【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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46 非公式会談

 神言教の総本山、聖アレイウス教国。

 その中でも警備が最も厳重な教皇が執務を行う区域にて、私たち魔王陣営と、ダスティン教皇が席を同じくして会談を行っていた。

 

 私は、調子や気分の悪さを気力で誤魔化し、多少無理をしてでもこの会談に参加していた。

 重要な案件であるし又聞きでは情報に齟齬が生じる、なので表面上は何とも無いのを扮って。

 

 今回此方から参加しているのは、私と白ちゃんという管理者側の存在。

 そして魔族代表のアリエルさんと、帝国代表のユーゴー。

 

 向こうは護衛すら不要と、教皇ただ一人だけが席についている。

 

 今回の会談の目的は、魔族軍の人族領における通行の許可。

 エルフの里を、完膚無きまでに破壊する。

 そのために敵軍である魔族軍を、見逃して進軍させて欲しい。

 

 そういうお願いだった。

 

 私たちの関係性は特殊ではあるものの、本来はどれも敵同士である。

 魔族の代表である魔王に与する者たちと、人族の代表である教皇。

 そんな関係であるのに協力関係にあるのは、ポティマスという真っ先に滅ぼすべき世界の害悪がいるからに他ならない。

 しかも、協力関係にあるのは各陣営のトップだけで、その下の人間などは詳細を知らない協力という。

 

 魔王は魔族を力尽くの恐怖政治で従えているだけであり、反発する勢力や生じた軋轢が水面下で今も埋まっている。

 教皇も宗教という力で人々を扇動しているけれど、個人の思想に反するような事を強権でもって動かす事は出来ない。

 

 今回参加しているユーゴーも、帝国内部を一部掌握しているけれど、脅迫で支配した中央でなら強引な手段も可能だけど、地方までは完全にとは言い難い。

 特に、今回の魔族軍を通せという指示は不可能だろう。

 

 なので、どの陣営でも末端まで完璧に支配している訳では無く、トップの意思一つ次第で自由に動かせるようなものでは無い。

 

 いくら神言教という、思想のみで此処まで人心を操れる宗教と組織を作り上げたダスティン教皇でも、今回の要求は頭を抱えるほど難しい問題だと以前に行った会談にて言っていたけれど……

 

「根回しは大変でしたよ」

「さっすがー! 君なら出来ると信じていたよ! うん!」

 

 苦労を滲ませつつも、さらっとダスティン教皇は言い切った。

 

 それに満面の笑みを浮かべて答えるアリエルさん。

 でも内心では、うそでしょとか思っていそうなテンションだ。

 

 そんな無茶無謀な要求をしていた私たちだったけれど、本来それは達成が不可能な無理難題で、その次に本命となる出来うる限りの援助を要求するという流れを白ちゃんが提案し、それに沿って交渉を進めていた。

 

 なので、今ダスティン教皇が言ったことは想定外の事であり、でしたよと過去形で話している事から既に準備が完了していて、号令一つで実行可能だと示していた。

 

『ユーゴー。帝国内での進軍ルートを構築出来そう?』

『あー……、確認しなきゃ分からねぇけど、なんとかするしか無いんだろう?』

 

 私は、帝国について現状最も詳しく知っているだろうユーゴーに念話で声を掛ける。

 

 当初の予定では、エルフの里付近まで私と白ちゃんが協力して大規模転移を発動させて軍を移動させる事になっていたので、現時点では帝国内に根回しなどは何もしていない状態であり、計画も何も白紙の筈である。

 

 そしてユーゴーの返答は、難しいけどなんとか調整する、だった。

 軍団規模の人数が使用出来る転移陣は、先の戦争から帰還する各国の援軍や冒険者、それに平時は物流網として使用されいるので物の行き来の再開、それらの順番待ちや予約でギチギチであり、新たに魔族軍が横入りする余裕は無いはず。

 

『要はエルフを逃さず殲滅出来ればいいんだろ? なら、包囲に必要な必要最低限の人数だけならギリギリ割り込めるだろうよ』

 

 少し間を空けて返ってきたユーゴーの提案に耳を傾ける。

 

『どうせ、主力は俺たち化け物連中だしな。普通の軍は足留め要員にしかならないなら、少数精鋭だけ居ればいい』

『なら、その方向性で』

 

 ユーゴーの出したその結論に、私は同意した。

 

「でも、いいのかい? 天下の神言教とはいえ、相当ムリしたんじゃない?」

 

 私とユーゴーとの会話の間に、アリエルさんとダスティン教皇との間でも話が進んでいた。

 そのアリエルさんの問いに、笑みを深くするダスティン教皇。

 

「ええ、それはもう。後先を考えない、なかなかに手痛い出費を強いられました。ですから……」

 

 ダスティン教皇は目を細めて言葉を区切り、充分溜めを作ってから口を開く。

 

「失敗は許されませんよ?」

 

