【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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祝、3桁投票者数っ。
言っちゃアレですけど、蜘蛛ですか、はマイナーだと思っていたので良く此処まで伸びたなと。


S7 踏破

 バスガスさんが迷宮を案内してくれる事になり、その翌日。

 準備を整えるのに一日掛けて、俺たちは砦に囲まれた入口から少し離れた海辺へと来ていた。

 この崖から飛び降りた先にある海の底に、エルロー大迷宮に繋がる入口があるらしい。

 海は水龍の生息域であり普通なら使われる事が無い、案内人の中でも極僅かしか知らない秘密の抜け道なのだそうだ。

 

 しかし問題が一つ浮き彫りに。

 

「あ、あのさ。あたし、泳げないんだけど……」

 

 居心地悪そうにフェイが、そう言った。

 全員信じられないという顔をしてフェイの事を瞠目しており、気まずい空気に晒された当人は、身を小さく縮こませていた。

 

 今の俺たちの格好は水着姿で、つまりは事前に聞かされていた上で此処まで来て着替えた後にも関わらず、ギリギリになるまで言い出せなかったという事らしい。

 

 ちなみに、俺たちの装備品や荷物は、空間魔法が付与された空間収納袋の中に仕舞われており、

 バスガスさんが持っていた物や、ユリウス兄様が持っていた物を引き継いだハイリンスさんの袋にそれぞれ分割して預けていた。

 特にハイリンスさんが持っている袋には、兄様が遺した数々のアイテムが収められているので、これを王城から持ち出せたのは大きな助けになるだろう。

 

 話を戻して、フェイの泳げない問題は、もしダメそうなら俺が支えて一緒に潜る事になった。

 

 人化しているとはいえ、本来の姿である竜の巨体を圧縮しているようなものらしく、体重自体は一切変化していないので、見た目とは裏腹に非常に重たいのだ。

 それを、重力を操る重魔法によって誤魔化しているが、水中に潜るのであれば細かい制御をしている余裕も無くなるので、魔法を解除しなければならない可能性が出てくるだろう。

 

 そうなると、ステータスの一番高い俺くらいしか、十全にフェイを支えられなくなる。

 仕方のない事だと言え、カティアとユーリから無言で送られる冷たい視線に、背筋が凍りそうな威圧感を覚えたので、邪念などは出来る限り思考から排除しようと思う。

 

 そんな一悶着の末に、バスガスさんからの一喝が落ちた後、俺たちは意識を切り替えて、最後の準備を終える。

 

「それじゃ、行くぞ! しっかりついてこいよっ!」

 

 バスガスさんが飛び降りたのを皮切りに、俺たちも崖から飛び降りた。

 

 水中に潜って目を開き、周囲を確認する。

 ステータスかスキルのおかげか、裸眼で海の中に居るにも関わらず、問題無く目視出来る。

 すぐ近くでギクシャクと泳ぐフェイの姿が映り、溺れている訳では無さそうだが上手く下方へと潜水が出来ていないので、その手を取り海底の方へと引っ張っていく。

 

 先行しているバスガスさんはドンドン深く潜っていき、水深十数メートル以上もの深さの岩肌に目的のエルロー大迷宮への入口があるのが見えた。

 そしてバスガスさんがポッカリと空いた岩の割れ目にしか見えない穴へと入ると、その後を追うようにハイリンスさんや先生、カティアやユーリが進んでいく。

 

 嫌な予感が走り、感じ取った気配の元へと振り返れば、超然たる態度で泳いでくる巨影が映る。

 その輪郭から察するに、まるでネッシーと呼ばれる首長竜のような姿をした、水龍が居た。

 フェイを連れて急いで泳ごうとするが、水中での動きでは水龍に敵うはずもなく、このままでは入口に到達する前に追いつかれてしまう。

 

 そうなってしまえば、一巻の終わりだ。

 

 息を止めたまま動きにくい水中で戦うなど自殺行為でしかなく、現在武器を預けているので魔法しか使えない状況だが、龍全般には魔法が効きづらいので有効打にはならないだろう。

