仲間が、できた——
私と同じくらいの大きさをした真っ白な印象を受ける蜘蛛。
その中身は、前世でクラスメイトだった
正直、信じられないって気持ちでいっぱい。
だってクラスの中で誰よりも綺麗で生きている世界そのものが違うのではって思うほど、持っている雰囲気や気配などが違って見えたのが彼女だったから。
けれど、違和感については今は置いておく。
そんな彼女が現在は蜘蛛であり、私もコケダマのような虫の類に生まれ変わっているのだから、神様というのがいるのなら残酷にも程があるよね……
今こうして遠い目で考えに耽っているのは、簡単には登れなさそうな岩肌の高所に巣を作って糸に包まり、今は蜘蛛子って名乗っている若葉さんが進化している最中だからなので……
蜘蛛子ちゃんは現在、念話を取ることが出来ないみたいで、筆談などでしか意思疎通することが出来ないために、なかなか時間が掛かったけれど互いに知っていることの情報を共有できた。
それによると、進化するときに強制的に眠りについてしまい無防備になってしまうので、周囲の安全の確保と、進化後にはSPがほとんど空っぽになっているから食料の確保も必須だということを教えてくれた。
なので、今現在私は周囲の警戒と、二人でトドメを刺して回った猿の回収作業をしているところである。
周囲の安全に関しては、ついさっきまで猿の大群がいたからなのか数百メートル単位の距離で誰もいなくて、警戒すべき相手も森羅万象で知覚できる範囲の末端のほうにしかいない状況なので、基本安全だとおもう。
それよりも猿の死骸を集めることのほうが大変で、とっても重労働。
蜘蛛子ちゃんみたいに糸を操って纏めることが出来ないから、基本身体で押していくしか方法がない状況に陥っていた。
いや魔法を使って動かすのも考えたけど、今のスキルではロクに動かせないかボロボロに傷つけてしまうかの二択しか選択肢が無くて、地道に頑張って運ぶしか無かったからなのです……
そうして蜘蛛子ちゃんが進化に入ってから1時間くらい過ぎた頃。
糸を裂く音の後、クルクル回転しながら蜘蛛子ちゃんが降りてきた。
空中で宙返りを何度も鮮やかに回転した後、軽やかに着地すると高らかに前足を掲げたポーズを決めていた。
『おぉ~ぱちぱちぱち……、進化できたの?』
まるでサムズアップのように力強く前足を揺らし、頭を前後に大きく揺らす蜘蛛子ちゃん。
そんな蜘蛛子ちゃんは、身体の黒い部分と赤紫色の模様が増えて少し禍々しくなった気がする。
『鑑定するね』
——グっ!
いいよー! そんな副音声が聞こえた気がした。
《スモールポイズンタラテクト LV1 名前 なし
ステータス
HP:56/56(緑)
MP:1/56(青)
SP:56/56(黄)
:1/56(赤)
︙
スキルポイント:200
称号:悪食 血縁喰ライ 暗殺者 魔物殺し 毒術師 糸使い 無慈悲 魔物の殺戮者》
おぉー種族名が変わってる。
ステータスは微増みたいだけど、スキルが全体的に上がっているみたい。
それに、聞いたとおり進化後はSPがゴッソリ減ってしまうのは本当みたいだった。
ん? 蜘蛛子ちゃんが何か書いてる……
[カンテイ 使われると こんな感じなんだ]
あぁ……
『私も蜘蛛子ちゃんに使われて、初めて鑑定される側の不快感を知ったよー』
なんというか、無遠慮に身体の内側を触られているような、鳥肌が立つようなゾワゾワした嫌な感覚がするようなんだよね。
そりゃあ、掛けられた側はイライラするだろうし、あの時怒られたのも仕方ないと今では思う。
私が過去に立ち帰っている僅かな間に、いつの間にか猿の死骸を糸で引き寄せていてその筋肉質で硬そうなお肉に齧りついている。
そして私の意識が戻ってきたのを横目で確認した蜘蛛子ちゃんは、前足で地面を指す。
そこには——
[シンカ していいよ コケちゃん]
蜘蛛子ちゃんは、前足を何度も何度も高く上げて喜んでいるような応援しているようにも見える変な動きで、私の進化を勧めている。
私もLV10となって進化出来る状態だったのは伝えてたけど、そんなあっさり……
あと、コケちゃんって私のことかな? まあたしかにその通りの見た目だけど……
《進化先の候補が複数あります。次の中からお選びください。
・コケダマ
・スモールパラライズコケダマ
・スモールスリープコケダマ 》
いっぱいあるなぁ。
『ねぇ、蜘蛛子ちゃん。進化ってどれがいいの?』
そう語りかけると、食事を止めて少し間が空いた後、返事してくれた。
[希少種 一択]
そうは言っても——
《スモールパラライズコケダマ:進化条件:一定以上のステータスを持つコケダマ種、「麻痺術師」の称号:コケダマ種と呼ばれる芋虫型の魔物の希少種の幼体。非常に強力な麻痺毒を持つ》
