ヒリヒリとした空気が草一つない荒野に充満する。
今、この荒野には私たちアリエルさん魔王の陣営のほかに、三つの勢力が勢揃いしていた。
それらは全て、トップの意思一つで世界の趨勢を左右することが出来る能力を持った、国家すら歯牙にかけない集団あるいは個人だった。
一つは、どこかの街の中で会ったことがあるような老人が率いる、人族最大の宗教である神言教の教皇ダスティンと怪しげな風貌の護衛複数。
豪奢な法衣を纏って微笑みを浮かべているけれど、その裏に非道も辞さないような末恐ろしさを感じる気がする。
もう一つは、管理者であり神でもあるギュリエディストディエスが統率する龍の一族。
龍自体も単独で国を滅ぼせる能力を持っているけれど、この黒い鎧を着込んだ男の人はそれすら越えた世界を管理する側という頂点にいる存在である。
そして最後が、禁忌の機械技術を今も使い続けているエルフの族長ポティマスと護衛のエルフ。
全ての元凶。
禁忌の罪は元を辿れば全てこの男に原因が集結する、世界を破滅させる引き金を引いたくせに、今もなお世界を蝕む寄生虫だ。
彼らは火柱が立ち上ってUFOが出現すると僅かな時間でここに転移してきて、本来は私たちを監視するために人員を配置していたところ、今回の大事件を認識した事で急いでここまで転移して来て、
最初にダスティン教皇が現れアリエルさんに協力を申し出て、その後にギュリエさんが現れた。
人の手に余るものであり、自身が対処すべき案件だと言いながら。
それだけなら良かったのだけれど、そこに転移してくる新たな反応を察知した。
転移してきたのは世界に害を与える影響全ての元凶であるポティマスで、殺気や威圧を毛ほども気にせず歩き、この兵器の詳細を開示して設計図を見せながら性能を説明し始め、それが対龍兵器として設計され神としての龍が近づくと自動的に、GMA爆弾という大陸を吹き飛ばす規模の爆弾が投下されるということを説いた。
GMA爆弾とはMAエネルギーを利用した兵器で、その破壊力の源泉は星の生命力そのもの。
星の生命を貪ったそれが最大で爆発すれば星が吹き飛ぶほどだけどあくまで理論値。
現時点では大陸一つが無くなる程度だと言うけれど、それだけでも星に致命的な被害とダメージになってしまうと感じた。
しかも話はそれだけで終わらなくて、宇宙空間まで届きそうな火柱の中を進んでいた歪な暗影がGメテオという、人為的に巨大隕石を落とすとかいう頭が可笑しい思想で造られた兵器も存在している事だった。
それらどちらも、このクズエルフが考えた設計図が基になっていると聞いて
宇宙空間まで到達したGメテオを対処するのは、宇宙でも活動出来る神であるギュリエさん。
残りは荒野に浮かぶUFO、正式名称Gフリートと、そこから吐き出された夥しい数の兵器軍団に対処することになった。
心臓付近がジクジク膿んだような灼熱を訴える憎悪を無理矢理仕舞い込んで、私は極めて理性的に語り合いに参加し、視線に殺意を乗せるだけに抑えて大人しく作戦立てに混じった。
そして対処する担当が、地上は神言教が率いる人族精鋭三万、パペットたち、エルフの戦力。
空中はヒュバンという風龍の長が統率する龍と竜の群れ。
Gフリートに突入する部隊が、白ちゃん、アリエルさん、ポティマスとなった。
そして私の担当場所なのだけれど……
「私は空を担当するよ」
白ちゃんが裏切り者っ、といった表情で見つめてくる。
一番責任が重いのは内部へ突入して爆弾処理する班だから、そのプレッシャーでそういう表情になっているのだろう。
だけど、私の役目もそれはそれで重要だから代わってあげることは悪いけど出来ない。
あの諸悪から内部突入班に名前が上がらなかったというのもあるけど、今なお空に浮かぶ無数の黒点が増え続けていることから、誰かが制空権を確保し続けなければならないと感じていた。