 重すぎる覚悟の籠もった言葉に、身を締め付けられるような錯覚を覚える。

 横目で、白ちゃんとユーゴーが僅かに気圧されているのを感じ取った。

 

「失敗なんてしないさ。絶対にね」

 

 欠片も動揺が見られないアリエルさんが静かに答える。

 

「この時を待ち続けてきたんだ。ずっとずっと……」

「そうですな。長い、実に長い間、この時を待っていました」

 

 それにダスティン教皇も同調する。

 口調は静かに、けれど瞳には激情が渦巻いて宿っている二人が想いを同じくする。

 

 私には、そのあり方が痛々しくも羨ましいと感じた。

 ポティマスが憎い、エルフが憎いという感情は、私の中にも焼け狂いそうな程あるけれど、元を辿ればそれは精神汚染による誰かからの借り物。

 

 二人ほど、気の遠くなりそうな程の時間を掛けて、恨みを積み重ねた感情では無いのだから。

 この感情は私の本心であり、偽り無き願いでもあるけど、重さが違う。

 そう魂で感じる程の覚悟が、二人の間にはあった。

 

 

 それを見て、私は思う。

 

 残り時間は、もう僅か。

 この戦いの成否に関わらず、最後の計画を実行しなければ、私に未来は無い。

 

 私に施された呪いは、神仰の所持者が神になった時に、自動的に刻み込まれるモノだった。

 システムの助けを得て神になったのなら、最終的にシステムのために体と生命そして魂までをも捧げる事を求められる。

 簡単に言うと、神仰というスキルは、次の生贄を作るためのものだった。

 

 その宿命は神となっても逃れられず、解呪する事も出来ない。

 機会が無かったから知る事が無かったけれど、私自身がシステムの外に出ること、つまり星から逃げ出す事は出来なくなっていたらしい。

 

 これまで白ちゃんは、何度か地球まで転移して日本に帰還していたらしい。

 その話を白ちゃんは今までしてこなかったけれど、つい最近地球産だと思われる物品を見つけて問い質したところ、発覚した。

 

 最初は、狭間の国の一件が終わった後にDさんから呼ばれて。

 その時、私の呪いについて聞かされたらしい。

 だから私には地球に行ける事を話さず、口を噤んでいた。

 連れていけない場所の事について、何も知らせない方が良いだろうと思って。

 

 私が持っているあの怪しげな本も、地球にいるDさんから渡して欲しいと言われた物品で、よくよく考えれば気付くヒントは前からあったと、記憶の節々から思い返せた。

 

 地球について、日本について、気にならないと言えば嘘になる。

 けれど、この星の問題が片付けば、システムそのものが無くなれば私の宿命も無かった事になるので、今は何も聞かなかった知らなかったと、心の奥底に封印しておく。

 

 それに、私がシステムに捧げられる訳にはいかない理由が、他にも沢山ある。

 白ちゃんやアリエルさんたちと離れ離れにならないようにという事もあるけれど、もっと大きな理由が私には、私たち(・・・)にはある。

 

 私がシステムに捧げられれば、それに連動して眷属となっているコケダマたちもシステムの贄になってしまうのだから。

 

 今世での家族を、道連れにはしたくない。

 王が、主が、我ら(わたしたち)の大切な家族が犠牲になるのは、誰であろうと見たくない。

 

 それが私の願いで、みんなの願い。

 だから失敗なんて出来ないし、する気なんて欠片も無い。

 

 エルフの里にてポティマスが何を隠し持っているのか知らないけれど、退くわけにはいかない。

 最悪、荒野の時に撃破したGフリートを遥かに超える強大な敵が出てくる可能性もあるけれど、何が来ても私たちは勝つしかない。

 

 瞳を閉じて、ゆっくりと息をつく。

 

 時間は待ってくれない。

 だから急いで準備をしないと。

 

 幾つかの細かい案件について打ち合わせた後、私たちは教国を後にした。

 

 

 

 

 

 

 現在、私は魔族領まで帰ってきていた。

 

 理由は、まず仕事の抱えすぎによる疲労が溜まっていた事と、前世で仲が良かった結花ちゃんが一時的にだけど死んだ事によるショックで私が倒れた事によって、アリエルさん白ちゃん両方から忙しい時期だけど、短期間でいいから必ず療養する事を厳命されたからである。

 

 私の体調が悪いままではポティマスとの決戦に差し障るという事もあるけれど、あのように声を震わせ心配している表情で頼み込まれたら、想いを無碍にして拒否する事は出来なかった。

 

 アナレイト王国での一連の暗躍は、白ちゃんが引き続き動いていた。

 転生者であるシュレインが支配者スキルの慈悲を獲得していたので、その他諸々の確認のためにある実験をするらしい。

 慈悲によって蘇生された存在には、魂に寄生された影響が残っているのか。

 シュレインの禁忌のレベルはどれくらいなのか。

 それらを測るらしい。

 

