【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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33 新たな力、失った力

 暗い果ての見えぬ闇の中。

 湿った空気が肌を撫でるそこに、私はいた。

 

 周りには、大小さまざまなコケダマたちの姿。

 ここでは各自が自由な姿を取れるからなのか、翅を持っていなかった子が宙に浮かんでいたり、逆に大きかった姿をしていた子が小さくなっていたり、一部は魔蛾の姿を取っている子もいた。

 

 その黒色と翠色しかない世界で、私はみんなと対話していた。

 彼ら彼女らは私が取り込んでしまったコケダマたちで、私はこうして話をするために魂の奥底、精神世界とも言うべき場所まで意識を沈み込ませ、みんなと考えや想いをわかり合うために言葉を交わしていた。

 

 内容は、こんなところに閉じ込めてしまっていることに対する謝罪。

 ここに至るまでに様々な事があったけれど、結果としてみんなは私と1つになってしまい、この世界では自由に過ごせているようだけど、全てが私の支配下になってしまった。

 

 それは肉体であり、自由であり、魂すらもだけど、よくよく考えればそれらは全部が全部、私と1つになる前から私自らこの手で全て奪ってしまったモノで、全ては今更でしか無いけれどみんな一人ひとりに対して、私はこうして謝って回っていた。

 

 なのに、みんなはその事に対して一欠片すらも悪感情なんて思っていなくて、むしろ私と一緒に過ごせるようになって嬉しいとすら答えてくるほどで……

 

 この場所は過ごしやすい。

 ここなら自由に動けて安全。

 外だって私を通して見ることが出来るし、呼ばれれば外に出ることだって出来る。

 

 そう言って、むしろ私の方を心配してくる程なので、私は罪悪感を抱えながらも、こうして時々精神の奥底へと訪れてはみんなと触れ合うのだった。

 

 それは誰からも罰を与えられない私からみんなに対して、せめてもの償いと想いながら。

 

 そうしていると、現実での肉体の方が揺さぶられているような感覚が襲う。

 私は、短く別れの言葉を交わしながら、意識を表層へと引き戻した。

 

 

 

 

 かなり荒っぽい揺らし方で目が醒める。

 すると目の前には、子供っぽい性格でやんちゃなフィエルちゃんの顔がドアップで映っていた。

 

 そのまま数秒間ほど、にらめっこが続くけれど思っていた反応では無かったのか落胆した様子でフィエルちゃんが離れていき、白ちゃんにちょっかいを掛けに行って頬を突付き始めていた。

 

 周囲を確認すると、どうやら街の中に入っていたようで人混みの喧騒が聞こえており、今は宿に向かっている最中だと理解した。

 

「いそげー。白ちゃんがアレなことになる前に宿に入れるぞ」

 

 メラゾフィスさんが御者をしている外から、アリエルさんの声が聞こえる。

 ここはアリエルさんが購入した大型で内装がしっかりとした、まるでキャンピングカーのような馬車の荷台の中で、この馬車はある一件から弱体化した私たちのために購入した物だった。

 

 そして話題となっている白ちゃんを見ると、痙攣して死にかけている様子が目に映った。

 

 以前作った最高級の柔らかさと肌触りのマットを何重にも重ねて衝撃を極力殺すようにした寝台の上で、青白い顔をして寝込んでいる白ちゃんは防寒仕様の服の下に地肌が一切見えない真っ白のボディスーツのような物を着込んで吐き気と戦っていた。

 

 そんな白ちゃんをフィエルちゃんはグワングワンと掻き回す勢いで頭を撫でているので、危険域に白ちゃんが突入する前に止めに入った。

 

 フィエルちゃんの肩を掴んで引き剥がし、そのまま隣に来ていたアエルちゃんに引き渡す。

 お説教はアエルちゃんがしてくれるとして、私は白ちゃんに声を掛ける。

 

「大丈夫?」

「む……り、ぽ……」

 

 息も絶え絶えの白ちゃんを見て、私は寝台の隣に座って何かをすることもなく、これまでの過去を思い返す。

 

