【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

49 / 146
蜘蛛7 凍てつく山脈、凍てつく苔

 ムグムグ……

 いかにも庶民的で大衆向けな、量を重視しているけれど豪快ながら美味しく味付けされた料理を食べ進める。

 隣では飲み物だけ頼んだコケちゃんが、おばちゃんに対して質問していた。

 

「なんでも、この街の近くにオーガが出てるらしくてね。で、何人も冒険者が返り討ちにあってるんだってさ。それで近隣の街や村からも冒険者を集めてるってわけ。怖いねえ」

「オーガ、ですか?」

「そう、おかげで討伐に行ったものの帰ってこなかった冒険者も大勢いて、面倒事が山積みさ」

 

 ふぅん? 

 人族の領域でもオーガはそこら中で目撃されて、普通に対処出来る程度の強さしか持っていないはずなんだけど、冒険者を何人も返り討ちにしたって事は、ここに出没している個体は特異な存在みたいだね。

 

 私やコケちゃんみたいに、魔物って時々妙に強いのが現れるからそのパターンなんだろうけど、うちの面子からするとオーガがいくら強くても、ステータス1万オーバーの人形蜘蛛たち果てには魔王っていう最強戦力も控えているからね。

 

 仮に遭遇しても問題無いっしょ。

 

「他に知っていることは、ありませんか?」

「そうさねー……。そのオーガが魔剣を持っている噂とか、討伐が完了されるまではオーガがいる方面の街道は封鎖されるとか、そんなくらいかね」

「封鎖?」

 

 んん? 

 封鎖って、もしかして? 

 

「あぁ。といっても封鎖されるのは魔の山脈方面だから、物流とかにはあまり影響しないのが幸いさね」

「……」

「……」

 

 横目でコケちゃんを見ると、目が合った。

 そっかー、魔の山脈封鎖かー。

 

 予定では少しでも気温の高いこの夏の時期に、極寒の地である魔の山脈を攻略するはずだったんだけど、この分だと足止めくらう……のかなぁ? 

 いやさ、バレないようにコッソリ封鎖を抜ければオーガが出ても魔王がどうにかするだろうし、問題無いんじゃねって。

 

 そう思ったんだけど、コケちゃんは質問を続ける。

 

「その封鎖はいつ解除されそうですか?」

「冒険者が返り討ちにあったから、今度は帝国軍が出張ってくるらしいわ? だから、それまでは封鎖が解かれることは無いんじゃないかしら」

「そうですか」

「けど、そっちには魔の山脈しか無いわよ?」

「いえ、何処に行くにしても旅をする上では危険を前もって察知することは大事ですから」

「なるほどね。なら安全が確認されるまでウチに居てくれてもいいのよ? また面倒起こったら、あたしがキッチリ締めておくから」

「あはは……。そのときは、よろしくお願いしますね」

 

 ふーん……

 まあ、なんとかなるっしょ。

 

 そんな風に気楽に考えながら料理を食べ進め、途中で胃の容量の限界に達し食べたいのに身体は食べるのを拒否して目の前のご飯を食べきれないという最悪の悲劇に直面し、激闘を繰り広げるものの半分以上残った料理に敗北を喫し、涙ながら残してしまった料理を同じメニューをすでに完食していた人形蜘蛛たちに差し出して譲るはめになったのだった。

 

 うぅ……ううう、あァァァんまりだァァアァ……

 

 食べることに制限の無い人形蜘蛛たちに羨ましさを感じる。

 思い返せば人形蜘蛛との関係性も殺し殺されの関係から始まったんだと考え、なんだかんだ私も向こうも禍根を破り捨ててお互い絆されてきているように思いながら、魔王たちが帰ってくるのを待った。

 

 

 で、帰ってくるなり魔王から衝撃の事実が伝えられた。

 

「……そういう訳で、オーガが退治されるまではここで大人しくしている。みんな全員、なるべく目立たないようにして欲しいんだけど、大丈夫?」

「ええ」

「わかったわ」

「わかりました」

「ん……」

「「「「(こくこく)」」」」

 

 数日ほど足止めが決定し、それが解除されるまで待機することになったけれど本番は次だった。

 

「結論から言うと、ついさっきエルフの一団に襲われた」

 

 この2年間、不気味なほど沈黙を続けていたポティマスからの刺客が現れ、転移誘拐などという効果的だけどポティマスにしては中途半端な手口という、モヤモヤと謎が残る襲撃について聞かされたのだった。

 

 うーん、結局なにがしたかったのか、わからんね……

 

 みんなして頭を抱えつつも私たちは封鎖が解けるまで宿屋に引きこもり、何事もなく数日が経ち街道の封鎖が解かれると、満を持して魔の山脈へと向かうのであった。

 

 

 

 

