「フェイ! シュンが倒れた、急いで脱出するぞ」
その知らせを聞いた時、あたしは一瞬だけど頭が真っ白になった。
まさか、あいつが倒れるなんて思ってもいなかったから。
言葉にするのは難しいけどまあ本能みたいなもので、此処にはユーゴーやソフィアとかの、絶対勝てない相手がいないだろうと感じていたから、その衝撃は大きかった。
なんだかんだ運が味方して、しぶとく生き残るだろうという予感もあったし。
だから、苦しげに顔を歪ませているシュンの姿に動揺したのかもね。
「フェイ! 気を確かに! あなただけが頼りなんですのよ!」
カティアの奴に急かされ気を取り直したあたしは、救出対象の五人に加え気絶しているシュンも加えた、六人もの意識の無い人間を運ばなくてはならなくなり、結構苦労して王都から脱出した。
合計で九人乗せるとか、さすがのあたしでも、シンドイっつーの。
その後は、事のあらましとかを聞いたわ。
誰も居ない王城を進むと玉座の間にシュンの兄貴であるサイリスって奴がいて、入ってきたのを見計らったかのように処刑が実行された。
そんで、救出対象全員の首が飛んで、助けられなかったと思っていたところシュンが飛び出し、なんと切り離された首を繋ぎ合わせて生き還らせちゃったって訳。
性格こそフツメンだけど、あいつは昔からとんでもない事やらかすわね。
王族だってのに何かハブられているみたいだから常識知らずだし、そのせいで突拍子も無い事をやらかしてカティアに呆れられたり、それにラッキースケベも頻発して起きるわね。
まぁそれは置いといて、その蘇生行為の代償なのか顔中から血を流しながら生き還らせていったらしいんだけど、最後の五人目が完了した後に、シュンが頭を抱えながら倒れた。
一瞬、脳の血管とかが切れてそれで倒れたんじゃないかって思い、命の危険とか無いのか心配になったけど、どうやらそうじゃ無いみたいで今は大丈夫らしい。
一旦戻ってきたハイリンスさんの旧友の屋敷だけど、救出した五人の方は問題無く目を覚ましたみたいだけど、今も眠ったままなのはシュンだけ。
そのシュンも、ついさっき目覚めたらしい。
指摘されてから初めて気付いたんだけど、その知らせを受けるまでのあたし、結構ソワソワしてたらしいのよね。
意外でも無いか。
シュンとの付き合いも、結構長いものだしね。
初めて顔を合わせたのは、あいつが七歳の頃だったかしらね。
あたしが卵から孵った時に目の前に居たのがシュン。
実際には、それ以前である卵の中にいる状態の時から意識あったし、言葉を学ぶために会話とか聞き耳立てていたけど。
なんとなく自分は人間じゃないって勘付いてたし、実際に外に出れば竜の子供だったという。
考える時間だけは腐るほどあったから、色々考えたりしたのよ。
前世でのあたしは、若葉にイジメそのものと言っていい事をやらかしてたし、あたしが人以外に転生したのも、それらの悪行が原因かもで、あぁバチが当たったのかもなーなんて。
周囲から人の声が聞こえる事から、どう足掻いてもペット以上にはなれないだろうし、人として生きられない。
ならせめて、あたしが竜として生まれたのなら、ご主人様となった目の前の王子様に精一杯奉仕しようって思ったのよ。
そうすれば多少は快適な生活が送れるだろうって、打算込みの意地汚い考えだったけどね。
それから幾らか時間が経って、その王子様が転生者だと知り、それがまさかザ・普通を地で行くシュン君だとは思わなかったけどねー。
そんで、そのシュン王子様と良く顔を合わせていたご令嬢が、前世では男だった大島ってのが、一番衝撃を受けたけどね。
外から見るぶんには笑い話だけど、本人からすれば大変な事だろうし、ちょくちょく元女としてアドバイスもしてやったわ。
いやまあ、あたしも精神的にも生物学的にも女だけど、今世では地竜のメスだし。
人じゃないから肌のお手入れとか別に気にしなくていいの、すっごい楽だわー。
そんな事思ってたのを見抜かれたのか、カティアから物凄い殺気の籠もった目で睨まれたけど。
あいつも、だいぶ女に染まったわね。
シュンにその妹のスー、それとカティアの三人で勉強や訓練とかしながら何年か経つと、王国に前世で先生だった人がやってきた。
「ふむふむぅー。では自己紹介いたしますぅー。今の名前はフィリメス・ハァイフェナスですぅ。以後よろしくですぅー」
妙に鼻につくようなクセの強い喋り方が悪化していた、岡ちゃんこと岡崎先生がエルフに生まれ変わって、あたしたちの前に現れた。
ハマってた何かの漫画キャラを真似してたら素の口調がそれになってたらしいと、元からかなり残念な先生だったけど、この世界に転生してから何かあったのか、その時はやたら前世の雰囲気やキャラに固執しているように見えたのよね。
先生だと証明するために、わかりやすさを重視したといえば、それまでなんだけど。
前世では授業中によくお仕置きされたりと、あたしが先生苦手だったのも穿ち過ぎた見方をした理由なのかもしれないわ。
その後は、王国の学園に先生も含めた、転生者たちが集うことになった。
あたしは、シュンの使い魔扱いね。
入学式とかの人メインの行事には参加出来ないけど、授業や野外活動などの遠征には参加出来る微妙な立ち位置という形で。
そこで会ったのが夏目と長谷部。
学園での日々で何があったのか、語る必要無いわよね?
