど、それを買ってくるとは思っていなかった。
だって、見た目的にお酒飲んでも問題無さそうなの、メラゾフィスさんしかいなかったので。
「というわけで、ほい。白ちゃんとコケちゃんにも、ほい」
えっ、私たちにも?
手渡されたお酒が入ったコップを眺めていると、白ちゃんは数秒眺めると躊躇なく飲み干した。
なんか色々と悪いことしている気分だけど、飲酒程度とは比べ物にならない事を行ってきたので、今更かと思い私も口をつけた。
あっ、甘い……飲みやすくて……、頭のおくがふわふわしてきた……か、も……?
なん、か……、からだぁ……かる、く……て、きもち、ぃい?
そしてわたしはりせいがとけていくのをぼんやりとかんじたずなをてばなした。
あはは~? たましぃのひかり、きれい……
おさけ、ダメぇ? ぜったぃ?
それと24位にもなってたぁー! みんなありがとーえへへー