 

 背後に迫りくる脅威に焦る俺とは反対に、フェイが振り返り大きく口を開いた。

 そして口内から燦々と眩い閃光のブレスが飛び出し、海水を引き裂いて水龍へと突き進む。

 対する水龍も鉄砲水のような過重圧のブレスで迎え撃ち、ぶつかり合ったブレスが海中に大きな衝撃波を発生させて、それが津波のように俺とフェイを押し流していく。

 

 迷宮への入口を背にしていた事が運良く働き、俺たちは海流に押されるまま入口に飛び込んで、安全が保証されていないウォータースライダーを滑るかのように奥へと流されていく。

 

 そして、一瞬の浮遊感の後に、盛大に岩肌へと叩きつけられた。

 引き離されないようにフェイを抱きしめたまま俺を下にして落ちたからか、骨の髄まで響き渡るような衝撃が全身を襲う。

 苦痛を堪えて周囲を確認すると他のみんなも流されていたようで、それぞれ大なり小なり無数の擦り傷を作っていたのが見えた。

 

 結構な距離を勢いよく流されたにしては、みんな大きな怪我も無く、そして全員揃っている事に大きく安堵した。

 

 良かった、取り残された人がいなくて。

 

 ただ、俺たちの体は無事でも水着までは大丈夫では無かった。

 そのせいで、女性陣の格好がかなり際どいものに……

 破れた水着を隠しながらカティアが睨んでいるので、慌てて視線を逸らす。

 

「うっ、すまん……」

「そのすまんが何かは敢えて問いませんけど、いつまでくっついているおつもりですか?」

 

 抱きしめたままのフェイの事を思い出し、急いで離れる。

 

「うん。あー、まあ、助かったからチャラで」

 

 ホントに、すまん。

 不可抗力とはいえ、罪悪感が半端無い。

 

「かぁーっ! 初っ端からこれじゃ、先が思いやられるな!」

 

 バスガスさんの叫びに、心の底から同意する。

 さっきみたいな幸運が、そう何度も起きるはず無いので、何が起きても大丈夫なように気持ちを引き締めないと。

 

「ま、なんとか無事に中に入る事は出来たな。ようこそ、この世の地獄、エルロー大迷宮へ」

 

 バスガスさんの仰々しい語りに、常套句だとしても洒落にならないなと肩を落としながら、俺は治療の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 太陽も見えず時間感覚が把握しづらくなる迷宮に潜り、今日で二日目。

 

 慣れない環境による浅い眠りのせいか目が覚め、仄かな光量で輝くランプが周囲の岩剥き出しの壁面を照らし出しているのが、寝惚けたままの瞳に映った。

 硬い地面から体を起こす。

 今は夜中という事で、交代で見張りをしながら順番に睡眠を取っているところだった。

 

 エルロー大迷宮の攻略は、入口での突発的事故を除けば順調に進み、バスガスさんの案内の下で問題無く歩みを続けていた。

 

 エルロー大迷宮上層の魔物は、毒を持っている種類が多くて普通は苦戦をするのだが、俺たちは全員それぞれが治療魔法を取得しており解毒が可能だった。

 それだけでは無く、世間一般では上位に入るステータスを持つ俺たちであれば、上層の魔物から攻撃を受ける事が殆ど無いので、苦戦になる事すらなく手堅く撃破していた。

 会敵したのが弱い方の魔物である事も大きいが、盾役のハイリンスさんが巧みに魔物のヘイトを集め、自身に攻撃を集中させる事で俺たちを守ってくれているのも大きい。

 

 心配だった迷宮病と呼ばれる、生活リズムの変化や精神的な影響で体調を崩す人も、今のところ誰も罹っておらず、バスガスさんが無理の無い攻略ペースを計測してくれるおかげで、肉体的にも精神的にもそこまで疲労を溜め込まずにすんでいた。

 

