【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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幕間3 天体観測

 久々の魔族領に全員揃っている今日この日。

 

 吸血っ子は学園休みだし、メラと鬼くんは軍生活だけど今は重要な仕事も無いし多分暇なはず、コケちゃんも今日は魂の休息所から魔族領へ帰ってきている。

 

 私? 今日も今日とてニート生活ですが、なにか? 

 一応、諜報用分体を使って各地の情報収集は行っているから、全く仕事していない訳では無いんだけどね。

 

 大急ぎで、ある用途に特化した分体も開発中だけど、まだまだスペックが足りていない。

 ……もどかしいなぁ。

 

 そんなふうに悠々自適に生活していて、折角だし魔王から直接進捗を聞きに行くかと考えていると、窓の外から魔術の気配がした。

 

 この魔術の質はコケちゃんの物。

 隠蔽と幻影の魔術を重ね掛けして周囲から察知出来ないようにしてあるけれど、構築発動の方法が独特だから見分け方を知っていれば気付く事は難しくない。

 

 透視と千里眼を組み合わせて外を見てみると、以前の姿である魔蛾に変身したコケちゃんが魔王を吊るして空から運んでくる光景だった。

 

 邪眼なんか使ってきた影響か、眼の性能は結構良いので目視すれば大体の事はわかる。

 なので、いわゆる認識阻害と光学迷彩が合わさった状態でも、問題無く2人の姿を把握できた。

 

 そして上空から公爵邸の敷地内に直接落下してきた魔王は、真っ直ぐ私の部屋へとやって来て、開口一番こう言った。

 

「白ちゃん、報告ありがとう。早速だけど狩りに出かけるよ。今回はかなり大掛かりな戦いになりそうだからソフィアちゃんにメラゾフィスくん、それとラースくんとかも呼んでね」

 

 肩に手のひらサイズの翠色の魔蛾を止まらせた魔王は、説明を続ける。

 ていうか、肩のそれコケちゃんの分体……いや眷属か? なら本人は今も上空でホバリングして待機しているけれど、会話は聞いているって事か。

 

 どうやら魔王が来たのは、私の分体が見つけた魔族領の北側から魔物の群れが南下してきそうと言う、魔王へ送った報告書を読んだかららしい。

 南進して来ているのはデルームベイクという、オオカミとクマを足して2で割ったような顔に、二足歩行も四足歩行も出来るような、人に近い骨格をした毛むくじゃらの魔物だ。

 

「……吸血っ子たちとか、全員で?」

「そそっ。無視するのも問題だし、数が多いから取り零しが無いように大人数でね」

『他の人に声を掛けるのは私の眷属が向かっていて、全員に魔王城に集合するように伝えているよ』

 

 コケちゃんの声で魔蛾から念話が飛んできた。

 術式の糸を手繰れば、この魔蛾を端末として経由し本体から声が届いているみたいだ。

 

「それじゃあ、行くよー。今日は熊鍋じゃー!」

「いやあれクマじゃないし」

『……毒は無いから、一応食べられると思うけど』

 

 そうして、三者三様に纏まりのない私たちだったけれど、準備は滞りなく進んで出発した。

 

 

 

 

 はい、やって来ました魔族領北部ぅー! 

 

 ここまで全員運んだのは私。

 転移で、ぱぱっとね。

 

 にしても、寒い! 

 冷たい突風が吹き抜けて、底冷えするような気温に体が震える。

 

 手先がかじかみヒリヒリとした痛みが継続的に襲ってくるので、無いよりはマシと即席の手袋を糸で作って手に被せる。

 ある程度厚みを持たせて防寒効果を高めたけれど、材料が材料だからか舞踏会とかで使うようなお綺麗な手袋になってしまった。

 

 吸血っ子たちが、剣を持つのに邪魔だからって素手のままだったから、用意するの忘れてたよ。

 

 その吸血っ子はデッカイ大剣を握りしめ、体長3メートルくらいの魔物と鬼ごっこしながら斬り掛かっていた。

 重量を感じさせずに振り抜かれた大剣は、綺麗に魔物を両断して次の獲物へと向かった。

 

 うん、楽勝みたいだね。

 

 デルームベイクは魔族領ではかなり強い部類の魔物で一匹出るだけでも大事件なのに、吸血っ子には一蹴出来る程度の強さでしか無い。

 

 その程度である以上、私らにとっては脅威に感じる事は無い存在なんだけど……

 