《スモールスリープコケダマ:進化条件:一定以上のステータスを持つコケダマ種、「睡眠術師」の称号:コケダマ種と呼ばれる芋虫型の魔物の希少種の幼体。非常に強力な催眠作用を持つ》
二つあるみたいなんだけどねー。
条件の二つの称号は、猿と戦っていたときに麻痺や睡眠に毒など状態異常を含んた攻撃を、近づいてきた猿に対してばら撒き続けていたときに獲得していたみたい。
あのとき私は状態異常を仕込んだ鎧と砦を築いて押し寄せてくる猿を迎え撃ち、私本体には一切触れることができずにバタバタと打ち倒していった。
称号を獲得する条件の「一定量使用する」は、限界まで広範囲に仕込んで汚染地帯を作り上げたからというのと、おこぼれを貰っていた頃の累計で達成したのかも。
それで進化先の三種類なんだけど、コケダマは身体が大きくなる通常の進化となる、耐久力などステータスは高くなるけど特にスキルが増えるわけでもない感じ。
実際群れの中にも少ないながら居たけれど、あまり強くなくて立場も弱そうな感じだったのを、ぼんやりとだが憶えている。
あとの二つのパラライズ・スリープについては、それぞれの成体が活躍しているシーンは印象に残っているので、間違いなくこの二つが最適なのだと理解していた。
さて、どっちにしようかな……
……うん、決めた。
『蜘蛛子ちゃん、進化するね』
《個体スモールコケダマがスモールパラライズコケダマに進化します》
そう決めた途端、耐え難いほどの眠気が襲ってきて意識がぼやけていく。
これは……、たしかに危険…………だ……ね………………
霞む視界に蜘蛛の前足を振って、いってらっしゃいと言っているかのような蜘蛛子ちゃんを映しながら、私は深い闇に堕ちていった。
んんっ……、あれ、私、何して……
あぁ……、進化を選んで突然眠くなってそのまま……
まだぼんやりする頭を叩き起こして全身に力を入れて伸びをする。
ほんの一瞬だけ膨張したコケダマの肉体と苔を感じつつ、周囲を確認する。
気づくと、蜘蛛子ちゃんが猿の死骸を一か所に集め終わっていて、うず高く積まれた猿山の上でポリポリ手足を齧っていた。
そして綺麗に食べられた骨が、転がりながら降ってきた。
私が起きたのに気づいた彼女は、食べかけの猿の腕を持ちブンブンそれを振っている。
森羅万象を起動し直して周囲数百メートル以上ざっと探るも、危険はなさそうなのを確認して、自分自身へと鑑定をかける。
《スモールパラライズコケダマ(苔森 真理) LV1
ステータス
HP:72/72(緑)
MP:42/1352(青)
SP:71/71(黄)
:1/71(赤)
平均攻撃能力:34
平均防御能力:82
平均魔法能力:1130
平均抵抗能力:82
平均速度能力:57
スキル
HP自動回復LV2 MP回復速度LV3 MP消費緩和LV3 SP回復速度LV2 SP消費緩和LV2
状態異常強化LV2 魔力操作LV4 魔闘法LV2 魔力撃LV2 魔力付与LV3 麻痺攻撃LV8
睡眠攻撃LV4 毒攻撃LV3 酸攻撃LV3 外道攻撃LV2 麻酔合成LV3 催眠薬合成LV2
苔鎧LV6 鎧の才能LV2 立体機動LV3 隠密LV2
集中LV10 思考加速LV3 予見LV3 並列思考LV5 演算処理LV6 記憶LV4
命中LV3 回避LV2 鑑定LV10 念話LV1
光魔法LV4 水魔法LV3 風魔法LV3 土魔法LV3 治療魔法LV2 麻痺魔法LV2
睡眠魔法LV2 外道魔法LV3 物理耐性LV2 状態異常耐性LV5 酸耐性LV3
腐蝕耐性LV2 気絶大耐性LV3 恐怖耐性LV3 苦痛耐性LV5 外道無効
暗視LV10 五感強化LV3 視覚領域拡張LV2
身命LV2 天魔LV10 瞬身LV2 耐久LV2
強力LV3 堅牢LV2 天道LV10 護符LV2 縮地LV1
欲求LV5 過食LV4 神性領域拡張LV1 森羅万象LV10 禁忌LV3 n%l=W
スキルポイント:7000
称号
悪食 味方殺し 血縁喰ライ 麻痺術師 睡眠術師 無慈悲 魔物殺し》
おぉー、かなり変わってるー……
ステータス的にはそこまで変わったわけではない——それでも蜘蛛子ちゃんよりは全体的に高めだ——けれど、スキルの成長が著しい。
ほとんどのスキルがLV1つ分は上がっているし、進化前に多数増えたスキルもあってか、鑑定で表示されて並んだ情報量が大きく増えている。
進化で見たこと無い真新しいスキル等々が増えたりはしていないようだけど、確認がまだだったスキルの説明について見る。
《麻酔合成:MPを消費して麻酔薬を精製、カスタマイズする。合成できる麻酔薬はレベルによって異なる》
《催眠薬合成:MPを消費して催眠薬を精製、カスタマイズする。合成できる催眠薬はレベルによって異なる》
