【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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31 高度三千Gフリート攻略戦

 ——耳を(ろう)するような風切り音が、煩く耳朶(じだ)を叩く。

 

 気温10度以下、体感温度ではもっと低くてマイナスの温度を感じさせる大気の壁が、髪の間を吹き抜けて高速で流れては後方へ置き去りにする。

 気温については、服に火魔法を付与することで高高度での環境でも体温を維持できるように熱を発生させ、薄い空気はステータスの高さと回復能力によって強引に耐えていた。

 飛翔によって強引に押し通られた空気の悲鳴が、耳元で轟々と甲高い叫びを壊れた楽器のように合奏を奏でている。

 

『敵機、確認っ! 数十秒後には接敵開始ぃー』

『予定通り、私が先行するね』

 

 念話で並走する白ちゃんと白ちゃんを背中に乗せている風龍に告げる。

 この環境では直接声に出しても風切り音で雑音がかなり多くなるので、いくら聴覚強化を持っていても直接音で情報をやり取りするのは不適格だった。

 

『それじゃあ。見せて貰おうか、マステマの性能とやらを』

『ふふ、了解』

『……あのさー。俺っちのこと無視して、二人だけの空間作らないでもらえます?』

 

 折角の戦闘前の緊張感を語らいで楽しんでいたのに、それを邪魔するように口を挟んできた風龍を無視して、私は戦闘態勢に移行した。

 白ちゃんのセリフから、ならここは私も合わせて答えるのが良いと感じながら。

 

『確かこんなセリフだったかな……。それじゃあ、苔森真理、出撃するっ』

 

 ——重力制御、空気抵抗制御、空気圧縮! 解放っ! 

 

 今回は、全力でスキルの力を利用する。

 独力での魔術は実用的なのが身体強化しかない現状、空中戦で有効な攻撃手段はスキルと武器を駆使した攻撃しか無いのだから。

 ここで手を抜いていては被害が増える一方だろうし、地上のコケダマたちも心配だった。

 

 私は自分自身の重さを極限まで軽くし、正面には風の錐を展開して受け流した空気は背後に噴射することで、空気の壁を何枚も貫くような加速をする。

 そして旗杖を掴む手以外の三つの腕それぞれには、いつの日にか制作した短杖と同じ形状の物が一本ずつ手に握っていた。

 

 高速飛翔によって視界が高速で移り変わりながら、敵の位置を捕捉していく。

 知覚、肉体制御、魔法、それぞれに分担させた並列意思を最大まで同調させて、空間全ての存在を把握する。

 脳内にて、擬似的なレーダーが浮かび上がり、敵機体をロックしていく。

 

『最初っから本気で行くよッ!』

 

 敵戦闘機Gトライの抗魔術結界に接触しないように、スレスレで空中を飛び回りながら三つの腕を同時に別々の方向へと動かし、死滅の鱗粉が充填された短杖から腐蝕弾を乱射する。

 それは弾速も遅く射程も短くてデタラメに撃っているように見えるが、一発たりともターゲットから外すこと無く、Gトライの装甲を穿いて次の瞬間には最前線にいた戦闘機全てが塵となった。

 

『さっすがー』

『俺っちより速い……』

 

 白ちゃんたちが感心しているけれど、これで撃破出来たのは見えてる範囲で全体の一パーセント程度の量でしか無かった。

 しかも、撃破したそばから次々と増援の機体がGフリートから放出されていた。

 

『俺らもやるぜー。お前ら! 俺たちは風で墜落させるぞ! 合わせろぉ!!』

 

 風龍たちが大規模な風魔法を構築しているのを見て、私は後方へと下がる。

 余裕を持って退避すると、風龍それにアリエルさんや白ちゃんも合わせた乱気流を操る魔法が、恐ろしい規模のダウンバーストを発生させた。

 

 スーパーハリケーンもかくやと言わんばかりの暴風圏は、内部にいたGトライに直接傷を付ける事は出来ないけれど飛行するために必要な要素である揚力を失わせ、機体コントロールを喪失したGトライがグラリと傾いて錐揉み回転しながら墜落していった。

 そしてそのまま荒野に墜ちていく機体は、重力と降下風によって加速したまま硬質な岩盤に衝突したことで、酷く損壊し二度と飛べない状態へとされるのだった。

 

