私たち二人、それぞれ倒したナマズを並べて、もうすぐ食べられるまで冷めてきたころ。
蜘蛛子ちゃんが倒したナマズは、毒合成で作り出した蜘蛛猛毒を飲み込ませて仕留めたため非常に綺麗な死骸だけど、私が仕留めたナマズは最後の一撃で頭が吹き飛んだ為、かなりグロテスクなことになっていた。
そして私たちは、冷めるまでの待ち時間で別々のことをしていたのだった。
蜘蛛子ちゃんは中空を見ながら考え込んだり小刻みに前足を動かしていることから、鑑定を見ているのだと思う。
そして私は、魔力操作を鍛えつつ魔法の検証を行っていた。
あのナマズ、どこか間抜けな感じもするけど実は火竜に属している魔物で、そして竜あるいは龍という種族は、私にとって厄介なスキルを獲得するらしい。
龍鱗。
このスキルのせいで魔法の効果が弱められてしまい、十全に威力を発揮できないことに危機感を覚えていた。
私のメインウェポンは魔法による攻撃に偏っているので、もしそれが完全に無効化されるような相手だと、何も出来ない無力なコケダマでしかなくなってしまうから。
ならどうするのかと言うと、あまり出来ることは少ない。
強力な麻痺攻撃というスキルを持っているけど、蜘蛛子ちゃんと違って私は素早く動けないし、近接攻撃が体当たりと噛みつきしか方法が無いのでは、接近戦は分が悪いにも程があると思う。
蜘蛛子ちゃんよりは防御力抵抗力があると言っても殆ど誤差みたいなもので、攻撃が直撃したら危険なのは変わらないのに回避は絶望的。
となると魔法以外の遠距離攻撃を開拓獲得することだけど、取得可能な候補にそれらしいものは見つからないし、可能性がありそうなのは苔を千切って飛ばすことくらいしか思いつかない。
ただ、千切るのはいいけれど飛ばす手段が無いので、殆ど無意味でしかない。
今更だけど私の見た目は楕円形の黄緑色をした苔の塊に見えるけれど、本体はそれよりも一回り二回り小さな芋虫なので、投げたり出来るような腕も手もない身体であることを改めて認識する。
今ではだいぶ慣れたこの身体も、転生した最初の頃は大いに混乱して違和感に苛まれていた。
全身をくねらせて這いずることしか出来なくて、手足のない感覚は今でも人間だった時の記憶と食い違って辛く思う時がたまにある。
そんな時に魔法による移動方法を思いついたのは、まさに救いだった。
これなら自分の身体をあまり意識しなくて済むので、ただ魔法に集中していればそれだけで余計な意識を飛ばし、魔法で私の全てを満たすことができるから。
……やっぱり、私には魔法しかない。
何をどうしたって、私が出来ることは魔法しか無いのだから無効化されようが何だろうが、それを強引にでも突破出来る力を手に入れるしか無いのだと、私は魂に誓った。
少し力を込めすぎたのか構築中の魔法が軋むけれど、すぐに修正して石弾を生成する。
質量を伴った攻撃だからか阻害を受けにくい土魔法だけど、それでも龍鱗によって威力は落ちてしまうだろうし、下層にいた地龍は大地無効というスキルを持っていた。
これは土魔法とその上位の大地魔法を完全に無効化してしまうスキルだと思われる。
なら、それ以外の属性でかつ龍鱗を突破できる魔法を扱えるようにならないと、あの地龍に勝つことは到底不可能だと感じていた。
そう思い、今私にできる最高を求めて、限界まで同時展開したり術式が壊れるギリギリまでMPを込めてみたりして、突破口を模索したりしてみる。
あまりにも集中しすぎたのか、色々とスキルのレベルが上がったアナウンスにも気づかず、またもう既にナマズが食べられるようになるまで温度も下がっていて、蜘蛛子ちゃんが一心不乱に食いついていた事にも気付かずに、ただ只管に没頭していた。
そしてあっという間に一匹を食べ終えて、私が倒したナマズをチラチラ見て、そーっと盗み食いしようとしていたのに漸く気付き、没頭しすぎた意識を現実に戻す。
『……蜘蛛子ちゃん??』
ギクリと、油の切れた機械のようにぎこちなく振り向く蜘蛛子の口には、溢れんばかりのヨダレが垂れ流されていた。
バツの悪そうな雰囲気を出しているけど、それでもヨダレは溢れて止まっていないし物凄く名残惜しそうな気配も隠せてはいなかった。
『……そんなに美味しかったの? ナマズ』
すると、残像が見えるほど頭を振り、続いて蜘蛛の身体なのに凄くコミカルな動きで全身を使って喜びを表現していた。
『うーん……、まあちょっとなら食べてもいいよ』
そう許可をだすと、八つの目をキラキラさせて一目で喜んでいるとわかるオーラを纏いながら、ナマズへと齧りついていた。
そして物凄い勢いで食べ始めるので、私の分が無くならないうちに私もナマズに齧りついた。
すると——
——ッ! おいしいっ!?
