【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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50 闇に酔う

 超高密度のエネルギーを内包している光弾と砲撃が、稲妻の如き速度で天から降り注ぐ。

 あらゆる物を焼き滅ぼすかのような閃光が射線上にある大気や樹木を消滅させつつ、轟音と共に迫ってきていた。

 逃げられるような場所は存在していない。

 雨霰と降り注ぐ爆撃と光弾は周囲の枯れ森ごと吹き飛ばし、あらゆる物体を巻き込みながら地上を燃え盛る焦土へと変えていった。

 

 そんなものを景気良く大盤振る舞いにバラ撒くのは、黒き鋼で出来たウニのような浮遊兵器。

 更に言えば、一つでさえ投射される火力は圧倒的なのに、それが数十機も居るのだから爆撃の雨に抑えつけられて身動きが取れない。

 

 荒れ狂う爆発と熱に、充分な防御を取れなかった眷属たちが粉々に粉砕されては焼き焦がされ、依代を失った魂たちが次々と、私の内側にある世界へと戻ってきているのを感じる。

 

「ッぅ、ぁぁッ——!」

 

 すぐさま物理強度を引き上げて、物理砲弾とエネルギー弾の入り混じった爆撃を防ぐ。

 そこへ無数の爆雷が、大気の悲鳴を響かせながら一斉に襲い掛かって、障壁へと重い負荷を加えてきていた。

 

 結界など、術者自身の外側に展開する防御手段は使えない。

 使用不可な理屈は至極単純、今私が使っている枯死の力は自身が発動させた障壁であろうとも、影響範囲内に出現させれば瞬時に形を失ってしまうから。

 

 魔術を崩す効果、威力を減衰させる効果は、以前使っていた結界とは比べ物にならない出力。

 だからこそ、自身の内側に作用する強化や防御で身を守るしか無いし、外部へ放出して遠距離を攻撃する魔術は当然の如く無意味になって実質使用不可になっていた。

 

 そして、黒鋼のウニから砲撃の威力は、先程身を持って伝わってきた(体感していた)

 直撃すれば簡単に四肢の一つや二つ消し飛ばされ、悪ければ全身が消滅する。

 

 超高密度のエネルギー体だけなら、枯らして減衰させる事が出来ていた。

 しかし、実体のある砲弾は純粋な運動エネルギーによって破壊を齎してくるので、吸収しがたい運動エネルギーと消せない質量により実質不意打ちのような攻撃を受けてしまった事で、少なくはない眷属たちみんなが吹き飛ばされ、実体を保てずに地上から掻き消されてしまっていた。

 

 

 その事実に歯噛みしてしまう。

 ——接近出来ないと、私には打つ手が無い。

 

 今の状態でのみ使える《枯死》という能力の弱点は、効果の届く射程距離である。

 触れればエネルギーを枯らし、魂だろうと奪い取る力であっても、近付く事が出来なければ意味を為さないのだから。

 

 先程までの機械兵器は、動きが素早くとも地上戦が基本であり、強化した反射神経で追える程度の速度でしか無かった。

 そして向こうの攻撃手段と、此方の能力相性が圧倒的なまでに有利であった事もあって、容易く撃破する事が出来ていたけれど、黒鋼のウニのように只管距離を取りながら上空に居座られると、それは突如として一変し、機械兵器との戦いが急激に難しくなってしまったのだった。

 

 幾多もの砲塔が、怒涛の轟炎を吹き上がらせる。

 既に、私や眷属たちに対して有効打に成り得る物理弾頭主体に切り替えており、最大限に強化して交差した腕で防ぐものの、砲弾が激突した部位から闇色の粒子が流血のように噴出していた。

 

 弾かれたり外れた砲弾は、焦げ付いた臭いを撒き散らしながら砕け散り、飛散した破片が超高熱の火炎を発生させる。

 それらは肌を焼く前に無効化されるが、火という根本的に相容れない現象が齎す不快さまでは、消してはくれない。

 

 次第に数を減らしていく、眷属たちみんな。

 外界へと呼び出している時は、エネルギーを分け与えて生み出した仮の体でしかないから、肉体が消失したとしても、それは死を意味しないから喪失や別離で嘆くことは無い。

 けれど、みんなが塵となって消えていく光景には心を痛めるし、前後左右から全身を打ち据える衝撃波によって、体重の軽いこの体は何度も吹き飛ばされそうになっていた。

 

