はたらくにゃんこさま!   作:ヘルメットのお兄さん

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スマホが逝きました。


司令官、後輩のデートを目撃する

「と、いうことでござるにゃ」

 

 仕事を終え自宅に着いた琉斗は少し前に任務を終えていたネコ忍者から報告を受けていた。

 

「真奥と遊佐さんがいる所で突然の地震、その直後に謎の狙撃……」

 

 琉斗は未だ謎の椅子に座るネコスーパーハッカーに視線を向ける、するとその直後顔のゴーグルを外し琉斗に向き直る。

 

「収集完了にゃ、どうやら数週間前から笹塚各地で地震が起きていたようにゃ、琉斗の後輩ちゃんが言っていた地震の震度は5弱~5強ほど、マグニチュードは……1以下にゃ」

 

「なんだそりゃ、流石におかしくないか?」

 

 震度とマグニチュードの関係はおおよそ比例している。震度が強ければ強い程マグニチュードも大きくなる、琉斗もそこまで地震に詳しくはないが震度5前後に対し1以下というのはいくらなんでもおかしいと分かる。

 

「だからきっと、作為的な地震と断定してもいいにゃ。ネコ忍者の言う謎の狙撃も無関係とは思えないにゃ」

 

 ネコ忍者が頷く、しかしそれが分かったところで琉斗にどうにかできる訳ではない、あくまでも彼は司令官であって特殊な力がある訳ではないのだ。

 

「……もう三時か、取り敢えず寝よう。ネコ忍者の報告にあるえんていすらとかは明日……もう今日か、朝に調べてくれ」

 

「了解にゃ」

 

 そういうとネコスーパーハッカーはゴーグルを付け直しまた椅子から駆動音が聞こえ始める。それを余所に琉斗はあくびを噛み殺しながら床で寝ているネコを片手に寝床に着くのだった。

 

 

 

 今日の琉斗のシフトは昼からの勤務となる、少し遅めの朝に起きた琉斗は隣で寝ているネコを起こし朝食を食べに食堂(ネコ達に地下を大改造された)に向かう。

 

「今日の定食はなんだ?」

 

「アジフライ定食って聞いたにゃ、なんでも精霊ボルトが沢山獲ってきたらしいにゃ」

 

「それ倫理的に大丈夫?」

 

 沢山のネコがひしめく食堂で琉斗は一席に座ると壁にかけられているテレビを見る、テレビにはMHKのニュース番組が流れており交差点らしき場所で銃撃事件が発生したというニュースと共に多くのマスコミが詰めかけている映像が流れ始める。

 

「あれ、この場所……」

 

「間違いにゃいでござるにゃ、拙者達が昨日襲われた場所でござるにゃ」

 

 いつの間にか隣で軍艦巻きを食べているネコ忍者が話す、その顔はご飯粒を付けながらも真剣だった。

 

「信号機まで割ってやがる、見境ないな謎の狙撃手」

 

「あ、あれは真奥殿の自転車でござるにゃ!」

 

『……そして交差点の真ん中に両輪がパンクしている自転車が放置されており、事件に関係があるものとみて警察は持ち主の割り出しを急いでいます』

 

 アナウンサーが話しながら画面に映し出されているのは両輪がパンクされた職場で何度も見た後輩の愛用自転車だった。琉斗はそれを見ながら携帯の時計を確認する、もうすぐ出勤の時間だ。残った汁物を飲み込むと立ち上がる。

 

「仕事に行ってくる、もし警察から電話が来たら俺の携帯に繋げてくれ」

 

「わかったにゃ、いってらっしゃいにゃー」

 

「「「いってらっしゃいにゃー!!」」」

 

 食堂のいたるところから琉斗を送る声が聞こえる、その光景にもう慣れてしまった琉斗は真奥と遊佐の会話について思い起こすのだった。

 

 

 

「……この駅広すぎない?」

 

 昼のピークも過ぎ安定して経営していた所、お客様からの電話で注文したメニューが違うとのクレームが来たのだ、そこですぐに琉斗が対応として正しいメニューを謝罪と共に配達し終え店に戻る途中だったのだが普段使い慣れない新宿駅のせいで迷ってしまった。中に制服を着こんだままのジャケットの裾を直すとふと通路の角で言い争っている声が聞こえた、そこに目を向けてみると遊佐と真奥が同居しているといっていた……芦屋四郎だったか、が何やら胸ぐらをつかまれ脅されていた。

 

「遊佐さんと芦屋さんじゃないか、一体何してるんだ?」

 

「いたいけな少女に何しようって……貴方は確かマグロナルドの……」

 

「ハッ! 遊佐、失礼だぞ! この方は真奥様の上司に有せられるんだ!」

 

「有せらあれるって……いや、二人とも知り合いだったのか?」

 

