絶望的エロゲ世界を救え!日曜朝ヒーロー!気弱女神!エロゲオタク!   作:ルシエド

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【13】お天道様はいつも見ている

 種付けおじさん達が全滅する前に王城に駆け込んで、仲間と合流、どうにかそこから逆転の道を見つけなければ。そう思考し、紫山は走る。

 

 これ字面が最悪ですね。

 

『今の内に回復だ。金投げ込んで走りながら商品かっぱらってけ』

 

「くっ……なんて行儀が悪いんだ。すみませんすみません、本当にごめんなさい!」

 

『行儀の話するタイミングか今!?』

 

 崩壊していく王城。

 城から逃げてくる人々。

 城で、街で、響く爆音。

 街は慣れた様子のパニック状態だ。

 全体で見れば凄まじいパニック状態なのだが、個人個人をよく見ると皆落ち着いていて、「また魔族かなんか来たのかよ!」と叫んでいる人が定期的に見える。

 まさに、慣れたパニック状態だった。

 

 怪人が出ても「なんなんだよあれは!」ではなく、「また出たぞ!」で対応する戦隊世界の民衆のような反応で避難していくので、紫山がとてもやりやすそうだった。

 

 あ、そこの道まっすぐ行かない方が良いです。

 人が詰まって渋滞してます。

 そこの交差点から右に行って迂回した方が早いと思います。

 

「了解」

 

『せめて王都じゃなくて他の街だったらな……

 セックスしないと出られない部屋にオレと魔王で入って永久封印もできたんだが……』

 

「それは、君は今、自分を犠牲にする前提の作戦も選択肢に入れてるのか」

 

 図星をつかれ、中村はちょっと言葉に迷った。

 

「必要ない。君を犠牲にするほど追い詰められた状況ではないと俺は考える」

 

『……ハッ! それで勝てるんならいいんだがな!』

 

「それで勝つ。低い可能性でも俺に賭けてくれ。必ず勝ってみせる」

 

『フン。じゃあなんか案出してみろよ。言っておくが……オレは今、相当絶望してるぞ』

 

「二回だ」

 

『あ?』

 

「せめて二回。二回フィニッシュアーツが撃ちたい。

 だがあいつに有効打にするにはアーツレバー三回操作分の技が要る。

 二射でレバー操作六回分は現実的とは言えない。いったいどうしたものかな……」

 

 紫山の腰にはファンタスティレットが吊り下げられている。

 イリスが取り返してくれたものだ。

 しかし握ることも、構えることもできない。

 体から離して吊り下げた状態にしておかなければ、『装備』や『所持』の状態になってしまうため、あの魔王の力で剥奪されてしまうからだ。

 

 せいぜい、使えて一回。魔王の認識外から銀銃を全力で一回撃つのが限界だろうか。

 

 城で魔王が能力を使った時、奪った装備は謁見の間の者達のものだけだった。

 つまり、あの能力の効果範囲は街一つを覆うようなものではないということ。

 魔王の認識範囲において発動するものである、と推察できる。

 魔王が全力で剥奪しておらず、本気を出せばもっと広がるという可能性もあるが、少なくとも現段階では、遠距離からの奇襲を一回は刺せるはず。

 認知範囲外で銃を握れば、おそらく初撃は問題なく撃てるはずだ。

 

 ほとんどの魔法は届かない距離だが、アーツレバー三回分、ファンタスティレットの最大火力ならば十分に届くはず。

 あるいは、離れてから銃を握って、隠れて待ち伏せしても当てられるかもしれない。

 

『相棒は、最大の技二回当てれば倒せる自信があるってことか?』

 

「奴は寄生型なんだろう?

 経験上、寄生タイプの敵は本体は弱いことが多い。

 その上体も小柄な少女で、素早いタイプに感じた。

 流石に生身じゃまるで歯が立たなかったが……

 もしかして、硬いタイプの魔王じゃないんじゃないか?」

 

『ほぉー……よく見てんじゃねえか』

 

 確かに、その通りだ。

 あれは下位の魔王。

 その中でも、素の防御値はかなり低い方だ。

 イリスクロニクル初代はシステムの黎明期だったのもあって、ラスボスの魔王テルーテーンには付け入る隙が特に多い。

 だが、打てる手が少ない現状、それがどうしたという話だが。

 

「気付きの起因は"イリスに腰が引けていた"ことだな。

 経験上、本当に硬いやつほど気が緩みやすい。

 余裕ぶって無駄に攻撃を体で受ける。

 だが奴はどうだ?

 攻撃を丁寧に防御していた。

 あの爪で丁寧に弾く癖がついていた。

 眼球への攻撃すら効かなかったのに。

 最後には、距離を空けて魔法だ。

 ……奴はもしかして、俺が思ってる以上に脆いんじゃ? と思った」

 

『いい目の付けどころだな。

 そうだ。

 あ(・)の(・)目(・)も(・)瘡(・)蓋(・)な(・)ん(・)だ(・)よ。

 目の形をした瘡蓋だ。

 武器さえ装備してりゃ、あの瘡蓋は1~2回の攻撃で剥がせる。

 その下の皮膚は弱く、かなりのダメージが入る。

 そういうギミックを搭載してんだ、あのラスボス野郎は。

 まあ現時点まで一枚も剥がせてなかったから意味ねえ話だったが……』

 

「……! やはり、あの瘡蓋(かさぶた)が防御機能なのか」

 

 えっ目とかあれ瘡蓋なんですか!?

 

『まーな。目蹴って剥がせてたら素手でもワンチャンあった。

 相棒が二回攻撃当てればってのは、そういうことだろ?

