「いらっしゃいませー、店内でお召し上がりですか?」
「外で話があるんだけど」
マグロナルド幡ヶ谷駅前店マネージャーの臥龍岡 琉斗は今現在カウンターを挟み、作り笑顔で接客中の真奥と自称真奥の敵である遊佐が仏頂面で対面しているのをキャンペーン商品であるブラックチリペッパーポテトを揚げながら見ていた。
「テイクアウトですね。ご注文をどうぞー」
「今夜バイトが終わったら、昨夜の場所に来なさい、拒否は認めないわよ」
「セットでよろしいですか?」
「一人で来なさい」
「単品ですね、かしこまりましたー、脇にずれて少々お待ちください。ビッグマグロバーガーワンプリーズ!」
何故か会話が成立している二人を見ながらも注文が来たので琉斗は現在キャンペーンを含め単品で全メニュー中最も価格が高いビッグマグロバーガーを作り提供する。
「戦うつもりはないわ。必ず来なさい」
「ありがとうございます! またお越しくださいませー」
遊佐が律儀にお金を支払ってバーガーを購入して帰っていくのを皮切りに客の入りも落ち着き余裕が出来てくる。琉斗は機材の掃除をしていると後ろから声がかかった。
「臥龍岡さん」
「ん、ちーちゃんどうかした?」
声をかけてきたのは後輩クルーの佐々木 千穂だった。最近入ったばかりの高校二年生で研修で真奥がよく彼女の面倒を見ていた為正クルーになった後も真奥に懐いているのを知っていた。
「なんか、変なお客さんでしたね」
「あんまりお客さんの事を言うもんじゃないよ……って言いたいけど、今の女の人の事だよね?」
「はい、なんか暗いしぶつぶつ言っていて声も聞き取りづらかったし」
「なんか真奥の知り合いっぽいし、なんかプライベートの話でもしていたんじゃない?」
「えっ……怪しくないですか?」
「なにが?」
「あの人ちょっと美人さんでしたよね? ね?」
「ちーちゃんストップ、それ以上は本人に聞いたほうが早い」
「あっ、す、すみません!」
千穂は琉斗から離れるとカウンターの真奥へ歩いて行く、今は繫忙時間ではないのでついでに千穂にレジに立って経験を積んでもらおうかと考えていると今度は別の声がかかった。
「るーくん、少しいい?」
「あ、木崎さん」
後ろを振り向くと琉斗とほとんど変わらない長身にモデル体型。シャンプーのCMにも出演できそうなほどに艶やかな長い黒髪をアップにまとめた幡ヶ谷駅前店店長、木崎真弓がシフト表を持って立っていた。
「明日のシフトなんだけどな、ちーちゃんのトレーニングにるーくんを使いたいから少し時間をずらしてもいい?」
「いいですよ、ちょっと貸してください」
木崎からシフト表を受け取ると自身の勤務時間を変えない様に千穂の時間帯に合わせていく、修正したシフト表を返すと木崎は満足そうに頷く。
「うん、助かるよ。明日はキャンペーンの最終日だからな、面倒を見つつ仕事をこなせるのってまーくんとるーくんくらいなんだよ」
「プレッシャーが凄いですね」
「プレッシャーには強いだろ?」
掃除を終えつつ話しているとふと真奥と千穂の会話が聞こえる。
「……ば真奥さんち、昨日地震とか……」
地震? と眉をひそめると木崎から追加の言葉が入る。
「そろそろるーくんは休憩だ、夜に備えてくれよ」
「あ、はい」
木崎が真奥と千穂の方に向かったのを確認すると琉斗も休憩するために後ろへ引っ込む。その時琉斗の頭には地震の二文字が頭から離れなかった。
裏の休憩室、今は誰とも時間が被らなかったのか琉斗一人だった。琉斗は自身のロッカーを叩くと声をかける。
「ネコ、いるだろ」
「どうしたにゃ?」
綺麗に選択された私服以外何も入っていないはずのロッカーからネコが飛び出してきた。
「ネコスーパーハッカーとネコ忍者に仕事だ、ネコスーパーハッカーは過去一週間以内に笹塚範囲で地震の起きた記録の調査、ネコ忍者は真奥貞夫の尾行だ、ネコ忍者は真奥が自宅に帰ったら切り上げて報告しろ」
「了解にゃ、もしかして久しぶりの侵略にゃ?」
「いや、それは未定。ただなんか引っ掛かる」
「わかったにゃ、伝えておくにゃ」
そう言ってネコはロッカーを通してにゃんこ基地もとい琉斗の家へ帰っていく、それとほぼ同時に真奥が休憩に入ってくる。
「お疲れ様です、臥龍岡さん」
「お疲れ様、ああそうだ真奥」
「はい?」
「ちーちゃんと何か話してたみたいだけど何の話してた?」
「あ、そうだ。臥龍岡さんは地震大丈夫でした?」
「いや、地震なんてなかったな。ちーちゃんが言ってきたのか?」
「はい、俺も木崎さんも地震があったなんて知らなかったので」
「俺も知らないとなるとちーちゃんの勘違いってなるけど、流石に違うんだろ?」