 そう言った注意事項は、初日に移動しながら説明を受けている。

 焦りは禁物。

 それは俺個人だけの事では無く、みんなの状態にも相互に気を配る必要があるという事だ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 横から先生が、俺の顔を覗き込んでいた。

 一瞬体が強張るが、この感情は先生個人に向けるものでは無いと思い直し、姿勢を元に戻す。

 

「大丈夫です。途中で目が覚めてしまって、……良い夢は見れそうに無いですね」

 

 微妙な空気を変えようと、戯けて冗談を付け加えて誤魔化す。

 しかし、それに反応する声が。

 

「そりゃそうだ。なんたって、此処は悪夢の古巣だからな」

「悪夢?」

 

 聞き返した俺の疑問に、バスガスさんは続ける。

 

「おうよ。知ってるか? 迷宮の悪夢の話だ」

「いえ、聞いたこと無いですね」

「私はあります。たしか、十年以上前に迷宮に突如現れた、神話級の魔物の片割れを指し示す言葉でしたよね?」

 

 普段はビリビリ芯に響くような大声のバスガスさんも、周りで眠っている人が居るためか、声を潜めて重厚感のある低音で喋る。

 まるで怪談話をするかのような陰鬱な雰囲気を作り出しているバスガスさんに、静かに囁くような声で問い返す先生。

 

「よく知ってるな。昔の話だし、嬢ちゃんくらいの子供は普通知らねえと思ったんだが」

「ええ。たまたま知る機会があったので」

 

 十年以上も昔の話。

 俺たち転生者が、この世界に生まれたばかりの頃か。

 

「悪夢は、女王と亡霊に並ぶエルロー大迷宮の生ける災厄だ。夢で魘されるってこたぁ、そりゃあ悪夢がお出ましになる前兆かもしれんぞ?」

「けど、たしかその魔物は亡霊共々、既に死んでいるんじゃありませんでしたか?」

「世間では、そう言われているな」

「世間では?」

 

 バスガスさんの含みのある言い回しに、俺は聞き返す。

 

「ああ。一般的には両方とも死んだって話だが、俺にはどうもそれが信じられん。あの化物どもがそう簡単にくたばるのかってな。きっと今も何処かで生き延びていて、虎視眈々と獲物が来るのを狙っているんじゃねえかと、俺は思っている」

 

 やたら実感の籠もった語り口調で話すバスガスさん。

 

「まるで実物を見たかのような言い草ですね」

「おう。何を隠そう、悪夢の第一発見者とは、俺の事だからな」

 

 何故か胸を張り、誇るように言うバスガスさん。

 どうやら当時、悪夢や亡霊が引き起こしたと思われる異常な事態について、原因の究明や魔物の間引きをするために、派遣された騎士団を案内したのがバスガスさんらしい。

 そして、その魔物の巣まで何も知らずに行ってしまい、奇跡的に生還したらしい。

 

「よく生きて帰れましたね」

「そこなんだよな。悪夢は妙な習性というか、何と言うかがあってだな? こっちから手を出さなければ見逃してくれるんだ。それどころか傷を治してくれたりもする。亡霊の方も似たような習性だったらしい」

「……えぇ?」

 

 しかし、この後に組まれた討伐隊では有無を言わさず全滅させたらしく、その後もトンデモナイ大事件を起こして騒動を巻き起こしたり、逆に気紛れに人助けのような事もしていたらしい。

 それは本当に魔物なのかと、疑念に思うようなチグハグさだ。

 

「まあ、悪夢に関して確実に言える事は、トンデモなく強いって事だな。此処までの戦いで坊主の強さは見せて貰ったが、それでも上には上がいる。この世には、どうにもならない相手がいるって事を頭の中に刻んでおけ」

「ええ、分かっています。痛いほどに……」

 

 間を置かずに、俺は返事をする。

 力の差なんてものは、既に悲しいほど身に沁みて痛感している。

 

 けど、その力の由来と与えられる目的を考えれば、俺は羨ましいとも妬ましいとも思えない。

 ユーゴーとソフィアたちは一体どうして、あそこまで鍛え上げてでも戦う事を選んだんだろう。

 