 一回当てて剥がして、次の一発で確実に倒す……そういうことだ。違うか?』

 

「ああ」

 

『原作ゲームのRTA動画投稿者も基本はこれだったな。

 四人仲間揃えて、二人で確実に瘡蓋を剥がし、一人がアタッカー、一人がヒーラー。

 あるいはイリスを二刀流の二回攻撃にして、一回目で剥がして二回目でダメージとか』

 

「あーるてぃーえー……?」

 

 はえ~。おふたりともすっごいですねえ。

 

「セレナもイリスもあまり動かしたくない。

 ダメージが相当なもんだ。できれば、俺一人で二回当てたい」

 

『問題がいくつかある。

 まず、どう当てるか。

 あいつは素でかなりの速さで、爪の防御技巧は相当なもんだ。

 次に、一回目当ててから二回目使うまでどう乗り切るか。

 最後に、第二形態に移らせる前にちゃんと一撃で仕留めきれるのか』

 

「当てる方法は考えてある。

 それはそれとして、第二形態?

 それはあれだろうか、倒した敵幹部が強くなって戻ってくるあの……」

 

『……ああ、お前RPGもあんまやってないんだったか。

 戦闘中にHP20%以下になると変身すんだよ、テルーテーンは。

 HPは全回復して更に強くなる。RPGじゃよくあることなんだがな』

 

「なるほど。

 アルナちゃんが時々言ってた『本気』ってそれか。

 仕留め損なったらそこで終わり、と思っておいた方がよさそうだな」

 

『おう。

 だからイリクロ1だと方法は二つだ。

 第二形態になってからも押し切って倒す。

 あるいは裏技だが、体力残り21%以上の状況から一撃で倒す』

 

「急所の瘡蓋を剥がして、もう一撃全力を当てられればなんとか……いける気がする。勘だが」

 

『そうか。なら、あとは二つ目の問題だけだな』

 

「奇襲で一回当てて、次に撃つまでの間に、確実に武装剥奪(キルスティール)を使われる」

 

 走りながら、二人は思案する。

 

 あと一つ。あと一手。何かがあれば。

 

 紫山は二回撃てない。

 二回撃つまでの間に武装剥奪(キルスティール)を使われてしまうから。

 逆に、魔王テルーテーンも最初の武装剥奪(キルスティール)をかわされてしまえば、二回目の発動の前に紫山の二射目を受けて撃沈するだろう。

 武装剥奪(キルスティール)を防ぐか、かわすか、妨害するか。

 何かしらの方法が要る。

 

『……方法はある』

 

「本当か?」

 

『おうとも。だが複雑すぎる計算でやることだ。

 二重三重に仕込まなきゃ策は策とは言えねえからな。

 要は、お前の一回目の攻撃の後二回目を撃つ時間がありゃいいんだろ?

 説明してる時間がねえ。後で説明してやるから、とにかくお前は二回当てることを考えろ』

 

「ああ。分かった」

 

 詳細は女神にも分からないが、あの中村の策だ。そこに疑う理由はない。

 

 城が見えてきたが、同時に魔王も近付いてきた。

 無音で、空の闇に紛れて飛ぶことで紫山の感覚を誤魔化す気であるようだが、地上からはほぼ見えなくても、天上の神の世界からはよく見える。

 紫山から後方約800mの上空。

 紫山と中村視点、二番目に大きな雲と三番目に大きな雲の間辺りだ。

 先程の移動速度から考えれば、おそらく800秒は大丈……魔法が来ます!

 

「!」

『!』

 

 炎が降った。

 数は18。いや、もっと唱えられている。もっと魔法の数が増える。

 空でたっぷりと詠唱された魔王の魔法は、威力と射程を大いに伸ばし、紫山を狙う火の矢、いやもはや火の雨となって降り注いだ。

 

『振り向くな相棒! 魔法の軌道はオレが見る! 前を見て全力で走れ!』

 

「命を預ける!」

 

『任せろ! 右、右、左、少し止まれ! よし走れ! 右、左、右!』

 

 全力疾走しながら回避する紫山。

 彼の背中の目となる中村。

 人間の通常の身体構造ではありえない最高効率の回避逃走を行う紫山に、魔王テルーテーンは心底愉快そうに、にぃぃぃっと笑った。

 

「フ、フフフ、フ」

 

 魔法が増える。

 数が十倍に。

 『まるで炎の雨』ではなく、『炎の雨としか形容できない』ほどの数になる。

 対軍団規模の魔法行使が、たった一人の人間を狙って飛翔する。

 

 その雨を、同数の氷の矢が撃ち抜いた。

 

 王城の正門前、そこで一人佇む、可憐なドレスの少女がいた。

 

「……メル姫!」

 

『おいおいおいおい、王族が前出てくんなよ!

 ……お前そんなだからイリス庇って正史で陵辱されてんだよ!』

 

 アマリリス王国第一王女、メルウィーウィック・エブルトゥス・アマリリス。

 初代勇者と共に戦った八煌英雄、『水天の聖王子』の子孫。

 その属性は水。

 水を操り、氷を放つ。

 水系統の攻撃魔法においては、シリーズを通してぶっちぎりで最強の魔法使いである。

 

「ミナアキ様達のおかげで城の全員が避難できました。

 私のお父様もお母様もです。後は……ミナアキ様達を助けるだけです! す!」

 

 炎が撃たれる。

 氷が撃たれる。

 魔法の射出と射出の合間が信じられないほど短い、魔王と魔法使いと魔法の乱舞。

 炎の群れと氷の群れが、空の一部を埋め尽くす勢いで喰らい合う。

 逃げていく王都の民衆が、それを見上げ、その美しさに一瞬見惚れた。

 

 だが、徐々に氷の群れが炎の群れに押し込まれていく。

 

「くっ……杖がないと火力が……!」

 

「フ、フフフ、フ。楽しいわね姫!

 足掻いて、足掻いて、足掻いて……"もうだめ"と言う瞬間の顔を見せてぇぇぇ!」

 

「もうだめもうだめもうだめ! はい言いましたよ! 満足ですか!」

 

「……ははっ! 宰相してたから知ってるけど! やっぱりそういう性格よねお姫様!」

 

「ん。そういう性格です! おてんばちゃんですよ!

