おはようございます!
いやまあ光源がマグマの中層で、時間なんてわからんけど。
いやー二人いると片方見張りしつつ進化出来るから、進化の時の安全確保がダンチだわ。
コケちゃんは魔法を器用に使うから、休憩場所の確保が難しい場所でも即席で身を隠せる場所を作れるし、水魔法や治療魔法も使えるので中層の敵が使ってくる火の攻撃に対しても打ち消せるわダメージを負っても回復出来たりするというのは、心強いことこの上ないね。
あの転がって移動する方法は体張りすぎていてドン引きだけどさ、それを実現させるには精密な魔法の技術あってこそだろうし、それが味方として力になってくれているのは頼もしすぎる。
ていうか、森羅万象ズルすぎっ!
何よ、制御の利く探知って。
デメリットを埋めて有り余るほどの有能スキルじゃん!
こちとら初期スキル、脚早くするだけの韋駄天じゃぞ!?
まあ、それはそれとして……
今思うと、最初の進化は気を失っちゃうのもMPとSPも無くなっちゃうのも知らなかったし、しかも種として最弱ステータスと、なにげに最も危険だったんじゃない?
今は無防備な進化中を守ってくれる仲間もいることだし、寝込み中に襲われる心配はご無用ってね!
まあ一人ではどうしようもない相手だと厳しいかもしれんが。
さて、コケちゃんはどこかなっと……いた。
私が進化に入ったときと同じ場所で、殆どその場から動くこと無くジッとしていた。
コケちゃんが動いてないってことは、何もなかったのかな?
感知能力で言えば、コケちゃんのほうが圧倒的に優れているから、何かあればすぐ気づくだろうし。
『……あっ、起きた? 蜘蛛子ちゃん』
私の進化が完了した事に気付いたコケちゃんは、此方を見ていないにも係わらず、すぐさま念話を飛ばしてきた。
早い、気付くのが早いって。
突然脳内に語りかけられるのは、最近は多少慣れたものの結構ドキっとしてしまう。
気をしっかり保っている時なら平気だけど、不意打ちで声をかけられると頭が真っ白になるのは変わってない。
だからフリーズして反応できずに、ずっと待たせちゃうときが多々あるけれど、そんなときでもコケちゃんは気長に待っていてくれている。
どう返したらいいのかとか、待たせている罪悪感とかで、思考がフリーズし続ける悪循環に陥るときもあったけど、そんなときでもコケちゃんは待ってくれた。
たぶん十分とかそれ以上待たせたはずなのに、途中で怒ったりとか呆れたりせず、私が返事するまで辛抱強く待ってくれたことに驚きしかない。
前世でクラスメイトに話しかけられたときも、同じようにフリーズして何も反応を返せ無くなって、そうしていると勝手に相手が怒ったり避けていって私の前からいなくなっちゃうのに。
それでも、コケちゃんはずっと待ってくれている。
思い返すに、私とコケちゃんの接点というものは殆ど無くて、インドア派で野外活動をサボっていた私に、ちょっとちょっかい掛けてきたくらいしか、出来事がなかった気がする。
ぼんやり憶えている記憶だと、彼女は自分の好きなことには全力で、そのためなら周りを気にしないタイプだったと思うから、良い意味でも悪い意味でもちょっと浮いている感じだったかな?
まあ彼女の場合は、人当たりは良いほうだったからマシなほうで、私みたく悪目立ちするような浮き方の人間とは別物だけど。
……て、回想している場合じゃなかった。
こうして私が過去に意識を飛ばしていても、コケちゃんは変わらず待っていてくれるのだから、ほんとコミュ障の私にはありがたい存在だと思うよ。
進化したことで変化していた鋭い鎌のような前脚を振って返事をする。
念話を習得できないって以前そう話したから、言葉で返さなくても文句も何も、言われたりすることは無い。
正直それにはコミュ障的に、とっても感謝しているしありがたく思っている。
それに甘えて、実は念話取得可能なのにずっと念話出来ないから話せないと偽って、この関係をズルズルと引き伸ばしているのは私のエゴでしかない。
でも自ら声を出す勇気を私は持てていないから、後ろめたさを感じながらもこの嘘を明かすことはない。少なくとも今はまだ……
見張りをバトンタッチして、コケちゃんが進化に入った。
進化中は身体が作り変わるわけだけど、その進化途中の姿はそれぞれ種族固有のものみたい。
私の場合はレベルアップのときのように脱皮しながら姿が変わっていくらしくて、古い皮が何度も何度も剥がれては消えていくらしい。
そしてコケちゃんの場合は、一回り苔が膨らんで完全な球体になると、その内部にて身体が作り変わっているみたい。
前回は緑色の苔が剥がれたと思ったら、内側からド派手な黄緑色が出てきたときはビックリしたものだよ。
そんな進化だけど、今回はどうなるかわからない。
コケちゃんから進化先について相談を受けた時は、テンパってなかなか返事が出来ていなかったと思うけど、ゆっくり一つずつ聞いていって候補を絞っていった。
——ゆっくり聞いてくれたともいう。
まず大きくなる進化は無いでしょ。
こんな足場の悪い環境で大きくなったら動きにくくなるし、池ポチャならぬマグマポチャしちゃうし。
飛行能力を獲得出来る進化は魅力的だったけれど、進化ツリーがどうなっているのが分からないから敬遠した。
その時強くても、次の進化が微妙とか進化が打ち止めだった場合取り返しがつかないからね。
コケちゃんがいた群れには、そこから進化したっぽい種族はいなかったらしいし。
それで最後に残ったマユ・マリという進化先なんだけど……
明らかにデメリット多めの進化だと思うが、説明からして次の進化があることは確定していたし生まれ変わるなんて書かれるほどの進化が待っているとしたら、将来性に賭けてみるのも悪くないだろうし。
さて、コケちゃんが進化するまで、ウナギを捌くとしますかー。
おぉ!? この鎌みたいな前脚、すっごい斬れ味してる!
