【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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S9 禁忌

 宿の一室に集まった、俺たち。

 俺、カティア、ユーリ、フェイ。

 つまりは、今居ない先生を除いた転生者たちだけで集まっていた。

 ハイリンスさんは気を利かせて席を外し、今は酒場で時間を潰しているだろう。

 

「それで、カティア。何の話だ?」

 

 単刀直入に話を切り出す。

 それにカティアは、魔法による遮音を施すと重々しく話し始めた。

 

「勿論、他の転生者についてだ」

 

 カティアがベッドに腰掛ける。

 じっくりと時間を掛けて話すつもりのようなので、俺たちもベッドや椅子など座れる場所に各々腰を下ろして聞く態勢になった。

 

「シュンたちには黙っていたけど、私は先生に他の転生者について問い詰めたことがありますわ。先生が言うには、エルフの里で保護したのが十一人。俺たちを含む接触に成功したのが八人。残り七人が所在不明って話でした」

 

 その話については、先生と初対面の時に言われたのを少し朧気だが憶えている。

 

「接触に成功したっていう八人のうち、俺、シュン、フェイ、ユーリ、ユーゴーは確定だ。あとの三人は聞いていません。此処まで大丈夫か?」

「ああ」

「問題は、所在不明の残り七人。そのうち五人は既に死んでいるって話です」

「……そうか」

 

 氷柱を直接体の中に入れられたかのような冷たさが、一瞬全身を突き抜けた。

 予想してなかった訳じゃない。

 だが、こうして事実を聞くとなると、堪えるものがある。

 

 断片的な情報からでも、先生が転生者を保護するのに相当な無茶をしているのが分かってたし、それほどの無茶があるという事は、危険もまた大きかったのだと察せられる。

 中には当然、間に合わなかった可能性もあるわけで……

 

「死んだ奴は、林康太、小暮直史、桜崎一成。そして苔森真理と、若葉姫色ですわ」

 

 ユーリが苔森さんのところで、フェイが若葉さんのところで強く反応した。

 

 ユーリの前世、長谷部さんのクラスでの席は俺の隣であり、そこで二人がよく会話していたのがぼんやりとだが浮かぶ。

 前世での二人は仲の良い友達のようだったと、かなり薄れかけだが記憶の片隅に残っていた。

 ユーリは目を閉じて静かに手を組む。

 それは、亡くなった友達に対して冥福を祈っているのだと、俺でも強く感じ取れた。

 

 そしてフェイの方は唇をキツく結び、形容し難い表情を浮かべていた。

 フェイと若葉さんとの間には、浅からぬ因縁がある。

 フェイが、若葉さんにイジメに近い事をしていたという、因縁が。

 その事について、フェイは生まれ変わってからは自分の行いを悔いていたけど、その相手が既に死んでいたのだと聞き、複雑な感情を抱いているようだった。

 

「あー、ごめん。なんかちょっと、言葉に出来ない」

 

 フェイが、力無くベッドに倒れ込む。

 そんなフェイの様子を見て、俺はカティアにも視線を向ける。

 たしか、カティアは前世で若葉さんに告白して玉砕したと記憶しているからだ。

 

「カティアは、若葉さんのことは……」

「私ですか? まあ、そりゃショックかな? けど、なんというか実感が持てないって言うのが、正直なところですわ」

 

 俺たちは転生者の誰かが死ぬところを直接見たわけでは無く、ただ先生から死んだと伝えられたに過ぎない。

 それはつまり、極限まで簡略化された事実のみの言葉でしか無いのだから、実感が湧かないのも当然かもしれないな。

 

 それに、俺たちはこっちの世界で既に前世と同じくらいの時間を過ごしている。

 あんまり成長出来てる実感は無いけど、もうそれだけの新しい記憶が積み重なっているのだ。

 つまり正直なところ、前世のクラスメイトたちの顔だって朧気でしか無い。

 仲の良かった連中の事は、それなりに憶えているが、それ以外となると強烈なインパクトのあるエピソードでも無ければ、記憶から忘れかけていた。

 

 死んだ五人のうち、若葉さんと桜崎君とは仲が良かったとは言い難いが、若葉さんは人の視線を集める容姿だった事で、桜崎君はユーゴーの前世である夏目の幼馴染でお目付け役だった事から、今もなお記憶に残っている。

 苔森さんは、隣の席の長谷部さんによく会いに来てから印象に残っているし、ともすれば中学生以下に見える先生並みに小柄な背丈だったのも印象に刻まれていた。

 

 ただ、林君に関してはさして仲が良いわけでも無く、正直言うと既に顔も思い出せない。

 すまん、林君。

 