 たくさんの山賊から助けられたらずっと恩に感じてるくらいには、乙女ですけど!」

 

 恐怖があった。

 山賊の戦闘があった時、メル姫は臆病になってしまった。

 魔法を当てても怯えない山賊。

 石でもなんでも投げつけて詠唱を妨害してくる山賊。

 姫やセレナを下卑た性欲で見る山賊。

 何もかもが幼い姫にとっては未知で、怖くて怖くて、途中からは戦えなくなってしまって、引きこもった馬車の中から見ていると、戦いは負けそうな流れになっていて、その後自分やセレナがどうなるかを思うと、姫は震え上がってしまって。

 そこに、助けに来てくれた人が居た。

 姫も、姫の大事な友達であるセレナも守ってくれた人が。

 

 恩義とは、善意の行動から生れ出づるもの。

 勇気とは、恐れを受ける中生れ出づるもの。

 恐怖から生まれた勇気の灯は、今も姫の胸に灯っている。

 

 恩義の想いが、分厚い氷の壁となり、紫山を守り切る。

 

 姫とすれ違い、正門をくぐり、紫山は無事王城に入った。

 

「城にはもう誰もいません。ご武運を」

 

「ありがとう、お姫様。魔法かっこいいね」

 

「……えへへ。ありがとうございます!」

 

 紫山が城に入る。

 氷の防衛網を突き抜けて、姫を風の魔法で吹き飛ばし、魔王もまた城に入る。

 

 表情を見るに、魔王は分かっていた。

 紫山が城を選んだのは、この王都で最も頑丈な閉所だからだ。

 何も無い開けた場所では強者が順当に勝ちやすくなり、色んなものがある閉所では弱者が強者に勝ちやすくなる。

 熟練の戦士であれば皆、それは分かっていることだ。

 

 無警戒な魔王を刺せるなどという希望的観測は持てない。

 紫山らは、警戒している魔王に一発当てる必要がある。

 それがどれほどの困難であるのか、女神は分かっているつもりだ。

 

 

 

 

 

 もうそこが何の部屋だったのか、誰にも分からないくらい壊れた部屋に、魔王は飛び込んだ。

 

 大きな部屋には瓦礫が積み上がっていて、隠れる場所がいくらでもある。

 

「フ、フフフ、フ」

 

 魔王が探知魔法を発動しようとする。

 焦点を一点に集中して、女神がそれを見抜き、伝える。

 その瞬間、魔王の思考の"移り際"を狙って、紫山は第一手を打った。

 

 上から何かが落ちてくる。

 天上付近の薄暗いそれを、紫山だと思って魔王は爪の衝撃波を撃つ。

 だが、違う。

 それは詰め物がされた紫山の上着。

 警戒しているがゆえに、ここまでの戦いで印象付けられていた"紫山の上着"が、薄暗い空間にちらっと見えた瞬間に、魔王は過剰に反応してしまったのだ。

 

 魔王は瞬時に、囮だったと気付き、"囮があるなら逆方向から攻めてくる"と判断し、自分が背を向けている方向に耳を澄ませる。

 僅かな、ほんの僅かな、マシュマロが袋の中で擦れる程度の音がした。

 それが、そこで何かが動いている証。

 

「そぉこぉ!」

 

 大きな部屋の中、瓦礫の向こうで、何かが動いている。

 そう判断した魔王の爪が振るわれて、衝撃波が瓦礫ごとその向こうを吹っ飛ばした。

 

『駄目だ相棒、気付かれてる!』

 

 あの腕輪の声がする。

 

 声の発生源が、魔王視点、右から左へと動いている。

 

「あら、まだそんな速さで逃げられたの……ねぇっ!」

 

 瓦礫の向こうで、走って逃げている紫山を、爪からの衝撃波で追い込み、そのまま痛めつけ、すり潰す―――そう考えていた。

 そう考え、動いていた。

 けれど。

 瓦礫を全て吹き飛ばした魔王の目に映ったのは。

 

 糸で引っ張られていた腕輪だけで、紫山はどこにもいなかった。

 

「え?」

 

《 ウーノ! ドース! トレス! ティロテーオ! 》

 

 瞬時にアーツレバーを三度操作、銀銃から最強の光弾が放たれる。

 

 魔王は振り返り、迫る銀銃の一撃を見て"かわせない"と思いながら、右手に銃を、左手に糸を持ち、糸を引っ張って腕輪を宙に舞わせ、空中でキャッチする紫山水明の姿を見た。

 

「―――」

 

 光弾が、魔王テルーテーンの喉に直撃し、強固な瘡蓋を吹き飛ばし、その皮膚を焼いた。

 

 眼球に擬態した瘡蓋、鼻に擬態した瘡蓋、口に擬態した瘡蓋が一瞬剥がれかけたのを、紫山は見逃さなかった。

 

「く、あっ」

 

『分かってるな! 合わせろ! タイミングはそっちに任せる!』

 

「信用して、何も言わない! 勝つぞ!」

 

「き……武装剥奪(キルスティール)」

 

 もう一度攻めようとする紫山らに先んじて、魔王は能力を発動させようとする。

 しかし、発動したが、届かなかった。

 

「うーの、どーす、てぃろてーお」

 

 彼方より飛来した散弾が、紫山に迫る不可視の能力を、粉砕していった。

 

「!」

 

 魔王がそちらに目を向ければ、そこには片手剣を構え散弾を発射した満身創痍のイリス。

 

―――『分かってるな! 合わせろ! タイミングはそっちに任せる!』

―――「信用して、何も言わない! 勝つぞ!」

 

 先の二人の言葉。これは一見して二人の会話、二人の掛け合いに見える。

 だが違う。

 この二人の言葉は、どちらもイリスに向けられた言葉だった。

 

 紫山が近くで戦っているのに気付けば、イリスは動く。

 イリスがどのくらいで来るのか、中村は計算して予測できる。

 女神がいれば、実際にイリスが来るか来ないか、容易に判断できる。

 そして実際に動くタイミングになれば、何の打ち合わせをしなくても、紫山とイリスの息はピッタリと合う。

 

 掛け声で、それを盤石にした。

 まさに完璧な連携、完璧な罠。

 上着と腕輪。紫山がそこに居るのだ、と、魔王が視覚的に錯覚するものと、魔王が聴覚的に錯覚するものを使ったダブルフェイント。

 魔王の能力再使用は間に合わない。

 紫山さんが0.1秒以内にアーツレバーを三度倒し、そして撃てば、それで倒せる。

 

「フ、フフフ、フ」

 

 これで、勝ちだ。

 

《 ウーノ 》

 

 アーツレバーが一回倒されたその瞬間、魔王が強烈に床を踏んで、城が揺れた。

 

「人間なんかにこのわたしが―――なんて、言うと思う?」

 

 すると、城の全体が崩れ……城が崩れてる!? なんで!?