 それにしても、アナレイト王国での暗躍には後悔も反省もするところが多かったと思い返す。

 あの暗躍では、悪役と正義それぞれ象徴となる役が必要だったので、必要であるなら仕方無いと洗脳のスキルである色欲を解禁させたのが裏目に出てしまった。

 

 色欲の所持者であるスーレシアが暴走して、ユーゴーの耐性などを貫通して暗示を掛けていた。

 その結果として結花ちゃんが、今の名前はユーリちゃんが、ユーゴーに殺されかけた。

 

 実際に、肉体から魂が抜けていて完全に死んだ状態になっていて、現場に居なかった私では魂を保護して蘇生するのが間に合わない状況だったので、シュレインが慈悲を使っていなければ確実に輪廻の環に行っていただろう。

 

 前世での知り合いが犠牲になる事は容認しているし覚悟もしている。

 けれど、悲しくないわけ無いし、誰かが死んでしまえば心だって痛くなる。

 

 それで私が倒れちゃったのは、まだまだ覚悟が甘かったのかもしれない。

 

 会談の後、ユーゴーから言われた。

 

「本当にすまねぇ! ……俺が、まんまと操られちまったばかりにッ」

 

 自分の意志では無かったとはいえ、自分がユーリを殺そうとした事に責任を感じていて、深々と頭を下げられた。

 

 私は……、ユーゴーを許した。

 洗脳という手段を許してしまった私にも責任はあるし、スーレシアが一応は味方である立ち位置だったため、洗脳対策も何も想定していなかった事にも問題があったから。

 私自身も、罰せられる側だと感じていた。

 

 だから、お互い何もせず手打ちにした。

 実際に罰が必要なのは元凶のスーレシアであり、今頃白ちゃんに徹底的に矯正されているだろうというのも、大きな理由だった。

 私が快復した後には、精神汚染の除去も頼まれている事だし。

 

 

 一先ず、寝て休むことにしようか……

 睡眠無効の術式に頼ってばかりで、休息も殆ど取らずに延々仕事を行い続けていたし、きちんと寝たのは一体どれほど昔の事だったかな……

 

 意識が、闇に堕ちる。

 そしてそのまま、私は一時の眠りについた。

 

 

 

 

『熟練度が一定に達しました』

『熟練度が一定に達しました』

『熟練度が一定に達しました』

 …………。

『苦しい』

 

 

 

 

 ほんの僅かな時間のはずだけど、長い間眠っていたような気分だった。

 生きているのかも、死んでいるのかも分からない暗闇から、意識が浮かび上がる。

 

 なにか、夢を見ていたような気がする。

 暗い地の果てで、永劫に等しい時間、苦痛に苛まれる誰かの夢。

 

 けれど、目覚めた時には、殆ど内容を思い出せなかった。

 

 ふと、気付くと手に温かな感触が触れていた。

 

「すぅ……、すぅ」

「むにゃぁ……」

「ん……」

 

 私の周りには、妖精の姿をした大切な家族たちがいた。

 

 カリュ、テュクス、ラニア。

 レウキ、ファイノ、エレクトラ、イアンテ、メリテ、イア、ロディア、カリロエ。

 メロ、ティケ、オキロエ、ロド、プルト、ガラク、パラス、アルテ。

 クリュー、ネイラ、アカスタ、アドメテ。

 普段は妖精の姿を取らないみんなも、同じ小さな妖精となって一緒にベッドで寝ていた。

 

 そして、ベッドを守るように長大な体を丸めて眠っている、爽やかで仄かに甘い香りを身に纏う翠龍のメントも。

 

 私と、生命と魂をも共有して、文字通り運命共同体の、愛しい家族たち。

 

 安らかな気持ちが心を満たしていく。

 そして、それに呼応して切なる願いが生まれていく。

 まだ、さよならなんて言いたくない、生贄になんてなりたくない。

 私は……、逝きたくない。

 

 この想いを誰も知らないまま、みんな寄り添ってくれている。

 みんなを道連れにしてしまう未来なんて、認めたくない。

 

 白ちゃん、アリエルさん、ソフィアちゃん、メラゾフィスさん。

 アエルちゃん、サエルちゃん、リエルちゃん、フィエルちゃん。

 ラースくん、フェルミナちゃん、ユーゴー。

 

 彼ら彼女らと、みんなとの時間が、私にとって何より大切な温もりだから。

 

 もう一度、時間を戻せるのなら、私はその時間を大切にしたい。

 誰も、私を忘れないように。

 何も、後悔する事が無いように。

 

 でも、最期の時が来たら……、私は……

 希望を、託せるように……

 

 

 瞼を再び閉じていく。

 運命も、祈りも、まだその時ではない。

 

 けれど、夢が終わる時間は、すぐそこまでに迫っていた。




幼き女神は、23人の妖精たちと一匹の龍と共に、夢を見る。
そこは、花畑か、はたまた地の果てか……
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