【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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神と人と
29 風蝕の荒野


 ソフィアちゃんたちが魔族領に行くことを決めて、カサナガラ大陸北部にある魔族領を目指し、大陸を北上しはじめてから一年近くが経った。

 

 それまでの道中は基本的に平和そのもので、大きな出来事と言える事も魔物の領域といえる辺境を通った時に襲撃してきた、大型の魔物との戦闘だけだった。

 その魔物はメラゾフィスさんの練習相手として活用され、逃げようとしても白ちゃんやアリエルさんに私なども含めた面々に蹴り戻されるので、悲壮な覚悟を漂わせてメラゾフィスさんと死闘を繰り広げたのだった。

 

 そして今は、地平線まで続く岩と砂しか見えない荒野を私たちは進んでいる。

 ここは鳥と爬虫類の中間のような生き物が無数に飛び交う荒野。

 風を司る竜、あるいは龍が支配する領域だった。

 

 荒野に入る前にアリエルさんが、ここを通るだけと伝えていたおかげで監視と警戒で済んでいるけれど、それが無かったら襲撃が休む暇無しでやってきそうな危険地帯を私たちは進んでいた。

 

「ラーラーラー、ラ~ラ~」

「「「「「らーらーらー、ら~ら~」」」」」

 

 砂利を踏む足音の他に、高い声の合唱が重なり合う。

 私が音階を奏で、そこから一拍置いてからソフィアちゃんとパペットたちの歌声がメロディーをなぞって荒れ地に大きく響き渡った。

 

 なぜ荒野を合唱しながら歩いているのは発声練習のためで、パペットたちは疑似声帯が白ちゃんによって搭載されたけれど扱いが難しく不慣れであり、ソフィアちゃんのほうは今まで念話に頼り切りだったせいで声帯が未発達で舌っ足らずのままだったため、それらを改善するために発声練習が行われるようになったからである。

 

 これはステータス訓練的にも効果的らしく、大声を叫びながら歩くことで負荷が増しているので停滞していたステータスの上昇率も引き上げられ、合わせてスキルのレベルも上がり続けていた。

 

 メラゾフィスさんもステータスを高めるための訓練に参加しているが内容はソフィアちゃんたちとは違っていた。

 一歩を踏みしめるたびに、硬い岩盤のような地面に足跡が刻まれる。

 重い足音で地面を陥没させながら歩いているのは、メラゾフィスさんに対して白ちゃんが邪眼で重力を倍増させているからだった。

 ソフィアちゃんとは違って、これくらい負荷を掛けないとステータスが上がらないためであり、そのおかげで順調に伸び続けていた。

 

 そのかわりと言っていいのかわからないけれど、私や白ちゃんのレベルやスキルの方は全く変化がなくて、既に大半のスキルやステータスが高レベルまで上がっている私たちでは、そう簡単には成長しなくて能力そのものを発展強化させる方向では頓挫している状況だった。

 

 魔物などを狩るにしても旅をしている現時点では機会も少なく、それに神仰から要求されているエネルギー量は数年どころか百年単位での、気の遠くなるような長期間の計画を立てなければ達成不可能な膨大で桁違いのエネルギーが要求されている。

 なので、現時点で焦ったりしても意味がないと割り切って、魔術の習熟や持っている力を上手く使えるようにするなど技量を高める方向で鍛錬を重ねて修行に励んでいた。

 

 この身体は不老に等しい。

 ほかのみんなも、似たようなもの。

 だからゆっくりと力を蓄えていき、ゆくゆくは……

 

 そして今現在は、感知系統の能力をスキルに頼らない感覚に落とし込むため、瞑想のような訓練を行いながら歩いていた。

 

 基本は魔力感知……、術式で探るか強化した感覚で探るかの違いはあるけど、どちらも高精度で魔力を把握出来なければ、地形の把握も生物の把握も上手く行かない……、あれ? 

