【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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蜘蛛12 かつての自分たちと戦おう

 うおぉぉ!? 

 ちょ、危なッ!? 

 敵に回ると、こうもヤバかったのか! 

 

 私は、必死になって二つの人影が撒き散らす猛攻から避け続けていた。

 

 地上からは、蜘蛛脚の人影が縦横無尽に跳ね回り、正確無比な暗黒の槍と空間歪曲が、見惚れるような精密さと苛烈さを併せ持って、容赦無く襲い掛かってくる。

 

 そしてシステム中枢という限定された空間において、天井付近ギリギリを目にも留まらぬ速さで飛翔するのは翅を有する小さな人影であり、その人影は狙撃手のように一瞬たりとも同じ場所には留まらず、死の気配纏う魔弾を全て異なる軌道で先読みしているかのように撃ち込んできていた。

 

 暗黒槍は相殺か空間遮断の防壁で防ぎ、空間歪曲は支配される前に干渉してやる事で潰す。

 そして、宙の人影から飛んでくる死滅の魔弾は、同じ属性の大鎌で切り払うか空間遮断で絶対に生身では受けないようにして、なんとか致命を避けていた。

 

 うがぁぁッ! 

 一旦、仕切り直しだ! 

 

 自分の周囲の空間を遮断し、立方体の箱の中に収まっているかのようなバリア的なモノを形成。

 空間遮断を応用した、即席の避難場所を作り上げた。

 

 ……ふう。

 一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせよう。

 

 この空間遮断は、効果範囲の空間そのものが外部の影響を一切受けつけない空間へと作り変える魔術だ。

 そのため、物理でも魔法でも基本的に破壊するのは不可能。

 遮断に巻き込まれた物体も原子単位で繋がりを絶たれ、物理的な強度では絶対防げない切断能力を発揮出来る。

 外から解除するには、私と同じく空間魔術に精通していなければ不可能だ。

 ただし、発動前に妨害されると脆い、完全に光とか音も遮断しちゃうため見た目が真っ黒だし、一分の隙間すら無く覆っちゃうと私も向こうを認識出来なくなっちゃうという欠点があるけど。

 

 それでも、ほぼ全ての攻撃を防げる無敵のバリアとして使えるのだ。

 とりあえず、時間を稼げた。

 外部から空間干渉を受けているのが分かるが、二人掛かりであろうと、今の私の支配力を越えて空間遮断の防壁を崩すのは並大抵の事では無いので、考えるには充分な時間がある。

 

 その間に、情報を整理しよう。

 新たに出現した人影は女神が告げた内容が正しければ、私とコケちゃん、それも神化する寸前のスペックを再現して現出していた。

 

 アラクネ時代の私。

 マステマ時代のコケちゃん。

 それぞれの人影については、半人半蜘蛛のを偽私、翅持ちのを偽コケちゃんと仮称しよう。

 

 その偽者たちだけど、尋常じゃなく強い。

 そりゃあ、荒野でUFO相手にしてた頃の状態を参照しているとすれば、私もコケちゃんも当時平均ステータス四万から五万はあったと思う。

 

 神になってからというものの、能力的にはアラクネ時代よりも相当高くなったけど、必要無いと切り捨てたモノも多いし、再現出来ていない能力もある。

 ぶっちゃけると使える手札を減らして、より強力な一部の能力に特化した感じだ。

 

 その筆頭が空間魔術であり、あとは邪眼とか闇や腐蝕属性など。

 

 ステータス的には然程変わってないので、今の私もステータス換算で五万から六万程度であり、それと少し下くらいのステータスで並ばれているので、身体能力で差が無くなった。

 さっきまでの人影は吸血っ子や鬼くんクラスの大体二万いかない程度だったので、余裕を持って対処出来ていたけど、偽私や偽コケちゃん相手となると一瞬の隙が命取りになる。

 

 さて、どうするか。

 能力については、粗方目星が付いている。

 過去の自分たちだからね、手の内は知り尽くしていると言ってもいい。

 