ここらへんは、称号によって追加されたスキル。
麻痺魔法や睡眠魔法についても、名前の通りのスキルだったから割愛。
そして次は、いつのまにかLVが上がっていた謎のスキル。
《欲求:強い欲望を示すスキル。経験値吸収能力が微増》
説明だけではよく分からないけれど、よりレベルが上がりやすくなる効果と、回収範囲と効率が良くなるスキルみたい。
——強くなれるなら、何でも良いカナ。
説明の通りなら強い欲望に反応してスキルが成長するみたいだから、その想いを胸に抱き続けていればいいはず。
そう、強さというのは鮮烈に思い出せる。だから——
《熟練度が一定に達しました。スキル「欲求LV5」が「欲求LV6」になりました》
——フフふっ、そうだネ、そうソぅ……。忘れない、忘れたりなんかしてたまるもんか。
この悔しさと絶望と不安に、狂おしい憧れは絶対忘れない。
胸の奥に暗い炎を再び灯して心を焦がれさせる。
そして私は沈み込んでいた意識を外界に向け直した。
すると目の前に蜘蛛子ちゃんがいて、猿の死骸を突き出していた。
まるで、食べないの? って言っている感じで猿を突き付きながら首を傾げている。
そうだった、進化後はSPが空っぽで餓死寸前になるんだったね。
ありがたく受け取って食べ始める。
そして自分の体積以上あるのに何故かお腹に収まっていく、いつもの食事光景を作っていると、蜘蛛子ちゃんが変わらずに私をジッと見つめていた。
『……あー、もしかして……、うん鑑定していいよー』
伝わったことに喜びを感じたのかガッツポーズのような動きをする蜘蛛子ちゃんを横目に私は食べ続ける。
途中で、気持ち悪い不快感が襲ったけど、抵抗せず素通りさせた。
これなら抵抗力などで妨害されずに見れるはずなので、蜘蛛子ちゃんにもステータス情報が共有できたはず。
そういえば、進化した後の見た目を確認していなかった。
自分の姿を見れるような鏡も何も無いので、森羅万象の感知能力を上手く使って視界の外の情報を拾い集めて姿を確認する。
身体の大きさ自体は特に変わっていなくて、蜘蛛子ちゃんとあまり差の無い大きさ。
背丈は一メートルくらいかな? 長さはもうちょっとある感じ。
けど重要なのはそこではなくて、色合いがガラリと変わったのが大きな変化だと思う。
今までは深い緑色をしたモサモサした苔を纏っていたけど、進化をしてからは鮮やかな黄緑色をしていてかなり派手というか目立つ感じになっている。
そして苔の質も良くなったみたいで、ゴワゴワしていた感じだったのがとてもフワフワとした、綿毛のような柔らかい質感に変わっているみたい。
なんというかぬいぐるみ屋さんに置かれていても違和感ないような、どちらかと言うとカワイイ印象の、魔物っていう感じのしない見た目をしている。
そんな、今度は黄緑色の綿あめとかそんな感じに進化したのを確認していると、私の上に蜘蛛子ちゃんが乗っかってきた。
そしてフワフワした苔に身体を埋めるように身体を揺らしていた。
蜘蛛子ちゃんが乗っかっても大して重くは感じないけど、そのフワフワを私自身は感じられないのが少し妬ましいと思う。
ある意味私の体の一部なので、それがどれだけフワフワなのかわかっているけど身体にくっついているので、それは飛び込み埋もれる感覚とは別物だと思っている。
そんなことを思い蜘蛛子ちゃんに注意を向けると、埋もれた体勢でピクリとも動かないでいた。
羨ましい……と思っていたら、どうやらそうじゃなかったみたいで。
足先がピクピク痙攣して泡を吹き、まるで陸に打ち上げられて瀕死になった魚のような……
……あっ、麻痺攻撃。
『く、蜘蛛子ちゃぁーーん!!』
急いで振り落として様子を確認するけど、痺れて動けないだけでHPとかは全然減っていなかったのが幸いだった。
蜘蛛子ちゃんが元に戻ったのは、それから十分くらい経ってからだった。
スキル「欲求」の内容は捏造設定。傲慢系統の成長ブーストとは違い、あくまで回収効率を良くするスキルで受け取れない分は霧散して世界に還元されます。
コケちゃんの強くなりたい精神性と摩耗していない魂だからこそ、集めた経験値を十全に回収できるだけ。
主人公の種族や、その進化系は全てオリジナル設定の種族です。
ちなみに、主人公のコケちゃんやその通常進化系によく似た生き物が出てくるゲームがあるんですよ。「HOLLOW KNIGHT」のコケグマっていうんですけど。
(プレイしたことのある人しかわからないやつ)
蜘蛛子は
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もっとコミュ障
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このままでいい