 

『こいつまさか……城のデカい柱をまとめて"剥奪"してたのか!? 城から剥がして!?』

 

 ! 城に入る直前に、秘匿した大規模能力発動を!?

 ちょっとした衝撃で城が崩れる状態にしてたってことですか!?

 ああ、魔王の近辺とイリスちゃんに焦点を集中しすぎて、城全体が見えてなかった!

 ご、ごめんなさい!

 っていうかそれありなんですか!?

 

『相棒、イリス、落ちてくる瓦礫を避けろ!

 知らねえ!

 原作ではやってねえよこんなこと!

 だが、こんだけ拡大解釈した能力行使、魔王も相当無理してなきゃできねえ……!』

 

 城は、王が誇る権(・)威(・)と(・)い(・)う(・)名(・)の(・)武(・)器(・)の(・)具(・)現(・)……ということなのだろうか。

 

 魔王の力でも普段はできない、無理に無理を重ねた『拡大解釈』。

 中村の反応から見ても、原作で一度も行われていない能力行使。

 ラスボスという、最後に一度戦い倒すだけの存在であるがために、主人公の仲間達のように旅の中で能力の応用や描写を行う枠がなく、幕間描写や最後の戦闘で能力を見せるのみ―――ラスボスであるがゆえの『描写の少なさ』が、予想を外してきた。

 

「おにーちゃん、逃げて!」

 

「フ、フフフ、フ! 使うつもりはなかったんだけどねえ!」

 

「!」

 

 崩落する城。

 無数に落ちてくる瓦礫。

 既に形を保っていない床の上では、走ることも飛ぶことも難しい。

 魔王は瓦礫では死なないが、防具を剥がされた人間は容易く死にかねない。

 そんな中で、魔王が広げた手を紫山に向けていた。

 

《 ドース! 》

 

 間に合わない。

 城を崩落直前になるまで"剥がし"、崩落寸前の状態にしておき、万が一の時のための保険としておくなど、理外が過ぎる。

 紫山さんの攻撃準備が邪魔されて、間に合わない。

 

 でも、きっと、ここまでは織り込み済みだ。

 魔王は強い。

 必殺の策の一つくらいなら理不尽に跳ね返してくる。

 それでも、中村相手には勝てない。

 

―――二重三重に仕込まなきゃ策は策とは言えねえからな。

 

 こういう状況は初めてではない。

 それでも、地球人の皆さんのチームは、中村さんの策で勝ってきた。

 勝てる。

 勝てるはず。

 私は信じて、反撃の策に乗り遅れないようにすればいい。

 緊張して、一瞬一瞬がスローモーションに見えてくる。

 

「武装剥(キルスティー)―――」

 

《 トレス! 》

 

 その時。

 

 違和感があった。

 

 違和感があって、何か、私は、不安になった。

 

 不安になって、何か言おうするけど、間に合わない。

 

『はぁ』

 

 魔王の能力が、発動して。

 

 中村さんが、自己定義を"装備品"として割り込んで。

 

 え?

 

『ま、しょうがねえよな。勝てよ、ヒーロー』

 

 紫山さんの装備の代わりに、中村さんが奪われて。

 

 え?

 

「あらあら、思ってなかったものが来たけど……まあいいわね」

 

『くたばれ、クソ野郎』

 

「捨て台詞? フ、フフフ、フ。さようなら」

 

 魔王が、中村さんを握り潰して、捨てて……え?

 

 え?

 

 や、やだ。中村さんまで。行っちゃやだ。

 皆、皆、死んじゃって。

 裏切った人も。

 でも、皆頑張ってるから、責められるところなんてなくて。

 皆、居なくなって。

 居なくなるたびに悲しくて、悲しくて、泣いちゃって。

 でも、中村さんが居てくれて。

 中村さんが居てくれたから、私はちょっとだけ、頑張れて。

 私は女神だから普通の家族なんて居ないけど、お兄ちゃんがいたらこんな風かなって。

 

 壊れた腕輪は、どう見ても、もう直しようがなくて。

 

 中村さんが、死ぬ?

 

 な、なんで、なんで……やだ、やだ、中村さ―――

 

 

 

『―――悲しむな! 止まるな! 使命を果たせ! 戦隊だろうがッ!!』

 

 

 

 ―――!

 

 その時。

 

「……ああっ! 分かってる! 後で……後でたくさん、悲しませて……泣かせてくれッ!!」

 

《 トレス! ティロテーオ 》

 

 私はようやく、責務を放棄していた最悪の自分に気付き、我に返った。

 

 中村さんのために、中村さんのおかげで、私はすべきことをする。

 

 紫山さんもきっとそう。

 

「……あらあら」

 

 崩れる城の中、最速の操作を行った紫山さんの最強の射撃が、魔王の瘡蓋の無い喉を穿つ。

 城が崩れていく。

 人が、魔王が、飲まれていく。

 何も嬉しくない勝利、何も良くない決着。

 

 紫山さんが一撃目を撃ってから、二撃目を撃つまでの、本当に一瞬しかなかった出来事。

 

 私は、きっと。

 

 この一瞬を、忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城が瓦礫の山に変わり果て、その中で。

 崩落する城から衝撃で弾き出された腕輪が、ぐしゃぐしゃな状態で地面を転がる。

 もう、直しようがない。

 女神が。

 女神が、こんな出来損ないじゃなくて。

 ちゃんと全知全能だったら。

 せめてケツアルコアトル様くらいの力があったら。

 助けられたかも、しれない。

 

 中村さっ……中村さん……!