 まず偽私。

 暗黒魔法と次元魔法、それに死滅を含む邪眼各種を取り揃え、近接戦闘では大鎌と蜘蛛の前脚で迎撃するのも逆に攻めに回るのも可能な、遠近万能なオールラウンダー。

 さらに糸を使った戦術も可能であり、罠のように張り巡らせて動きを制限してくるだろう。

 次元魔法の練度も高く、短距離転移を駆使してくるし、こちらの空間支配にも逆らってくる。

 深淵魔法や腐蝕攻撃など即死級の攻撃も完備しており、致命傷を負っても欠片さえ残っていれば忍耐や不死やらで死なず、脳さえ残っていれば奇跡魔法で瞬時に復活してくる。

 

 わぁーお。

 昔の自分ではあるけど、なんてチート。

 こんな奴に襲われた魔王の気持ちが少し分かるわ。

 戦いたくねぇ。

 

 過去の自分一人だけでも厄介なのに、それと同等クラスの化物が、もう一人いるんだよなー。

 

 それが偽コケちゃん。

 幅広い属性の上位魔法を操り、状態異常や魔法妨害を引き起こす鱗粉、非力であるものの攻撃を受け流して守りに徹する旗杖の棒術など、徹底して遠距離からのヒット・アンド・アウェイを狙うスピードスター。

 その旗杖に腐蝕属性を溜め込み、腐蝕弾として狙撃する危険過ぎる遠距離攻撃も持ってる。

 そんな劇物を短いスパンで乱射しながら、近接攻撃の届かない空中を四枚の翅で高速飛翔して、決して敵を自らに寄せ付けない。

 さらにこちらも不死や奇跡魔法を所持しているので、耐久性能は折り紙付きだ。

 片方が粉々になるまで負傷しても、お互いに再生させる事が出来るだろう。

 

 こっちも大概ヤバイですなー。

 なんだよ、腐蝕弾って。

 しかも神速の如き速さで空中を移動するから、座標が目まぐるしく変化して空間魔術で狙い撃つのも難しいときた。

 やりづらい。

 

 こんなもの、システムを守るための防衛機構だとしても、過剰戦力にも程がある。

 ほんと冗談じゃないっての。

 

 これクリアさせる気無いだろD。

 魔王ですら、配下の人形蜘蛛を連れてきても勝率は微々たるものだろう。

 システム範囲内の強さでは、奇跡を幾多も重ねなければ攻略は、まず不可能。

 

 不正やらかそうとした相手に対するお仕置きだとしても、容赦が無さ過ぎる。

 まあ、どんな障害だろうと、私は乗り越えるしか無いけどね。

 

 負けられないんだ、勝利を寄越せ。

 

 とは言え、どうしたもんかなぁ……

 こちらの手札である、空間遮断や腐蝕属性は、あんまり効果が薄いんだよね。

 

 偽私も偽コケちゃんも、空間感知や干渉能力を持っている上に腐蝕耐性も相当高いと思うから、イマイチ有効打にはなりそうにも無い。

 

 こちらの攻撃手段が完全に潰されてる……

 先の人影で事前対策して速攻で撃破したとはいえ、逆にメタ張られるのは想定外だってば。

 

 ここで解禁するつもりは無かったけど、……使うか? 

 あれもシステムという魔術の産物だろうし、効果は確実にあるだろう。

 ただなあ……、ギュリギュリに見られる事は無さそうだけど、この場所でエネルギーを奪う魔術なんて使いたく無いんだよなぁ。

 

 この偽者たちを作るのに、どれだけエネルギーが消費されたか分かったもんじゃない。

 それを欠片も還元せずに吸収してしまえば、予定してた計画に支障をきたしそうだ。

 

 うーん……、ん? 

 お前、なんか策でもあんの? 