 結局オーガは討伐されずに魔の山脈へと逃げ込んだという情報にフラグを憶えながらも、主要な街道から逸れて整備が減って少し荒れている道を進みながら、長閑な高原地帯と針葉樹林を視界に収めつつ麓にある廃村に到着した。

 

 街から出るときも道中を進んでいるときも、何かしら起きるんじゃないかと警戒していたけれど何一つ起きること無く、ここまで平和に辿り着いてしまって正直拍子抜けしてしまった。

 

 しかし、そんな感想も廃村についた途端に吹っ飛んだ。

 打ち捨てられた家屋、傷だらけの外壁や火がついて全焼したであろう炭の山、そしてあちこちに残る赤黒いシミ。

 

 いかにも惨劇の跡って感じだけど、それを気にするメンバーは誰もいないんだよなー。

 

「ふむ。とりあえず無事な家で一夜を明かそうか」

 

 風雨が凌げるなら、事故物件だろうが何だろうが構いやしないのが、うちらクオリティ。

 私以上に寒さに耐性の無いコケちゃんなんか、雪と氷河で覆われた魔の山脈に入る前から顔以外に地肌が見えない完全防寒しているのに、小刻みに震えているからね。

 

 コケちゃんの特異な身体だけど、苔の集合体ということで物理耐性に含まれるような、刺突斬撃などは全くと言っていいほど影響を受けないけれど、寒さつまり凍えるような低温だと簡単に凍りついてしまい、機能不全を起こして崩れてしまうらしい。

 

 以前に確認した際には細心の注意を払って指先のごく一部にとどめたので、もし全身が凍結した場合の検証が出来ておらず、どうなるかわからないので寒さ対策はかなりの重装備となっていた。

 

 現にほら、防寒具の隙間から見える髪も萎れていて口数も私並に減っているのが、寒さとの相性の悪さを如実に証明していた。

 

「ねえ。古い血と新しい血の臭いがあるのだけど、どういうことかしら?」

 

 む? 

 吸血っ子が血の臭いを嗅ぎ分けたようだけど、古い血は犠牲になった村人だとして、新しいのは誰のものだ? 

 

「ああ、気付いた? この臭いはエルフの血だね。あいつら、きっとこの廃村で待ち構えてたんでしょ。けど、何かに襲われて壊滅した。まあ、きっとこっちの方向に逃げ出したっていうオーガが犯人だろうね」

 

 あのエルフどもがオーガに負けたって? 

 それってかなりヤバイことなんじゃって思ったけど、それにしては周囲の建物が残っている事に疑問を感じた。

 魔王や人形蜘蛛が本気で暴れたら更地になるのが普通だし、2年前のときのような兵器でも持ち出していたら、同じく跡形もなく廃村が吹っ飛ぶだろうと予想出来るのに、ここは原型をとどめて残っている。

 

 ということは、それ以下の常識的な戦闘が行われてエルフが壊滅したということで、つまり兵器の1つも無しにエルフどもが待ち構えていたということになる。

 

 うーむ? 何がしたかったのか、全然わからん。

 そんな戦力では足止めにすらならないのは、あいつの方もわかっているはずなのに。

 

「周囲にはエルフの気配も、オーガの気配も無い。もうここは安全そうだし、とりあえずはここで一晩明かして明日から本格的に魔の山脈攻略を始めよう。ゆっくり休めるのは今日が最後だから、しっかり英気を養うようにね」

 

 なにやら煮え切らない曖昧な態度を取る魔王に何かを隠していると感じながらも、結局それらを私たちに告げることは無くコケちゃんも寒さで沈黙していたため、何も言わないなら聞かない方がいいと判断して、今晩の宿を探し休息を取るのであった。

 

 

 

 

 木々の姿も消え高山植物の草原も越えて、雪と氷と岩しか無い領域に突入した私たち。

 標高の低い所を選んで通っているはずなのにすでに寒く、数日もすれば色彩すら無くなって極寒の吹雪の中、氷河と岩山の上を歩くことになっていた。

 

 多少は自分の糸で編んだ服でカバー出来ても根本的に体力の無い私や、ドンドン冷え込む寒さで全く動かず反応もなくなってきたコケちゃんは、馬車の中で待機となっていた。

 

 まさにお荷物。

 しかし、歩かずとも辛い。

 

 寒い! 

 熱を発するカイロのような魔石や、こうなることを見越して残しておいたコケちゃんの魔道具の一部を使ってでも、なおキツイ寒さに毛布を抱き寄せて震えることしか出来ない。

 あまりの寒さにコケちゃんが凍って彫像のようになってしまい一時騒然としたけれど、どうやら仮死状態のままで安定しているらしく、厳重に毛布で包み保護した上で馬車内に固定し魔の山脈を越えた後に解凍することになっていた。

 私も全身を毛布で包んでいるのだけど、外側の毛布が凍りついてバリバリ音を立てているのは、異常な気温としか言いようがない。

 

 酔う! 