 

 誰か、誰か、中村さんを助けて!

 

 お願い、お願いします……私にできることなら、何でもするから、お願い……!

 

 もう、やだ、いい人が、優しい人が、死んでいくのを見るのは、やだ……!

 

『しっかり、しろ……お前がちゃんとしてねえと……オレが安心して死ねねえだろうが……!』

 

 ! 中村さん! 喋れるんですか!?

 今病院……回復魔法……いや、腕輪に残った人間の残滓なんてどうしたら……!

 き、気をしっかり持ってください!

 今、何か見つけます、何か探します、何か、何か、救えるものを……!

 

『しっかり、しろ。泣くな。割り切れ。今お前が考えるべきは、紫山水明のことだろ』

 

 でも!

 

『助からねえよ。見りゃ分かるだろ、駄目女神』

 

 ……っ。だって、だって、だって……!

 

 私、私は……ごめんなさい、中村さん、ダメな女神で、冷静になんてなれなくて、いつも誰かが死んじゃったら泣いてて、私、私は……!

 

『お前が、ダメな女神だなんて、最初から、知ってる』

 

 ……はい。ごめんなさい、ごめんなさい……

 

『だけど……"成長しない女神"だなんて、思った、ことは、一度もねえよ……頑張ってるだろ』

 

 ―――。

 

『相棒を、助けろ。相棒を、信じろ。きっとあいつが……お前を笑顔にしてくれる……』

 

 紫山さん、が。でも、私は、中村さんにも居てほしくて……なんで、中村さんはいつも、そんなに口が悪いのに、私のことを、大事にしてくれるんですか……?

 

『……知らね。お前が勝手に決めていいぞ』

 

 ……私がずっと、見かけの歳が変わらないからですか?

 中村さんの妹さんが病気で死んでしまった時の歳と、私の今の外見の年齢が、ずっと同じくらいだからですか?

 

『……知らねーって言ってんだろ。

 お前は、妹に全然似てねえ、よ。

 お前は、お前だから、好かれてたんだろ。

 強いて、言や、笑った顔が、ちょっと似てるか、くらいの……』

 

 ……。

 

 私のヒーローは、紫山さんと、中村さんなんです。

 

 だから、だから、だから……

 

『ったく、こいつは……おお、相、棒。生きて、たか。流石だな』

 

 ! 紫山さん。

 

「……君のおかげだ」

 

『へ、よせよ。悪いが……全部、後、頼めるか?』

 

「ああ。君の出会い、想い、誓い。全て連れて行く。絶対に……必ず」

 

『律儀だな、ああ、クソ、長い遺言でも言いたかったが……

 ああ、クソ、眠……頑張……違う……勝て……死ぬな……最後まで……』

 

「ああ。この空と……君に誓う」

 

『……人生……クソばっかだったが……悪く、無かったな……』

 

 中村さん?

 

 中村さっ……あっ……

 

 ……う、ううっ、えぐっ。うええええっ。えぐっ、えうっ、ううっ、あああっ……!

 

「……? ……! お前……!」

 

 中村さっ……ありがとうございました……!

 ごめんなさい、ごめんなさいっ……こんなところに呼んで……あんなにいっぱい頼って……ごめんなさいっ……!

 優しくしてくれて……いつも気遣ってくれて……私のせいじゃないって言ってくれて……世界を平和にするって言ってくれて……元気付けてくれて……ありがとうっ……!

 いっぱいいっぱいありがとうがあって、言い切れないくらいくらいのありがとうがあるから、だから、だから、私っ……!

 

「なんで生きてる! テルーテーンッ!」

 

 えっ……?

 

「え~? 弾が外れてたとかじゃないかしら。フ、フフフ、フ」

 

「そんなわけがない。手応えはあった。首に大穴が空き……首も落ちかけていたはずだぞ」

 

「これ、なーんだ? フ、フフフ、フ!」

 

 テルーテーンが、手に持った何かを揺らしている。

 

「それは、セレナちゃんに貰ったアクセサリーだが。どうしてお前が持っ……て……」

 

 発言途中に、紫山さんが気付く。

 私も、気付く。

 そうだ。

 確か。

 それは。

 

―――今渡されたこれ、なんだろう

―――死亡回避のアクセサリーだな。使い捨てで、死亡時にHPが1残る。高いぞ

―――へぇ……ありがたいもの貰っちゃったな

 

 死(・)ん(・)だ(・)時(・)に(・)蘇(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)、『装備』。

 

「フ、フフフ、フ。

 ねえねえ、"拡大解釈"ができる時点で、わたしならいつでも剥がせるとは思わなかった?」

 

「いつ、盗った?」

 

「いつでもいいでしょう? いつでも剥がせたし、いつ奪ってても同じなんだから」

 

 そんな……そんな!

 

 じゃあ……じゃあ……中村さんは、何のために死んだんですか!?

 

「分かっていて、その上で、俺達でずっと遊んでいた……というわけか?」

 

「ええ、そうよ、その顔が見たかったから!

 フ、フフフ、フ。

 わたしは装備を無力化してるのではないのよ?

 "奪って"るの。

 奪ったということは、もうそれはわたしのものなの」

 

「あれは、俺がとても責任感の強い女の子からもらった、その女の子の善意そのものだ」

 

「フ、フフフ、フ。

 あはははははっ!

 最高! この瞬間のために生きている!

 他の生物が後生大事にしているものを!

 最大にして最悪の形で踏み躙る!

 ああ、ああ、この瞬間にこそ……わたし達の生まれた意味があるわ……!」

 

 紫山さ……紫山さん?

 

 凄く、怒ってる……?