 

 大鎌から思念が伝わる。

 それに拠ると、あの程度の無効化なら突破出来ると言う。

 ただ、発動するにはもっと同調した上で、溜めがいるらしいが……

 

「ダメでもともと。それでいくか」

 

 試せる事は出し尽くしてから、切り札を使うとしよう。

 情報分析や分体に割いていた思考リソースを、戦闘用に比重を傾けていく。

 ちょっとばかり集中して、本気出すとしようか。

 

 空間支配を広げる事で周囲の状況を把握し、空間遮断のバリア内から短距離転移で抜け出す。

 すぐに、私の存在を感知した偽者たちが標的を変えて動き出した。

 

 再び繰り返される激戦。

 限られた空間を四方八方に駆け回りながら、互いに遠距離を保ったまま魔術や魔法を撃ち合う、超常の力で成される銃撃戦の中で舞い踊る。

 

 偽私の暗黒魔法の掃射と、その合間に挟まれる歪曲の邪眼を弾き返す。

 偽コケちゃんの対処しづらい死角から襲い来る狙撃を、空間遮断で確実に防ぐ。

 

 その中で私は、偽者たちの攻撃を片手で防ぎながら、もう片方の手にある大鎌と深く同調を開始していた。

 

 お前は、私の半身だよな? 

 ——その通りだよと、大鎌が答える。

 

 私が神化した際に巻き込まれて変質した、この大鎌。

 白くて清廉な優美さに反して、司る概念は悍ましいほどエグイもの。

 

 半身と言える存在であるが、私とは分離した別存在である大鎌の力を、完全に引き出せてるとは口が裂けても言えなかった。

 手に持てばドス黒く不気味なオーラを纏うが、ただそれだけだ。

 私自身の力で制御出来てる訳じゃないし、勝手に大鎌がやっている事でしか無いのだ。

 

 その力に、手を伸ばす。

 大鎌の柄を握る手のひらが、ヂリヂリと皮膚が重い火傷を負ったかのように痛みを訴える。

 いや、実際に手のひらの皮膚は消失しているだろう。

 

 腐蝕属性とは、そんな力だ。

 自らを滅ぼす力で以って外敵を滅ぼす、万象死滅の呪詛。

 

 死の崩壊を司るとは、良く言ったものだ。

 死で、死を制する。

 これの大本であるDが、死そのものが溢れかえっていると形容するほど、禍々しい気配の片鱗を見せていたのも納得できよう。

 これでも本来の力からは大幅に弱体化しているんだと容易に想像出来るほど、オリジナルであるD本人が持つ力の格は、途方も無いものだった。

 

 その切れ端でしか無い力ですら、私は満足に扱えていない。

 死滅の邪眼を再現出来たのは良いものの、使えば眼球に深刻なダメージが行き、一点の曇りすら無いほど完璧に再生が済むまで、他の邪眼を使用するのを控えなければならない欠陥品だ。

 でも、本来なら反動で眼どころか脳まで消滅しかねないものを、その程度のリスクで使えているのは、努力の賜物である。

 

 えっへん。

 まあ、それは置いといて。

 

「ぶっつけ本番で、引き出して見せるさ……ッ」

 

 難しい? 満足に使えない? 

 知ったことか! どんな困難だろうと関係無い! 

 いつだって、蜘蛛として生まれた始めの頃は、限られた手札を如何に使うか考え続けてたんだ、今になって出来ませんなど、言って堪るか! 

 

「お前は私で、私はお前なんだろ? 同じだと言うなら、考えてる事分かるよなぁぁッ!!」

 

 想いを燃やせ。

 願いを込めろ。

 激情を糧に、私の本質と大鎌が結びつきを強くし、撚り合わさっていく。

 ——答える意思は、そうだもっとだ! と叫ぶ声。

 

 飛来した腐蝕の魔弾を大鎌で切り払う。

 さっきまでは大鎌のオーラと対消滅するような消え方をしていたのに、今では腐蝕弾そのものを喰らい尽くすように大鎌が吸収した。

 そして偽私が幾重にも展開させ、削り殺そうと押し寄せる魔法すらも、暗黒の刃に呑み込まれて死滅していく。

 

 刃に触れたモノ全てを崩壊させエネルギーとする事で腐蝕の力が凝縮していく。

 

 分かるよな? 