 だけど相手も馬鹿ではないようで再び追加された機体からは動きが変わり、一網打尽にされないように急接近してきて乱戦に持ち込もうとするようになり、そうなると味方も巻き込んで墜落させかねない大規模な魔法は使えなくなってしまった。

 

 そうなると龍たちは近接戦闘を仕掛けなければいけなくなり、上位の龍はともかく能力が劣る竜では連射される光の弾丸に撃墜されて死亡する個体も出始めていた。

 

 今はまだ生物的な小回りの良さで、すれ違いざまに斬りつけたり死角に潜り込んでエンジンなどを破壊して墜落させることが出来ているけれど、生物である以上スタミナの問題が付き纏うため、長引けば長引くほど此方側が不利になりそうだった。

 

『数が減らないっ!』

『ちっ、竜が邪魔。一旦仕切り直すか?』

『畜生め! 連中しつこく喰らいついて来やがるッ!』

 

 白ちゃんの近くを飛行しながら近づいてくるGトライを撃墜していく。

 現在はドンドン高度が上がり、三千メートル以上の高空で戦闘を繰り広げていた。

 最初はもう少し低い高度で戦っていたのに、こちらの大多数が風をつまり空気を使った攻撃手段がメインであることに気づき、その効果を減少させるために空気の薄い場所へと誘導されていった結果がこの状況だった。

 

『くそッ、こうなりゃイチかバチかだぜ。俺様の覚悟見せてやんよッ!』

 

 そして今、白ちゃんを乗せている風龍が決死の覚悟を持ってGフリートまで送り届けようと宣言している最中に、私たちの念話に割り込む声が聞こえた。

 

『へい。カッコつけてるとこ悪いけど、面倒くさいから私が先行して道作るね』

 

 アリエルさんの声が聞こえた途端、前方でGトライが爆散や墜落する機体が次々と表れ、その間を高速で跳ぶ黒い人影が敵の機体を足場に、空をピンボールのように跳ね回っていた。

 

『……』

『べーわ、えぇ……』

『……風龍、乗り捨ててる』

 

 私たちは、なんとも言えない空気を感じながら、アリエルさんの後を追いかけた。

 アリエルさんの活躍によって乱戦状態から脱した私たちは、追加された増援が出るたびに初手で大規模な風の魔法を当てることによって総数を減らした上で乱戦に持ち込ませないように立ち回ることで、優勢に戦闘を進めることが出来ていた。

 

 しかもGトライの数も段々と減ってきて戦う竜たちにも余裕が現れ始めているが、私にはこれが誘いのように思えてきた。

 瞬間、冷たさが全身を突き抜けた。

 ここは危険だと直感が叫ぶ。

 

『全員、中央から離れて!!』

『総員全力回避ッ!!』

 

 私と白ちゃんが同時に叫ぶ。

 広域かつ不特定多数に対して白ちゃんが念話で叫ぶという、性格からしてありえないような行動を目撃して私は驚くが、そのおかげか半数以上の竜が生き残ることに成功していた。

 だが、それでも被害は甚大だった。

 

『くっ……』

『ちぃッ!』

『ああ、クソッ! やられた!』

 

 私たちが歯噛みしていると、再び念話が外から繋がった。

 

『白ちゃん! あの戦闘機は私たちがなんとかするから、白ちゃんは円盤の主砲をどうにかして!』

『白いの。敵主砲に向けて私が預けたものを使え。それで破壊出来るはずだ』

 

 アリエルさんと同時に、粘着質なポティマスの声も念話に割り込んできた。

 苦い感覚が湧き起こるが、先にアリエルさんが質問した。

 

『それだと私たちが侵入出来なくなるじゃん』

『安心しろ。Gフリートの主砲を破壊して有り余る程度の威力はある。敵主砲ごと外壁を破壊する程度の威力は、な』

 

 あのバズーカなら問題無く破壊出来るらしいけど、なんだか含みのある言い方だった気がして、不安でしかない。

 

『りょ』

 

 白ちゃんが短く了承の返事をした。

 

『りょ?』

『了解したってさ』

 

 アリエルさんが、理解出来ていなかったらしいポティマスに説明してフォローしていた。

 なぜだかコイツに対しては無性に不快感が湧き起こるので、自分が抑えきれなくなりそうで会話するのも出来るだけ避けたかったので、先にアリエルさんが対応してくれているのは私的にとても助かっていた。