 

 自己に没入しすぎていたからか地下の空洞に気づくのが遅れ、それを知らずにメラゾフィスさんが薄くなった地面に足を踏み込もうとしているのに、注意するのが遅れた。

 

「メラゾフィスさん、すとっ……」

 

 慌てて声を掛けようとしたが一歩遅く、メラゾフィスさんが地面を崩壊させ空洞へと落ちていくのを見送ることしか出来なかった。

 落下したメラゾフィスさんは傷一つ無くて無事だったけれど、そこに集まってくる無数の反応があった。

 

 人ほどの大きな蟻が無数、どうやらここは蟻の魔物の巣だったらしい。

 強さ的には大したこと無くて、メラゾフィスさんでも問題無く対処出来そう。

 地面に空いた一メートルちょっとの穴からパペットたちが降りていって戦い始めているし、すぐ蟻が殲滅されて終わるだろうと、私自身が何かする必要も無いと感じた。

 

 けど、奥に何かあったらという可能性を潰しておくために確認はしておこう。

 

 私は久々にスキルとしての感知能力、《森羅万象》を全力で拡大させて地下深くまで捜索する。

 最近は独力での魔力感知を身体に覚え込ませるために、必要な時以外は使っていなかったけれど 使い方自体は忘れていないし、むしろ魔力感知を自力で出来るようになったからなのか処理効率が上がって精度と範囲が更に広がっていた。

 

 無数の横穴縦穴を網羅していき女王蟻の居場所も把握出来たけれど、そこから更に地下に違和感を憶える場所が浮かび上がる。

 

 私は白ちゃんとアリエルさんに言う。

 

「白ちゃん、アリエルさん。この蟻の巣の地下を探知してみてくれませんか? なんか変なものがあるような気がします」

 

 そう告げると、アリエルさんは何もわからなかったみたいだけど、白ちゃんは違和感に気づいたみたいだった。

 

「コケちゃん」

「見つけた?」

 

 頷く白ちゃん。

 そして私たちは、残っていた蟻を排除しながら奥深くへと進み、土魔法でトンネルを掘りながら地下深くへと進むと、やがて見えてきたのは高度な精錬加工技術によって造られたと感じる巨大な金属製の扉だった。

 

「これって……」

「ああ、お手柄だよコケちゃん。これは文明衰退前に造られた施設だ」

 

 私の言葉にアリエルさんが答え、そして目の前の扉を無理矢理抉じ開けて侵入していった。

 扉を破壊したからなのか、劈くような警報が施設内に鳴り響く。

 

 早足で進むアリエルさんを追いかけていると、音を立てて壁の一部がスライドし銃口のような物が現れてこちらを狙っていた。

 私は守りを、白ちゃんは攻撃の魔法を構築させようとしたが、それより先にアリエルさんが全ての銃口を指から伸ばした糸で破壊していた。

 

 思わず白ちゃんと顔を見合わせると、私たち二人はそっと魔法を掻き消したのだった。

 

 それからは障害を物ともせず進むアリエルさんを先頭に、中心に戦闘力の低いソフィアちゃんやメラゾフィスさんを置いて守る布陣で進んでいると、怪しげな行き止まりに辿り着いて、そこから壁をアリエルさんが壊すと隠しエレベーターを発見した。

 

 位置的におかしいと思うと、アリエルさんが説明した。

 普段は土の中に埋まっていて、必要な時には土をドロドロに溶かして地上に出てくるらしい。

 無駄しか無いような機能だけど、設計にはポティマスが関わっているらしく、この施設への警戒を私は一層強めた。

 

 反対側の壁を壊してさらに進むと、同じような通路が続いていた。

 けれど長さはあまり無くて、少し歩くと壁一面が扉となった突き当りに辿り着いた。

 

 アリエルさんがこれまでと同じ様に抉じ開けるために扉へ近付くと、自動でスライドし開いた。

 その現象に驚いて硬直する私たちだけど、突然開いた理由は扉の向こうにあった。

 

 無機質な金属の装甲とレンズがこちらを覗く。

 いかにも兵器といった形状のロボットが数え切れないほど並び、銃口をこちらに向けていた。

 

 キャタピラの上に人間くらいの大きさの胴体部分と大きな銃火器。

 それらが一斉に光を放ち、銃口からエネルギー弾が迫る。

 

 大半はアリエルさんが撃ち落としているけれど、防ぎきれなかった分がこちらにやってくる。

 パペットたちは手持ちの武器で撃ち落とし、白ちゃんは隙間だらけの弾幕など軽く避けていた。

 