 数え切れない程のデルームベイクの群れ。

 それが周囲の木々と雪原を埋め尽くすように広がっていて、突然縄張りに侵入してきた私たちに向かって襲いかかってきていた。

 

 こんな数のデルームベイクの群れが街に到達したら、冗談抜きで壊滅しかねないね、うん。

 ただでさえ、魔王が圧政を敷いてカツカツなのに魔族領の北部が壊滅したら戦争に参加する人員が減っちゃうので、こうして被害が出る前に駆除している訳だけど。

 

 チラッと発起人の魔王と、一緒について来た人形蜘蛛たちの様子を見る。

 あいつら、魔物そっちのけでスケートして遊んでやがる! 

 

 働けよ、おい。

 いや正直、過剰戦力だから魔王たちが居なくても問題無いんだけどね。

 けどだからといって遊んでいる姿を見ると、なんだかねえ……

 

 一方働いている方では、メラが雪原を走り回って常に一対一の状況になるように立ち回り、隙を無くし逆に相手の動きを見切って、堅実に戦っていた。

 無駄のない綺麗すぎるほど型通りの動きで魔物を斬り捨てると、また型通りの一撃を放って作業のように1つ1つ処理していく。

 

 見ていて安心感が湧く戦い方だね。

 

 鬼くんの方はと言うと、カウンター戦術? あんまり積極的には攻勢には出ず一太刀ごとに攻撃を止めて、何かを確かめるようにまた同じ動きで攻撃している。

 なので、周囲を塞がれたり魔物から一発貰いそうになっているけれど、余裕を持って魔物からの攻撃を捌いているし、わざと苦境に自分を追い込んで技を試している感じかな? 

 

 その証拠に、主にメラの戦い方を観察しながら戦っているし。

 修行しながら戦っているとか、向上心が高いことで。

 

 最後にコケちゃんだけど、……最も訳わかんない戦い方をしているなあ。

 

 上空にて羽ばたいている魔蛾の大群からは、超圧縮されたウォーターカッターが飛んでくるし、地面からは金属光沢のある杭が突然生えてくるで、穴だらけにされた魔物がいたるところで無数に転がっている。

 しかもこれ、コケちゃんからしたら末端の分体だけで戦っているようなモノで、じゃあ本体では何しているのかと言うと、こっちもヤバイ。

 

 魔物姿での最終形態だったモフ・モフラスの姿で魔物の群れに突撃し、攻撃を回避しながら深くまで潜り込むと、瞬時に全身を苔で覆って巨大化しコケダマ化、落下地点に居た魔物ごと押し潰しながら着地する。

 そして巨大な球体から3つほどドラゴンに似た頭部の長い首が生えると、鋭い牙をしている顎で噛み付き薙ぎ払いながら周囲の魔物に襲いかかっていた。

 

 周囲に魔物が居なくなれば、再び身体を作り変えて魔の山脈で見たドラゴンと同じ、やたら尻尾だけ長い蜻蛉龍になって、直接飛び掛かり殴りかかっていた。

 

 ……うん、めっちゃ化け物。

 戦闘スタイルの模索って事で色んな方法を試しているらしいけど、あれは純粋な身体能力の強みを最大限発揮出来るようにしたスタイルらしい。

 

 だからって人型捨てるって、やりすぎじゃない? 

 

 高速で肉体を作り変え続けているので、外傷を負っても姿が変われば消え去る。

 本来の肉体は苔の集合体だから、血なんて流れていないので失血死も無い。

 なので、ダメージとなるのは基となっている苔を減らす事だけど、切り飛ばしても再度吸収するから意味無し、焼いて減らそうにも以前の反省からか熱や酸などの耐性を引き上げているので簡単な事では無い。

 

 どっちが魔族領で恐れられている魔物か、わからなくなるね。

 全く戦い方の参考にならないからか、鬼くんからは目を逸らされているし。

 

 にしても、私はアラクネ形態にしかなれないのに、コケちゃん変身パターン多くてズルいぞー。

 まあ私が蜘蛛型になったらなったで、毎回服が脱げるだろうし使わないと思うけど。

 

 コケちゃんの場合だと、服ごと取り込んで人型になる度に再構成する荒業で、変身後の問題点を解決しているんだよね。

 そこまでするんかい。

 

 

 

 

 そんなこんなありつつデルームベイクの群れを一掃し終わり、少し離れた凍った池だか湖だかでスケートをみんなでしていると、怖気が走るような咆哮が遠くから聞こえた。

 