ユーゴーの馬鹿がシュンに喧嘩売って無様にも返り討ちに遭い、学園から去っていった事。
それから数年が経ちシュンが勇者に選ばれて、それと時を同じくして勇者の称号に引き摺られるように、あたしが進化するために眠りについた事。
進化が終わって目が覚めれば、めっちゃデカくなってるし翼も生えてるわで、驚くところは沢山あるのに、ちょうどシュンがピンチの時に目が覚めるんだから、驚愕している暇も無かったわ。
そんで、休む暇も無く、今に至ると。
思えば、あたしも結構シュンの事、気にかけていたんだなと思い返す。
こんな世界に生まれ変わっても普通を貫ける事、尊敬しているのよ?
なかなか出来るものじゃないわ。
並みの意思では、自然と周囲に染められて変わってしまうだろうから。
誰だって、人伝だとしても身近に命の危機があるのを感じながら生活してれば、殺伐とした思考が当たり前になるし、力を付けようと必死にもなるわよ。
それでも、シュンは変わらなかった。
あの平和ボケして面白みのない日本の価値観を、いつまでも保っていたんだから。
シュンが幼少期過ごした、周囲から隔絶されるような環境も影響していると思うけど、それでもあそこまで甘ちゃんでいれるのは才能だと思うわ。
この優しくない世界。
いずれは、シュンの身にも危険が訪れる。
その時に体を張るのは、あたしの役目だと思ってた。
だって、あたしはシュンの相棒だもん。
昔から、そう昔から、シュンには返しきれない程の、恩がある。
人じゃない地竜に生まれたあたしにも最大限快適に過ごせるようにと、頭を下げて周囲にお願いしてくれた。
時々あたしが人間だった事を忘れそうになっても、あいつが前世と同じように扱ってくれたからこそ、忘れずに済んだ。
他にも、他にも……
こうして並べてみると、結構いろんな恩があるわね。
けど、恋愛感情は無いわよ?
そこらへんはあたしも地竜の感性に染まったのか、人間の顔を見てもイケメンだなーと思う事はあっても、だから何って感じ?
そもそも興味が湧かないというか、アレね、人間がイヌやネコとかの別種の動物に欲情抱くほどガチにはならないって感じかしら。
……そんな特殊性癖も、もしかしたら現実にいるかもしれないけど。
あたしは、カティアやスー、それにユーリも加わった、ドロドロの愛憎模様を横から眺めるのが面白そうだから、とくに何もしないし見え見えの好意がシュンに向かっていても黙ってるだけよ。
いつか盛大に刺された時に、医者まで連れてってあげるくらいは、するかもね。
まあそんな感じで、あたしはシュンに結構な恩があって、それなりに心配してたって訳よ。
命に別状が無い事を知り、そして目が覚めたと聞いて、あたしは心の底から安堵した。
その後、数日休息を取った後、シュンとカティアとユーリに、先生とハイリンスさんも加えて、さらにあたしも合わせた五人と一匹で、エルフの里に向かう事が決まった。
レストンやアナにクレベア、それとカティアの両親の公爵夫妻は、王国に残る事になった。
彼らには、帰ってくる場所である王国を守って欲しいと、シュンが伝えて。
そうなった切っ掛けは、先生が何処からともなく得た情報の出処であるエルフの間で交わされている念話の情報網から得たもので、里にユーゴーが向かっているらしいとの事、スーも一緒にね。
もちろん反対意見も多かったらしいわよ?
国内が荒れている状態で、個では上位に入るシュンたちが居なくなる事を渋る意見もあったし、指名手配を出したサイリスって奴が何故か心を壊していて自失状態だけど、今国を回しているのはそいつの母親である正妃だし、布告そのものは各国に広まっていて取り消すことも出来ないから、国外に出れば犯罪者として捕まる可能性もあった。
カティアの両親も愛娘が危険な場所に向かうのを反対していて、それを丸一日かけてカティアが説得して付いていく事になったのよね。
けど、そこに行くべきって一番主張したのが、シュンだってのが驚きだった。
ユーゴーたちに聞くことがある。
その一点張りで理由も説明してくれないんだから、みんな困惑していたみたいよ。
あたしもその一人。
数日ぶりに会ったシュンは、何処か違った。
ずっと顔色が悪いし、何か強迫観念に囚われているかのように周囲の状況も見えて無くて非常に危なっかしい、けどその理由は教えてくれない。
色んな感情がゴチャ混ぜになったような表情をしているから、何かがあると分かっても、じゃあ何を悩んで苦悩しているのか、少しも分からなかった。
その原因について、あたしたちの誰もがみんな、答えを見つける事は出来なかった。
幾つか予想や推測は思い浮かんでも、本人が口を開かないようでは何一つ分からなかった。
シュン、一体どうしたのよ。
あたしは、シュンたちを乗せて西へ向かう。
王国の転移陣は壊されていたから、普通はこれが当たり前の、自らの体一つで物理的に移動する方法でね。
他国の転移陣とかを利用しようにも、あたしたちはお尋ね者だし、姿は見せられない。
なら、あたしが空を飛んでひとっ飛びするのが、一番いいと。
道中には、エルロー大迷宮っていうあたしの生まれ故郷である地下洞窟を通る必要があるけど、それ以外はあたしが頑張ろう。
その上は大陸を隔てる大海峡だから、そこを通らないと向こうの大陸に行けないとの事。
さすがに何日、下手すれば一週間以上も、海の上を休み無く飛びっぱなしってのは無理だから、そこは地下歩きだけど空を飛べるのなら圧倒的に速く移動出来る。
シュン。
あんたの相棒は、このあたしよ。
あんたの望みなら、多少の無茶だってしてやるわ。
だからさ……
あたしたちのこと、少しは信じてくれないかな。
短め。強欲にも評価や感想がもっと欲しい近状。