 俺たちは、それぞれ互いに記憶の断片を出し合う事で、交流の無かったクラスメイトたちの事を思い出しながら、話を広げていく。

 

 俺にとっては死んだ五人の中では一番仲が良かった小暮。

 かなりの泣き虫で、何かある度に涙を流す癖が付いているようだった小暮について、彼の大泣きエピソードで盛り上がる。

 林君は、普段あんまり明るくないのに体育の授業でラケット持った瞬間に性格変わったよなと、みんなして思い出す。

 そう言えば、若葉さんは予想外に運動音痴だったよなと体育の話から話題に上がって、フェイもぶすっと不貞腐れた顔だが、若葉さんのエピソードについて話していく。

 

 そして次は……

 

「そういえば、苔森さんの事を詳しく知っているのはユーリだよな?」

「うん、そうだよ。自由行動ばかりしていたから誤解されがちだけど、根は真面目な良い子でね。背が小さいのを気にしてたから、それをからかわれると普段とは打って変わって怒ってたなぁ」

「ああ、何となく思い出したわ。いたわ、そんなチビっ子」

 

 俺の問いにユーリが答え、それにフェイが今思い出したといった感じで呟く。

 

「印象的なエピソードってなると……。あっ、たしか一度、若葉さんに思いっきり抱きついた事があったかも」

「あの若葉さんにか?」

「その若葉さんにだよ。まあ、若葉さんの方は表情一つ変えず無言のままで、少しも相手にされなかったけどね。結局、真理ちゃんはトボトボ帰って来たし、若葉さんも何事も無かったかのように行っちゃったけど」

「なんで、そんな事を」

「うーん? たしか突然抱きついたら何か反応あるかなって言ってたかも。思いつきで動くことも多かったし、興味があると体が動いちゃうタイプだったから、深い理由は無いと思うな」

 

 苔森さんについてはユーリ以外あまり知らないので、話は桜崎君のエピソードに移り変わる。

 

「はあ。いっちゃんが生きてれば、夏目のバカも違ってたかもしれないのにね」

「そうかもな。桜崎君がいないから、ユーゴーもああなったのか?」

 

 フェイが言ういっちゃんとは、桜崎君のことだろう。

 前世から横暴な性格だった夏目のストッパー役であり、唯一あいつに対等で話せる奴だった。

 夏目と桜崎君は、二人セットで見られる事が多かった。

 その夏目が暴走しそうになると、いつもさりげなく止めに入り問題が大きくなる前に仲裁して、毎度ケンが悪いことしたなって、こっそりと謝りに来ては後始末に奔走していたのを憶えている。

 もし、桜崎君が今もユーゴーの隣にいたら、未来は変わっていたかもしれない。

 

「どうしてこうなったんだろう。みんな日本では、それなりに上手くやれてたはずなのにな」

 

 俺の呟きに、カティアが返す。

 

「異世界に生まれ変わったのですわ。誰だって変わるものさ。ユーゴーは、私たちとは違う方向に変わってしまった。それだけの事なんだよ」

「カティアは……、いや何でも無い」

「私が何ですって、シュン?」

 

 変なところで切ってしまったからか、カティアが俺を覗き込んでくる。

 視線が重なり、ドキリとした感覚を覚えた。

 

「あー。カティアも少しは変わったかもな」

「それだけ?」

「え?」

「それだけかって聞いているんだよ、シュン」

 

 カティアの問いが分からない。

 けど、何も言わないのは良くないような気がして。

 

「……カティアは凄いよ。俺では気付かないところも良く見ている」

 

 浮かんだ言葉を、反射的に口に出す。

 

「大切な親友(・・)だ。いつも助けて貰ってる、感謝してるよ」

 

 上手い言葉を見つけられず、所々つっかえながら語る。

 下げていた視線を戻すと、カティアが少し頬を赤くしつつも不満気な表情。

 そして周りを見れば、膨れっ面のユーリと笑いを堪えているフェイの姿が目に映った。

 

「なに、笑ってるんだ?」

 

 カティアがフェイの方を向き、その態度を見咎める。

 

「いいやー? あたしはこの件に関しては傍観派ですからー」

 

 ニヤニヤと嘲り笑うフェイに対し、カティアとユーリが冷たく睨む。

 こういう空気になると、俺ではどうすることも出来ないので非常に肩身が狭い。

 

「それで? カティアはこれだけを言いに来たんじゃないだろ?」

 

 雰囲気を変えるべく、話題を逸らす。

 既に亡くなっていた五人のことを伝えるだけだったら、態々先生の居ない時間に来る必要は無いのだから。

 