「うひゃあ!?」

「お嬢様!」

「あっ……。メラゾフィス……っ」

 

 驚いてバランスを崩した吸血っ子をメラが抱き留めて、甘ったるい雰囲気を展開しているけど、それを無視して千里眼で咆哮の発生源を探る。

 すると山を幾つか挟んだ先に、比較対象が山となりそうな超巨大な魔物の姿があった。

 

 そのシルエットはカバとかイノシシに近いだろうか。

 ずんぐりした胴体に短い手足が生えているんだけど、足の本数が4つじゃなくて8本もあるし、サイズが大きすぎて胴体と比較すると短い手足の筈なのに、足だけで小山ほどの高さがある。

 

「あー。コイツから逃げてきたのか」

 

 魔王も確認したのか、山越しに超巨大カバの方を見ていた。

 

「間違いなく神話級だね。流石に魔族領まで降りてこないと思うけど、こんな近くに居座られたら魔物の大移動が何度も発生しちゃうよ」

 

 神話級ってマザーとかと同格の魔物じゃん。

 そんなのが何でこんなとこに? 

 

「それはわからないけど、ちょうど戦力が揃っているんだし退治しようか。白ちゃん」

 

 まあ、それがいいか。

 エネルギーの回収にもなるし、あの巨体なら分体作成時の材料として丁度いいかも。

 

 そんな事を魔王と相談していると、すぐ近くにて手のひら大の魔蛾が人型に集まりだし、それが一度全て苔に変わると、次の瞬間にはいつもの魔女ルックのコケちゃんが居た。

 

「周囲一帯で魔族領に逃げ込もうとしている魔物は、眷属みんなを幾つかのグループに分けて配置することで押し留めているよ。こっちは任せて」

「そっか、それじゃあ行こうか、白ちゃん」

 

 頷き、魔王だけ連れて転移しようとした所、待ったが掛かった。

 

「ちょっと待ちなさい! 私も連れていきなさいっ!」

「お嬢様! 相手は神話級です、危険すぎます」

「メラゾフィスさんの言う通りだと思うよ。今回は、僕たちは残ろう」

 

 好戦的な吸血っ子が私も参加させろと吠えたてている。

 うーん……神話級を相手に最低限戦えるだけの能力はあるけれど正直、不安が。

 

「まあ、いいんじゃない。上を見る良い機会だし、危なくなったら私が瞬殺するし」

 

 ちょ、魔王!? 

 

「アエルとリエルはメラゾフィスくんに、サエルとフィエルはラースくんに付いて援護して。私はソフィアちゃんをカバーするから。それじゃ白ちゃんお願い」

 

 あーもー、仕方ないなあ。

 私は、最後にコケちゃんを見て小さく呟いた。

 

「……行ってくる」

「行ってらっしゃい、白ちゃん」

 

 そうして私たちはコケちゃんを残して、山より大きい神話級の魔物へと戦いを挑んだのだった。

 

 

 

 

 再び転移して凍った湖近くへと戻ってきた。

 

 多少吸血っ子たちに経験を積ませるって事で戦わせたけど、全く攻撃が効いてないわ。

 あれは単純に耐久力が高すぎて微々たるダメージしか入らないし、それも膨大なHPからすれば誤差の範疇だし高速で自動回復するわで、全然歯が立っていなかった。

 

 最終的には魔王パンチのラッシュで頭グチャグチャに陥没させて大地に沈めた。

 やっぱ魔王の強さ、化け物だわ。

 

「おかえり。危険な魔物は魔族領に入る前に全て撃退したよ」

「ただいま」

 

 背後では、吸血っ子たちが崩れ落ちる音が聞こえた。

 何度も生命の危機があったし、神経をすり減らす場面は数え切れない程。

 そんな戦闘を経験したんだし、吸血っ子には少し大人しくなって欲しい。

 ……無理だよなー。

 

「ソフィアちゃんたちは無事?」

「……ん、怪我はない」

 

 既に魔王が治療したから傷一つ無いはず。

 けれど、コケちゃんは念の為と治療するみたいだ。

 

「この方法は治療魔法とは別の原理だから一応ね。《詠い始めよう、女神と娘とを——》」

 

 コケちゃんが最後に魔力を込めて言葉を発すると、その手元にDからコケちゃんへと渡すように言われた、あの怪しげな本が現れた。

 そして、その本は独りでに宙に浮かび、淡く水色に発光していた。

 