 

『おうおう。じゃあ、あの主砲に向けて飛べば良いんだな?』

 

 私たちの会話を聞いていた風龍の長ヒュバンが確認してくる。

 それに頷いて答える白ちゃんを首を背に回して視認し、合点を得たと風龍の長は気合いを露わにした。

 

『よっしゃ! しっかり掴まってろよーっ!』

 

 加速し始める風龍の姿を確認して、Gトライが複数こちらに向かってくる。

 

『ちぃッ!』

『そのまま気にせず進んで』

『私に任せてっ!』

 

 ここからは正真正銘、後先考えない全力の全力でいく。

 そのためにスキルポイントを消費してまで腐蝕耐性を無効にまで強化させたのだから。

 

『さあ、いくよッ』

 

 全身に腐蝕の力を纏いながら突撃する。

 仄暗い粒子が尾を引きながら空中を鋭角に乱反射し、今度は直接翅で切り裂く攻撃も交えながらGトライを破壊しつつ高速飛翔する

 抗魔術結界に触れても、スキルが消失する前に全身の腐蝕鱗粉が先に機体を消滅させる事で影響を受ける前に効果を消し飛ばしながら通り抜け、超々高速飛行を維持し続ける。

 ここでの推進力は、結界範囲外で空間機動の足場を蹴り抜きながら跳ぶ脚力による物理的な加速がメインであり、もしスキルを掻き消されても影響が少ない移動方法に切り替えて空を駆ける。

 

 周囲の機体を殲滅すると、私は今まで鱗粉をチャージし続けた旗杖に魔力を過剰に注ぐ。

 

『消し飛べッ!!』

 

 片手の短杖を口に咥えて、旗杖を両手で持つ。

 そして切っ先をGフリートに向けて、臨界寸前まで溜め込んだ力を解放する。

 

 先端の刃から古代兵器に特攻性能を持つ腐蝕属性の砲撃が放たれる。

 暗黒色の鱗粉が魔力の奔流に絡み取られながら混ざり合って一体となり、極太のビームのように戦場の空を荒れ狂い破壊を撒き散らした。

 

 それは道中のGトライを消し飛ばしながら直進しGフリートまで到達するけど、装備されている抗魔術結界の影響範囲の厚さが違いすぎて、途中で推力となっている魔力を全て打ち消されて表面を撫でることしか出来ていなかった。

 死滅鱗粉を撃ち切り旗杖から黒線は消えていくが、崩壊の暴風は表面を僅かに消滅させた程度でGフリートの分厚く巨大な外壁を破壊することは出来ていなかった。

 

『白ちゃん!』

『言われなくてもっ!』

 

 だが、これで障害は無くなった。

 そして空白地帯を高速で駆け抜けながらバズーカを取り出した白ちゃんは、その巨大すぎる砲身を構えてGフリートに狙いを定める。

 

 Gフリートの主砲至近まで到達した白ちゃんだったけれど、私たちは迂闊にもそれが誰に渡されたものか、この瞬間には忘れてしまっていたのだった。

 

 白ちゃんが持つバズーカから光が溢れる。

 それは筒の先端から主砲へと光線を放ち、説明通りGフリートの主砲を容易く破壊したけれど、その破壊の光は使い手にも襲いかかろうとしていた。

 

 慌てて白ちゃんが風龍を蹴り飛ばして彼を遠ざけたけれど、そのぶん逃げるのが遅れた白ちゃんが光に飲まれて上半身が吹き飛ばされていくのを、Gフリートの抗魔術結界の外で見ていた。

 

『ッ! 白ちゃん!』

 

 重力に引かれ自由落下していく白ちゃんの進路を予想して、影響範囲外の場所へと先回りする。

 

 そして落下していく白ちゃんと相対速度を合わせて接触すると、人型のみならず蜘蛛型にも酷いダメージを負った白ちゃんに奇跡魔法を掛けていく。

 途中から白ちゃん自身も自分へと魔法を掛けて治療していき、ほんの僅か数十秒程度で消失していた人型部分すらも完全に傷一つ無い状態へと再生した。

 

『大丈夫ッ!?』

『あー、うん。問題無し、たぶん』

 

 そして治療がおおよそ完了してきたことで私が重力制御して落下を止め、白ちゃんも空間機動で足場を作りGフリートから数百メートルちょっと落下した位置で静止していた。

 

