【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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39 そして、戦争へ

 ——祈る。

 

 これから始まるのは、破滅を阻止するために生命を滅ぼす大戦争。

 その大戦にて私が担うのは、生命を断頭台へと追いやる処刑人の役目。

 

 これから待ち受ける激動の時代は、死んでいたほうが女神に守られて幸せである。

 そう言い訳して、私は数多の生命が失われることを許容する。

 

 来世では、良き人生がありますように——

 

 さあ、行こうか。

 この手に世界の平和を勝ち取るために、戦おう。

 

 

 

 

 

 

「副団長、第十軍準備完了しました」

 

 魔王城に用意された第十軍の執務室に貼られた巨大な世界地図と、そこにピン留めされた地点を眺めていると、そんな声が聞こえた。

 

「ご苦労さま、フェルミナちゃん。団員たちのところに案内してくれる? 今白ちゃんいないから代わりに私が各地に転移させるから」

「かしこまりました」

 

 静かに一礼して執務室の扉の傍に佇む、十代後半に見える少女。

 実際の年齢も見た目通りでありながら、その能力は世間一般的には英雄と呼ばれる存在を倍近く上回る、隠密と暗器の扱いに長けた一流の暗殺者である。

 

 そんな彼女であるけど、ほんの数年前は優秀だが普通の人間という枠に収まる、ただの貴族令嬢だったなんて想像もつかないだろう。

 今は家名も無く、フェルミナとだけになった少女が第十軍に所属することになったのは、初めにソフィアちゃんが魔族領の学園で引き起こした騒動から話す必要がある。

 

 依存脱却と情操教育の一環としてアリエルさんの指示の下、学園に入学していたソフィアちゃんだったけれど、数年が経過して二次性徴を迎える頃になると吸血鬼としての本能で、周囲の男性を魅了し始めたらしい。

 それは無意識の行動だったらしいけれど、狭い学園の中で男子の大多数がソフィアちゃんに傅くという状況に陥り、それを危惧した女子の一人がソフィアちゃんの排除を試みて失敗した。

 

 その女子こそがフェルミナちゃんであり、最終的に婚約者からの婚約破棄に学園からの追放騒動までにも発展した、大事件となったらしい。

 ソフィアちゃんがアリエルさん関連の人物だった事もあり、貴族社会の裏側では忖度が行われて切り捨てる方向で事態が進み、最終的に家からも勘当されて居場所を失った彼女を引き受けたのが第十軍である。

 

 元々本来の第十軍は名前だけの軍団で、とある家の私兵の名前を連ねる名簿があるだけの架空の組織と言える状態だった。

 魔王軍が再編されていくに伴い、白ちゃんと私に割り当てられたのが第十軍で、それぞれ軍団長と副団長の役職を引き受けた。

 その第十軍の元軍団長がフェルミナちゃんの父親であり、私と白ちゃんに役職を引き継ぐ過程で面識があったこともあり、私たちは行く宛の無い彼女を身内の不祥事による負い目もあって、二つ返事で迎え入れたのだった。

 

 それからは、似たような理由で何処にも居場所が無い人員を集めて、白ちゃん主導の修行と訓練を熟していく内に、世界有数に数えられるような超人たちへとなったのだった。

 

 ギリギリ勝てるような魔物の群れの真っ只中に転移で強制的に放り込まれて、生きるか死ぬかの日々を繰り返していれば強くなるのも当然だけど、毎日ボロボロになっては治療されて再び魔物と戦わされる事に、少しだけ同情する。

 

 もし私が最初期の能力しか無い状態でエルロー大迷宮での生活を再びする事になったら、確実に気分が滅入ると思うから。

 

 分体や眷属を置いて様子を伺いつつ本当に危険なら助け出すつもりだったけれど、彼ら彼女らは用意された地獄を潜り抜け続けて、心身ともに壊れてからが本番とばかりに鍛え上げた結果、狂気的な忠誠を私たちに捧げてくる超人軍団が出来上がっていた。

 

 最初期から居るフェルミナちゃんはそれほどでも無いけれど、他の団員からは白ちゃんには畏敬が捧げられ、私には信仰のような感情を向けてこられるのは、正直少し怖いと思ってしまう。

 

 そんな、魔族の枠組みから半歩逸脱した団員たちだけど、結局は人なので神話級相手は無理だし当然私たち神格と比べたら、可愛そうなくらい隔絶した差があるのだけれど。

 

 上位竜には互角としても龍には一対一では敵わない程度なので、私たち第十軍よりもっと特殊な第九軍の構成団員である人化した龍と竜の軍団には、逆立ちしたって勝てないだろう。

 

 その第九軍は、基本的に戦争などには参加せず目立った行動はしていない。

 けれど全く活動していない訳ではなく、私たち第十軍と若干仕事が被っているけれど世界各地に散らばったエルフの殲滅と、見逃している古代遺跡の捜索を行っている。

 