鱗と肉の間にスッと入っていって。鱗剥ぎがサクサク進んでいく。
さて、お先にいただきまーす。
っ!? ウナギも、うまぁーい!
一応コケちゃんの分として半分ほど残してウナギを食べ終えた頃。
取得可能一覧から、忍耐というスキルを見つけて獲得し、禁忌のレベルが上がりつつも外道無効という欲しかったスキル最上に位置するものを偶然獲得して喜びに浸り、ようやく探知が使えるとウキウキしていた。
半分ほど残ったウナギの誘惑に耐えつつ周囲の警戒をしていると、コケちゃんの進化が終わったみたいで丸々膨らんでいた苔の塊がボロボロと崩れ始めた。
急速に枯れて崩れていく苔の中から出てきたのは濃い緑色をした繭玉で、その大きさは元のコケちゃんからだいぶ小さくなっていた。
私とコケちゃんの大きさは、ドッコイドッコイの大きさでしかなかったけれど、今はあまりにもコケちゃんが小さくなってしまった。
下層にいたタニシ虫よりは大きいくらい?
その程度しかないから、大抵の魔物から簡単に踏み潰されそうなか弱い姿に見えてしまうけど、ステータスを見たことで考えを一転させる。
なにこの極端なステータス!?
魔法とMPはわかるけどHP防御抵抗も高くて、私のステータスの倍以上ある。
けど攻撃と速度が死んでいるどころじゃない値で、正直もしかしてやっちまったんじゃ……?
そう思ってしまった。
けど、そのあと聞こえた声に私は悔やんでいる場合じゃないって気付いてしまったんだ。
『私を背負って、戦ってくれる……?』
その声色は今まで聞いたことがない響きで、隠しようもない不安が滲んで震えていた。
いつもは空元気のような明るい口調で話しかけて来るのに、今回ばかりはか細くて悲痛な音色だったから。
その声に私は、チクリとした痛みを感じた。
私が! 私が、選ばせたのに! 軽い気持ちで辛い道へと進ませたのに!