 

「魔王テルーテーン」

 

「なぁに? フ、フフフ、フ」

 

「俺は間違っていた。

 ただの悪だと思っていた。

 その認識は甘かった。

 貴様達は、悪の中の悪だ。

 ずっと、ずっと……現状を見る目は、中村の方が正しかった」

 

「あらあら……そんなに強く拳を握っちゃって、痛くない?」

 

「誰かが大切にしている人を殺す。

 誰かが大切にしている想いを踏み躙る。

 誰かが大切にしているものを壊し、悦ぶ。

 貴様らを生かしておくわけにはいかないと……改めて、今、思い知った」

 

「フ、フフフ、フ。じゃあ、やってみたらどうかしら?」

 

 変わる。

 魔王が変わる。

 第二形態へ。

 

 鉄を切り裂き、鋼に勝る、合金を超える強度と羽よりも軽い矛盾を備え、魔王の瘡蓋が増殖していく。

 瘡蓋の翼。瘡蓋の鱗。瘡蓋の角。瘡蓋の棘。瘡蓋の尾。

 目・鼻・口・耳に擬態していた瘡蓋がぼとり、ぼとりと落ちていく。

 全身が魔の瘡蓋で出来ていて、その一つ一つが一人の兵士に匹敵する異形の魔人が、そこに現れていた。

 

 たとえるなえらば、瘡蓋の竜人。

 

「ごめんなさいねぇ。

 期待を持たせてしまって。

 勝てる、なんて思っちゃったかしら?

 ざぁんねぇん、勝ち目なんて最初からなかったのよ」

 

 これが、魔王テルーテーンの本気。

 第二形態。

 本当の姿。

 最後の勝ち目を潰す、魔王の全力。

 

 落ち着け……落ち着け……泣いてる場合じゃない……私が……私が頑張らないと……中村さんを無駄死になんかに、したくない……!

 中村さんの代わりを、私がするんだ!

 私は、ダメ女神なんかじゃない! 今はそうでも、そうじゃなくなるんだ!

 な、泣きたくても……泣きたくても……泣くもんか!

 

「頼りにしてるよ、アルナちゃん。俺は今……とてつもなく、怒っている」

 

 はい!

 

「まだ食い足りないから、もうちょっと楽しませてちょうだい?」

 

「……」

 

 瘡蓋の竜人が、ゆったりと距離を詰める。

 ジャリッ、と踏み締められた砂利が鳴る。

 紫山水明は動かず待ち構え、銀剣のアーツレバーを一度倒した。

 

《 ウーノ! クチラーダ! 》

 

 ヒーローの銀剣を、光刃が伸長させる。

 

 『魔王』としか言えない風体の魔王が、翼を広げ、にたりと笑った。

 

「その言葉、後悔させてやる」

 

「ハ、ハハハ、ハッ!」

 

 瞬間、光と闇が激突した。

 目で追うのも困難な、超高速戦闘の始動。

 魔王のスペックは第一形態とは比べ物にならないほど上昇しており、その一撃一撃が弾丸を置き去りにする速さと、戦艦を粉砕する威力を持っていた。

 紫山は受け流すしかなく、食らいつくしかない。

 

 女神にできることは、今必死に捌いている紫山を視界外から殺そうと、魔王が瘡蓋の尾を動かしていることを教えることだけだ。

 

「フ、フフフ、フ!」

 

 尻尾の奇襲も軽く跳んでかわし、紫山は圧倒的格上の猛攻を、神速の迎撃を繰り返すことで受け流している。

 これがヒーロー。

 これが紫山水明。

 

 ……いや。

 違う。

 これは?

 これまでの紫山水明より……ずっと速くて、強くて、巧い。

 

「ぐっ……はああああああああっ!」

 

 受け流す。

 受け流す。

 受け流す。

 アーツレバー一回分のエネルギーを常に剣に宿し、それを全ての防御で上手くぶつけ、魔王の絶望的な連撃を受け流していく。

 巧い。

 巧すぎる。

 昨日までの紫山水明ではありえないレベルの強さだ。

 

 ……ああ。

 

 そっか。

 

 一度だけ、見たことがある。

 ファンタスティックバイオレットが、ファンタスティックレッドを庇い、倒れた時。

 レッドが悲しんで。

 レッドが叫んで。

 レッドが怒って。

 普段から全力で敵にぶつかってるレッドが、いつもの数倍強くなって、どんな強化武装を使っても倒せなかった幹部を、剣一本で圧倒して……倒して。

 そうだ。あの時私は、これと同じものを見た。

 

 そっか。

 

 中村さんは……紫山さんにとって、とっても大切な仲間に、なれてたんですね。

 

 ありがとう。紫山さん。本当に……本当に……うっ……本当に、ありがとうございます。

 

「ありえない。

 フ、フフフ、フ。

 感情で強くなる生き物……?

 ありえない、生物のステータスは不動。

 不動の数字の組み合わせこそが生物の基本だったはず。

 他の世界には、感情で強さが上昇する人間が、存在するというの……?」

 

 鬼気迫る感情の奔流が、紫山水明の背中を押している。

 友情。

 信頼。

 激怒。

 全てが彼の背中を押している。

 

 ゆえに、絶対的な力の差がありながら、魔王は紫山を殺しきれないでいた。

 

 紫山を防戦一方に追い込めている。

 紫山に小さな傷をどんどんと増やしていく。

 紫山の勝機を0にしたまま、紫山の体力と血液を削り落としていく。

 けれど、トドメだけは刺せない。

 ヒーローを負けさせることだけは、魔王がどんなに手を尽くしても、できていない。

 

 あ、尾が来ます。

 

 奇襲を目論んでも、魔王の奇手は女神がついた紫山水明には通じない。

 

「改めて名乗ろう。俺は、紫山水明。俺は……」

 

「フ、フフフ、フ……」

 

「友が得た男と女の出会いを、そこに築いた誓いを、叶える。世界を救って……」

 

 ヒーローが、構える。

 

 魔王が……"武器を奪わなくても余裕で勝てる"という慢心を捨て、手を開く。

 

「貴様を―――この手で倒して!!」

 

「無理よ」

 

 くっ……もうちょっと慢心していてくれれば……!

 

 紫山さんなら絶対、絶対的な力の差だって覆して、そのまま倒してくれるのに!