「そうですわね。みんなは、先生の話を何処まで信じていますか?」

 

 やはり、その話か。

 

「まあ、普通に考えて妄想乙って感じよね」

「私も、先生の事は兎も角、内容までは信用出来ないかな……」

 

 半信半疑といった様子で、フェイとユーリが自分の考えを述べる。

 眉を顰めた物憂げな表情なのを見て、そろそろ頃合いなのではと俺は思った。

 

「俺が話したかった事も、それなんだ」

 

 常に意識の片隅にあった禁忌へと、目を向けた。

 慣れてきたとはいえ意識を向けた瞬間、濃縮された醜悪さが襲い掛かってくる。

 体の内側で、何かが這いずるような悪寒も走り、吐き気が増す。

 

 だが、俺は目を逸らさず受け止める。

 

 世界の再生、星の生命力、管理者、女神、システム。

 俺が知った真実。

 

「ユーリ、まずは落ち着いて聞いてくれ。……俺は禁忌をLV10にした」

 

 みんなの息を呑む音が聞こえ、特にユーリの顔は完全に表情が抜け落ち限界まで瞠目していた。

 一瞬ユーリから殺意が噴き上がるが、数秒後には一旦鎮静化する。

 

「……どういうこと?」

「それを説明するのに、まずは慈悲ってスキルについて話す必要がある」

 

 俺は、慈悲について話す。

 支配者スキルの一つ、そして死者蘇生を行えるスキルであること。

 そしてデメリットで使用する度に、禁忌のレベルが上がる事を説明した。

 

「じゃあ、王城での治療は……」

「全員即死だった。それを俺が生き還らせた結果、禁忌のスキルがカンストしたんだ」

 

 そして禁忌をカンストさせた事で知ったのは……

 

「禁忌のスキルの内容は、情報の開示だった。この世界の成り立ちの」

 

 俺は、この星が滅びかけている事を説明した。

 荒唐無稽であり信じてくれないと思っていたが、みんなは真剣に耳を傾けていた。

 

 滅びかけている原因が、この世界に住んでいた人たちのせいである事。

 MAエネルギーと呼ばれるものを浪費したせいで、世界が滅びかけた事。

 その代償として、この世界の人々は延々と同じ世界で転生し続け、生前に鍛え上げたステータスやスキルの力を回収され、それを星の再生に回されている事

 

 そして、先生が悪しきように言っていた管理者こそが、俺たちが神言と呼んでいたシステムに、自ら生贄となり世界を救った女神その人である事を。

 

 俺は、一度そこで話を締め括った。

 禁忌には他にも沢山の項目があるが、そこまで全部見終わってはいないからだ。

 だが、基本的な情報だけでも、これほど重たい内容だった。

 

「それじゃあ、先生の話は……」

「ああ、嘘塗れだ。正確には、それを教えたであろうエルフが、だけどな」

 

 先生本人は、嘘を言っているつもりは無いだろう。

 ただエルフがそう信じているという、客観的な意見を言っていたに過ぎないのだから。

 

「なるほどですわ。だから神言教は禁忌のスキル保持者を……」

「この世界の人々にとっては、自らの罪を突き付けられるようなモノだからな。この事実を広めないように、そういう措置にしたんだろう」

 

 次の瞬間、今まで黙っていたユーリが勢いよく喋りだす。

 その恐ろしいほどの早口な様子は、錯乱一歩手前といった状態で……

 

「え? え? 禁忌持ちは殺さなきゃ? でも、禁忌を上げたら真実が? 嘘? でもシュン君が嘘つくはずない。なら? え?」

「ちょ、ユーリ? あんた、落ち着きなさいよ」

 

 不意にピタリと言葉が止むと、ユーリはおもむろに手袋を外す。

 そして、自ら手首に爪を走らせ切り裂いた。

 

「ユーリ!? 止血を!?」

 

 俺は血が出る手首を瞬時に掴み、そのまま無言のまま至近距離で向かい合う。

 傷口をキツく押さえて、強く手首を握り締める。

 そのまま治療魔法を発動させて、血が止まったのを確認してから手を離した。

 

「止めてくれ、ユーリ。わざとだとしても、誰かが傷つくとこは見たくない」

「……っ」

 

 ユーリが落ち着いたのを見て、俺は数歩下がる。

 

「ごめんなさい、シュン君。でも分かった事がある」

 

 一見、平静を取り戻したかのように見えるが、よく見ると瞳が濁ったままだった。

 そしてユーリは両手を天に伸ばす。

 