 あの事件から2年くらい経った。

 その時の出来事によって私たちは普通の生物の域を越えて、私と白ちゃんは神となった。

 

 神というのは、膨大なエネルギーを宿したものという定義らしくて、それによれば私たちは神に当てはまるけれど、神となった事によってこの世界を覆っていたシステムの法則から除外されて、今まで私たちに力を与えてくれていたスキルやステータスの恩恵を受けられなくなってしまった。

 

 そのためギリギリ魔術を再現できる私はともかく、白ちゃんのほうは殆どの力を失って一部の力を除き、虚弱そうな見た目通りの身体能力しか発揮出来ない状態となっていた。

 

 その一部の力というのは糸を生み出し操る能力で、私が白ちゃんの魔力と魂に干渉しながら刺激を加えてみて、色々実験をしていたときに偶然使えるようになったものである。

 

 酷い車酔いと片頭痛が発生しているような気分と訴える白ちゃんに対して、ニューヨークを守護する親愛なる隣人みたいに手首とかから糸が出せないかと言ってみると、意識が飛びかけて朦朧としている白ちゃんが試した次の瞬間には手から糸が飛び出していた。

 

 それからは糸に関してだけは自由に使えるようになったらしくて、それ以外では今も全く成果が無いけれど、糸で自分を操ることで少ない体力を補うことは出来るようになっていた。

 

 白ちゃんが着ている純白のボディスーツもそれを補助する大事な装備品で、これのおかげで弱い肌を守ったり本来の力より何倍もの筋力を発揮したりとパワードスーツのような物と化していた。

 それでも以前のステータスのほうが圧倒的に上であるし、あくまで補助だから肉体強度を越えた動きをすれば骨折など大惨事になってしまうという、虚弱体質をどうにかするため苦肉の策としての装備品だった。

 

 私の方も以前から大幅に弱体化していて、スキルによる思考超加速や並列意思によってなんとか成立していた魔術が軒並み使い物にならなくなり、使えることは使えるけれど1つを構築するのに数十分必要で、酷ければ数時間を掛けても作れず不発に終わるなど、術式を編み込む速度と精度が見る影もなくガタ落ちしていた。

 

 そのため術式はわかるし最初の起動も構築も出来るのに、途中で集中力が切れて接続もできずに霧散して発動出来ないでいるという、もどかしくて不甲斐ない結果に終わっていた。

 

 構築速度や精度は練習あるのみだけど、並列意思で術式を分担して多重に組み合わせてきた構築能力が全て1つの思考能力で発動させないといけなくなったので、その負担が重く伸し掛かり魔術を1つ扱うのに充分余裕を持った時間と集中力がなければ満足に使えない状態だった。

 

 そう思いながら私は右手を変異させる。

 苔に覆われた手首と黒ずんだ指先に変わった右手を見て、すぐ人の手に戻す。

 

 こんなふうに特に意識しなくとも自分の身体の形状を自由に変える事が出来て、以前の半人半虫のマステマの姿や魔蛾の姿コケダマの姿にも変身することが出来た。

 これらの能力は無意識で発動出来るからこそ、自由自在に扱うことが出来るけれど、変えられるのは姿のみで、スキルの補助がなければ飛ぶこともまともに動くことすら出来ないのだから、現時点では変身する利点は何1つなかった。

 

 他には苔の集合体という肉体構造のため急所が存在せず、振動や衝撃という物理的なダメージを殆ど受け付けないという利点もあるけれど、弱点も存在していた。

 これから赴く場所では、その弱点で致命的な影響を受けそうなので対策を準備しているけれど、どうなるかは全くわからず少しだけ不安を感じていた。

 

 馬車の揺れを体内の苔が全て吸収しながら思考に没頭していると、私の腰に腕が回される。

 その先を見ると白ちゃんが寝込みつつも腕を伸ばしていて、その手に掴まれた私は意外と強い力で引き寄せられて白ちゃんの胸元に抱きかかえられた。

 

「あのー? 白ちゃん?」

「抱きぐるみ……」

「あぁ、はいはい仕方ないなぁ。もう……」

 