 魔王軍であるけどアリエルさんの指揮下に無い軍団なので、軍団長の黒ことギュリエさんと協議して彼個人が手を貸せる範囲で仕事を割り振った結果が、その活動内容であった。

 せめてものの借りを返すという事でギュリエさん本人から申し出た内容であり、かなりギリギリではあるが計画の為にエルフの排除は必要な事だと理解したゆえ、殲滅に協力するとのこと。

 

 そのおかげで、白ちゃんが集めてきた情報を元に2つの大陸に団員を転移で送り込み、エルフを暗殺していく仕事が多少楽になったので、ちょっとくらいは感謝している。

 

 殲滅に協力してくれているとはいえ、隠れ潜んだ相手を見つける能力が白ちゃんの分体と配下の龍たちでは比較にもならないので、私たちが先に見つけて直接動くほうが速く、一度に複数の箇所で発見し手が足りない場合のみ手助けを求めるくらいでしか、第九軍が活躍する機会や出番が無いとも言えたので。

 

 

 

 

「こちらです。既に担当地域ごとに整列しております」

「ありがとう」

 

 フェルミナちゃんが先導して通路を進み、魔王城の一角にある広場へと出た。

 視界に彼ら彼女らが映るのと同時に、私の姿を確認した団員たちが一斉に跪いた。

 その光景に僅かに気圧されつつも、私はゆっくり歩を進める。

 

 先程にもちょっと説明したけれど、第十軍の役割はエルフの殲滅など裏で活動する内容が多い。

 大半の時間は魔物の領域での特訓だけど、真の計画のために動いてもらうことも少なくない。

 

 今回の人族と魔族の過去類を見ない規模での戦争も計画の一部でしか無く、ただの通過点。

 両軍共に莫大な数の死者を作り出して足りないエネルギーを掻き集めつつ、システム内での正規手順で行われる転生機能によって、大量の魂を一時的に保護させる。

 

 私たちはシステムを解体して、無駄な浪費が多い機能であるステータスやスキルなどの魂を拡張させて育てる部分を崩壊させる予定である。

 

 システムがある時では、この世界で死んだ魂は一時的にシステムに取り込まれ、次の転生を待つことになる。

 その時、システムによって維持されているスキルなどは消失して魂から引き剥がされるけれど、これが生きている間に解体によって無理矢理引き剥がされると、反動によって甚大な負荷が掛かることになり、最悪死亡あるいは魂の崩壊が発生してしまう。

 これはスキルやステータスを鍛えている人ほど重く、対策も何も無ければ確実に死ぬことが予想されていた。

 

 解体が始まれば、魂の崩壊の可能性がある死。

 だからこそ、死んで何もない魂だけの状態こそが一番安全になる。

 

 それを防ぐための方法も考えているけれど、この案は私でなければ実行することが不可能な方法であり、成功するかどうかは今のままでは一割もあったら良すぎる程である。

 

 偶然とはいえ獲得した管理者権限も利用して、システムの魂保護機能の解析は成功している。

 それをそのまま対象範囲を拡大させてもエネルギー不足で非現実的であり、精々百人未満でしか救えない。

 それなら手順の方に介入してみようにも、考えている方法では足掻いても埋めることが出来ない演算能力の不足があった。

 

 アプローチなどは完璧に近いと言える。

 けど、私単独ではキャパオーバーで不可能。

 

 もっと負荷を減らし私自身の許容量を上げるか、それとも別の方法へ切り替えるべきか。

 答えは、どっちも模索し続けるだけ。

 適性や得意分野からシステム解体において魂の領分は私の担当であり、白ちゃんが頑張っている以上、弱音を吐いている暇はない。

 

 白ちゃんがハッキングや裏口発掘などの正道邪道問わない解析作業と並行して、実際にスキルとステータスの機能を解体するまでの手順を整えているところだから、その仕上げの行程が酷いものでは犠牲になった人も生き物も魔物も全て、浮かばれないから。

 

 

 石畳に覆われた空間に1つ分の足音が鳴り響く。

 ここに集まった彼ら彼女らには、魂の保護術式を個別に掛けてある。

 システムに拠らない私独自の魔術であり、肉体が死を迎えるまでは機能し続ける独立型の術式。

 

 だからステータスやスキルを徹底的に鍛え上げられている第十軍の人たちだけど、システム解体に巻き込まれて死ぬことは無い。

 この数年の間に第十軍の団員たちに情が湧いてしまい、つい掛けてしまった魔術。

 

 彼ら彼女らには、世界の裏側の事情つまり禁忌の内容も一部教えてある。

 星の崩壊の危機と、それを助長するエルフの裏の顔を。

 それは主に、機械化したエルフとの戦いを想定した予備知識を教える側面が大きかったけれど、暗い真実を知った上でなお私たちに付いてきてくれる団員たちに、私は報いたかったから。