 となると危ないのはソフィアちゃんたちなので、私は彼女らの前に立ち腕を前に向ける。

 

「動かないでいてね」

「ひやゃぁぁぁぁああッッ!? こ、苔森!?」

 

 これくらいの威力なら余裕で防げる。

 腕に纏う苔を増殖させ、前方に壁のように展開する。

 緑の壁となった苔の盾は光弾を全て受け止め防ぎ、背後に居る私たちには微風一つですら影響が届くこと無く聳え立っていた。

 

 視界が塞がれてしまうけれど、そこは視覚に頼らない感知で補い向こうの様子を確認する。

 すると背後を気にしなくて良くなったアリエルさんが大暴れして、次々とロボットらを破壊して回っていた。

 討ち漏らしはパペットたちが隠し腕も使った本気の戦闘形態で破壊していき、途中で背後の隠し扉から襲ってきたロボットも、速攻で私が撃ち抜いて破壊した。

 

 戦力外だったソフィアちゃんらは例外として、結局白ちゃんは位置取りが悪くて何もせずに殲滅が完了して戦いが終わってしまった。

 大鎌を構えたままスクラップしかなくなった空間を眺め、そっと鎌を下ろす白ちゃんは無表情のままだったけれど、確実に内心不満を抱えていそうだった。

 

 一瞬静寂が訪れるが、特大の危機感が広間の奥から突き刺さる。

 その脅威という魔弾は、一番奥まで進んでいたパペットタラテクトのサエルに照準が合わせられ向かってくる。

 

 咄嗟に展開していた苔の盾をさらに伸ばして細長くし、距離を稼いでサエルちゃんを突き飛ばす。

 緑の奔流に押し出されるサエルちゃんだったが、僅かに間に合わず轟音とともに光の砲弾が飛来して閃光が宙を走った。

 

 サエルちゃんの左腕の肘から先が全て砕かれ吹き飛ぶ。

 伸ばした苔も私の防御が反映されているにも関わらず消し飛ばし、いくらか威力が下がった光弾が施設の床に当たって消滅した。

 

「……ッ! サエル!」

「む……」

 

 アリエルさんが、衝撃で動けずにいるサエルちゃんを抱えて救出する。

 その間に白ちゃんは奥から姿を表した巨大な砲塔を乗せた戦車に向かっていき、魔法を放つ。

 

 しかし放たれた暗黒槍は戦車の表面で掻き消され、装甲に傷一つ付ける事無く消失した。

 

 あれは、あの時と同じ結界? 

 効果範囲が空間全域か表面だけかの違いだけど、あれでは魔法や魔術での攻撃は相性が悪い。

 

「コケちゃん! サエルとソフィアちゃんたちをお願いっ!」

 

 私が観察している間に隣にアリエルさんが居て、左腕全てが半壊したサエルちゃんを置いて再び戦車へと向かった。

 戦車には砲弾で負傷しなかったアエル、リエル、フィエルちゃんらが張り付き、四つある機銃に対処しながら戦っていた。

 物理攻撃なら抗魔術結界を無視して損傷を与えられるはずだけど、パペットらの攻撃では戦車の装甲を切り裂くことが出来ず火花を散らして弾かれていた。

 

「アリエルさん! 機銃は防げるけれど、砲弾はギリギリ! こっちに向けさせないで!」

「りょーかいッッ!」

 

 そして戦線に復帰したアリエルさんは、一瞬で接近すると砲塔を蹴りぬいて拉げさせた。

 ……そうすれば二度と撃てないとはいえ、力技すぎる行為に私は唖然とした。

 

 ここまで活躍が全然無かった白ちゃんが、せめて止めだけでもと禍々しいオーラを大鎌に纏わせ戦車に振るった。

 背後から飛び掛かる白ちゃんを迎撃すべく高速で回転する戦車だったけれど、白ちゃんは機銃を切り払いながら接近し、その勢いのまま大鎌が装甲に触れると障子に穴を空けるかのように安々と突き刺さり戦車自身の回転機動も加わって被害が広がり、あっさりとスクラップとなった。

 

 しかも、それだけに留まらず金属である戦車が塵となって崩れていき、腐食属性で撃破したときと同じ様子で崩壊した。

 

「あっれー?」

「……なんで?」

「これは、また……」

 