「何やら坊主にも事情がありそうだが、あんまし気負い過ぎる事はねぇ。人間出来る事、出来ない事があるんだよ。出来ない事を無理してやろうとしたって、出来ねぇもんは出来ないんだ。坊主に出来る範囲でやりゃあいい」

 

 そのようにバスガスさんが窘めてくれるが、簡単には割り切れそうに無いと感じた。

 

「でも、目を逸らす事は……」

「何に悩んでいるかは知らねえが、生きてこその悩みだ」

 

 バスガスさんの声に、顔を上げる。

 

「出来もしねぇ事を無理してやろうとして、死んでいく人間は多い。人間なんざ、ちょっとの事ですぐ死んじまう。頑張りすぎて死ぬなんて、本末転倒もいいところだろう?」

 

 真剣なバスガスさんの助言に、俺は耳を傾ける。

 

「坊主、何かを守るための戦いってやつは、確かに立派なもんだ。けどな? 勝てない奴を相手に逃げる事は恥じゃねぇ。そこで死んじまったら、もう一度立ち向かう事も出来ねぇだろ? その時に勝てないのなら、逃げて力を付けてもう一度挑めばいい。まあ世の中には、どんなに頑張っても届かない化物もいるけどな」

 

 きっと、バスガスさんは色んな出来事や様々な人間を、幾つも見てきたんだろう。

 迷宮という過酷な環境で、何度も何度も、長い時を過ごす案内人。

 その中でも、老齢になるまで迷宮に潜り続けた人の事だ。

 きっと、俺には想像も出来ないほど、積み重ねられた人生を背負ってきたんだろう。

 

「もし、ですけど……。バスガスさん個人では絶対解決出来ない難題に直面した時。そして、その問題から逃げる事は絶対に許されていない時は、どうしますか?」

 

 俺は、思わずそう呟いていた。

 それにバスガスさんは、当たり前の事実を言うかのように軽く答える。

 

「あん? そんなもん気にせず逃げればいいだろ。生きようとする事の何が悪い? それを責めるような奴がいるなら、じゃあテメエでやれって言ってやればいいんだよ」

「それでも逃げられないのなら……」

「仲間連中を頼る」

「え?」

 

 ほぼノータイムで返ってきた答えに、俺は呆然とした声を上げる。

 

「当然だろ? 俺一人ではどうにもならないなら仲間を頼る。迷宮案内人っていうのは、そういうもんさ。……さっきも言ったろ? 出来ないもんは出来ないんだ。一人の人間に出来る事なんざ、たかが知れているんだよ。それなのに何でもかんでも出来ると思うのは、そりゃ傲慢ってもんさ。思い上がりも甚だしい」

 

 辛辣な持論を述べるバスガスさんに、俺も先生も目を丸くして静かに聞く。

 

「所詮、人間なんてちっぽけなもんよ。己の体一つしかねぇんだから、自分以外を頼り守らなきゃ生きていけねぇ。弱い俺たちは、しがらみ抱え込んで身を寄せ合って生きてんだ」

 

 そして、たっぷり間を取ってから、バスガスさんが告げる。

 

「人間、どうしようもない時は逃げろ。そんで、仲間を頼れ。坊主にもいるじゃねぇか、仲間って奴がよう?」

 

 そう言って、バスガスさんは寝ているみんなに視線を向けた。

 

「バスガスさん」

「……なんだ?」

「ありがとうございます。…………バスガスさんのおかげで、何となく俺が進むべき道が分かったように感じます。だから感謝しているんです。俺を叱ってくれて」

 

 そう、俺が答えると、バスガスさんは朗らかに笑い声を上げた。

 

「おう。分を超えた責任なんかは、一人だけじゃ潰れちまうもんだ。それに直面した時に、逃げる選択肢もあれば、己の信念に従って突き進む選択肢もある。結局のところ、一番大事なのは自分がどうしたいかって事だしな。けどな、坊主は一人か?」