 遊佐は頭が冷えたのか芦屋を降ろすと溜息を吐いた。

 

「ええ、まあ……それより貴方はここで何をしているんですか?」

 

 その言葉にハッとしたのか芦屋も慌て始める。

 

「そ、そうだ。真奥からシフトを聞きましたが確かこの時間は臥龍岡さんはまだ仕事の途中では?」

 

「ちょっとクレーム対応にな、それにこの後休憩時間だからまだ大丈夫だよ。それより何してたんだ?」

 

 そういうと芦屋はちらりと流し目で奥のカフェを見る、それにつられる様に琉斗もカフェを見るとなんと窓越しに千穂と真奥が楽しそうにお話しているではないか。

 

「え、何? もしかして二人そろってデートの監視?」

 

「ちがっ……」

 

 遊佐としては魔王が女の子を連れ込んで何をするかと憤っていたのだがそれを説明しようにも真奥が魔王である事を話さなければならないので黙り込むしかなかった。

 

「臥龍岡さん、それに遊佐も、せめて誤解を解かせてくれないか?」

 

 芦屋が真奥の被りそうな汚名を返上しようと大まかな経緯を話す、もっとも魔力を手に入れる方法を探っていることなどは伏せたが。

 

「私の宿敵が非常に情けない状態に陥ってることだけ分かったわ」

 

「ぐぬっ……め、面目ない」

 

「謝るんだ……しかし千穂が真奥にねぇ、いや懐いてるのは知ってたけどまさかデートに踏み込むとは」

 

「臥龍岡さんはあの少女に詳しいのですか?」

 

 3人揃って壁からカフェの中を覗き込むと芦屋が臥龍岡に聞いてくる。

 

「そりゃ二人は後輩だからな、千穂ちゃんから真奥を誘ったんだろ? ありゃ地震の件で呼び出したけど本音は告白とかだろうなー」

 

「それも憶測なのでしょう、芦屋、貴方ここから聞こえないの?」

 

「無茶を言うな、魔りょ……調子のいい頃ならともかく今の私に化け物じみた聴力は無い」

 

 芦屋になかなかの無茶振りをした遊佐は歩き出すとカフェの扉に手をかける

 

「こんなとこで見張ってても意味ないわ、行くわよ二人とも」

 

「行くって、どこに」

 

「二人のいるカフェよ、決まってるでしょ。あの子も疑わないといけないならすぐ近くに陣取って話を盗み聞きするくらいじゃないと尾行とは言えないわよ」

 

「な、なんだと! そんな大胆な事、後で魔王様になんと申し開きおいちょっと待って!」

 

「俺休憩だしこの後まだ仕事あるんだけど……」

 

 

 

 真奥貞夫こと魔王サタンは昨夜の夜後輩である佐々木千穂から『また地震が起こる』というメールが送られ、それについての相談として新宿地下通路のカフェで茶を飲んでいた。千穂の話からしてやはり探査技術であるソナーによる魔力暴発だろうと辺りを付けている。

 

「まあ、俺は話を聞くだけならいつでもだいじょうぶえっはぐぼふゅ!!」

 

「だ、大丈夫ですか!? どうしたんですか!?」

 

 突然むせ返った真奥にお冷を差し出す千穂に礼をしながら視界の隅に捉えた映像が思考を妨害する。

 何故だ、何故恵美が芦屋と臥龍岡と一緒にこの店に入ってくる!? というか臥龍岡は仕事中では!? 

 

「真奥さん?」

 

「げほっ、だ、大丈夫。変なとこ入った。俺は何もしていない」

 

「は?」

 

「いやなんでもない。後輩の相談に乗るなんてことごく一般的な出来事でそれ自体には何の悪意もないわけで、邪な考えでここにいるわけでは絶対ないし職場に報告されるようなことでもない」

 

「ま、真奥さん?」

 

「ああ、いや。ちょっとした発作だ」

 

「ほ、ほっさ?」

 

「フォッサマグナ」

 

「真奥さん!?」

 

 

 

 

 

「何話してんだあいつら」

 

 そんな混乱の極致に陥っている真奥を尻目に琉斗はアイスコーヒーを注文すると背後にいる

 真奥と千穂を睨んでいる遊佐に声をかける。

 

「なあ、なんで遊佐さんは真奥を……倒そうとしてるんだ? あいつ人もいいし罪を犯すような性格もしてないぞ」

 

 そういうと遊佐は首をぎゅるん、という音が聞こえそうな勢いでこちらに振り向くと今にも噛みついてきそうな顔で琉斗を睨む。

 

「貴方は魔王の何を知っているの、奴の本性は狡猾で残忍、正しく悪魔のような人間よ」

 

「遊佐……! 魔王様を侮辱するような事は私が許さ……」

 

「……じゃあお前は真奥の何を知っているんだ?」

 