「そう、事実はどうであれ、神様はいらっしゃる! 神様の声が聞こえる! 私の信仰は、此処にある! それだけで充分! ああ、サリエル様!」

「分かった。分かったから、静かに! 迷惑になるから!」

 

 実際は遮音を施したままなので問題は無いのだが、ユーリを現実に引き戻すために色々と理由を付けて説得する。

 暴走するユーリを取り抑えるのにカティアやフェイも加わり、信仰心ガンギマリ状態のユーリが正気に戻るまで、結構な時間が掛かった。

 

 

 

 

 一騒動あったが仕切り直し、カティアが俺に向けて問い掛けてきた。

 

「あー、話を戻そうか、シュン。その禁忌の内容、先生にも言うのですか?」

「ああ。先に三人に説明したけど、実はハイリンスさんや先生にも話そうと思ってた」

 

 俺一人では気付けない視点もあるだろうと、今いない二人にも告げるつもりだった。

 実際に、誰かと語り合う事で見えていなかったモノが見えるようになるのは、カティアと一緒に過ごしていた時に、何度もあった事だから。

 

「ハイリンスさんは良いとして……、先生に話すのは反対ですわ」

「……どうしてだ?」

「まず先生がどう反応するのか読めない事。それに、禁忌の内容を先生に話した事で、予定通りにエルフの里に入れなくなる可能性もありますわ。今まで信じていたものが嘘だと知ったら先生は、ただショックを受けるだけでは済まないでしょう」

 

 たしかにそうだ。

 エルフの里への転移陣について知っているのは先生だけだ。

 その先生がもし、エルフが嘘をついていたという事実を知ってしまえば、これから向かう場所で騒動が起きる可能性がある。

 それが穏便なものであればいいが、そうはならないだろう。

 

「シュンの話で、世界の仕組みや管理者については理解した。ですが、それでも先生が隠している何かは多すぎます。全てを話すと言いながらも、まだ説明されて無い事が多いのだから」

 

 それは、俺も思っていた事でもある。

 先生は転生者の情報は意図的に制限しているようだった。

 エルフの里で保護されているという転生者、その現状や誰がいるのかなど。

 俺たち以外の、エルフの里で保護出来なかった転生者について、殆ど何も聞かされていない。

 

「先生が私たちに隠しているって事は、それなりに理由があるんだろうと、私も思いたいですわ。けど、現状が現状だ。今は問題を起こしたくない。せめて、保護されている転生者に会うまでは」

 

 カティアの言いたいことは正しい。

 たしかに、あとちょっとまで来て、足止めは食らいたくないと思うが……

 

「フェイとユーリは……」

「あたしも、タイミングが悪いと思うわ」

「それに私たちも、考えを整理する時間が必要じゃないかな」

 

 認識を根底から覆されるような事実の連続だった。

 気持ちの整理をつける時間も必要か。

 

「分かった。今はこの四人だけの秘密にしておこう」

 

 今は、これでいい。

 此処で立ち止まっても、答えは出ないだろう。

 その鍵を握っていそうなのが、ユーゴーやソフィアたち、そしてエルフ。

 

 俺たちは、向かわなければならない。

 ユーゴーたちの真意、ユーゴーたちの手に囚われたスー、エルフの本当の顔。

 それらが一点に集う、場所へと。

 

『——贖え』

 

 頭の中で鳴り止まぬ、呪詛を見詰める。

 

 逃げたいと思った。

 死にたいと思った。

 自分の感情が制御出来ず、みんなにキツく当たりかけた事もあった。

 

 最初は、罪も無い俺たちが一体何をしたんだと、見当外れな言葉を繰り返す禁忌に強い不快感を覚えた。

 

 だが、今なら思う。

 仲間がいる事を知り、みんなが引き上げてくれたから、俺は持ち直したんだ。

 ユーゴーたちが動いているように、俺だから、俺たちだからこそ出来る事があるはずだ。

 

 その答えは完全には分からないけど仲間が居るのなら、もう俺は折れたりしない。

 

 甘ったれな俺なりに、出来ることをしよう。

 戦うこと、殺すことが、全てでは無いのだと証明しよう。

 

 力無き俺に出来ることは、真実と向き合い対話すること。

 それが人間というものなんだと、前世から信じているのだから。




「山田君がもうそこまで来てる……。正直、魔王も居るから困るんだけど。禁忌カンストして真実話してるし、上手くいけば引き込めるか? 来たら考えよう。今は気分も悪いし放っとこう……」


(漸く原作をなぞるだけという、死ぬほど書き辛い作業から解放される……)
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