【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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王1 悩める魔王

「ほんとに、それでいいの?」

『はい、よく考えた末に出した答えです』

「メラゾフィスくんも、同じ答えかい?」

「はい。……私は、お嬢様のいる場所こそが私の居場所だと、もう迷うことなく言えますので」

 

 街に入る前、ソフィアちゃんとメラゾフィスくんから聞かされた決断に、私は少し考え込む。

 内容は、二人がこれからどうするかの話で、予定より早い段階で答えが決まったようだった。

 

「もうすぐサリエーラ国の首都だけど、引き返して魔族領に行く。この決断で間違いないんだね」

『ええ、私たちは知った、いえ知りすぎてしまった。だからこそ、この国に残ってポティマスの影に怯えるよりも、アリエルさんたちと一緒に戦うことを選びます。それに……』

「それに?」

『い、いえ。きゅ、吸血鬼として生きてくんですから、人族の世界では生きづらいと思うので』

 

 ……まあ、距離感については私が注意すればいいか。

 あきらかに言葉にしていない感情があるのを見抜きつつ、私は二人の答えに返事をする。

 

「わかった。それじゃあ、この街でやることやったら魔族領に向けて出発しよう!」

 

 まだ不安がある関係だけど、最初の頃と比べればかなり良くなっているのだから、問題があればその都度私がお節介を焼いてあげればいい。

 これからも一緒に同行するって言うのだから、機会はいくらでもある。

 

 にしてもメラゾフィスくんの悩みを解消させたのが白ちゃんというのが、なんだか納得出来ないけれど。

 私と融合した体担当の記憶を辿れば、不思議なことに人の機微とか感情を鋭く察していたりするので、空気を読む能力自体は高いことがわかるんだよね。

 ただ相手のペースに合わせられないから、コミュニケーションを取るのを拒絶しているけれど。

 

 会話を拒絶しているのに察するのは上手い、だから大事なとこだけ手を差し伸べて上手く好感度を稼いでいき去っていく。

 もしかして白ちゃんって、人たらしの才能があるんじゃなかろうか。

 

 パペットタラテクトが全員たらされた時には、本気で頭を抱える羽目になったけれど。

 いや、それ以前にコケちゃんに全員たらされていたか。

 

 パペットタラテクトたちが二人になついている時点で、敵対したとして戦いを渋るのが目に見えているし、コケちゃんやソフィアちゃんを人質や盾として持ち出しても効果的では無いだろうし。

 

 転移で行ったことのある場所なら何処へでも瞬時に行ける白ちゃんに対して、私が追いつく事ができる手段はない。

 コケちゃんも転移が可能だけど白ちゃんと敵対したら確実に離れていくだろうし、よくて中立で何もせず見守るだけ、けれどほぼ確実に白ちゃんの側について私と敵対すると確信していた。

 

 今は友好的に接してくれているコケちゃんだけど、それは敵対したら敵わないと理解しているからこその行動で、いざ私と白ちゃんが敵対した時どちらにつくかと言われれば明確に私では無い。

 

 そんな転移持ちの相手二人と争うことになれば、私自身は負けなくても私以外が全滅する。

 それは敗北以外に何と言える? 

 

 初手でコケちゃんを仕留めて排除したとしても、それは火に油を注ぐだけの行為であり、それを行ったら最後、私を確実に殺すまで止まらない復讐鬼を生み出すだけだ。

 最悪が別の最悪になるだけで、なにも変わっちゃいない。

 

 まあ、コケちゃんを殺すのも一筋縄ではいかないと理解しているから、白ちゃんに邪魔されたり転移で逃げられたりで勝算は低いけど。

 

 ……ここまでは戦力的な意味で戦いたくない理由。

                    コレー

 私には違うと理解していてもサリエル様と■■■ちゃんに似ている彼女と戦うなんて、ましてや殺すなんてこと出来そうになかった。

 

 身長も体格も違う、色彩や髪の長さも違う、性格も雰囲気も微妙に違うというのに、どうしてもコケちゃんを見ると二人を思い出してしまう。

 そのたびに胸を締め付けられる想いで一杯になり、それを表に出さないようにするのに毎回苦労するよ、ほんと。

 

 その理由は、彼女の種族について調べてみたら納得したけれど。

 コレー

 ■■■ちゃんの子がサリエル様と同じ天使になる、か……運命の悪戯に喜ぶべきか嘆くべきか、わかんないや。

 

 システムが作り出した紛い物だとしても、彼女は二人の面影を引き継いだ。

 私は、二人に手を掛けることなんて出来るのだろうか。

 片方は最期を看取った、もう片方は救うために魔王という最後の足掻きを決意したのに? 

