俺があいつらと行動を共にして……、あー、何年経ったか?
まあ、結構な時間が過ぎたと思ってくれ。
毎日生きるか死ぬかの日々を過ごしていれば、多少は時間感覚もブッ壊れるだろ?
ほんと、馬鹿みたいな密度の時間だったぜ。
一成の墓作って自分にケジメ付けた後、最初にやらされた出来事は、魔物の巣に放り込まれた事だった。
死ぬっつーの。
まあ、同じ事何度もさせられている奴らが居たから乗り切れたけどよぅ。
で、同じ地獄見て同じ釜の飯食って、そんで仲良くなってよ。
楽しかったぜ、堅苦しさなんて全然無く、今までで一番自由だった。
魔族は危険だ何だと、帝国や学園で教えられてきたが、結局あいつらも同じ人間だ。
ただ寿命がちょっと長いだけな。
一緒に馬鹿やれば、それが良く分かる。
他には拷問じみたスキルの鍛え方だったりだとか、世界の裏側とも言える隠された真実ってのをアリエルとかいう、苔森と同等の小せえ奴から教えられたりもしたな。
あれが魔王って言うんだから驚きだよな。
なんだよ平均ステータス九万って、バケモンか。
こっちにも転生者は何人か居てさ。
苔森だろ、笹島の奴に、リホ子……て言ったらキレるんだったな、根岸さん改めソフィアだろ、それにあまり会えねぇけど若葉さんも居た。
前世で仲良かった奴は此処にも居なかったけど、まあ学園の時よりはマシだな。
あまり話した事無かったが、笹島の奴と気が合うのは予想外だった。
なんつーかな、笹島と話していると、一成がチラつくんだ。
笹島のクソ真面目な所が、俺が馬鹿をやった後に叱る一成の感じと良く似てるから、懐かしさと同時に反省も覚えるんだ。
ああ俺、一成に、こんなに迷惑掛けていたんだなってさ。
俺のやらかしをキツイ言葉で、ときには拳でブン殴られては、反省もするさ。
向こうも今まで女所帯だったからか、気安く話せる相手が出来て多少箍が外れてたんだろうな、そのまま喧嘩になって止め時がわからなくなりヒートアップしちまった。
その頃の俺は、多少力を取り戻したとは言えまだ弱かったから、顔面パンパンに腫れ上がるまで殴られたのは今でも少しムカつく。
でもまあ、スゲー楽しかった。
最後なんか痛みすら忘れて笑うしかなかったからな、脳内麻薬でラリってるのなんの。
いい感じにお互い馬鹿で、いい感じに意地張って、そんでいい感じに分かり合えて。
なんだこれ、不良漫画か? 馬鹿じゃねーの、最高だよ畜生。
そっから修行漬けの日々に時々魔物を狩りに行く日常を過ごしていたら、いつの間にか獲得していたのが、強欲と傲慢だ。
支配者スキルっつーの?
超強力な効果を持つけれど、精神汚染などリスクも大きい危険なスキル。
そのせいで何度も突然ブッ倒れて、目が覚めたら苔森が俺を治療していて、その後叱られるのがお馴染みになっていたな。
なんでも魂が崩壊しかけていたらしい。
本人には自覚が無い所が怖いな。
たまに日本食モドキを作ってくれんのも苔森だったか。
転生してから微妙な飯ばかりだったから、懐かしくて涙が出そうだ。
そんときは、何処からともなく若葉さんも現れるんだから不思議だよな。
でも、そのおかげで俺は強くなれた。
けどさ、この力でシュンの奴に復讐する気は、もう無い。
あいつも馬鹿だと思うよ。
何も知らずに、のうのうと青春しちゃってさぁ、本人は幸せだろうさ。
そのちっぽけなモノが、何の保障もされていない薄氷の上にあるのにな。
だから俺は、シュンの奴に現実を叩きつける。
今更お前一人出てきても何にもならないんだと、邪魔だから引っ込んでろと、心を折りに行く。
全てが終わった後で殴られること覚悟してっからさ、今だけは絶望して引き籠もってろと。
なのにさ、あいつは……
「ぐぅッ、おおぉぉぉっ!!」
ボロボロに痛めつけて、心を折るような言葉吐いたのにさ、全然折れねぇの。
むしろ、逆に燃え上がる始末。
おい、マジかよ?