『大丈夫かッ!?』

 

 そうしていると風龍のヒュバンもやってきて、彼は再度白ちゃんを背中に乗せた。

 そして心配し錯乱する彼を正気に戻して、さっきバズーカによって外壁に空いた大穴を指差し、そこに行くように白ちゃんは指示した。

 

 私は便乗する形で風龍の背に乗り、途中まで一緒について行くことにした。

 抗魔術結界の中では私は滑空するような飛行方法しか取れないので、風龍のようにスキルや魔法魔術に頼らない純粋な飛行能力では劣ってしまうので、結界を抜けるのは彼の背に乗って突破したほうが楽だったので。

 

『よっしゃ、行くぞー! しっかり掴まっててくれよな、お嬢さん方!』

 

 そして今現在上空にてGフリートに乗り込もうとしているクソエルフの姿を認識しながら、私は白ちゃんにそっと耳打ちした。

 

「とりあえず、替えの服着よう?」

「あっ」

 

 人型全てが消滅していたので当然着ていた服も消し飛び、そこから再生したので今の白ちゃんは上半身裸の状態だった。

 白ちゃんは急いで空納から予備の服を取り出して着替えながら、私たちはGフリートの内部へと侵入したのだった。

 

 

 

 

 Gフリート内部へと辿り着き、そこで待っていたアリエルさんと悪びれる様子のないポティマスを見つけ、そこから謝罪も何も一切無いクズエルフと風龍のヒュバンが口論になり白ちゃんが大鎌で斬り掛かったところで、アリエルさんからストップが入った。

 

 今は我慢する状況と言うアリエルさんに白ちゃんも一旦矛を収めたけれど、余計な一言を言って怒りを買ったポティマスが一瞬の内に地面にめり込んでいた。

 ダメージは最小にして殺さないように、だけど地面にめり込むほどの力で押さえつけるという、高度な拘束術をアリエルさんはポティマスに掛けて背中を踏みつけていた。

 

 そして結局真の協力などコイツとは不可能だと再確認し、アリエルさんがついでに私たちもヤツを踏むかと聞いてきたので、白ちゃんは背中と頭を、私は冷ややかな眼をしながら旗杖の石突部分で何度も頬をブッ叩いてやった。

 

 地面に抑えつけられ屈辱に震えるポティマスだったけれど、その後白ちゃんが行ったヤツの尻に脚を突き刺すという所業に、全員が強いショックを受け空気が一変した。

 

 アリエルさんは大爆笑。

 白ちゃんもニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべていたし、それを見ていた風龍らは顔を青くしてドン引きしていた。

 

 私も堪えきれずに忍び笑いが吹き出してしまったので、かなり溜飲が下がる気持ちだった。

 

「殺す。貴様は必ず殺す。それも私が考えつく限り最も惨たらしい方法でな……ッ」

 

 拘束から脱出したポティマスが恥辱と憤怒に震えながら、そう宣言していた。

 笑いの坩堝から復活したアリエルさんが、真面目な表情だけど微妙に口元が歪んでいて完全には笑みを隠しきれていない表情で、何処かに吹き飛んでしまっていた話を仕切り直した

 

 今までの戦況から私も内部に誘われたけれど、私は直感が訴える予感に従い、それを断った。

 

「私は、このまま外でGトライとGフリートの武装を潰して回ります。……それにまだ何かがあるような気がするんです」

 

 そして、引き留めようとしている白ちゃんの手から逃れて私は大穴に向かうと、小さく手を振りながら虚空へと身を投げて、爆音響く空へと舞い戻ったのだった。

 

「うん、勿論……分かっているよ。だから——」

 

 白ちゃんは、白ちゃんにしか出来ない事を。

 そして、私は——




体調悪くて執筆出来なかった事と、ようやく書きたかったシーンが書けて、やる気が溢るるぅ。

 ちなみに、ツッコミが出るだろう腐蝕弾についてですが。
 これは腐蝕属性を帯びた鱗粉という微細な実体が、圧縮された魔力と共に発射されているので、抗魔術結界の中でも加速された勢いのまま装甲に接触し崩壊させているという形です。
 接触せず効果を発揮できなかった鱗粉があっても、それは発射されてから数秒で効果を失うので一応安全。流れ弾? 外してないからセーフ。

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