 

 ……やっぱ、無理かもしれない。

 

 私は自分の弱い心を自嘲して、改めて敵対ではなく懐柔の方針で接することを再確認した。

 白ちゃんもコケちゃんも敵としては極めて厄介だけど、味方であるのならこれ以上なく頼もしい相手なのだから。

 

 ここにいる吸血鬼主従に優しくするのも、二人を取り込むための一環。

 二人が気にかける相手に私も優しく接すれば、印象が良くなるだろうという打算。

 

 そんな薄汚れた厚意だけど、吸血鬼主従らにとっては救いであったはずだ。

 家族を失い帰る場所も無くして襲撃者に怯える彼らにとっては藁にもすがる思いだっただろう。

 

 そこに付け込んで利用している訳だから私は途中で見捨てたりせず、この先もずっと世話を焼いていく、それが私がソフィアちゃんたちに支払うべき対価なのだから。

 一緒に来るというのなら、とことん付き合ってもらおうか。

 私にもやることがあるのだから、そのために利用できるものは全て使わせてもらおう。

 

「アリエル様、外郭の門に着きました」

「おっと。それじゃあ、街の中に入ろうか」

 

 メラゾフィスくんに声を掛けられたことで、思ったより思考に没頭していたことに反省しつつ、私たちは通行料を門番に支払い門を潜った。

 

 

 

 

 人が多い通りを歩きながら、私は周囲を見回しながら二人に言った。

 

「さて、ご飯を食べたいけれど、どうしよっか?」

 

 もうすぐ夕食時という頃合いで、本日最後の仕事に忙しなく動く人が多い街中を見渡すも、近くには料理店も酒場も見当たらなかった。

 

 うーん……、街に寄ったときは、その街ならではの料理を食べるのが楽しみなのにな。

 

「この街には以前来たことがあります。お勧めの店があるのですが、そこでいいでしょうか?」

「おお! 任せた!」

 

 メラゾフィスくんのおすすめですと!? これは(いや)(うえ)にも期待が膨らんじゃうなー。

 

 案内するメラゾフィスくんについて行きながら、さっきまでの悩みなど頭の片隅に追いやって、私は何が食べられるのかワクワクしていた。

 

 お肉? 野菜? 川魚かな? いや特産の酒に合わせた一品だろうか。

 

 まだ見ぬ料理に早くも涎が口に溜まり始め、思わず笑みが浮かびそうだ。

 やっぱり、思うまま食べたいものを食べられるって、最高だよね。

 

 

 路地を進み段々と人通りが少なくなって閑静な住宅街といった場所からさらに狭い路地へと進むと、看板も何もないただの住居にしか見えない建物の前に辿り着き、メラゾフィスくんは迷うこと無くその建物の扉を開いた。

 

 ほう、隠れ家的料理屋ですか……、たいしたものですね。

 

 中に入ると、結構気を遣って整えているだろう上品な内装が映った。

 これはさらに期待が高まったかも。

 

「へえー。よくこんなお店知ってたね」

「旦那様がここの領主と懇意にしていまして、その領主様に教えていただいたのです」

 

 なるほど、領主様のお墨付きってことか。

 高まる期待に胸を躍らせながら席に座ってメラゾフィスが注文するのを聞きていると、私は探知が捕らえた店に近づく老人の存在に気づくと警戒を高めた。

 

 やれやれ、なんの用だか。

 まあ十中八九、この二人と白ちゃんのことだろうけど。

 ……コケちゃんの事はまだ知らないはずだけど、こいつの情報網ならもしかしてがあるか? 