 私の怒り、哀しみが。

 理不尽に抗う力を寄越せ、絶望の未来を払う力を寄越せ。

 死で以って、この世の不条理全てを殺してみせろ! 

 ——おぉーッ!! 

 

「うおらああああアアァァァァッッ!!」

 

 滾る感情全て、大鎌の刃として顕現させてやる。

 コケちゃんのやり方が感染ったのか、心に浮かんだ言葉を高らかに謳い上げる。

 

「《死滅鎌理——(シメツレンリ)》ィィ!!」

 

 瞬間、大鎌が覚醒める。

 白い持ち手は、より穢れすら無き純白の枝へ。

 大鎌の刃は、光すら呑み込む暗黒天体の如き闇の処刑刀へ。

 私が望み描いた未来のために、世界も神すらも殺して見せようと狂い啼く、死滅の理で編まれた反逆と(えにし)の刃が創造された。

 

 死によって滅ぼし、連なる理すらも斬り裂いて紡ぎ直し、絶望の未来を拒絶(・・)する。

 暗黒を帯びる逆襲の波動が、私の周囲を支配していった。

 

 それに対し、何一つ慌てるような反応すらも見せず、淡々と排除行動を繰り返す偽者たち。

 何度も繰り返された致命を帯びる攻撃に対し、私は大鎌を一閃するだけ。

 

 たったそれだけで、全ての攻撃が死滅した。

 道理も因果も無視して、自らに不都合なモノは全て無かった事になった。

 あり得ない、だが現実として結果が此処にある。

 私が支配している空間では、因果律そのものから事象を拒絶されて消滅するのだと、先の一振りで理解した。

 

 それを見て私は、戦闘中だというのに溢れ出る気持ちを抑え込めなかった。

 

 え、やばくね? 私の時代来ちゃう? 

 おっほー、全能感が超気持ちいいぃぃ!!!! 

 

 この世全てを手中に収めているかのような感覚は、まともに探知を使えるようになった時よりも凄まじく強力な快感となって、全身を駆け巡っていた。

 

 まさしく神となったよう。

 単にエネルギーが多いだけの生物って訳ではなく、絶対的な存在として君臨している昂揚感は、狭い支配領域だけでの話であろうとも、陶酔に溺れるには充分過ぎた。

 

 あぁ、病みつきになりそう……

 

 だが、そんなに長く持つ力でも無いのも、理解していた。

 未だ、私たちの偽者は健在だ。

 なら制限時間内に終わらせなければ、何のための覚醒だろうか。

 

「さあて、行くぞ!」

 

 今度こそ、逃しはしない。

 無駄だと分かっていないのか、同じような攻撃が飽きもせず繰り返される。

 それを一瞥しただけで掻き消し、短く距離を拒絶しながら跳ぶ。

 

 短距離転移では無い。

 ただ、自分の目の前にある空間を拒絶して、距離を弄っているだけだ。

 不規則に、しかし異様なまでに不可思議な軌跡を描きながら、偽者へと接近する。

 

 最初は地上にいるから狙いやすい偽私。

 私を捉えられず魔法の手が止まった瞬間に、一気に距離を拒絶して大鎌の射程圏内に入れる。

 

 足元に私が現れたのを感知して反射的に前脚の鎌を動かそうとしているが、もう遅い! 

 滅殺ッ! 

 

 振り抜かれる暗黒の刃は、濡れた紙を裂くよりも簡単に、偽私の体を通り抜けた。

 だが、それは手応えが無かったという訳じゃない。

 むしろ逆、刃に触れたコンマ一秒以下の時間で、既に全身が跡形も無く消滅していたからだ。

 消滅した人影は、純粋なエネルギーに一切のロスも無く(・・・・・・・・)変化して、この密閉空間に放出された。

 

 おやすみ! 私の偽者! 