まともなお肉の味を感じたのは転生してから初めてのことで、それまで硬い苦いと食事とすらも言えないナニカでしかなかった行為が、本来の形で幸福感を得られることに感動する。
お肉は弾力ある淡白な白身魚のようで、それ自体の旨味は程々でクセがない。
けれどそれを補うかのような濃厚な脂が全身に詰まっていて、一緒に食べることによって上質な美味しさが口いっぱいに広がる。
弾力あるお肉はモチモチとした食感を伝え引き締まっており、硬すぎず柔らかすぎない感触は、食べているという実感をより強く感じさせる。
いまだに火傷しそうなほど熱を帯びたお肉は、アツアツでジューシーなのにプリプリの刺し身の味わいを見せ、熱とともに旨味が広がるのに食感は柔らかい不思議な食感を与えてくれる。
気づくとナマズを大きく抉るほど食べており、如何に一心不乱で食べていたのか漸く気付く。
そして蜘蛛子ちゃんは、ちょっとならと言ったのに既に三分の一もナマズを食べ尽くしていて、もう残りわずかしかナマズのお肉は残ってはいなかった。
『あっ、ちょっ、食べすぎ!』
急いで食べ進めるものの、結局蜘蛛子ちゃんが六割近く食べたので、私としては少々不満が残る結果となってしまっていた。
『……………………蜘蛛子ちゃん』
お腹いっぱいといった様子で、ひっくり返って膨らんだお腹を擦っていた蜘蛛子ちゃんに対し、怨嗟を込めた念話を送る。
するとビクリとして硬直している蜘蛛子ちゃんに、勢いをつけてのしかかる。
体格差等は殆どなく私自身の重さもあんまり無いけれど、勢いよく押し潰したことで苦しそうにえずく蜘蛛子ちゃん。
そんな蜘蛛子ちゃんに対してさらに力を加えてのしかかりつつ、念話を送る。
『くーもーこーちゃん~?? 流石にあれは食べ過ぎじゃない??』
一応悪かったと思っているのか目を逸らす蜘蛛子ちゃんだけれど、それでもナマズの大部分を持っていかれたことには変わりがないので、オシオキすることにした。
雰囲気の変化に気付いたのか必死で逃げようと藻掻くが、もう遅い。
——強麻痺攻撃ぃ!