「近づけない……」

 

 思わず呟く。

 隙間なんて無いような密度の砲撃の前では、飛翔して接近しようにも無慈悲な爆炎によって押し返されてしまうだろう。

 それを潜り抜けて触れたとしても、一触一殺が限度。

 数十もある黒鋼のウニを相手にするには時間が掛かり過ぎて、先にこの状態の発動限界に達してしまうだろう。

 

「動けない……」

 

 唐突に、鼓膜すら越えて骨の髄まで震わせるような、落雷の音すら生温い天罰のような轟音が、やや遠くの場所から大気を大きく揺らしながら伝播してきた。

 意識を僅かに向けて確認してみれば、どうやら白ちゃんの異空間から飛び出した隕石が、向こうで戦うクイーンタラテクトと交戦していた黒鋼のウニに、激突した音のようだった。

 

 その隕石弾に直撃した黒鋼のウニは、揺さぶられた事で一時的に砲撃を止めているが、砲の一つすらも折れたり欠けたりする事は無く、無傷の姿を悠然と空から見せ付けていた。

 どうやら抗魔術結界だけでは無く、物理防御に特化した結界も展開した、二層構造になった結界が張られているようだと瞬時に理解する。

 

 構造や原理は、今の私と同じ展開方法だと思う。

 外側に抗魔術結界を張って、内側に物理防御結界を張っている構造。

 魔術による攻撃は抗魔術結界で阻害し、物理的な攻撃は物理防御の結界に防がれる。

 

 最大限の防御効果を持たせるために、エネルギーの無駄遣いとしか言えない設計をしている機械兵器に、鈍い怒りが心の奥底に沈殿していく。

 こんなにも星を貪って、今までの人々の努力を無に帰す代物を作り出していた事に、悲憤で心が張り裂けそうなほど煮え滾って猛り狂う。

 

 怒りは、ドロリとした熱にして魂に焚べる。

 そして、如何にして黒鋼のウニを即時撃破させる方法について考える。

 

 結界そのものは、障害にはならない。

 触れる事さえ出来れば、どんな妨害を張り巡らせていようとも、阻む障害ごと枯らして侵蝕していけると確信しているが、届かなければ意味が無い。

 

 

 ふと、白ちゃんはどう対処しているのか気になった。

 

 瞼を開け、瞳に高密度のエネルギーを纏わせて、黒鋼のウニを睨んでいる。

 その視線の先にある黒鋼のウニは、展開していた結界が分解され浮遊するための魔術すらも食い尽くされて、地上に落下していくのが見えた。

 そして、黒鋼のウニから白ちゃんへと流れ込むエネルギーの奔流。

 

 察するに、何かしらの邪眼によって、結界や魔術ごとアリエルさんの暴食のようにエネルギーに変換する事で、相手の魔術を無効化しつつエネルギーを食らうものだと思われる。

 

 向こうでも無数の黒鋼のウニに囲まれていた。

 そして気づけば、百機以上もの黒鋼のウニがエルフの里上空に浮かんでおり、それらの中心には正三角錐の何かまでもが、悠々と浮かんでいた。

 

 まだ、こんなに出てくるのか? 

 ——気を逸していたのが悪かったのか、その極大の危機感に気付いた時にはもう遅かった。

 

 黒鋼のウニの大編隊、その中心にいる正三角錐の機械兵器が燦然と発光し始める。

 そして、一瞬の後に眩い光が、極大のレーザーとなって動けずにいた私に向かって発射された。

 

「ぐぅッ!?」

 

 実体の無い超高密度のエネルギーが、私たちをジリジリと焦がす。

 枯らしても減らしきれないエネルギーによって、身が削られていくのを感じていた。

 

 このまま受け続ければ、死の一歩手前。

 大量のエネルギーを消費して耐えたとしても、そうなれば弱りに弱った私では後が無い。

 白ちゃんほど空間魔術が得意では無い私では、逃げる事も不可能だった。

 

 いわゆる、詰みに近い状況。

 

 どうすればいい? どうしたら窮地を脱出出来る? 