 ピンポンダッシュのように何度も何度も空間干渉してきて地味にウザかったから、かつての私と形だけそっくりな紛い物が消えて清々した。

 

 残るは偽コケちゃんか。

 造形こそ、かつてのコケちゃんそっくりだけど、色は真っ黒だし何より重要な魂が宿ってない。

 なら、斬るのに抵抗などありはしない。

 

 ただ、距離が遠いし速い。

 偽私の時とは違い、接近するのも容易では無いし攻撃を届かせるのも一苦労だろう。

 

 常に高速で飛翔し続け、時折重力や慣性すら無視した動きを見せるのは、重力を操る魔法も併用しているからだろう。

 まさに疾風迅雷とも呼べる動き。

 

 相手の攻撃も無意味だが、こちらからも攻撃が届かない。

 そんな相手に対し、私は次の一手を考える。

 

 その間にも小競り合いは続く。

 

 腐蝕の魔弾が空を裂く——、大鎌に喰わせる。

 指向性を持った嵐が迫る——、私の領域に入った瞬間そんなもの無かったと因果から拒絶する。

 

 うーん、無理にでも空中戦をするしか無いのか……

 うん? え、そんなこと出来んの? 

 

 大鎌から伝えられた提案に一瞬迷うが、もし上手くいけば永続的な能力の強化に繋がるとして、覚悟を決めて実行する。

 究極の自己否定は、窮極の自己肯定なのだと、そう告げる大鎌の声に従って。

 

「ぐ、ぎいいぃぃッッ!?」

 

 私は、暗黒に染まった大鎌で自分の眼を切り裂く。

 痛覚無効化の魔術すら無視して激痛が走るが、死滅の刃で裂かれたはずの眼球は傷一つ無い。

 逆に、むしろ……

 

「私の敵を捉えられない眼を、拒絶するッ!!」

 

 視界が一変した。

 見通せる。

 動きが、纏う術式が、その存在そのものが。

 空間を構成する、ありとあらゆる要素が。

 絡みつく因果というモノが。

 

 その眼に捉えた偽者のコケちゃんを睨みつけ、私は転移する。

 場所は、今まで予想が不確実でしか無かった、偽コケちゃんの進行ルート目の前で。

 軌道変更が不可能な位置に先置きされた大鎌に、偽コケちゃんが緊急回避も出来ずに突っ込み、その真っ黒な体を消滅させた。

 

 残ったのは空間中に漂う高濃度のエネルギーだけ。

 そして私は重力を少しだけ拒絶し、滑空するように地上へと降り立った。

 着地するのと同時に、大鎌が元の白一色の姿に戻る。

 

 これで終わったかと息を吐くと、尋常ではない脱力感が襲ってきて、フラつく。

 

 は、反動か? 

 身体全てが筋肉痛になったのを何倍にも倍増させて、そこに馬車酔いとかの気持ち悪さを何倍にしたものをミックスさせた感じ……

 

 つまり、メッチャ死にそうな感じになっていた。

 

「あばばババッッ……」

 

 自分の体さえ支えられず、システム中枢の床に倒れ込む。

 全身を蝕む苦痛と悪酔いに、このまま寝てしまいたいという気持ちが湧き起こるが、残った気力を振り絞って、周囲を確認する。

 

 流石に、防衛機構とやらが再び稼働する事は無さそうだ。

 

 人影十二体に加え、私たちの偽者まで出てきたんだ。

 これ以上強力な戦力のストックも無く、打ち止めって事だろう。

 

 はー! しんどかった! 

 

 勝利の昂揚に浸って噛み締めながら、私は大鎌と自らの願いというものを見詰めて、空を仰ぐ。

 発光する魔術陣だけが照らすシステム中枢の天井を眺めて、私は呟く。

 

「あぁ、こんなのキャラじゃないって……」

 

 熱血キャラなんて、柄じゃないのに。

 私は平穏穏やかにグータラ出来たら満足なのにさ。

 でも……

 

「勝ったよ、コケちゃん」

 

 親友を失わせない。

 その願いを、深く魂に刻み付けながら、私は分体の状況を確認し始める。

 大鎌が覚醒してからというものの、分体の方に意識を傾ける余裕が無かったからだ。

 

 えーと? 