 

 自分がしたい事。

 みんながしたい事。

 俺たちが、したい事。

 

 打ち明けたとして、賛成してくれないかもしれない、理解してくれないかもしれない。

 もしかしたら、拒絶され否定されるかもしれない。

 

 それでも、向き合う勇気が生まれた。

 この禁忌の事を話すという事は、みんなを苦悩に突き落とす行為でもある。

 だからこそ、みんなの苦悩も背負おう。

 全員で分け合い、そして全てを纏めて抱え込む。

 

 俺は、ユリウス兄様とは違う。

 あらゆる悲劇や絶望に対して、誰よりも先頭に立って導く事は出来ない。

 

 俺は兄様ほど、強くないのだから。

 仲間の支えが無ければ容易く折れてしまいそうな俺では、一人では生きられない。

 だから、みんなの助けを借りよう。

 

 カティアの、冷静沈着な頭脳が必要だ。

 ユーリの、このシステムという法則が表ではどう伝えられているかという知識が必要だ。

 フェイの、自由で枠に囚われない考え方も必要だ。

 ハイリンスさんの、世界を見て回った知見に基づく視点も必要だ。

 そして、先生も……、エルフの内情を知っている人も。

 

「ご助力、感謝します。俺は、仲間みんなと真実に向き合っていこうと思います」

 

 この迷宮を抜けて、一息つける時。

 迷いはもう無い、その時に告げよう。

 この世界の真実を。

 

「心配掛けました。俺は、……逃げない」

「そうか、それなら俺から言う事は何もねえな。気張れよ」

 

 一歩を踏み出す恐れから抜け出した俺に、諦めるという文字は無い。

 そう決意と気炎を滾らせている俺の肩を掴み、痛いほどバスガスさんが背を叩いてきた。

 揺さぶられて、結構キツイ。

 

「……気になってたんだが、その首巻き見してくれるか?」

「え? これですか」

 

 バスガスさんが俺のマフラーに対して、穴が空きそうなほど目を細めて見詰める。

 そして鑑定してみたいと言うので、首から外して手渡す。

 

「やっぱり、亡霊の翅だ。坊主、これをどうして」

「それは前勇者の、ユリウス兄様の形見です」

 

 これは兄様の形見なのだと、誇ることも嘆くことも無く、ただ事実のみを告げる。

 

「なるほどな。ザトナの悲劇に居合わせた勇者、その弟がオメエさんって訳か」

 

 バスガスさんが、しみじみと言う。

 

「亡霊の加護ってのも縁起が悪そうだが。まあ……、大事にしろよ、それ」

「もちろんです。……ところで亡霊とは?」

 

 さっきから何度か会話に出てきた亡霊という単語は、何となく予想は付いているものの、確証は無いのでバスガスさんに問う。

 

「ああ。そういや言ってなかったな。亡霊は蛾の魔物らしい。俺は直接見た事は無いがな。そして悪夢は、蜘蛛の魔物だ」

 

 やはり、これはそういう物だったのかと、一人納得する。

 かつて兄様が出会った魔物。

 その欠片が、今俺の手にある物なのだと、そっと撫でる。

 

『シュン——』

 

 跳ねるように顔を上げる。

 そこには、驚いたような顔のバスガスさんと先生しか見えなかった。

 

 けど、今——

 

「……兄様」

 

 幻聴、だろうか。

 でも、おかげで勇気が持てた。

 

 ギュッと、首に巻き直したマフラーを握りしめる。

 

 そうだ、俺には兄様がついてる。

 王都の時から、ずっと。

 

 決意を新たに、立ち上がる。

 勇気の欠片は、いつでも俺のそばに居たんだと気付いたから。

 

 兄様が、誰かを導く光なら……

 俺は、仲間と共に、照らし出された道を歩んでいく。

 

 俺は。

 みんなに支えられつつも、俺として。

 生きていくのだと。




「ほい、サクッと人影撃破。……うぇっ!? 嘘でしょ!? そりゃ無いって!!??」
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