ここまでして、まだ立ち上がるとか想定してねぇって。
いい感じに戦う意思を無くしたところで、岡ちゃんが助け出すって筋書きだったのに、もう一回へし折らなくちゃいけねぇじゃねぇか。
手加減苦手だから、殺さないようにするの難しいのにさ。
「何をしている! 追え!」
シュンが助けに来た岡ちゃんに引っ張られるように逃げ出すのを見送りながら、そばで喚く煩いサイリスの野郎を見る。
こいつもまあ、利用されてるだけの可哀想な奴なんだけどな。
けど、既に毒牙に掛かっているつーなら、解放してやんのが筋か。
「じゃあ、手筈通りに頼むわよ?」
「ああ。任せておけ」
「ほら、いつまで寝たフリしてるの、妹ちゃん?」
「……チッ」
ソフィアに抱きかかえられていたスーレシアとかいうシュンの妹が、それだけで人を殺せそうな憎悪を乗せた舌打ちで返事をした。
「敵わない相手にも立ち向かう兄様の雄姿に浸っていたというのに……、あぁあんなにスー、スーと私の事を思って呼んでくださるなんて……」
「はいはい、トリップする前に仕事しましょうねー」
「くっ……、約束は守りなさい」
そのスーレシアが、俺を睨みつけながら恨みがましく言う。
こいつが苔森や若葉さんと交わした約束で、支配者スキルを獲得したらシュンの安全を保障するという約束だ。
その条件は達成され、こいつが持っているのは色欲だ。
この大仕事が終われば晴れて自由の身で、シュンたちの元に帰るのも良し、俺たちに付いて来るのも構わないと、選択肢を提示されていた。
「ほんとに良いのか? 大好きな兄様と離れ離れで」
「良いわけ無いでしょう!」
鬼でも取り憑いたんじゃないかって怖え顔で激昂するスーレシア。
「でも、悪の手に囚われた私を救い出し離れ離れになった兄様との感動の再会……、その時兄様はどれほど私に
その次の瞬間には恍惚とした表情に一変して、感情の落差に気味の悪さを覚える。
「なあ、あれヤバくね? 一回、苔森に診せた方がいいんじゃ……」
「汚染進んでるわねー。でも今は忙しいんだから後にしなさい」
大詰めって事で、休む時間も無いとボヤいていた姿が浮かぶ。
なんというか、ブラック勤めの社畜のような雰囲気を漂わせて、一層光を無くした目で仕事していた苔森に、これ以上負担を掛けるのも良くねぇなと思い留まる。
あいつ変に真面目だから、幾つもの仕事抱え込んで調整作業に苦心しているのを見ると、可哀想通り越して痛々しく見えてくるから、少しは頼って欲しいとも思う。
俺も人の手伝い出来るほど、余裕ある訳じゃ無いけどさぁ……
「お前ら……、一体何の話をしている? それにスーレシア、貴様は……」
「煩いですね……。それではサイリス兄様、短い間でしたがお世話になりました」
泥のように濁った目をしたスーレシアが、サイリスの頭に触れる。
汚いものに触ったと冷え切った表情をしながら、仕事だから仕方無いと淡々と処理を開始する。
「ぐ、ぐあああああ!?」
今サイリスに施されているのは、精神の破壊。
こいつの頭ん中には、あのポティマスとかいうクソ野郎の洗脳が施されている。
本人には一切自覚はねぇだろうし、支配と言っても思考を少し誘導される程度のものらしいが、この手の洗脳がアナレイト王国の上層部に蔓延していた。
さっきシュンの仕業に見せかけるように殺した国王も、その一人だ。
まあ、洗脳の目的なんてどうでもいい。
要は、この国は一度掃除する必要があって、洗脳された奴を徹底的に殺して駆除すること。
それが、今回の第十軍の仕事だ。
ぶっちゃけシュンの事は、俺がどうしてもって頼んだオマケでしかない。
「それじゃあ、私は元凶を仕留めに行くわ」
「おう」
ソフィアが部屋の外へと出ていく。
これからあいつは、この洗脳を仕組んだポティマスの分体をブッ潰しに行くんだろうな。
こうもボロボロな国の内情を知ると、自分のとこもシャレにならないなと痛感する。
俺の生まれ故郷である帝国も、内部がかなり腐敗していた。
文官と武官で対立していて、中央は汚職役人どもの巣窟、武官は我関せずで地方に引き籠もっているわで、よく保ってるなこの国って思ったぜ。
力を得なおして、世界の真実という知識を得た俺は、帝国はこのままではダメだと思った。
だから帝国の改革をさせて欲しいと、アリエルさんたちに頼んだ。
戦争開始の一年くらい前に帝国に戻り、俺は帝国内部を一斉に粛清した。
幸い、諜報が得意な若葉さんが居たから、強請るネタには困らなかったからな。
どうしようもない不正役人どもは、証拠を突きつけて即首斬り。
そこそこ悪い事してて、けど役に立ちそうな奴は、秘密をチラつかせて脅迫。
小物は、威圧して脅し従わせる。