 システム関連分体は、半分近くがヤラれたか。

 諜報用分体も、一時完全にストップしてたから、不自然な体勢で固まっているのもいる。

 

 んーと……

 

 山田君がもうそこまで来てる……。正直、魔王も居るから困るんだけど。禁忌カンストして真実話してるし、上手くいけば引き込めるか? 

 来たら考えよう。

 今は気分も悪いし放っとこう……

 

 エルフの里まで、あと少しといった様子の山田君率いる勇者パーティを見て、嘆息する。

 ハイリンスめ、何で山田君の腰に勇者剣が吊り下げられているんだ。

 

 あの勇者剣は、大戦後然るべき処分をするって言うからハイリンスに渡るのを認めたのに、そのハイリンスが勇者ユリウスの遺言に従って第三王子のレストンに渡すと、そのレストンもまた勇者ユリウスの遺言に従い、山田君に渡したと。

 

 レストンは、まあ良い。

 ちゃんと律儀に勇者ユリウスとの勇者剣に関する事は他言しないって約束を守って、山田君には何も説明せずに渡したし。

 だがハイリンス、お前何ホイホイ超危険物を他人に渡してるんじゃい! 

 

 それ、お前の本体や、私にもコケちゃんにも有効なんだぞ!? 

 何考えてんだか……

 

 要は牽制なのかなぁ。

 勇者ユリウスの弟までには手を出させないって言う、親友ハイリンスの意思かも。

 

 はー、そんな気無いのに。

 そんな些事を気に掛けている余裕なんて、今は無いってば。

 

 さっさと、システムを解体しなくちゃいけないんだからさ。

 ギュリギュリも、知ってるはずだと思うのに。

 ……いや、コケちゃんの様態とかは極秘だったわ。

 

 ある程度復活してきたので、システム関連分体の活動を再開させる。

 作業はそっちに任せて、私は体を起こすと女神の元へ歩いていく。

 

『熟練度が一定に達しました』

『熟練度が一定に達しました』

『熟練度が一定に達しました』

 

 感情を感じさせない平坦な声の通知。

 ここから世界中の生命全てに、レベルアップだとかスキルアップとかのシステムメッセージが、別個に無数に飛んでいる。

 私は、女神っていうのはシステムに拘束されている間は感情も思考も何もかも奪われて、完全な人柱になっていると思ってた。

 

 けど、もしかしたらと……

 

 新生した瞳で、女神を見詰める。

 この状態でも僅かながら意思があるのではと思う。

 

 システム関連で、何者かの意思が介入していると思った出来事が幾つもある。

 

 勇者のシステム、そしてタイムラグが無い次代勇者の任命。

 負担が減るかもしれないのに、新たな人柱であるコケちゃんを拒絶した動き。

 

 誰が、どっちの事をしたのか分からない。

 Dか、この女神か。

 

 ……どうでもいいか。

 助けると、救うと決めたんだ。

 邪魔をするのなら、その思惑ごとブッ壊して救うだけだ。

 

「勝利か、破滅か……」

 

 未来は二つに一つだ。

 大団円のハッピーエンドか、無残に敗れ去るバッドエンドか。

 

 選ぶのは勿論——

 

「あんたを待ってる人がいるんだよ? いつまで縛られてるつもりさ」

 

 願うように告げながら女神に背を向け、私は転移でこの場を去った。

 

 

 

 

 

 

「ほう? その力を、そのように発現させましたか」

「なかなかに面白いですね」

「けど、まだ純度が薄い。神髄には程遠い」

「これならまだ……。いえ、今は口を噤みましょう」

 

「さて、物語も佳境を迎えました」

「台本を書き換えて、相応しき試練を用意しましょうか」

「世界最悪の邪神の名において、宣言しましょう」

「苦難を、破滅を、絶望を、悲劇を——、終幕の時に地獄を作り出しましょう」

「勇気を、意思を、友愛を、決意を——、輝きで以って世界に抗ってください」

 

「さあ、私を楽しませてください」

 

 

 

 

「また覗き見してますね? 仕事追加です」

「ソンナー」




神鎌・死滅鎌理 シレン・シメツレンリ。
(久々のガチバトル楽しかった)
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