【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

52 / 146
34 眠っていた時間、眠っていく魂

 いつの間にか意識を失っていて、気付いたら魔族領に到着していました。

 とりあえず、おはようございます。

 

 最後の記憶は寒さに震えながら馬車の中で横になった記憶で、次に目を覚ました時には火魔法で私を温めるアリエルさんの姿が目に映っていました。

 しかも予定より早く到着したらしく、山脈の道中で白ちゃんが魔術を使えるようになったことが大きな影響を与えたらしいです。

 

 眠っていた間に何があったのかは、アリエルさんたちから聞くことが出来ました。

 

 魔の山脈攻略中に身体が凍りついて仮死状態になっていたとか、氷龍が起こしていた吹雪の事や面倒臭い性質を持っている例の猿に襲われて雪崩に巻き込まれたりだとか、さらに麓の街で聞いていた特異オーガがクラスメイトの転生者だった事とか、そのオーガが進化した姿である鬼人に雪崩に流された後襲われて、それを謎のドラゴンと一緒に白ちゃんたちが撃退した話とかとか……

 

 私が意識を失っている間、実に様々なことが起きていたらしく、全てを詳細に聞き終わるまでに数時間くらい掛かったと記憶しています。

 

 その中でも特に気になったのは2つ。

 

 まずは転生者について。

 その転生者は笹島京也くんらしく、顔が前世と同じだったらしい。

 久々に前世について記憶を掘り起こしたけれど、思い出せるのは男子の中では小柄だった事とか何かを押し殺して少し壁を作っているような雰囲気だったような気がしていた事。

 だけど、特別交流があった訳でもなくクラスメイトの1人でしか無かったので、知っていることなんて名前と外見と雰囲気くらいしか思い出せなかった。

 

 もうひとつは謎のドラゴンの事。

 外見的特徴や状況証拠などから私に関係する存在らしいけど、思い当たるようなものが一切何も浮かばず記憶にも無い。

 けど、それが私から生まれ、そして私に戻ったらしいとなると、一番怪しいのは精神世界内部にいるコケダマたちの事になる。

 

 ……もしかしたら、自分自身の精神世界について私は全然理解出来ていないのかもしれない。

 

 私がみんなと話していると感じていたのは上辺だけで、相手をきちんと見ずただ一方的に想いをぶつけるだけの一人芝居でしかなく、本当は、ちゃんと向き合ってすらいない……? 

 

 真実に迫る何かに指を掛けたような、何か重い扉のようなモノが開きかけているような、そんな奇妙な感覚を憶え、私はそれを見つけようと深く集中しようとした時、馬車の外から声がした。

 

「アリエル様、見えてきました」

「おっけー。みんなー、もうすぐ街につくよー」

 

 どうやら、魔族領に入って初めて人がいる街に到着したらしい。

 最近では馬車に酔いかけると白ちゃんが外に出ていってしまうので、少し寂しさと退屈を憶えていた馬車の中から顔を出す。

 それに合わせてパペットたちも一緒に顔を出そうとしたので、串に刺さった団子のように馬車の縁に顔が並ぶ。

 

 遠く背後には聳え立つ断崖絶壁の岩肌と、その奥に万年雪が積もる魔の山脈。

 そして前方には、この世界特有の魔物の脅威に対抗するための城壁に囲まれた都市が見えた。

 

 そして門を守る衛兵らを見て、街中を進みながら街並みや暮らす人々を眺めていると、私たちはある気持ちを共有していた。

 

「なんか、とくに何も変わっていない?」

「むぅぅ……?」

「思っていたのと違うわ」

 

 目に映る街並みは人族の領域である帝国の北部の街とほとんど一緒で、街中の道行く人らも人族しかいないように見えるし、天気や気候も北国な感じがするだけで至って普通だった。

 

「ふふ、驚いたかい? 詳しいことはあの城の中で話そうか」

 

 アリエルさんが示した城に到着すると、門番の人とアリエルさんが数回言葉を交わし渋い表情を浮かべる門番の横を通り過ぎて、城の一室へと案内された。

 案内されたその部屋は、装飾こそ微妙に違う感じがするけれど基本的に人族の建物と同じような作りの部屋で、そこで私たちは共通認識について擦り合わせた。

 

「人族も魔族も、外見だけじゃ判断が出来ない。なんせ姿形は全く同じだからねー」

 