あれが自由に動き回ったら地上の軍勢に甚大な被害が出るし、もし包囲を抜けて人里に一機でも到達してしまえば大惨事が予想されるからだった。
風龍たちもいるけれど強力な個体と言えるのは数が少ないだろうし、確実に途中で手が足りなくなりそうで撃ち漏らしが出そうだったからという理由もあった。
なので、そう白ちゃんに説明していると、向こうでは話は纏まったとアイツが流れを仕切り出し作戦内容に関する話を進めていた。
「では、私もいったん戻る。行動は私とダスティンが戻ってきてから始めよう」
そう言うと、ポティマスは護衛のエルフと共に転移していった。
アイツが消えた空間を睨んでいたのは私だけではなく、アリエルさんやダスティンさんも渋い顔をして虚無を見ていた。
「私も動こう。ヒュバン! ここのことは任せる。アリエルに従い、全面的に協力しろ」
『へへーっ!』
三下感のある喋り方の風龍の長に指示を下して、転移を発動させ消えるギュリエさん。
荒野に残ったのは私たち魔王サイドの面々と、風龍だけだった。
「よし。今のうちに出来ることはやっておこう」
遠くに機械の軍勢を見ながらアリエルさんは言う。
「白ちゃん! ソフィアちゃんとメラゾフィスくんを安全な場所へ。その後はサエルの修理」
テキパキと指示を下していき、白ちゃんも頷く。
ソフィアちゃんとメラゾフィスさんも異論は無いようだった。
「コケちゃんには空の偵察をお願い。あと無理しない範囲で戦力も確認してきて」
私も頷く。
「私は一回地上の部隊を確認した後、準備に入る」
そうアリエルさんが言うと、私たちは各自行動を開始した。
『お、俺は……?』
「さっさと風龍とか、配下集めてこいっ!」
『あ、あいあいさーっ!!』
アリエルさんに蹴り飛ばされることで風龍の長が空に飛び立ち、散り散りになっていた龍たちをここへと集め始めた。
——決戦の時はすぐそこに迫っていた。
今までのは、嵐の前の静けさでしかないと予感が肌をなでていた。
おおよそ二時間ちょっと経った頃。
ソフィアちゃんたちをエルロー大迷宮に避難させた白ちゃんはサエルちゃんの修理を終わらせ、応急処置という事で肘から先の質感がいかにも義手って感じの腕になってしまったけれど、機能的には元通りの状態へと壊れていた三つの腕を治していた。
その後は地下の遺跡に再び潜って武器を作っていたらしく、パペットたちが無骨な鉄塊といった見た目の鈍器を装備していた。
私の分もあるらしいけど、ゴツくて重い金属の塊は持っていると重心が安定しないので、たぶん使わないことになるけど、一応ありがたく受け取った。
それに、さっき
そして、アリエルさんがクイーンタラテクトを四体も召喚して最高戦力を総出にしているのと、風龍の長が下位の竜も含めて八千もの群団をかき集めてきた事で、私も戦力を呼ばなければという使命感と義務感に襲われた。
そして、その想いのまま私は呼びかける。
「みんなに願う……、私たちのために戦ってくれる?」
——召喚、上位種のコケダマたち全員。
両手を掲げて術式を構築する。
今までにない大規模な召喚で制御に大半の意識を割く必要があったけれど、失敗する事は無いと確信していた。
背後に巨大な魔法陣が浮かびだす。
それはゆっくりと回転しながら拡大を続け数百メートルもの大きさに巨大化すると、遠く離れた空間と今この場所とを繋げた。
空中に描かれた魔法陣の向こうが見えなくなり暗闇が魔法陣に滲み出す。
そして暗闇の向こうから、私の眷属たちが姿を顕しやって来る。
さあ、おいで——、共に戦おう、世界のために——
魔法陣に緑色の塊が浮かび上がる。
それはゆっくりと膨らんでいき、魔法陣から次々と苔の球体が距離と空間を越えて進軍する。
私の左右に分かれて並ぶコケダマたちは、お互いの巨体で押し潰さないように間隔を取りながら密集する。
そして全てのコケダマたちを呼び出したことで役目を終えたと判断された召喚の魔法陣が荒野の空に消えていった。
……あれ? 全ての、コケダマたち?