そう言うと真奥は考え込むがすぐに口を開ける。
「いや……確か本棚とか色々落ちる程酷かったとか」
「ちーちゃんのとこだけピンポイントで……? 組織は大抵潰れてるはずだし……」
「組織?」
「あ……いや! 掃除機! 掃除機買い換えないとなーって!」
「は、はあ……?」
苦しい言い訳だったがそれ以上問い詰められずに済み思わず安堵の息が漏れる。
「で、話ってなんだよ」
深夜の住宅街の交差点で遊佐と真奥が対峙していた。真奥はまかないでもらったプラチナローストアイスコーヒーを片手に身構え、片や遊佐は昼間のOLスーツとは違い細身のデニムパンツとブラウスで手ぶらだった。
「尾行対象真奥貞夫、遊佐恵美と接触……でござるにゃ」
その二人を遠くからメモ代わりの巻物片手(?)に尾行しているのは琉斗によって派遣されたネコ忍者である、忍術を駆使し主に応えるため必死に隠れているのである。
「あなた、エンテ・イスラに帰るつもりあるの?」
「はあ? 何言ってんだお前?」
「えんていすら……? 地名でござるにゃ……?」
疑問に思いながらも筆を進め巻物にえんていすらと書き込むネコ忍者。その間にも会話は続いていく。
「あなたがここで人生を終えてくれれば世界は平和よ? 幡ヶ谷駅前店はあなたの力で栄え続ける。私は無闇に戦う必要もなくなる。アルシエルと一緒にこの世界に骨を埋めたら?」
「アルシエルは大切な部下だが、何が悲しくて部下と老後を共にせにゃならんのだ」
「最近そういう生活も流行りだって聞いたわよ」
「アルシエル……戦う必要もなくなる……もっと情報を集めた方がよさそうでござるにゃ」
そうこうしているうちに二人の会話は終わったようで、真奥が自転車に足をかけたので追いかけようと近づいた刹那。
「おわっ!」
真奥の自転車に不自然な衝撃が走り真奥は転倒してしまう。ネコ忍者はびくりと体を跳ねるが幸いにも二人には気づかれなかった。
「ちょっと何やってんのよ!
「……って、あービビった……何か踏んだか?」
真奥を遊佐が助け起こすがその時ネコ忍者は自転車の前輪が不自然にパンクしているのを見た。
「あれは……まるで銃痕みたいでござるにゃ……」
ネコ忍者がそう思い、泣きながら自転車を抱きかかえていた真奥が遊佐にしがみついた瞬間、真奥、遊佐、ネコ忍者全員が地面の揺れを感じ取った。
「え、地震?」
遊佐が真奥に確認する間もなく軽い破裂音が聞こえ、今度は自転車の後輪が弾かれた。そしてネコ忍者は一瞬、真奥に向かって飛来する何かを捉えると反射的に巻物を咥える
『
「うお!」
「いや!」
瞬間、真奥に向かって飛んでくる何かは大きく逸れ信号のライトを粉々に砕く。破片が地面に落ちる音に首を竦める二人とそれを見てひとまず安堵するネコ忍者。
「俺達……」
「撃たれてる?」
二人に返事するかのように足元の破砕音が鳴り響く。
「おいおいやべぇぞおい!」
「に、逃げましょう!」
手近な小路に逃げる二人を追うように火花と炸裂音が鳴り響く、途中何度か真奥と遊佐に向かって飛んできた何かは全てネコ忍者が逸らしていき、二人がシャッターの下りたオフィスビルを背にすると二人は息をつく。
「何だったの今の?」
「魔王と勇者が揃った場所に謎の狙撃だ。エンテ・イスラ絡みだと考えるのが普通だろ。そうでなくたってこの国は武器の所持に関して異常に法律が厳しいだろうが」
「わかんないじゃない! 不良少年がエアガンか何かでいきなり……」
「今どきの不良少年はそこまで根性ねえよ! 伏せろ!」
真奥が強引に遊佐の頭を下げさせると後ろのシャッターに穴が開く。
「……それにBB弾はシャッターを貫通したりしねぇ」
「……まずいでござるにゃ……」
忍者ネコは隠れながらも冷や汗をかく、何度も忍術を使ったせいで集中力が切れ始めている。このままではいつか二人に当たってしまうと考え、ふとネコ忍者の視界の端に二つの人影が見えた。
人影は気配に気づいたのか素早く身を隠すと謎の狙撃音も止んだ。
「……し、行くぞ!」
ネコ忍者が人影に注意を払っていると何か作戦を立てたのか二人は駅に向かって走り出していた。
「し、しまったでござるにゃ!」
慌ててネコ忍者が追いかけるがそれ以降謎の狙撃は起こらなかった。本来の任務は真奥が家に帰るまでだが早急に報告しなければならないと判断し忍者ネコは闇に紛れて琉斗のいるにゃんこ基地兼琉斗の自宅へ帰還した。
ネコ忍者の解説に忍者を極めたとかガマネコ忍者に忍術を会得したとか書いてるのでこれくらいは出来るんじゃないかなーって思いました。まあコストも安めだし調査には良さそうだよねって