 ソファにゆったり座ったアリエルさんが、イタズラ成功って顔でそんな事を言った。

 魔族語について一通りみっちり教えてくれたけど、魔族そのものや文化などについて詳しく教えてくれなかったのは、この瞬間の為にワザと説明していなかったらしい。

 

 白ちゃんが批難するような顔でアリエルさんを見ていて、それにアリエルさんが反応し軽く牽制しあう一幕もあったけれど、話は続く。

 

「見た目が同じって、じゃあ、人族と魔族って何が違うんですか?」

「いろいろ違うよ。まず最大の違いは寿命の長さ。魔族は人族よりも長い寿命を持つ。まあエルフほどじゃないけどね」

 

 エルフ、か……、まともに戦えない今では、会いたくないなぁ。

 私とソフィアちゃんが同じような感情で顔を顰めた。

 

「魔族の中で、違いとかはあるのですか?」

「そんなのないよ? 公爵とか貴族がいたり、それを支える平民がいたりするけど、種族としては基本ほぼ全て一緒の単一種族だよ。まあ魔王に関してだけは例外なんだけどね」

 

 衝撃の事実。

 魔族といっても、いろんな種類がいる訳では無いらしい。

 

「耳とか角とか羽とか尻尾とかは!?」

「だから無いって。もしそういうのを持っているのがいたら、それは魔族じゃなくて全く別の種族だよ。途中で会った鬼人とか以前のコケちゃんとか、そういう感じ。けど絶対数が少なすぎてほぼ存在しないと思っていいよ。子孫を残そうにも相手がいないから増えることも無いし」

 

 ソフィアちゃんがアリエルさんに詰め寄るが返ってきた答えは、ファンタジーな人種がこの世界には殆ど存在しないという夢も希望も無い事実だった。

 

「ああ、龍だけは例外だったね。あいつら一応人化も出来るから」

 

 そういえば取得しなかったけど、人化というスキルがあったのを思い出した。

 莫大なスキルポイントを要求されていたし、その前に進化して人に近い姿になったから必要無くなったんだよね。

 さすがにあの要求ポイントだと普通に長年貯めていっても足りないだろうし、龍だと人化を獲得しやすいのかもしれない。

 

 他にもアリエルさんは、ステータスの伸び方が人族より良いことや、人口と出生率が低くて人手不足に陥りやすく今の魔族はシャレにならないほど人口が減っていることなどを説明した。

 

 そのようにワインで口を潤しながらアリエルさんが語り続けているとき、途中で部屋の外に複数の人の気配を察知した。

 感知出来るものや感知可能な範囲が減ってしまったけれど、魔力や術式とか空間それに魂魄と、システムの補助を受けなくなっても何故か森羅万象のスキルと同じようなことを無意識に張り巡らせているので、今扉の前に立った初老の男性とお付きの人らの存在を認識することが出来た。

 

 それにしても、魂の力が本人の強さに繋がるこの世界で、初老の男性の魂の大きさと強度は相当なものだと感じた。

 大体の人は魂が弱って磨り減っているのに、この人の魂は摩耗があまり見られない。

 たぶん強度がかなり高いほうなのだと思う。

 

「入ってきたらー?」

 

 アリエルさんが少し大きな声で扉の向こうにいる人らに呼びかけた。

 すると数秒経ってから返事があって、軍服みたいな服を着た人らが入ってきた。

 

 そして最も高級そうな装飾の多い服を着ている初老の男性がアリエルさんに跪いて話し始める。

 

「お戻りになるのを我ら一同、お待ちしておりました」

「うん。ただいまー」

 

 風格のある初老の男性の口上に対して、アリエルさんの口調はとても軽いものだった。

 そのせいか、お付きの人らが僅かに気配を揺らがせたのを感じ取ってしまう。

 

 そしてアリエルさんはわざと反感を買うような振る舞いで初老の男性について説明した。

 

「ご紹介に預かりました、アーグナー・ライセップと申します。以後、お見知りおきを」

 

 ここを治める領主で辺境伯らしいアーグナーさん……、様……、いや、アーグナー卿は私たちの方を向き、ピシッと背筋が伸びた動きで浅くお辞儀をした。

 眼光鋭い外見からも滲む内面の性質からも優秀そうな印象を受ける人であり、それと同時に狡猾な腹黒さも持ち合わせているように感じた。

 