どうやら、巨体を誇るアークやグレーターの子たちの苔に、小さなコケダマたちも貼り付き潜り込んで、こっちまで来てしまったようだった。
来てしまったものは仕方ないと割り切って、逆にその手法から運用方針を思いついた。
大型のアークやグレーターを砦とし、その背中や苔内部に砲手として無数の小型のコケダマたちを乗せた移動要塞としての戦い方を、私は思念伝達して共有し指示を与えていく。
そう、みんな集まって……、防御は土魔法で物理的に壁を作って……
翅持ちの子も、今回は魔法攻撃中心で、飛ばずに戦って……
そして並ぶ、ボコボコと肥大化したコケダマの集合体が四十体。
その大きさはクイーンタラテクトと比べると半分程度だったけれど、緑色の城壁と化した威容は頼もしく、手数では圧倒的な恐ろしいほど桁違いの魔法が掃射される地上戦艦たちだった。
ただまともに動けるのはアークを核にした城塞だけであり、グレーターが複数で集まった城塞は殆ど動けないので、それらはクイーンタラテクトたちの背後に着くように指示した。
荒野に並ぶ、クイーンタラテクト、風龍、コケダマたち。
種も見た目も全然違う巨大な群れが争うこと無く荒野に佇む姿は、とても重厚な圧迫感を放っているように感じた。
「お待たせしました。神言教戦力三万。馳せ参じました」
「どうやら、私が最後だったようだな」
そして神言教三万の人族の軍団と、ポティマスが連れてきた機械の兵士二千が加わって、全ての勢力の戦力が揃ったのだった。
「じゃあ、私と白ちゃん、あとついででポティマスがアレに突撃するって事でOK?」
「ああ」
作戦の最終確認が始まる。
Gフリートへの侵入方法は、非常に怪しい気配のする巨大なバズーカを使って外壁に穴を空けて侵入するらしい。
それは白ちゃんが運んで使用することになったけれど、なんとも言えない嫌な予感がヒシヒシと肌を刺しているので、白ちゃんにそっと警告しておく。
「アレには気をつけて。嫌な予感がずっとする」
「ん……、りょ」
短い返事を聞いて、私も答える。
「露払いは任せて。道中の戦闘機らは私が全滅させて、安全なフライトにしてみせるよ」
「んふっ。おーけー、任せた」
軽く笑いを吹き出しながら、優しげな声で白ちゃんは返事を言った。
そして白ちゃんは風龍の長に乗り、アリエルさんとポティマスも風龍の背中に乗って出撃寸前の状態になると、ダスティンさんが話題を変える。
「では、地上のことは私が纏める形でよろしいでしょうか?」
「いいんじゃない? て言っても、それぞれ好きにやらせた方が良い気もするけどね」
「同感だ。それぞれ戦い方も戦力も違いすぎる」
たしかに、そう思う。
コケダマたちは、人族の言葉がわかっている訳じゃないし。
私とコケダマたちの会話では、思念のイメージを送って情報をやり取りしているから、人の言語なんて使っていない。
それでもニュアンスや雰囲気で、ある程度言葉の内容を察することは出来るけれど。
「一応クイーンやパペットたちには、あんたの言うことを聞くように言っておくけど、あんま期待しないでね」
「同じく。命令権は渡しておくが、実際に聞くかどうかは現場の判断に任せる」
「あの子たちは人族語で命令されても理解できないから個々の判断で動くけれど、察してフォローするようにお願いしておくね」
出来る限り譲歩したけれど、私が直接指揮しなければ正確に命令が伝わないので、あの子たちが自由に動いた方が戦術的にも良いと思った。
「それで構いません。あくまでも私がするのは細かな調整くらいで、現場では各々の裁量で動いてくださったほうが良いでしょう」
ダスティンさんは、気分を害した様子もなく穏やかに頷く。
そして、敵勢力の地上兵器総数が十万ほどであることを確認し、こちら側が布陣する位置も共有していく。
アリエルさんがそれぞれ順番に確認をしていきダスティンさんや風龍には念押しして、ポティマスには釘を刺して、最後には私たちにも告げる。
「白ちゃん。もしかしたら一番危険な役かもしれないけど、頼んだ」
小さく頷く白ちゃん。
「コケちゃん。私たちがスムーズに進めるかどうかは君に掛かってる。矢面に立たせちゃうけど、お願い力を貸して」
私は、瞼をゆっくり閉じながら深く頷いた。
言われずとも、この世界を滅ぼされるわけにはいかない。
コケダマたちや、ソフィアちゃんたち、みんなのために。
「さて、行こうか。白ちゃん、世界を救いに」
「ははっ。柄じゃないけど、りょーかいだよ。コケちゃん」
私たちは空に浮かぶ黒き影を眺め、遥か過去からの災厄との戦いに挑むのだった。
活動報告に「コケダマですが、なにか?」について自由に書き込んでいい雑談板用意しています。
感想で書きづらい内容とか質問は、そちらにどうぞー。私もたまに呟いたりするかも?
文章PC表示に合わせて調整しているのですが
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