 

 魔王が、能力を発動した。

 

 

 

「武装剥奪(キルスティール)」

 

 

 

 魔王の手の中に、紫山さんの武器が……あれ?

 

 え?

 

 魔王が持ってるの、紫山さんのファンタスティレットじゃない?

 

 え、あれ? これ……なんで!? ま(・)だ(・)来(・)て(・)な(・)い(・)は(・)ず(・)なのに!

 

「―――なにこれ?」

 

 "狙っていなかったものを剥がし奪えた"という事実に、魔王が気付く前に。

 "それを渡せ"と紫山が叫び、魔王が何かを察する前に。

 その場の全員が状況を把握する前に、『大好きな人の気持ちを把握していた』、イリスエイル・プラネッタが動いた。

 

 最高の状況で横から殴るため、ずっと瓦礫の下で息を潜めていたイリスの登場に、魔王は完全に不意を打たれて目を見開く。

 イリスは最高のタイミングで、最高の動きで、魔王の手の中の"それ"を蹴り飛ばした。

 

「!?」

 

「おにーちゃんに本当に必要なものなら、おにーちゃんの目を見れば分かる」

 

 蹴り飛ばされたそれが、魔王と紫山の中間に転がる。

 不味い。

 瓦礫の位置が悪かった。

 "それ"は紫山の方まで転がっていかず、両者の中間に転がってしまったのだ。

 

 このままでは、基礎スペックで勝る魔王が先に取ってしまう。

 不味い。

 本当に不味い。

 

 ……あ!

 

 その時。

 先端を弾性球体にした打撃矢が飛んで来た。

 矢が"それ"を紫山の方に弾き、宙を舞った"それ"を紫山がキャッチする。

 矢を撃った者を見れば、それは全身を包帯でぐるぐる巻きにしたセレナであった。

 武芸百般、アフェクトゥス。

 

「なんとか、間に合ったみたいですね。自分にも見せ場を残しておいてくださいよ」

 

「セレナちゃん!」

 

「イリス、ミナアキ殿、申し訳有りません。十分に回復するのに時間がかかってしまいました」

 

 紫山は優しい微笑みで頷き、"それ"を左手首に付ける。

 

 魔王は、ぞくぞく姿を現してきた人間が何をするか、興味深そうに眺めている。

 

「ありがとう、二人とも。起きろ、ス(・)カ(・)イ(・)ク(・)ォ(・)ン(・)タ(・)ム(・)」

 

《 Get ready 》

 

 そして。

 

 ……あれ?

 

 これ……これって!

 

《……? おい、相棒。こいつはどういうことだ? 説明しろ》

 

「……説明してほしいのは俺だよ、中村」

 

 なか……中村さん! 中村さん中村さん中村さん!

 わぁ! わぁ!

 奇跡、奇跡ですか!?

 中村さんが生き返った!

 

《うるせえな! っていうかこれなんだ? オレ死んだよな?》

 

「死んだ……と思うが」

 

 中村さん! 中村さん! よかった! ほんとよかった!

 

《うるせえ! っていうかなんだこれ、ファンタスティックVの変身アイテムじゃねえか!》

 

「そうだな。スカイクォンタム。人々の想念の結晶を加工した……金色だったかこれ?」

 

《え? 何? なんだコレ? 意味分かんねえぞ?》

 

「魔王が武装剥奪(キルスティール)を使ったんだ。

 そうしたら無かったはずのスカイクォンタムが金色になって出てきて……

 ん? 拾ってた中村の金色の腕輪も無くなってるな。

 魔王についでに盗られたのか? いや、それにしては魔王の手の中に腕輪がないが……」

 

《……オーケーオーケー分かった! イリスクロニクル1のVer1.00のバグだ!》

 

「なんて?」

 

 なんて?

 

《1のVer1.00は所持品を1ファイルで管理してたんだよ。

 で、そこに一部環境で剥奪かけるとどうなるか。

 装備だけじゃなく、所持品全部、預けてたアイテムまで対象になっちまうんだ。

 バグ挙動だからな。

 "奪ったものが混ざる"なんてこともあった。

 当然、混ざっちまったもんは元には戻らねえ。

 擬似的な合体処理でよく分かんねえもんになる。

 分かるか?

 紫山の物だが所持してねえスカイクォンタムと、ポッケの中の腕輪のオレが混ざったんだよ》

 

「!」

 

《いや……ビビるわ。

 世界に残ってたんだなこの仕様。

 スカイクォンタム喚べなかった理由、覚えてるか?

 "女神の力と魔王の妨害が拮抗してたから"だろ?

 じゃあ……『魔王がアイテムを引っ張る力に加担』すりゃ、そりゃ喚べるんだろ》

 

「女神VS魔王で互角、女神+魔王VS魔王で女神が勝った……ということか?」

 

《おう、推測だけどな。しっかしまさかなあ。

 ヒーローならともかく、パンピーのオレにこんな奇跡があるとは……》

 

 え? 何言ってるんですか?

 

《あん?》

 

 奇跡って、その時の戦場で一番かっこいい人へ運命がくれるご褒美のことですよ?

 

 神の世界ではじょーしきです。

 

《……ハッ! 話半分に聞いとくわ》

 

「そうだな。今日一番格好良かったのはお前だ、中村」

 

《乗るな乗るなお前も乗るな》

 

 紫山水明が、気合の入った顔で、黄金化したスカイクォンタムを撫でる。

 

「俺も少しは格好つけないと、お前に相棒と呼ばれる資格がないな」

 

《よ……よせよ馬鹿野郎》

 

 照れてますね。照れてますね!

 

《なんでお前そんなテンション高いの?》

 

 テンションも上がろうってものですよ!