「それで? 何の用?」

「はっ! 魔王様がこの地にお戻りになられたと聞き、急ぎ挨拶に参った次第です。おくつろぎのところお邪魔を致しまして申し訳ありませんでしたが、忠実な臣下として顔を見せないのも、不敬かと思いまして馳せ参じました」

 

 アリエルさんに向き直り、ほぼ一息で丁度いい速度を保ちながら一気に語る。

 地味に高度な発声技術を目の当たりにし、しかしそれを受けたアリエルさんは尊大な態度で話を続けて、無理矢理アーグナー卿に時間を作らせ予定をねじ込ませた。

 

「わかり申した。では、明日の昼のお食事の後でいかがでしょう?」

「いいよー。じゃあ、その時間にね」

 

 その後はふてぶてしい態度を演じるアリエルさんがお酒とおつまみを要求して、それにイヤな顔1つせず対応するアーグナー卿のやり取りがあった後、彼らが退室して私たちだけになる。

 

「……権力と暴力を併せ持った人がどうなるのか、思い知ったわ」

 

 ソフィアちゃんが少し軽蔑したような口調で呟いた。

 わざとだとしても、あからさますぎる振る舞いには、私も少しやりすぎではないかと思う。

 

「ふふふ。そこに財力もプラスすれば、この世で出来ないことは少ないと断言しよう!」

 

 高級そうなワインを次々と空にしていくアリエルさん。

 旅の途中でも、パペットたちを召喚するついでに最も信用と価値が高いアレイウス金貨の袋の山を持ってこさせていたアリエルさんが言うと、冗談でもなんでも無く真実だと感じた。

 その黄金の財力でソフィアちゃんの大剣も買ったんだよね……

 

 メラゾフィスさんが不満げなソフィアちゃんに、アリエルさんの行動を解説した。

 それに合わせてアリエルさんも、そうする理由を説明する。

 

「つまり、わざと嫌がられることをして、敵を焙り出しているってことですか?」

「少なくとも、さっき挨拶に来た中で何人かはそういうのがいたね」

 

 気配だけではなく、手とか身体に出てしまっていた人も何人かいたので、効果自体は抜群なのがタチが悪いところだった。

 

 自分を餌に叛意のある者を釣り出す。

 それにアーグナー卿は引っ掛からなかったけれど、部下の人らが悪感情を見せている時点で減点であり、部下がそうであるなら上も何か抱えているはずと確信しているような語り口だった。

 

 けれど、傍若無人に振る舞うのは別の目的もあるように思えた。

 

「そういう訳で、遠慮せず好き放題するのだー!」

 

 また1つ、ワインを一気飲みしておつまみを食べるアリエルさん。

 

「……結局それが一番の目的なんじゃないんですか」

「そうだけど、……それだけって訳じゃないんだよ、ソフィアちゃん」

 

 アリエルさんは自分の口で話す気が無いみたいだから、少し離れて話す。

 メラゾフィスは気付いているみたいで、アリエルさんの給仕を続けていた。

 

「アリエルさんは魔王。魔族は魔王の命令には逆らえない、それは権力的な意味でも暴力的な意味でもあるけど、システム的にも絶対逆らえないようになっているんだよ。……そして思い出して、禁忌の内容を。内容は以前にも説明したはずだよ、そして何をどうすれば効率が良いのかも」

「……あっ。もしかして、そういう事なの?」

 

 枯れてしまったシステムに、エネルギーを注ぐ。

 そのエネルギーがシステムに還元されるのは生き物が死んだ時で、そのためには生命が数え切れないほど死ぬような戦争が必要で、その地獄のような戦争を引き起こすのが魔王のアリエルさんであり、贄として生命を捧げることになるのは魔族らだった。

 

「それじゃあ、仲良くしてたら辛いわね。生贄か……、恨まれるわよね……」

 

 理解したらしいソフィアちゃんが、聞こえないようにボソッと呟く。

 面倒見の良いアリエルさんが必要以上に魔族らに感情移入しないためにも、悪役を演じることで残された人らが恨みを向ける矛先を用意するために、そして嫌われることで自分を罰するために。

 

 難儀な立ち位置にいるのに心根が優しすぎて痛みを抱え込んで、でもだからこそ世界を救済する王なのだと、私は改めて思った。

 

 禁忌について何も知らない、ただ巻き込まれるだけの魔族や人族には最悪の暴君でしかないけど真実を知っている私たちは、数少ない味方としてアリエルさんを支えていきたいと思う。