 こうしてダウンして気が弱っている白ちゃんに抱えられるのは初めてでは無いので、このまま宿に着くまで、もしくは気が済むまで白ちゃんの抱きまくらになることにした。

 

 後頭部に、私には無い圧倒的な質量が押し付けられて密着する。

 そして私も瞼を閉じて、ほんの少しの時間だけ横になって眠りに浸るのであった。

 

 

 

 

 馬車が宿に到着して部屋に入る。

 

 グロッキー状態の白ちゃんでは自分を糸で操作して歩くのも不可能なので、メラゾフィスさんにお姫様抱っこの状態で部屋に運ばれ、少しベッドの質に不満があるのかモゾモゾしていたけれど、すぐ小さな寝息を立てて眠っていた。

 

 寝室には直射日光は差し込まないし今の時刻は真夜中だけど、一応全てのカーテンを締め切って隙間無い状態の部屋の中で、私たちは今後の予定について話し合っていた。

 

「私らは、明日冒険者ギルドに行って情報収集した後必要な物を揃えに行く。コケちゃんは?」

「私は白ちゃんと一緒に居ます。表面上は問題無くても中身を見られたら人外なのがバレますし、多少マシとはいえ大分弱くなっちゃっていますし」

「おーけー、アエルとサエルを残しておくから待機していてね」

 

 軽く予定を打ち合わせた後、私たちは各自の寝室へと向かった。

 部屋割りは、その時々で変わるけれど主に私と白ちゃん、ソフィアちゃんとメラゾフィスさんが同じ部屋になることが多く、護衛として誰か1人につきパペットたち1人が一緒の部屋に割り振られていた。

 

 そしてアエルちゃんとサエルちゃんが部屋の隅で座り込んだまま顔を伏せているけれど、これは彼女らが人形の身体であり本体の蜘蛛は人形内部で休んでいるので場所を選ぶ必要がなく即応性のために部屋全体を見渡せる場所で休んでいるだけである。

 

 そして私も、あまり眠る必要は無いけれど夜の時間帯は活力が無くなるので、いそいそとベッドに入って横になる。

 

 私の場合だと、正体が人の姿を模した苔の集合体という存在なので、多少の陽射しと水気がないと元気が出ない。

 白ちゃんの場合だと、ステータスの恩恵が無くなって判明したけれど見た目通りアルビノだったらしく、肌を焼く日光は致命的。

 

 なんだかんだ対照的なのに、良くここまで仲良く付き合って来れたと、そう思いながら私は瞼をゆっくり閉じて意識を沈めていく。

 

 眠りの時間は、みんなと話す貴重な時間と思いながら、微睡みの中へと堕ちていった。

 

 

 

 

 カーテンの隙間から部屋に朝日が差し込み、薄暗く寝室を照らしていた。

 

 その変化に私は目を覚ますと、まだ眠っている白ちゃんを起こさないように、そっと時刻などを確認した。

 まだ早朝で誰もが眠っている時刻だけど、パペットたちは状態異常無効化を持っていたので睡眠が不要で寝ずの番をしていたから私が起きたことにすぐ気付いて顔を上げていたけれど、私は指を立てて唇の前に置き、静かにするようにジェスチャーしてそっと部屋を出た。

 

 ついて来たアエルちゃんと一緒に宿屋の一階にある食堂で時間を潰していると、じきにアリエルさんやソフィアちゃんたちも起きてきて予定通りに彼女らは街中へと出かけると、日が昇ってから何時間も経った頃ようやく白ちゃんが起きてきた。

 

 サエルちゃんに身だしなみを整えられたらしく、薄く化粧をして綺麗に纏め上げた三編みを首に巻いた普段のスタイルの上に、日光を防ぐためのローブを被った状態で出てきた。

 目元には、マジックミラーのように片方からのみ光を通す白い布が巻かれている。

 

 神化してから白ちゃんの瞳は、眼球内に5つの瞳孔がある重瞳になっていたので、紅い虹彩の中に黒い点が5つ浮かんでいるという、近くで見ると明らかに異形の瞳となっていたので、糸が使えるようになってからは毎回こうして人前に出る時は目元を隠していた。