 

 あ。イリスちゃんとセレナちゃんがこっちに来ます。

 

「よかったねえ、おにーちゃん。よかったねえ」

 

「……ああ」

 

 イリスはにこにこと笑っていて、セレナは真面目な顔で弓と剣を持っている。

 

「自分の助太刀は要りますか?」

 

「頼む。だが、無理はするなよ」

 

「昔、姫様に言われたんです。

 『私の英雄(ヒーロー)はあなたよ』

 と。……私は姫様の騎士で在る限り、ちょっとは痩せ我慢して、かっこつけたいんです」

 

《ああ、知ってる。テメエが誰のヒーローなのかってことくらい》

 

「……? 口の悪い腕輪さん、イメチェンですか? なんか気取った感じになりましたね」

 

《うっせ》

 

 人の絆があった。

 確かな暖かさがあった。

 魔王が確認したかったものは、これだ。

 これを確認し、確認した上で潰そうとしている。

 それが魔王であった。

 

 にちゃにちゃとした笑みを浮かべて、魔王は紫山らの前で横行に翼を広げ、幾度となく繰り返してきたように、手を開いた。

 

「あらあら、調子に乗っちゃって……頑張っちゃっても意味はないのに。武装剥奪(キルスティール)」

 

 皆を守ろうとして、前に出たイリスが目を見開く。

 魔王の手が増えている。

 否。

 瘡蓋だ。

 瘡蓋の手だ。

 人の傷口から引き剥がした瘡蓋を集めたような手が、魔王から無数に生えていた。

 

「……!?」

 

 それら全てから、武装剥奪(キルスティール)が放たれた。

 イリスは既に見切っている。

 自分に向かってきた数本は、既に切り落とした。

 しかし、仲間に向かうものまでは全て切り落とせない。

 まだ、この"初見である無数の武装剥奪"を完全に潰せるほど、彼女はこれを見切れていない。

 

 中村破壊後の紫山らのショックを見ていた魔王は、紫山の激怒も織り込んだ上で、『人間の悲しむ顔が見たい』というだけの気持ちで、またしても中村を奪って皆の目の前で握り潰してやろうとして―――その中村が。否、スカイクォンタムが放った輝きに、能力の全てを消し去られた。

 

「は?」

 

 もう一度、魔王は撃つ。

 しかし、またしてもスカイクォンタムが光り輝き、打ち消される。

 "天の護り"が、装備剥奪を防いだのだ。

 

 このブレスレットは"奪われない平和"の具現。

 平和が奪われないことを望む、地球人類七十億の想いが結晶化したものを、加工したもの。

 "奪う"力は、この腕輪に歯向かえば絶対的な相性差で潰される。

 

 そして。

 『悪が人々から何かを奪うことを許さない』と本心から揺るぎなく想う、選ばれし者がこれを身に着けた時、スカイクォンタムは真の力を発揮する。

 

「目を見開き、耳を澄まし、背を伸ばし、天の正義の声を聞け、魔王」

 

「フ、フフフ、フ」

 

「俺達は戦隊だ。俺達はいつも、一人ではないがゆえに。束ねた力で悪を討つ」

 

 詠うように正義を言葉にする紫山の右にイリス、左にセレナが並び立つ。

 

「お、名乗り? ハブらないでよおにーちゃん!

 せっかく夜ふかしして二つ名考えて来たんだから! あ、セレナちゃんもやろっ!」

 

「ええっ!? 自分もですか!?」

 

「そうそう! ちゃんと言わないと!

 名乗りは、ヒーローの名前を聞いただけで悪党が震え上がるようにするために、だよ!」

 

 数十年の歴史を持つ、超級戦隊シリーズ。

 

 これは、特撮が好きな女神の語る、ちょっとした豆知識であるが。

 

 超級戦隊シリーズで最も使われた変身アイテムの形状は、腕輪(ブレスレット)である。

 

『スカイクォンタムセット!』

 

 中村が声を上げ、紫山がスカイクォンタムを太陽に重ねるように、拳を空に突き上げる。

 

 そして、胸の前に降ろして構え、スカイクォンタム中央のエナジーボールを擦って回した。

 

「青天霹靂!」

 

 回転するボールからエネルギーが迸り、その全身を天空のエネルギーが包み込む。

 まずは靴。

 次に手袋。

 全身をスーツが覆い、ベルトがそこに現れる。

 最後に流線型とアンテナを組み合わせたマスクが顔を覆って、変身は一瞬で完了した。

 

 ああ。ああ。そう。これ! これこれ! これですよ! わあああああああああ!!!

 

 そう!

 これが!

 これこそが!

 最高最強、紫のヒーロー! ファンタスティックバイオレット!!

 

 推せる!!!!!!!!!!!!

 

「なっ……魔王の特権である『形態変身』を、人間がっ!? これは、一体……!?」

 

 おののく魔王をにらみ、『戦隊』は名乗りを上げる。

 

「慈悲の勇者、ファンタスティックバイオレット!」

 

『全知の勇者! ガモン・ナカムラ!』

 

 勇者の女神! アルナスル・アルタイル!

 

「が、頑強の勇者、セレナミリエスタ・アリカリア・アフェクトゥス!」

 

「正義の勇者、イリスエイル・プラネッタ!」

 

 紫のヒーロー、金のブレスレット、白の女神、青の騎士、白の主人公。此処に五色が揃う。

 

 あっ五色じゃない私とイリスちゃんの白がかぶってる! ゴレンジャイ!?

 

 対し、魔王は悠々と構えた。

 闇が迸っている。

 音が悲鳴のように鳴っている。

 瘡蓋(かさぶた)がさけ、そこから鈍色の魔力が漏れている。

 兵士達から奪った全ての装備が、軍勢のように従えられている。

 

 それは、人より奪いし、鋼鉄の魔軍にして魔群。人の貴(たっと)き営みを辱めるもの。

 

「かかってきなさい、勇者共。我が名は剥奪の魔王テルーテーン! 剥がしの魔王だ!」

 

 魔王が名乗り。イリスが、中村が、紫山が応える。

 

「天に雲」

 

『地には花』

 

「この手に正義の礎を!」

 

 五人の声が、重なる。

 

 高らかに、世界のどこまでも響くように。

 

 

 

 

『「「「天空戦隊! ファンタスティックV!」」」』

『「「「天空戦隊! ファンタスティックV!」」」』

 

 

 

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