 

 メラゾフィスくんの説明を聞きながら内心を隠そうとしたが、そいつが店内に入りその如何にも腹に一物抱えてますって澄まし顔を見たことで、笑みが消え睨むような目つきになってしまった。

 

 ちっ、せっかくの食事が台無しじゃないか。

 

「久しぶりだね」

 

 空いているのにわざわざ隣の席に座ったこいつに内心で舌打ちしつつ私は言う。

 再び笑みを浮かべ直して親しげに、けれど背後に隠した片手ではナイフを握るような信用と疑心が入り混じった関係のこいつに語りかける。

 

「そうですね、お久しぶりです。それとも初めましてと言うべきでしょうか?」

 

 私が変わったことはお見通しってか? 気に食わないね。

 

「どっちでもいいんじゃない?」

 

 ぶっきらぼうに、どうでもいいことのように、私は答えた。

 

「で、何の用? 神言教教皇のあんたが、わざわざこんな場所まで」

 

 神言教教皇ダスティン。

 それが、隣に座っている老人の正体だ。

 

 奥から注文を取りに店主が出てきたことで一旦会話が止まるも、奥に店主が戻ったことで、再びいけ好かないこいつとの会話が始まった。

 

「護衛も無しに、よく私の前に顔を出せたね? ここは敵国だというのに」

「なに、私の顔など知られておりませんし、心配はご無用です。あなた相手では護衛がいくらいても足りませんし、あなたがその気なら犠牲が私一人で済む分、このほうが良いのですよ」

 

 今の私が死んでも次のダスティンが生まれるから関係無い、とでも言いたいのかこいつは。

 その理由に思い当たり、怒りよりも呆れが浮かんだ。

 

 支配者スキル、節制。

 死んでも記憶を継承して転生する効果のスキルを持っているこの男にとって、死はただの区切りでしかないのだから。

 

 あまりにも軽い命ゆえに、こうして私に会いに来たのだろう。

 ただ、自分一人だけ犠牲になるのが最も効率的だという理由だけで。

 

「あなたを相手に腹の探り合いをしても仕方ありませんし、単刀直入に行きましょう。要件は三つ。一つ目は女神教から手を引いて欲しいということ。二つ目はエルフに関する情報を提供して欲しいということ。三つ目はそちらの二人についてです」

 

 ……ふぅん? 街の外に居る、もう二人については知らないみたいだね。

 

 白ちゃんは街に入れないから見られてないとして、コケちゃんは基本白ちゃんと一緒にお留守番するか、一人で勝手に街に侵入して買い物するかのどっちかだったから、私との関係性に気づいていないみたいだね。

 

 余計な情報を与えないために気を配りつつ、私は口を開く。

 

「じゃあ、一つ目から順番にいこうか」

「一つ目ですが、オウツ国はさらなる侵攻を計画しております」

「なっ!?」

 

 メラゾフィスくんが驚きの声を上げる。

 だが、ダスティンはそれを無視して話を続けた。

 

「もちろん神言教も、それに助力することになっております。ですので、あなたにサリエーラ国側で参戦されると困るのです」

 

 なんとまあ……、こいつらしい陰湿なやり口だこと。

 大義は我らにありってか? 勇者まで担ぎ上げて本気で女神教を潰すつもり気なんだろうね。

 

「ずいぶんそっちに都合がいい提案だね?」

「都合がいいついでに、もう一つ二つ提案させて頂ければ、此度の戦の原因となった迷宮の悪夢と呼ばれている白い蜘蛛の魔物を引き渡していただけたらと思います。それと同じく戦場に姿を表した迷宮の亡霊と呼ばれる蛾の魔物の情報もあればそちらもお聞かせ頂ければ」

 

 節制の名が呆れる強欲っぷりだね。

 思わず反応しそうになっていたソフィアちゃんに注意しつつ、私は答える。

 細かい理由とか、面倒な腹の探り合いを何度か挟みながらも、結論はこうである。

 

「あれは私の配下じゃない、まあそのぐらい察していただろうけど。あれに関しては決着がついている。そして迷宮の亡霊については今何しているのか私も知らない、別に敵対していた訳でもないから殺す必要も無かったし。その呼び方だって今知ったよ」

 

 事実をぼかしつつも嘘偽り無く答える。

 白ちゃんが配下じゃないのは本当。

 決着についても不死の秘密もわからず敵対が愚策である以上、融和策で取り込むことにしたし。

 コケちゃんこと迷宮の亡霊も、今街の外で何しているか知らないし、敵対する気も殺す気も無いのは最初に出会ったときから変わっていない、呼び名だって今知ったことなのも本当だし。

 

 ほら、嘘はついていないでしょう? 