けれど、私はそれを言葉にすることは出来ない。
もし念話が使えたって、私はその一部ですらまともには伝えられないだろう。
それが確信出来るからこそ、私はこの思いをどうすることも出来ない。
そんな意気地なしの私は、心に痛みを抱えつつも頷くしかない。
するとコケちゃんは、こんな私に対して万感の思いを込めて言う。
『……ありがとうっ!』
……私は何も言わずに彼女を背負う。
何も強化していない糸だとすぐ燃えちゃうからダメなんじゃって思ったけど、コケちゃんが私の糸に燃えないように魔法を掛け続けてくれるので、私は絶対に落とさないようにしっかり包んで、縛り括り付けていった。
そして食べることが出来なくなったコケちゃんの分も食べきって、私は歩き始めた。
——私が守ってあげないとね。
せめて次の進化まで助けなくちゃ、背中に感じる重みに私はそう決意した。
さて、道中なんやかんやあったものの歩き続けマグマの湖といった場所に到着した私たち一行。
並列思考が進化して並列意思になり、私の頭の中が賑やかになったりだとか。
探索の道中で探知と鑑定がLV10になって、なんか無いかなーって愚痴ってたら、上位管理者Dなるものが《叡智》というスキルを私に送りつけてきた事だったり。
そのことで、よくよく考えたらこの世界って変じゃね? って気づいて怖くなったり。
でもそんなのがいるとしてウジウジしても、私は何にも出来ないから今を生き抜くしか無いって奮い立ったり。
そうやって考え込んでいたら、しおり糸に火が着いていて身体に引火しそうになっていたけど、コケちゃんが水を降らして防いでくれていたとか。
なかなか私が思考に没頭したまま戻らないから、水を思いっきりぶっ掛けられたとか。
何があったのか気づいたコケちゃんが《叡智》というスキルをみて、その能力にブチギレて嫉妬し、『ズルいズルい……』としか言わなくなったり。
……魔法主体のコケちゃんのお株を奪うようなスキル性能だったしね。
試しに魔法を使ってみたら、その魔法の精度にまたもや拗ねてしまい、『私なんて、いらない子なんだ……』と面倒くさい女ムーブに陥った、コケちゃんの怨嗟の声を聞き続けることになったりとか。
忍耐を獲得して取得可能になった、邪眼系スキルを試してみたりとなどなどと。
実に様々なことがありました……
主に私が原因な気がするけど、気にしちゃあいけないことさ。
私は、過去は振り返らない女だから……フッ。
ともあれ、進むにはマグマに浮かぶ小島に飛び移って行かないとダメみたいだから気をつけてジャンプしていく。
そろそろ次のご飯になるのがいないかなーと探していると、コケちゃんが警告してきた。
『前方五百メートル先のマグマ、強い魔物の気配とウナギが五匹、それと沢山のタツノオトシゴの群れ。気をつけて』
すぐさま隠密を発動して気配を殺し、集中する。
とくに何もないように見えるけど、中層の魔物はマグマに潜むので目視は当てにならない。
私も叡智に統合された探知を使うものの感知能力としてはコケちゃんのほうが上なのか、大きな気配は感じ取れたがタツノオトシゴなど細かい情報までは把握しきれなかった。
さすがに群れを相手にするのは危険すぎると思って迂回を考えたけれど、奴らの目の前を通らないと先に進めないため、戦いは避けられそうになかった。
私は危険を承知の上で、進むことを決意する。
そして一歩また一歩と進んでいき、そいつはマグマから顔を出した。
エルローゲネソーカ、真っ当な竜らしい厳つい顔に、東洋の細長い龍を思わせるようなフォルムの火竜の上位種。
しかも統率と連携のスキル持ちで、次々と配下のタツノオトシゴを呼び寄せていた。
これは、まずいかも……
そう私が思っているとコケちゃんは言った。
『タツノオトシゴは任せて! 蜘蛛子ちゃんは火竜に集中して!』
私の周囲に術式が展開されたと思ったらすぐさま発動して、顔を出したばかりのタツノオトシゴたちの肉体を弾け飛ばしていく。
呼ばれたと思ったら、訳もわからないまま何も出来ず死んでいくタツノオトシゴたちに哀れみを覚える。
しかし、そうしなければ危険なのは理解しているので、むしろドンドン数を減らしてくれると助かるのが本音だ。
タツノオトシゴが役立たずなので、ウナギと火竜だけがブレスを吐いてくるけど面制圧される程ではないからギリギリ避けられる。
しかし狭い足場は私が十分逃げ回るには不足で、段々と端に追い詰められる。
そして左右にも後ろにも進めなくなった時、火球が襲う。
その攻撃に私は大きく飛び上がり、高熱を感じながらも飛び越えて勢いのまま天井に糸を伸ばして張り付く。
張り付いた私たち目掛けて火球が二方向から襲ってくるも、片方は相方を信じて任せ、私は正面の火球に最大量の毒合成で作り上げた猛毒の巨大な水玉を叩きつけた。
毒液の塊と火球は、互いに爆散し僅かに蒸発せず残った毒液が雨となって火竜たちに降り注ぐ。
私の蜘蛛猛毒は微量であっても致命的なダメージを与えるから、ポップするたびキルされ続けているタツノオトシゴや、運悪く口に入ってしまったウナギのHPを大きく削っていき、その生命を終わらせていく。
いい調子! このまま行けば勝てる!
そう思ったことが悪かったのか、レベルアップ時の脱皮に足を取られた。
——やばっ!? 落ちるっ!
踏ん張りが利かず重力に引かれて離れていく足場と、それをチャンスと見た火竜の炎が飛んできた。
避けられない!