そこからは、動けない蜘蛛子ちゃんに対しランダムなタイミングで外道魔法LV1の不快を叩きつけるだけのオシオキ。
不定期に襲う不快感に、動けないながらも身を捩らせて悶える蜘蛛子ちゃんを見下しつつ、森羅万象の感知範囲を広げる。
そうして、無数のタツノオトシゴと数が少ないながらも危険そうな魔物を除外しつつ、ナマズの位置を探る。
大抵はマグマの奥深くに隠れているので目視できない位置にいるけれど、森羅万象の感知能力の前には、そんなものは関係ない。
そもそも、この高性能な感知能力のおかげで目視せずとも魔法を当てられるのだから、その程度の隠密なんて無駄でしか無いのである。
そして近場に潜むナマズの位置を全て憶えた頃、麻痺が解けついでに麻痺耐性と外道耐性などのレベルが向上した蜘蛛子ちゃんがグッタリしていた。
そんな疲労困憊な蜘蛛子ちゃんに対し、容赦なく告げる。
『ナマズ狩りに行くぞー!』
元気が無いものの、ナマズ狩りには賛成なのか力なく前足を上げる蜘蛛子ちゃんを見て、流石に私もやりすぎたと感じたので、治療魔法を掛けてあげて甲斐甲斐しくお世話してから私たちは狩りへと動き出した。
復活した蜘蛛子ちゃんと一緒にマグマに潜むナマズを釣り上げて、絶滅する勢いで狩り尽くしていくこと、既に数日くらいも経過していた。
ナマズの刺し身。
ナマズのマグマ焼き。
ナマズの香草(苔)まぶし…………蜘蛛子ちゃん??
そんな様々な食べ方を楽しみつつ私たちは中層を進んでいく。
見つけたナマズは一匹も逃さず狩り尽くしながら。
あぁ、ナマズうまぁーい、なァ…………ァァ……
そうしてナマズ狩りに励み、お互いLV9とLV8まで上がって進化目前になった時。
なぜか、同じだけの魔物を倒しているのにレベル差が出ていて、それが蜘蛛子ちゃんの《傲慢》というスキルによるものだと知った頃に。
私たちの前に、新たな敵が立ち塞がった。
《エルローゲネレイブ LV2
ステータス
HP:1001/1001(緑)
MP:511/511(青)
SP:899/899(黄)
:971/971(赤)+57
平均攻撃能力:893
平均防御能力:821
平均魔法能力:454
平均抵抗能力:433
平均速度能力:582
スキル
火竜LV4 龍鱗LV5 火強化LV1 命中LV10 回避LV1 確率補正LV1
高速遊泳LV2 炎熱無効
生命LV3 瞬発LV1 持久LV3 強力LV1 堅固LV1 過食LV5》
ウナギみたいな頭と身体に、頑強そうな鱗と短い手足が生えた見た目といった感じの魔物。
そして名前をさらに鑑定してみると、中位の竜に属していて雑食性で他の魔物を好んで食べるという情報が。
私には森羅万象という感知能力があるので、いち早く気づいて距離を取ってから鑑定を仕掛けることに成功したけれど、鑑定のデメリットである不快感を与える性質によってウナギが周囲を警戒している。
そうしてウナギが私たちの事を探している間に、どうするべきか相談し合う。
『どうしようか?』
蜘蛛子ちゃんは強さをみて悩んでいるようだけど、私としては今の実力でどこまで通用するのか試したい気持ちがあった。
『私としては、戦ってみたい』
その言葉で覚悟を決めたのか、蜘蛛子ちゃんも戦うことに賛成してくれた。
そして簡単な作戦を立ててから、攻撃を仕掛けに動き出す。
まずは私が陣地構築をして厚みのある遮蔽物を複数作る。
そして私たちは即席の岩場に身を潜めて、いまだ遠くで警戒しているウナギを狙撃した。
高速で頭にブチ当たった光線は、威力を大きく減少させて小さな傷程度に留まり、痛痒を与えることは出来たが、結果としてはウナギを激怒させるに留まる程度だった。
『ただの魔法じゃ、この程度しかっ……!』
最近あまり使っていなかった光魔法では威力不足なのがわかったけれど、あくまでこれは確認。
本番はこれからだ。
『なら、これはどう!?』
再びウナギの頭に当たった魔法は、相手を大きく仰け反らせてHPを削る。
それは、出来る限り圧縮し密度を高めた岩の砲弾を高速で射出する、私が今使える手札の中で、阻害スキル持ちの相手でも攻撃を通せた一撃だった。