 

 終わった後の世界で、生きられる権利。

 世界がどうなっていくのか何も保証は無いけれど、それだけが私からあげられるモノだから。

 

「遅かったじゃない? それでご主人様はどこよ?」

「ソフィアさん私語は慎むように」

「なによフェルミナ。私はただ、トップであるご主人様が不在なのを聞いているだけよ?」

「それでも……」

「待って、そこまで」

 

 フェルミナちゃんとソフィアちゃんが喧嘩しそうになったので止める。

 ソフィアちゃんも学園を卒業した後、騒動に関わった男子の一部とともに第十軍に所属する事になり、被害者と加害者が同じ組織に居ることでギスギスした空気になることが非常に多い。

 

 一言注意すれば止めるけれど、こうも頻度が多いと正直面倒にも感じてくる。

 経緯が経緯だから仕方ないとは思うけれどね。

 

「白ちゃんはアリエルさんのところ。そっちに配置した眷属から話し込んでいるのが見えるから、しばらくは来ないと思う」

 

 何か余計な事態に発展する前に、速やかに質問に答える。

 それを聞いたソフィアちゃんは憮然とした表情で、抑えきれない不満が大いにあると、全身から滲み出ていた。

 

「またアリエルさん……。軍団長っていうのに自分のとこ放っておいて何やっているのかしら?」

 

 唇に指を当てて苛立ちを浮かべるソフィアちゃん。

 その容姿は、背も伸びて身体も女性的な起伏を描き、退廃的な色香を無自覚に振りまく美人へと成長していた。

 かなり前から身長を追い越され、今では完全に背丈も胸なども負けて私が見上げる側である。

 その格差に不満を感じたことが無いとは言えないけれど、競っても意味無いことだと割り切って思考を切り替える。

 

 ……この身体だと、生理現象も代謝も何もあったものじゃないから、成長の見込みは無いのではないかという考えは置いておく。

 

「さて、少しだけ話をしようと思う」

 

 私は団員たちを見回しながら、そう告げると一瞬で空気が引き締まった。

 

「私たちは残酷な真実を知っている。世界に後がないこと。次の世代、次の人生が存在しないかもしれない事を。それを知ってもなお、君たちはついてくる事を選んでくれた」

 

 一拍区切って、続ける。

 

「……ありがとう」

 

 深く頭を下げた。

 

「これから始まるのは、誰にも知られる事の無い陰の戦い。私たちは魔族からも人族からも裏切り者で、批難されるし極悪人と罵られる道であるだろう」

 

 右腕を掲げて、脳内にイメージを構築する。

 

「けど、世界を救うにはこの道しかない」

 

 頭上に、この星を宇宙から見た光景を映し出す。

 以前ギュリエさんが見せてくれた映像の再現だけど、内容は全く欠けてはいない。

 

「これが、この世界の現状。水龍に阻まれて知ることが出来なかった大陸の外の世界。こうなった原因によって、この星に住む全ての住人が今も永遠に贖いを求められている」

 

 海の向こう、罅割れ僅かな緑すら存在しない死の大地が映る。

 

「この呪われた宿命を断ち切りたい。そう思わないですか?」

 

 私はゆっくり瞼を開き、彼ら彼女らを見つめる。

 

「敵は誰ですか? 私たち自身? 正しいけれど違う。滅ぼさなければならない敵がいる。それはエルフ、今も破滅を引き起こした技術を使い続ける女神の献身を裏切る大罪人」

 

 重々しく溜めを作って、吐き捨てるかのように続ける。

 

「その族長こそが全ての元凶、始まりから今に至るまで生き続ける世界の害悪。……彼を、殺す。それは遠くない出来事だけど、今の私たちは露払いをするだけ」

 

 私自身の感情と、受け継いだ遺志も乗せて語る。

 

「落ち込まないで、憤らないで」

 

 口調を明るく切り替えて、団員たちを宥める。

 

「そこに辿り着くまで大変かもしれないけれど、彼を殺しても終わりじゃない。まだやるべき事が沢山残っている。……むしろ、それからが大変かもしれない。そこからが本当に世界を救い始める時だから」

 

 ゆっくり息を吸い、数秒間だけ無音となる。

 

「君たちみんなに問う。……私たちと共に来てくれる?」

 

 空間の圧が煮えたぎるように膨れ上がった。

 誰も声に出さずとも、この場に静かな熱狂が沸き起こったのを感じたのだった。

 

 

 

 

「聞いていたよ、あれ台本でも用意してた?」

「一応は最初から考えていたよ。途中アドリブも入れていたけれど」

「……すっご」




戦いの前には演説。
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