『蜘蛛子ちゃんは傷つけさせない!』
突然横合いから強風が吹き荒れ、小さな私たちの身体をブレスの効果範囲から押し出していく。
そして、吹き飛ばされた先にはマグマの中に浮かぶ島があって、そこにクルクル回りながら落ちていく。
体勢を整えて着地すると、視界に映ったのはほぼ全滅したタツノオトシゴと重傷のウナギ四匹、そして闘志を滾らせる火竜一匹の姿があった。
ウナギは五匹いたはずだけど、一匹は毒で死んだみたい。
そしてウナギは今もなお続く魔法の掃射でガンガンHPを削られているからで、その身体はボロボロになっている。
降り注ぐ弾幕からの損傷を無視してウナギの一匹が突っ込んできたけど、死にかけのウナギなど恐れることは無く、軽やかに躱して腐蝕攻撃を纏わせた鎌で一閃。
前脚一本を失ったものの、ウナギの身体を容易く引き裂いて絶命させる。
失った前脚にコケちゃんが慌てて治療魔法を掛けてくれるけど、その前にレベルアップの回復で元に戻った。
さて後は四匹。
なら邪眼の出番!
……と思いきや激怒したコケちゃんの猛攻によってウナギが早々に沈み、残すは火竜一匹だけになったけど、本気になっていろんな魔法やスキルを当て続けたコケちゃんにより、様々な状態異常に侵された火竜は一歩も動くことが出来ずに、その巨体を痙攣させていた。
…………やっぱ状態異常はつよいわー。
そしてその矛先となったことがある私は、動けない恐怖に震えているだろう火竜に合掌した。
どうか、あまり苦しまずに逝けますように、と。
そして、陸地に引き上げたウナギや火竜を前に、コケちゃんは言った。
『試したいことがあるんだけど、いい?』
もちろん構わないよ。
『《強欲》発動……成功、さらに《征服》発動……失敗?』
なにやらコケちゃんがスキルを発動させると、今しがた止めを刺した火竜から光が飛び出して、それがコケちゃんに全て吸い込まれていった。
すると急激にコケちゃんの存在感というか内包するエネルギーみたいなのものが高まって増えていくのを感じた。
それに驚いていると、コケちゃんは凄く嬉しそうな底抜けに明るい声で喋った。
『でも、うん……よしっ、これなら……、これならもっと強くなれるっ!』
とても可愛らしい口調なのに、なぜか背筋が凍るような寒気を感じたのは、私の気の所為なんだろうか……
そして、鳴り響くレベルアップと称号獲得のアナウンスを聞きながら、私はまあいっかと適当に流していた。
コケちゃんの本当の状態に気づかないまま私は呑気に、強くなったら魔王なんて名乗るのもアリかもねと気楽に思っていた。このときはまだ……
「それでは、会議を始める。バルト」
「はっ」
魔王様の開催の声。
それに答えて、俺は会議を進行させる。
「まず各方面の報告から聞こう。第一軍から順に報告を」
いつもの流れ通り、現在の活動状況を聞いていく。
「……お声が掛かればいつでも進軍可能です。以上となります」
「第二軍も同様です。もう少し時間を頂ければ、裏工作が実を結ぶかもしれません」
「だ、第三軍……、全て順調だす」
「第四軍、問題ありません」
「第五軍、異常なしです。魔王様」
「第六軍、滞りなく遂行中だよ」
「……………………」
「はぁ、ブロウ」
「……チッ、第七軍、問題ねぇ」
我が弟ながら毎回空気を悪くするのは止めて欲しいのだが。
しかし、兄としての俺より魔王様の側近としての役目に徹する。
「第八軍、何も問題ないよ」
いろいろと問題がある奴だが、会議中はまともに合わせてくれるので大丈夫だ。
問題なのは次の奴らだ。
「第九軍も問題なく進軍可能だ」
鎧、肌、髪、全て黒い。本名すらわからず、ただ、黒と呼ばれる男。
「第十軍、問題なし」
「付け加えることは無いよ。全て順調に進行中」
対照的に、全てが白い少女。この女も素性が不明で、白とだけ呼ばれる。
着ているローブも肌も髪も、病的なほど白い、瞼を閉ざした女。
その隣には、口数が少なすぎる白と常に行動を共にしている非常に小柄な少女。
深緑のローブと魔女帽を被りボリュームのある髪が身体の大半を覆い隠している幼い女。
主に白が言葉足らずで報告がままならない時、口を出していつも説明を補っている。
正直、毎回最初から貴女が話して欲しいと思うのだが……
彼女もまた、名前さえわからず、見た目ゆえか、苔と呼ばれる。
魔王様が幹部に招き入れた三人。
素性はわからない。だが想像はできるし、その不気味さを恐ろしく感じている。
「うんうん、順調だね」
各自様々な色を浮かべる魔王軍幹部の顔を眺めて、ご機嫌そうに宣言する。
「じゃあ、戦争を始めようか」
「征服」は支配者権限(禁忌LV10)がないと使えなかったので、修正。
2022/04/25:追記。
蜘蛛子は
-
もっとコミュ障
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このままでいい