魔法ではダメなら質量攻撃で。
物質的な実体などが存在する魔法は、魔法としての威力が減ろうとも物理的な破壊力までは減少しないので、その重さと速度が充分乗った一撃はウナギの表皮を大きく切り裂いて確実なダメージを与えていた。
そしてこの一撃で片目を潰せたのか、頭部を大きく振り回しデタラメに火球をバラ撒いて弾幕を張って、自らを傷付けた敵を炙り出そうと大暴れするウナギ。
蜘蛛子ちゃんに身を出さないように警告しつつ、次弾を構築する。
高密度の岩弾を作るには少し時間がかかるし、それを高速で撃ち出すためにも大量のMPを消費するけれど、そのぶん威力は折り紙付きとなる。
大暴れして振り回す頭部は狙撃するのが難しいので、胴体に狙いを変え捕捉し撃ち抜く。
命中して鱗を削り飛ばし、内部の肉までズタズタにしながら砲弾は砕け散った。
この一撃でようやく攻撃されてきた方角が理解できたのか、身体を左右に振って狙いを定めにくいようにしながら高速でマグマの海を泳いでくる。
そうなると外すことはなくても、角度が浅くて弾かれる砲弾が出てくる。
さらにウナギはマグマの中を予想以上に速いスピードで泳いでくるので、近づかれるまでに当てることが出来たのは数回だけだった。
『蜘蛛子ちゃん、来るよ!』
そして私たちがいる岩場までやって来て、その巨体で片っ端から岩を砕き遠くの岩場には火球を乱射するウナギ。
しかし私たちを探すためにマグマから出て、陸上に上がって来たのはこちらの狙い通り。
『蜘蛛子ちゃん、お願い!』
身を隠していた岩場から飛び出し、至近距離に張り付く蜘蛛子ちゃん。
蜘蛛子ちゃんは、巨体から振るわれる肉弾戦を紙一重で避けながら、私が傷つけた鱗が無くなり肉がむき出しの傷口へと毒液球を投げつける。
むき出しの傷口から染み込む毒はウナギのHPを急速に削り始め、ウナギはみるみる動きの精細を欠いていく。
ときには火を吹いて振り払おうとするけど、それは私が顔面に岩をぶつけることで向きを反らして阻止する。
火球ブレスが使えないウナギは、代わりに自身に炎を纏うことで蜘蛛子ちゃんと付着した毒液を引き剥がすが、すでにMPが切れかかっており一度全身を燃え上がらせたらそれで残り全てのMPを使い切ってしまい、満身創痍のウナギが消えていく炎の中で苦しそうに蹲っている。
すでに死にかけであるが闘志は衰えておらず、ウナギは私たちを睨みつけると急速にHPを回復させていく。
それに驚くけれど、そのカラクリの種が火竜のスキルにある生命変遷によるものだと気づいて、すぐさま追撃を加える。
まだダメージが抜けきらないうちにトドメを刺さないと、再び巨体で暴れだすので折角有利な岩場が破壊されてしまうし、もしかしたら私たちを無視してマグマに逃げられるかもしれない。
私たちは、示し合わせた訳では無いにも関わらず同時に攻撃を仕掛け、私は手足を潰して機動力を奪い、蜘蛛子ちゃんは上空へ飛び上がりウナギの顔面に猛毒を雨あられと降り注いだ。
その猛攻には、流石に死にかけだったウナギが耐えることが不可能だったらしく、あっという間にHPが尽きて崩れ落ちる。
そして確実に倒したことを証明するように、レベルアップの通知が複数鳴り響き、レベルが上限に達したことで進化可能になったことを知らせてくれた。
『……ふぅー、お疲れさま蜘蛛子ちゃん』
勝利の余韻を感じながら、私は労いの声をかける。
それに、前足を振って答える蜘蛛子ちゃんを見て、どっと疲労感が込み上げてくる。
そして、なんとかなったものの自身の力量不足を強く実感していた。
——まだまだ、足りないなァ、と。
地の文とか口調が安定しません……、その日その日で前話の書き方忘れちゃう。
飯テロ回? そしてついに2度目の進化です。
蜘蛛子は
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もっとコミュ障
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このままでいい