 

 こんな見た目もあってか、白ちゃんは盲目で病弱なご令嬢ではないかという憶測が囁かれていて私やパペットたちは身の回りの世話をする侍女らではないかという噂もあった。

 パペットたちとかは多少は正しくもあるので私は何も反応せずにいたけれど、白ちゃんとしては令嬢扱いについては納得がいかないらしい。

 

 性格的に、そういうタイプじゃないからね、白ちゃん。

 

 背後にサエルちゃんを連れながら食堂の入り口に立っている白ちゃんは、食堂の隅に居る私たちの姿を見つけるとこちらへ向かおうとしたけれど、食堂入り口近くにいた冒険者らしき男性2人組にフードを剥ぎ取られて顔を晒していた。

 

「おおっと!」

 

 ……マズイかも。

 急いで席を立って白ちゃんのもとに向かう。

 

「おっ! 別嬪さんだね!」

 

 そう言いながら肩に腕を回そうとしてきた冒険者を、白ちゃんは避けるけれどステータスのない身体では完全には避けられず肩を掴まれた。

 

「その布の下は、どうなっているのかな~?」

 

 そう言って目元の布に手を伸ばす冒険者の男をみて私は蹴り掛かる。

 

「白ちゃんに触るなっ!」

 

 困っている白ちゃんの姿を見て湧き上がった感情に従い、数瞬の迷いも無く飛び出す。

 当然、私も基本的に見た目相応の速度しか出せないので軽く避けられてしまうけれど、白ちゃんから引き剥がすことは出来ていた。

 

「あっぶないなぁ。別嬪さんのお付き? もっと成長してから相手してやるよ、ガキ?」

「フーッ……」

 

 白ちゃんと冒険者の男の間に立って睨みつける。

 見下したような目でジロジロと舐め回すように私を見る男に、言いようのない嫌悪感が湧く。

 こういう人を人と思っていないような他人をオモチャにする存在に、ドス黒い怒りが荒れ狂って精神を焦がしていく。

 

 ポティマスにも感じたような湧き上がる怒りに、私はふと疑問を持つ。

 

 ……なんで私、こんなに怒っているのだろう。

 

「こら! 何やってんだい!?」

 

 睨み合っているとビリビリ響く叫び声が聞こえ、食堂の奥から恰幅の良い貫禄のあるおばちゃんが出てきた。

 冒険者の男2人よりも大きな体格と横幅のおばちゃんは、その身体で圧を掛けながら冒険者2人を威圧して睨む。

 

「他のお客に迷惑を掛けるようなら出ていってもらうよ!」

「あ、その、すみません……」

「あたしに謝ってどうすんだい! 謝るんならそっちの子らに謝りなっ!」

「は、はいぃぃ! すいませんでした!」

 

 一気に酔いが醒めたらしい冒険者2人は、私らに頭を下げると逃げるようにそそくさと食堂から出ていってしまった。

 

「まったく。これだから冒険者っていうのは。悪かったね、お嬢ちゃんたち」

「……いえ。助けていただき、ありがとうございます」

 

 気持ちを沈めて感謝を述べると、白ちゃんも大きく頷いて気持ちを示していた。

 そして愚痴で気になる内容を呟いているので、私は質問してみるとおばちゃんはこう言った。

 

「もちろんお喋りは大歓迎さ! それよりご飯食べに来たんだろう? そっちのお嬢ちゃんは。 来な、騒がせちゃった詫びに安くしとくよ!」

 

 白ちゃんが目隠しの裏で目を輝かせているのを幻視しながら、私たちはおばちゃんに連れられてカウンター席に案内されていった。

 

 

 ……なんで、ああいう人間が嫌いなのだろう。

 思い出せない何かに、小骨が引っかかったような気持ちになりながら、私はおばちゃんが料理を作ってくるのを待った。




前回の神化編を全力で書ききって燃え尽きていました……
あと原作読み直しもしていましたので遅れましたが、さっそく魔族領編やっていきましょう。

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