 馬車でそのまま通れるような道はすでに何処にも無いので、私たちを乗せたまま馬車はアエルが背負って運んでくれています。

 そのためメッチャ揺れるんだけど、これでも相当気を遣って慎重に運んでくれている。

 他の人形蜘蛛だったら、中身のことなんて考えずに運んで大変なことになっていた筈だし。

 でも多く雪が積もれば屋根が抜けてしまうので定期的に振り落とす必要があり、その度にブルンブルン大きく揺らされて中の私はシェイクされて気持ち悪くなる。

 

 寒さマジ辛い、揺れマジ酔う。

 

 歩けるなら外で自分の足で地面を踏みしめて歩きたい。

 もしくはコケちゃんみたいに仮死状態になって、意識飛ばしたまま魔の山脈を越えて、その後に起こしてくれないかな……

 

 そんな事を考えながら外の会話を盗み聞きし、異常気象の原因となっていそうな氷龍を怒らせたであろうオーガに恨み辛みを募らせ、寒さと気持ち悪さに耐えていると魔王の乙女らしからぬ叫びが聞こえてきた。

 

「うげえっ!?」

 

 おうおう、女の子がそんな声出しちゃいけないと思うんだ。

 何事かと気になった私は毛布に隙間を作り外を覗き見ると、寒さを忘れるほどの衝撃が襲った。

 

 さ、さ、猿だああぁぁぁぁッッ!? 

 

 かつて私を集団リンチにし結果的にコケちゃんと出会う切っ掛けにもなった、あの憎くとも思い出深いアノグラッチとかいう猿が、津波のように押し寄せてくる光景が目に映ったのであった。

 

「「「「「「「「「「ホアーッ!」」」」」」」」」」

 

 ホアーッ! じゃねーよ!? 

 しかもこいつら仲間が殺されると、その殺した犯人に集団で復讐しに行き復讐対象が死ぬか群れが全滅するまで相手に襲いかかり続けるとかいう、生物として間違ってるだろって生態をしてる。

 

 そんな猿どもを前にして魔王も若干テンパリつつも即座に魔法を展開しようとしている。

 

 けど、あれ? 

 この斜面に分厚く雪が降り積もる状況で魔法をぶっ放すって不味くね? 

 

 魔王が魔法を放ち、暗黒の奔流が猿の津波に突き刺さると同時に大爆発して雪山に衝撃が周囲に響き渡る。

 すると、それによってある現象を引き起こし、猿の大群よりも巨大な白い津波が山頂のほうから迫ってきた。

 

 しってた! 

 

 こんな場所でそんな事したら雪崩が起きるのは明白で、引き起こした魔王もやっちまった! という顔をしていた。

 怒涛の勢いで迫ってくる雪崩は轟音を立てて全てを飲み込もうとしている。

 

「退避!」

 

 その言葉を受けて、ステータスで強化された脚力と空間機動を駆使して空中に駆け登る。

 今までの訓練によって吸血っ子やメラも空中を踏めるようになっており間一髪で回避していた。

 平地とかでは馬車を引く役目だった地竜2匹もリエルとフィエルに抱えられて被害を免れてる。

 コケちゃんの姿は見えないけれど、馬車の中にガッチガチに固定していたから多分無事。

 

 あれ? 

 なんでみんなの状況を見上げるような形で把握しているん? 

 

 私、空中。

 上、馬車合体アエル。

 下、雪崩。

 

 あ、そっかー。

 私、反動で馬車の外に投げ出されたと。

 で、重力に引かれて落ちていき、凍えて手が動かず糸を出す余裕の無い私。

 

 だぁーずぅーげぇーでぇー!! 

 

「サエル! カバー!」

 

 サエルが救助に動くもの一瞬遅く凍った毛布を失いながら雪崩に巻き込まれた私は、再度救助に飛び込んだサエルに掴まれた腕がヤバイ感じの痛みを憶えたり、遅れて到着した吸血っ子とメラが空中からサポートに入るものの雪崩で流されてきた猿に吸血っ子がぶつかり、その衝撃で再び雪崩の中に突っ込んで飲み込まれていく。

 

 魔王の救援は!? 

 

 雪崩に飲み込まれる寸前に猿の大群に飛びかかられている魔王の姿を目撃し助けは来ないと理解すると、白から黒へと暗くなる視界と意識の中で、馬車に残ったコケちゃんは無事であろうと思いながら真っ暗闇へと沈み込むのであった。




久々の蜘蛛子メイン視点。

文章PC表示に合わせて調整しているのですが

  • 綺麗、見やすい
  • 読みやすい
  • 普通
  • 見辛い
  • 読みにくい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。