 三者三様に呆然とする。

 白ちゃんは驚き、私は疑問、アリエルさんは残骸を見てドン引きしていた。

 パペットたちやソフィアちゃんらも、全員表情が強張っていた。

 

 塵となった戦車の残骸を眺める私たち。

 負傷したサエルちゃんだったけれど、左腕が急に無くなったことで重心が崩れてバランスを失い動きがぎこちなくなっていたけれど、感覚を修正して一人で立ち上がり走れるくらいには復活していた。

 片腕が使えなくなったから攻撃力が下がってしまったけれど、大きなダメージも無く本体の蜘蛛は無事で戦力的にもすぐ復帰出来そうであり、私は軽い被害で済んだことにホッとした。

 

「うーん。思った以上にここはやばそうだねー。サエルも負傷して左腕半分無くなっちゃったし、ソフィアちゃんとメラゾフィスくんは安全のために地上に戻ってたほうがいいかも」

 

 その言葉に反論する者は誰もいない。

 さすがにソフィアちゃんたちでは、ここでは戦力外であり自力で自分を守れるだけの力が足りていない以上、さらに奥まで探索するのについて行くのは厳しいと感じた。

 

 それを感じ取っているのかソフィアちゃんらは何も言わない。

 一旦引き返そうと結論が纏まりかけた瞬間、施設が大きく揺れる。

 

 大地震のような揺れが私たちを襲い、白ちゃんやアリエルさんは身体能力で強引に耐えているが、ソフィアちゃんやメラゾフィスさんは手をついて座り込んでいる。

 パペットたちも耐えきれずフラフラしていた。

 

 サエルちゃんがバランスを崩して床に倒れそうになる。

 片腕が半分欠けていることで姿勢が安定しないサエルちゃんを、私は掴んで空中に引っ張り上げて抱きかかえる。

 

 揺れが始まった瞬間から私は飛翔を発動させて空中に退避していたので、この謎の地震の影響を受けずに状況把握に務めることに専念出来ていた。

 

 天井や壁の照明が赤く変わって点滅しだした。

 危機感がジワジワと高まってきて、冷たい針の感覚が背中に走る。

 

「なんか、やばげ?」

 

 全員が、それを感じていた。

 

「前言撤回! みんなで逃げるよっ!」

 

 アリエルさんがソフィアちゃんとメラゾフィスさんをファイヤーマンズキャリーして駆ける。

 私はサエルちゃんを抱えたまま、来た道を反転して飛ぶ。

 それを追いかけるパペットたちだったが、今も続く振動でフラつき速度が出せていない。

 

「白ちゃん!」

 

 私の視線で意図を察してくれたのか、残りの三人を抱え込む白ちゃん。

 

 長い通路を抜け、エレベーターの部屋や機銃の壁を疾走する。

 途中で大きな揺れが発生し、背後から爆炎が迫ってくる。

 さらに加速して、駆け抜ける私たち。

 

 そして古代文明の施設を抜け、蟻の巣を駆け上り、地上へと飛び出した。

 急いで穴の周囲から離れると、轟々と燃え盛る火柱が地面を爆発させて噴き上がった。

 

 なんとか全員無事に脱出できたことに安堵するが、それは一瞬で無くなった。

 

 遥か遠く視線の先の荒野、そこには桁違いの特大の火柱が上がっていて、その爆炎は宇宙にまで届きそうなほど高く伸びている。

 

 その爆炎の中をスケールが違いすぎてゆっくりに見えてしまう何かが、宙へと登っていった。

 そして何かが上昇して消えていくのと同時に炎は沈静化していくが、残った広大な空洞から黒い影が現れる。

 

 それは、一言で言えばUFOで。

 端から端までの全長が何千メートルとありそうな、鋭角な尖塔が幾本も聳え立つ超超巨大な円盤型の飛行物体が悠然と空に浮かんでいた。

 

「なに、あれ……」

 

 不意に口から漏れ出た言葉は、私たちの総意と同じものであった。




なんか知らないけれど、思ったより前回より体調悪くならなかったので執筆。
幕間1の最後のように、実は隠した文章が以前にも少しあるのです。
よかったら探してね。とくに重要な内容では無いけれど。

文章PC表示に合わせて調整しているのですが

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