「なに、それ」

「ん? 詠唱? それとも本?」

「……どっちも」

 

 私の知っている魔術では詠唱なんて必要無いし、コケちゃんが今使った魔術の理解不能な謎術式に目眩がしそうだ。

 

「詠唱は、ある程度本を読み進めていたら自然と脳裏に浮かんだ言葉。それからは本と私が一体化したみたいでね、こうして特定の言葉を呟けば呼び出せるようになったんだよ」

 

 コケちゃんは本を手に持ち、エネルギーを流し込む。

 それと同時に表紙へと青白い線が広がっていく。

 

「そして本は、魔術を発動させる時の補助として使えるほかに、発動出来ないと思っていた高度で複雑な魔術も、こうして発動出来るように使い方を教えてくれる」

 

 私の横を通り過ぎ、しゃがみ込んでいる吸血っ子たちに向けて、コケちゃんは魔術を発動させた。

 

「《慈愛溢れる母は、生命を豊かに実らせる——》」

 

 いつか見た、コケちゃんが真に神として覚醒めた時と同じような、花びらのようで穏やかな淡い光が吸血っ子たちを包み込んだ。

 その魔術の構成は気が狂いそうになる程の高密度な術式の塊で、かろうじてコレが魂に作用している類の魔術だと言うことしか、理解出来なかった。

 

 そして光が収まった後の場所には、先程までの衰弱が嘘のように消え去った吸血っ子たちの姿があった。

 

「……主に精神的な疲労だった筈なんだけど、綺麗サッパリ消えているわ」

「この感覚には、憶えがありますね……」

「これ、副作用とか無いの? 疲労感を遮断しているだけとかだと危ないんじゃ」

 

 治療を受けた側の吸血っ子たちは、結構辛辣なことを言っていた。

 

「何も副作用はありません! 肉体と魂、両方の状態を回復して安定させた事で活力とか全部復活させただけで、ドーピングとかじゃ無いから」

 

 コケちゃんに吸血っ子が詰め寄って、喧しく吠えあっている。

 その光景を横目に見ながら、私は面白くないという感情と少しの焦りを憶えた。

 

 魔術の腕では、コケちゃんに置いていかれている……

 

 空間とか闇など、得意な魔術の系統なら私のほうが上だけど、それ以外の魔術では圧倒的に私が遅れて後塵を拝していた。

 使い方の違いと言えばそれまでだけど、身体強化の魔術を常時発動させるのはコケちゃんの方が先に成功させたし、扱える幅も許容量も今の所コケちゃんの方が上。

 私の場合は、分体が増えれば増えるほど能力が向上していくけど、それでも簡単には埋まらない差というモノを感じていた。

 

 猶予は僅かしか無いのに……

 それを感じさせず、普段通り振る舞うコケちゃんを見て、胸がチクリとした。

 

 ……強いなあ、コケちゃん。

 

 そう思っていると魔王が隣に居た。

 すると、手を叩いて注目を集め、みんなに語りかけた。

 

「よーし折角だから、この後は魔王城の最上階で待機しようか。面白いものが見れるよ」

「えー。さすがにもう帰って寝たいわ」

「まあまあ、ソフィアちゃん。メラゾフィスくんも良いかな?」

「まあ……、構いませんが」

「行くわっ!」

 

 メラが参加すると聞いた途端、意見を180度回転させる吸血っ子。

 それを見て苦笑する鬼くんに、穏やかな表情で眺めているコケちゃん。

 

 

 

 

 そして、魔王城の最上階で見えたのは。

 

「この世界にも、彗星がやって来るんだね」

 

 コケちゃんが隣に来て呟く。

 そういえば日本語だと、コケちゃんがDから付けられた名前と、音が一緒だ。

 

「また、みんなとこうして星を見ようね」

 

 そう言って床に座り込み、星を見上げた。

 私も同じように座り、鮮やかな光放ちながら澄み切った夜空に尾を走らせる天体を見て、らしくないと思いつつも、そっと星に願いを託した。

 

 この日の小さな約束が、いつか必ず叶いますように、と……




個人的に蜘蛛世界の神は、神らしく無いと感じているので、
(下級神は、単なる種の枠組みを越えた超越者でしか無いという認識)
超強化を加える予定です。(もちろん白にも)
その時に「蜘蛛ですが」ぽくない厨二設定が混じりますけど、ご理解ください。
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