「え?」

 

「あいつの勤務態度を見たか? 仕事初日に必死になって覚えようと汗水垂らして肉焼いてる姿は? 初めて給料もらって「こんなに貰えるんですか!?」って嬉しそうに聞いてくる姿は? 俺は昔の真奥を知らないし本当に何かしたかもしれないが、今の真奥を知っている。あいつはそんな奴じゃない」

 

 そう言うと遊佐が何か言うより先に芦屋の方が感極まったのか薄っすら涙を流していた。

 

「魔王様をそこまで信頼してくださるとは……この芦屋、感動しました……!」

 

「いや、泣く程……?」

 

 その後も睨み続けていた遊佐だったがこちらからは聞こえにくい真奥と千穂の声が聞こえたのかハッとなると席を立ちあがり真奥たちの方へ行ってしまった。

 

 

 

 

「私、真奥さんが……!」

 

「やめなさい!」

 

 千穂が真奥へ放った嚆矢は、突然割り込んできた力強い声に阻まれてしまう。

 その声に真奥は身を竦ませ、千穂は何が起こったかわからず突然自分たちのテーブルの脇に立って傲然と二人を見下ろす女の形相を唖然として見上げていた。

 

「この男に関わるとロクな事にならないわ」

 

「え、恵美っ! お前」

 

「悪い事は言わない。この男はもうすぐ日本を発つ身よ。今のうちにとどまっておかなくちゃ貴女がつらい思いをするだけだわ」

 

 真奥は突然介入してきた恵美に驚き思考が止まってしまう、恵美と一緒に座っていたはずの芦屋と臥龍岡は片や何故か涙を流し片や呆れたように顔を手で覆っていた。

 

 一方、対応が早かったのは千穂だった。

 

「失礼ですけど、お姉さんは真奥さんのどういった関係ですか」

 

 さっきまで何かに迷っていた表情だったのに一瞬にして力を帯び恵美を睨みながら立ち上がる。その口調からわかるほど千穂は恵美を敵視していた。

 

「いい、これは貴方の為に言っているの。この男は見た目通りの男じゃない。本性は、もっと狡猾で……残忍……そう、残忍な奴よ」

 

「いきなり出てきて酷いこと言わないでください、お姉さんは真奥さんの何なんですか」

 

「(なあ芦屋さんや、これ止めた方がいいんじゃないか)」

 

「(し、しかし……どうやって止めれば)」

 

 琉斗はこの状況をどう止めようか考えるが二人の論争は一層激しさを増していく。

 

「私はこの男の敵、それ以上でも以下でもないわ。いい、佐々木千穂さん。忠告はしたわよ、真奥と関わると不幸になるわ」

 

「お、おい遊佐やめろ」

 

 ここでようやく芦屋が止めに入り、

 

「ちーちゃんも、ちょっと落ち着いて」

 

 真奥も千穂を宥めようとするが、

 

「私に指示しないで」

 

「真奥さんは黙っていてください」

 

 その時琉斗の携帯に着信が入り内容を確認すると突然立ち上がった。

 

「芦屋さん、すまない一度出る」

 

「え、はい……」

 

 そういうや否や臥龍岡は颯爽と店を出てしまいヒートアップする二人を止めるのは真奥と芦屋だけとなってしまった。

 

「こいつと私の関係は簡単に語れるような関係じゃないの」

 

「自分の方が親密だとでも言いたいんですか?」

 

「どうしたらそう取られちゃうのかしら」

 

「そうとしか取りようがありません」

 

 真奥は背中に他の客の視線を背中に浴びつつひきつった顔で二人を止めようと言う。

 

「だから二人ともおちつ」

 

 け、と最後の言葉を言う前に轟音以外で表現が出来ない鳴動が店内に響いた。

 

 真奥と芦屋、千穂や恵美だけでなく店内にいた全ての客が何が起こったのか把握できなかった。

 

「じ、地震だ!」

 

 刹那、誰かが叫び

 

「大きいぞ!」

 

 次に叫んだのは誰だろうか。

 その次に聞こえたのは悲鳴にならない声で、大きく揺れ始めた地下通路全ての音が轟音にかき消される。

 地下にいる筈なのに立っていられないほどの縦揺れ。ほとんどの調度品が床に落下し照明や通路に面したガラスが砕ける。

 

「危ない!」

 

 その叫び声を発した者も聞いた者も天井に走った亀裂を見た。

 

「く、崩れ……」

 

「真奥さんっ!」

 

 千穂は叫ぶが、その声は真奥に届かず、天井が崩壊する様を見ても体が恐怖による硬直でまともに足を動かす事も出来ない。

 本格的に通路が崩落し始めると千穂の恐怖は臨海点を超え、千穂の意識が消えた照明と共に闇の中に溶ける。

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