 

「アリエル様がそうおっしゃるのであれば私から言うことはありません。ただ、一つだけ気になるのは、今後サリエーラ国にどのような影響を及ぼすかということです、あなたを含めて」

「私はこれ以上サリエーラ国で何かするつもりとかは無いよ。ちょうど帰ることが決まってたし、余計なちょっかいが無ければ何もしないさ、何も、ね。よかったね、入れ違いにならなくて」

 

 皮肉たっぷりの言葉にも、この男には何処吹く風と涼しい顔して受け流され会話は続く。

 

「それはそれは。ご安心を、私どもからお心を煩わせることは致しませぬ」

「信用できないなー。手綱を握るのに失敗したことは?」

「手綱はしっかり握られておりました。しかし横から邪魔者が出てきたのは事実、そこは詰めが甘かったと素直に謝罪しましょう」

「ふぅん。今回は本気なんだ」

「今回も、です。本気でなかったことなど一度もありませぬから」

 

 あの別働隊も計画の内、けれどポティマスの介入を許したのは此方の不手際だったと。

 

「それで不安要素になるのが、私とあれと、ポティマス……、あと迷宮の亡霊ってとこか」

「左様」

 

 わざわざ私に確認しに来るほどの計画が進行中か。

 ソフィアちゃんたちには悪いけど、この国欠片も残らず滅ぶでしょうね。

 

「一つ目はアリエル様にはサリエーラ国に加担する意思は無いと受け取りましょう。二つ目エルフについてですが、三つ目にも関係しているので合わせて話しましょう。そちらのお子様は一体何者なのですか?」

 

 ダスティンがソフィアちゃんに向けて鋭い視線を送る。

 それを遮るようにメラゾフィスくんが立ち上がり、視線を向けられたソフィアちゃんも戸惑っているようだった。

 ……まずいな、こいつも転生者の存在に気づいている。

 

「もちろんソフィア・ケレンなどという名前を聞いているのではありません。彼女の中身についてです。あなたには前世の記憶があるのではありませんか?」

 

 ソフィアちゃんの表情が大きく変わる。

 それを見てソフィアちゃんが転生者だと確信したダスティンも、苦悩に満ちた表情に変わった。

 

「まさかと思いましたが、こんなことが。システムにバグが?」

「へいへーい? 戻ってこーい一人で勝手に話を進めんな」

 

 こうなると面倒臭い事この上ないし話が飛ぶので、さっさと引き戻す。

 

「失礼致しました。この悪癖だけは何度生まれ変わっても直らないものです」

「考え過ぎはいかんと思うよ。私が言えた義理でもないけど」

 

 今の私なら気楽に考えられるけれど、昔の私だったら絶対悩むだろうからね。

 

「システムは正常に作動している。そこは安心していいよ」

 

 そう答えたとき、ちょうど料理が運ばれてきてテーブルに次々と並び始めた。

 

「続きは、食後にしようか」

 

 並んでいく見た目にも美味しそうな鮮やかな料理たちを見て、私は無理矢理だとしても話を一旦打ち切らせた。

 

 折角の美味しそうな料理を前に面倒事を持ち込むのもナンセンスだしね。

 美味しい料理は温かいうちに味わうのが一番! お残しは厳禁ってね! 

 

 では、いただきます! 

 

 そして誰も喋ること無く重苦しい空気が充満した、無言の食事会が始まった。

 

 ……この空気では美味しさも半減かな、後でもう一度来よう。

 

 

 白ちゃんの一部と融合する前から食事には一家言ある私は、そう決意したのだった。




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