 削られていく身とエネルギーと共に、眷属たちみんなの悲鳴が聴こえる。

 

 嫌、死にたくないし、死なせたくなんかない。

 誰も苦痛の中で死んでほしくなんか無い、幸せに生きて欲しいから。

 

 私はどうなってもいい。

 ただ、みんなには生きていて欲しいだけなのだから。

 その無情な現実を認識した私は——

 

 

 

 

 ——なら、どうしますか? 

 

 何処か次元の異なる場所から、問い掛ける声に。

 

 力を——

 みんなを守れる力を、と——

 

 その内容も意味も理解しないまま、無意識の内に答えていて。

 

 ——良いでしょう。

 この世全て遊技盤、そう哄笑しながら悦楽の笑みを浮かべる存在は、狂喜して祝福を謳う。

 愉悦に満ちた声が、その選択を肯定していた。

 

 

「《 詠い始めよう、大地の女神と攫わレシ(呪ワレシ)娘トノ詩ヲ—— 》」

 

 再び紡がれる、祈り(ノロイ)の解号。

 だが、願う祈りの色彩には、闇が混じっていた——

 

 

 

 

 私は、再度魔術を編み直すために、祈りの言葉を口にした。

 呼応するように、溢れ流れ出す死想の闇が、私と世界を満たしていく。

 抑えられていた殺意の波動が解放され、純度を増した枯死の狂嵐が吹き出し荒れ狂う。

 

 死ね、死ね、死ね——、枯レテ死ネ。

 

 純化していく精神は、黒い情動で染め上げられていく。

 ただただ、相対する敵の死を願い続けて、無限に叫喚し続ける破滅への讃歌。

 

 爪デ引キ裂ケ、歯ヲ突キ立テロ、纏ウ闇デ、アラユル生命呪イ尽クセ——

 

 膨れ上がる闇の波動で、眼前に浮かぶ敵を撃滅しよう。

 悍ましく、けれど懐かしい超越的な闇の気配が私を包み込んで、禍々しい力を具現していた。

 

 そのために、まずは——

 

「枯れてしまえ——」

 

 超高密度エネルギーの砲撃が、瞬く間に枯れて無に呑まれていく。

 その速度や吸収効率、影響範囲は、先程までのものとは格段に違う別物となって世界を喰らう。

 

 正三角錐から放たれていた極大のレーザーが、跡形もなく消滅した。

 急激に跳ね上がった力によって減衰能力の出力も極限の域にまで高められており、枯らして吸収するエネルギーが光線の威力を上回って、途中で存在しなかったかのように掻き消えていた。

 

 続く黒鋼のウニから轟音と共に、物理砲弾の弾幕が飛来してくる。

 だけど、それに焦らずただ手を翳した。

 枯渇の法が、生物やエネルギーだけでは無く、無機物にまで手を伸ばして枯らそうとしていく。

 先程までは完全には防ぎきれなかった物理砲弾も、能力圏内に囚われれば何百何千年も経過して風化したかのような、ボロボロの鉄屑となって崩壊し暴風に呑まれて流されていった。

 

 この物悲しく生命の消えた光景は、まるで——

 

「終末の世界よッ! 世界を害スル(・・・)存在、全て消シテ(・・・)しまえッ!!」

 

 枯れ落ちろ、崩れてしまえ——、滅んだモノを糧にして、世界の再生は成し遂げられる。

 終末を経験して漸く、——世界は黄泉還るのだから。

 

 猛り狂う終焉の風。

 幾多もの砲門が閃光を瞬かせるが、その破壊の魔弾全てが虚無と粉塵へと変えられていく。

 その力は見境なく世界を襲っていた。

 

「————ゥァ」

 

 水気を失い罅割れた大地を踏みしめながら、大きく息を吸い込む。

 ただ、そうであるのが自然なように、表情が凶相へと歪んでいく。

 そして、闇が集ったかのような崩壊と再形成を繰り返す翅を背中に生み出すと——

 

「——アハッ、堕ちてしまえ」

 

 世界の害悪が不遜にも空に浮かんでいて目障りだった(・・・・・・)から、私は宙へと飛翔した。

 その背後に、眷属たちみんなを、置き去りにしながら(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 砲撃の流星雨と、魔性の彗星が踊り狂う。

 空というキャンバスに、破滅を告げる光が煌めき瞬いては走る。

 けれど、ある一点だけは世界が違うかのように闇に染まり、寂滅して凪いでいた。

 