 

「白ちゃん? お酒は二十歳からだよ?」

「ぐぬぬ……」

 

 部屋の隅で話している間に、向こうでは白ちゃんとアリエルさんが酒瓶を巡って視線をバチバチさせ、一触即発の睨み合いを繰り広げていた。

 酒瓶に手を伸ばした白ちゃんと、腕を掴んでそれを止めるアリエルさん。

 

「ダメなものはダメ。ならぬものはならぬのです。いくら力を取り戻したといっても、虚弱なのは変わってないんだからさ」

「……ッ!」

 

 ギリリと軋む音が鳴った。

 それと同時に白ちゃんの顔が苦々しく歪んで、数秒後振り払うように白ちゃんが手を下げた。

 

「わかればよろしい」

 

 そう満足げな表情を浮かべるアリエルさんだった。

 けど、ほんの一瞬だけ、刹那すらよりも短い時間、空間の歪みが酒瓶周辺に発生した。

 

「さて、残りを……、あれ?」

 

 アリエルさんが視線を酒瓶に向けるけどテーブルの上には何もなく、消えた酒瓶はいつの間にか白ちゃんの手に収まっていて、取り返される前に中身を直接飲んでいた。

 

「あっ!? いつの間に!?」

 

 そして白ちゃんがお酒を飲んだということは……

 

「あー。幸せぇぇぇ」

 

 惚けきった調子の声が呑気に歌う。

 瞳を文字通りグルグルと回転させて、普通の眼球では黒目にあたる部分で、虹彩だけ白目が無い小さな5つの瞳がメチャクチャに揺れ動いている。

 視線を一点に固定していればそこまで変に見えないけど、こうして動いていると異形感が強くて不気味な印象を与える瞳だったことを久々に思い出した。

 1年半近く目隠し状態だったから、白ちゃんこんな眼だったの忘れかけていた。

 

「ったく、ないわー。まおーも硬いんだよー、お祖母ちゃん属性ださんでいいっつーの」

 

 あっ、ヤバイ。

 かなり酔ってるし、キレてる、これ。

 

「うりゃ。静止の邪眼! ずっと私のターン!」

 

 暴走する白ちゃんを止めようとしたアリエルさんが空中で時間が止まったように静止し、躍動感溢れる彫像になると白ちゃんはベシベシ叩いて大笑いしていた。

 

「はっはっはーっ! まおーすらも私には敵わないのだー!」

 

 アリエルさんがやられたことでパペットたちも制圧に動いたけれど、一瞬で行動不能にされて糸で宙吊りにされていた。

 

「ちょ!?」

「ストップ! 刺激しないで……」

 

 動こうとしていたソフィアちゃんとメラゾフィスさんを押し留め、私はゆっくり近づく。

 慎重に、言葉を選んで……

 

「白ちゃん? お酒は静かに飲もう?」

「コケちゃんも飲もう!」

「むぐぅぅ!?」

 

 一瞬で目の前に転移して酒瓶を口に突き込まれた。

 問答無用すぎ……る……、あっ、私も……酔ったら……

 

 意識が霞んでいくけど、その感覚はより深く深淵へと誘うような、甘く苦い真なる深域へと引きずり込まれる蜜の味だった。

 

 そして落ちていく、墜ちていく、堕ちていく。

 

 精神の深い奥底へと沈み込み外界と感覚が切り離され、私の魂と意識は全て内海の底へと潜っていった……

 

 ……………………

 

 

 

 

 物質の世界では、金と翠の髪を持つ少女が受け身を取ること無くカーペットに倒れ込む。

 

「およ? コケちゃん、大丈夫……!? ねえ、ちょっと? なんか返事してってば!?」

 

 瞳を見開いたまま呼吸も意識も無くした少女を前に、白い少女は慌てふためく。

 酔いに浮かされつつも正確無比に治癒の奇跡を施すが、倒れた少女はピクリとも動かなかった。




お酒で覚醒は、コケちゃんに。ただし……
(今までお礼を言っていませんでしたが、誤字報告してくれた方々に多大な感謝を贈ります。
あとメッセージにて、イメージソングとしてブラックブレットのopを推してくれた方にも感謝を)

文章PC表示に合わせて調整しているのですが

  • 綺麗、見やすい
  • 読みやすい
  • 普通
  • 見辛い
  • 読みにくい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。