日和見は、苛烈にも思えるような強引な姿勢を見せつけることで、ゆっくり取り込む。
これで中央はカタが付いてしまった。
実力主義って、こういう時便利だよな。
恐怖政治とか言うなよ、自覚しているんだからさ。
武官たちは、もっと簡単。
ただ直接領地に乗り込んで、私兵ブッ飛ばして力を見せる、終わり。
今世での親父も、本当はこういう事したかったんだろうけど、実力が無くて孤立してたなんて、馬鹿みたいな話だよ。
今では俺は、現剣帝より人気で畏れられる皇子様って訳だ。
まあ、一般市民には俺が国に帰ったのを秘密にしてあるから、上層部だけでの話さ。
あの人族と魔族との戦争では、俺は帝国側に立って参加していた。
俺に忠誠を誓ってくれた奴らを死地に送らなきゃいけない時は悩んだし、死んだと知った時には落ち込んだりもしたさ。
それに、会ったこと無い相手とはいえ、仲良くなった奴と同じ魔族を殺す側に立つって事も。
俺は不自然に見えないように犠牲を増やして戦う作戦なんて、どうすればいいのか悩んだけど、その必要は無かった。
あの変態爺、強かったんだなぁ。
俺が帝国に帰ってから力尽くの改革をやってる時、一番の障害で気持ち悪かったジジイが人族で最高の魔法使いと呼ばれているんだから、こんなのが最高なんて世も末だと思ってた。
そのロナント爺と同じ砦で参加して、ある程度軍が消耗したら俺も出るかと考えていたら、爺が敵将を狙撃で討ち取っちまうんだから俺の出番も策も無くなっちまった。
仕方無いので、適当に掃討戦に参加して引き上げるだけにした。
ちょっと一当てして、何人か斬って、それで終わり。
それだけでも、現場の兵士には実力を示せたから充分だったかもな。
もし、俺の国にもポティマスの魔の手が伸びていたらと思うとゾッとする。
そうだったら、流す必要のある血は、もっと増えていたかもしれないからな。
「あの腐れ尼を、殺して。 ——終わったわ」
感情の籠もっていない冷ややかな声で、呼びかけられた。
その後ろには、虚ろな目でブツブツと譫言と溢し続けるサイリスの姿があった。
「上出来だ。それで? スーレシア姫はいかがなされますか?」
「その巫山戯た口調は止めて。ここに残る。囚われのお姫様は城の奥で待つ方が
「へいへい……」
シュンの奴も面倒なのに好かれて大変だなぁと、他人事だからこそ淡白な感想が浮かぶ。
さて、俺も次の仕事に取り掛かるかぁ……
「……ふふっ」
城内の道中で洗脳されている奴らをサクッと殺し、シュンたちの潜伏場所から脱出先として一番候補になりそうな場所に先回りして、待ち構える。
そして戦闘音が聞こえ始め、ようやくシュンたちが現れる。
「待ちくたびれたぜ? シュン」
驚きで目を丸くするシュンのアホ面に、冷酷なユーゴーという仮面が外れないように注意を払いながら、俺は語りかける。
お前、勇者が何なのか知っているのか?
そんな、お綺麗なモノじゃ無いんだぞと、遠回しに叩きつける。
それなのに、一歩も退かずに自論を返してくる。
そんなの、分かっている。
争いは悲劇を生む、力なんて争いを生むだけのモノだって。
勇者なんて俺には過ぎたモノだと。
けど、悲劇を見過ごせない。
止める力があるなら、俺は諦めない。
……言うじゃねえか、身の程知らずが。
お前は本当に知ってるのか? この世界の真実を。
だったらまずは、高みというものを識れ、シュン。
俺なんか、その中じゃ中間下くらいなんだぞ?
第九軍の奴らとか神話級の魔物含めて、俺はその程度だ。
その程度の力と覚悟で、何も知らずに立ち止まっていたら、俺が殺すぞ?
一旦距離を取って、左手に火炎魔法を構築する。
ほら、如何にもな大技準備しているぜ? お前ならどうする?
真っ先に先頭に飛び出し、光の盾を作り出すシュン。
そうだよな、お前ならそうするよな。
俺は敢えて、その下の地面を狙う。
見た目こそ派手だが、お前なら直撃しても致命傷にならない程度には威力は抑えてある。
『————腐れあ————ろして』
……なんだ? 一瞬雑音のような変な感じがしたが。
まあ、いい。
余計な思考は忘却するに限る、狙うのは、ユーリだ。
シュン、お前は殺さないから安心しろ。
代わりにユーリが犠牲になるだけだ。
そして俺は、魔法を放つ。
灼熱の炎槍は狙い違わず命中し、ユーリの心臓を焼き貫いた。
ユーリの……心臓?
「あ?」
「えっ……?」
「ユーリぃぃぃぃっッ!!??」
今、俺、何をやった……?
シュンの絶叫を聞きながら、俺は呆然と立ち尽くした。
支配者スキル>一般スキル(無効>耐性)
基本的に、この力関係なので無効貫通はありえると思って下さい。
叡智で鑑定妨害を突破したように、怠惰が耐性に左右されていないように、支配者スキルが優先権を持つのだと解釈。