「——あハハ、まズは一機」

 

 黒い軌跡を描きながら吶喊した魔星は、その手に顕現させた闇の魔槍で撫でるように触れる。

 それだけで世界を穢す不純物は、世界の礎となるエネルギーへと崩壊し闇に溶け消えていった。

 

 彼女(・・)が編んだ法則は最高域を突破して駆動し、そしてそれは今なお更新し続けていく。

 

 ——光が消える、熱が消える、物質が消える。

 

 森羅万象全て崩壊しろと、熱に浮かされたような歪な凶相で、酔い痴れながら歌う。

 その姿はまるで、いつかの迷宮での状態に戻っていたかのようで。

 ……酷く懐かしくも、目眩がしそうなほど痛ましい姿で、闇に囚われて踊っていた。

 

「アはハハはhaハハハhahaハハッッ!!」

 

 幼気な幼子のように、けれど普通では無い音色で歌声を奏でながら、彼女は宙を駆け巡る。

 宙に闇が走ると、道中にあった穢らわしき鋼は塵となって、一つ二つ次々と黒ずんだ枯砂に風化して砕け散った。

 

 紅潮しまるで別人のような、匂い立つ色香で艶然と笑う少女。

 その彼女と深淵に繋がる闇との同調が深まっていく。

 故に、浮かび上がってくるものがある。

 

 本来の光が今、塗り潰されようとしていることに——

 彼女の願いとは正反対の方向に進ませる、悪辣な闇の呪いに魂が穢されようとしていた。

 

 

「——ゥァ?」

 

 天高く遙か上の空間に亀裂が浮かび、それが広がって蜘蛛の巣のような模様が描かれていく。

 その向こうから、悲しむように憐れむように覗き込み見詰める、幾万の紅き眼球。

 哀傷に涙を滲ませる邪眼が、彼女の姿を捉えていた。

 

 視線に晒された彼女のその身から、エネルギーが抜け出していく。

 それと同時に纏う飛翔や強化の魔術が、邪視に喰われながら分解されていた。

 

「ッジiィ!」

 

 姿勢をグラつかせる魔星の少女。

 そこに、さらなる邪眼が縛りを加える。

 

 時間の静止、恐怖の喚起、重圧の増加、そして空間の固定。

 

 その縛鎖に絡め取られ、動きを止める闇。

 だが、代償として彼女が纏う崩壊を司るエネルギーを吸収した蜘蛛たちは、その身を塵へと変じさせながらも抜けてしまった穴を次から次へと埋めて、一時も止める事無く邪眼で縛り続ける。

 

 その動きづらさを不快と感じ、普段彼女が言わないような、憎しみに満ちた悪態が漏れる。

 

「邪魔ヲ、すルなッ!」

 

 今なお膨張し続ける闇を外へと爆発させ、枷を引き千切る。

 その衝撃で、僅かに残った屑鉄も粉砕され、塵となって吹き消された。

 残るのは死に体の三角錐だけ、それもまた喰らい尽くすという執念に取り憑かれた邪眼によって地へと墜落していくのだった。

 

 そんな荒れ狂う彼女の前に立ち塞がった、黒い刃の大鎌を持つ白い少女。

 

「Dめ……、これはお前の差し金か?」

 

 空間の壁を足場として空に立つ彼女は、複雑極まる苦々しい表情で、吐き捨てるように言う。

 その開かれた瞳には窺い知れないほどの、多すぎる感情が籠められているようだった。

 

 怒り? 悲哀? 屈辱? 憐憫? 

 いいや、どれも確かに存在するが、どれも違う、正しく無い。

 

「ふざけるな、こんな現実認めて堪るか。大ッ嫌いだよ」

 

 肩を震わせながら白の少女は気炎を滾らせ、魂を懸けて宣誓する。

 

「あぁ、そうさ。お前がこういう事繰り返すってんなら、何度だって抗ってやるさ」

 

 大鎌を構えて突き付ける。

 同じ闇でも違う色の闇が、哀絶に絶叫して泣き喚く。

 

「だから……ッ、正気に戻ってよ、コケちゃんッ!」

 

 二つの闇が、今交差した。




注意喚起。
今更ですが、これからの展開は血と涙と絶望の匂いで染まっています。
浄化に至るまで辛いシーンが連続するので、ご注意を。
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