絶望的エロゲ世界を救え!日曜朝ヒーロー!気弱女神!エロゲオタク!   作:ルシエド

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【14】心を一つに

 主要戦力が出払っていたとは言え、ここはアマリリスの王城。

 この国で最も厳重な警備がなされていた施設である。

 当然、武器も防具も大量に保管されていた。

 

 第二形態へと移行した魔王テルーテーンは、その全てを剥奪できる。

 城から引き剥がされた武装の全ては、魔王に従う鉄の群れ。

 まず無数の剣が、戦隊を食い潰さんと飛来した。

 

 イリスがにっと笑って、額から垂れる血、頬を伝う血を拭い、片手剣を逆手に構えた。

 

「さて、じゃあ、まず、道を開くよー! うーの! どーす! とれす! くちらーだ!」

 

 逆手でぶっ放す光刃。紫山の必殺斬撃の模倣が、剣の群れを吹っ飛ばしていく。

 

 しかし、剣は囮。

 魔王の魔法で視覚的に見えにくくされた大量の槍が、迂回して上空から降り注ぐ。

 されどそれは、天上の視点からは見えている。

 

《イリス! 上もだ!》

 

「うーの! どーす! とれす! てぃろてーお!」

 

 逆手に持った剣の柄から、紫山の必殺射撃の模倣が光弾を放ち、槍の群れを吹き飛ばす。

 あまりにも自由。

 あまりにも反則。

 どんなポーズからでも、どんなところからでも、見切った技が飛び出してくる。

 

「フ、フフフ、フ! じゃあこれはどうかしら!」

 

 城から剥奪した鎧が集まっていく。

 組み上がっていく。

 そして、30mはある巨大な蛇になった。

 無力化するのではなく、剥がし、奪い、我がものとする力。

 鎧を編み上げ"悪なる蛇"として操ることなど、造作もない。

 蛇は地面ごと食い潰す勢いで、矮小なる人間達、戦隊へと噛みつきにかかる。

 

 全身の包帯に血をにじませながら、セレナが"城を壊すために魔王が剥がした城の柱"―――20mはあろうかというそれを、筋力強化薬を飲みながら両手で持ち上げる。

 ……。

 え、まさか振れるんですか?

 

「貴様が剥奪した城の柱……国民の血税の塊を、今こそ国防に使わせてもらう!」

 

《と、トンチキ女……》

 

 振り下ろされた城の柱が、鉄の蛇を叩き潰す。

 轟音。

 地震。

 粉砕音。

 振り下ろしたセレナは息を切らせていて、息を整え、もう一度柱を持ち上げ、もう一度振り下ろして蛇を叩き潰した。

 

 ね、念入り……怖い。

 

 魔王は盾や弓を組み合わせて数匹の鉄の獣とし、そこから次々矢を放つ。

 セレナは柱を地面に突き立ててその陰に隠れたが、魔王の狙いはそれだった。

 柱を握るセレナに手をかざし、魔王は武装剥奪(キルスティール)を発動する。

 しかし、無駄。

 

 仲間を守るべく、前に出たファンタスティックバイオレットのブレスレットが黄金に輝くと、『奪う力』は霧散し、武装剥奪(キルスティール)は失敗に終わった。

 盾と弓で出来た獣は、前に出たファンタスティックバイオレットを攻撃しようとする、が。

 

「くぅぅぅあぁぁぁぁっ!!!!」

 

 ぶん回された柱が、鉄の獣を地面ごと薙ぎ払った。

 

 まだ来る。

 まだまだ来る。

 大量に来る。

 第二形態の魔王の力は及ぶ範囲全てから武装を剥奪できるがゆえに、生み出せる鉄の獣の数は事実上の無尽蔵。

 しかし、道は開けた。

 

 正面の鉄の空白地帯は、魔王テルーテーンへと続く道。

 

 セレナとイリスの声が重なる。

 

「「 いけーっ! ファンタスティックバイオレット! 」」

 

 信じられない速度で紫の閃光が道を駆ける。

 それこそがファンタスティックバイオレット。

 天地を駆ける紫光の流星。

 その後を追おうとした鉄の群れを、イリスとセレナが叩き潰した。

 

 魔王は当然、武装剥奪(キルスティール)は使わない。

 効かないことが分かっているから。

 ただただ、魔王として堂々と待つ。

 

 この先は、実力勝負だ。

 

「踊りましょう? 慈悲の勇者さま!」

 

「悪いが、ダンスは苦手でね。戦いばかりやってきたものだから」

 

「わたしもよ!」

 

 互いに初撃に選んだものは、最速の一撃。ゲームで言えば確定先制の最速攻撃。

 

 正義の銀剣と、魔王の黒爪が、空中にて激突した。

 

「ふっ!」

「しっ!」

 

 そして、振るわれる高速の連撃。

 魔王の両手と、正義の剣は、手数において魔王が勝る。

 しかし、"自分より強い相手"との戦闘経験において、ヒーローが勝る。

 爪が振り下ろされ、剣が切り弾く。

 剣が突き出され、爪が受け流す。

 爪が左右から挟み込むように振るわれ、剣の一閃が二つ同時に打ち払う。

 0距離で機関銃を打ち合うような。

 0距離で機関銃の弾を撃ち落とし合うような。

 超高速の、凄まじい攻防。

 

「互角……!? 第二形態に至った、このわたしが……!?」

 

「ファンタスティックスーツは、着用者の総合戦闘力を数十倍に高める。祈りの力だ」

 

「魔王の第一形態から第二形態への強化倍率平均値とほぼ同じ!? フ、フフフ、フ!」

 

「この世界に来てから、俺も素の能力をかなり鍛え直したが、それで互角か。少し凹むな!」

 

 両者が渾身の一撃をぶつけ合い、反動で互いの体が後方に吹っ飛び、両者同時に着地した。

 

 と、同時に。魔王の両手の、親指以外の全ての爪が"剥がれた"。

 

「!」

 

 剥がしの魔王。然らば、その瘡蓋(かさぶた)だけでなく、爪も剥がれる。

 

 剥がれた爪が、ファンタスティックバイオレットを狙って弾丸のように発射された。

 

 その一つ一つに、ファンタスティックバイオレットは必殺の気配を感じ取る。

 

《相棒! こいつはラスボスらしく基本八属性全てを使える!

 爪は八個、一個につき一属性だ!

 『四大元素』、火、水、風、地!

 『物理四則』、斬、突、射、打!

 爪の属性は変わらねえ! 的確に防げ! 来る順番を見切って教える! まず打撃だ!》

 

 空中で、弾丸の速度で飛ぶ爪が軌道を変えるのを見て、ファンタスティックバイオレットの背筋に冷たいものがひやりと走った。

 

《打、斬、火、水! フェイントだ突は来ねえ! 次、斬、射、地、打!》

 

 八属性、八つの爪。

 ゲーム的には、第二形態の魔王テルーテーンが呼び出す仲間魔物のように扱われる。

 手堅い攻略法はレベルをしっかり上げたメル姫を連れていくことなどで、1ターン目に一掃すれば、第二形態をとても簡単に倒すことができる……らしい。

 

 しかし、今のバイオレットにそういう攻撃手段はない。

 バイオレットは、絶技にてそれに立ち向かった。

 事実上の、九対一だ。

 

 打撃を、衝突の瞬間柔らかく受ける。

 斬撃を、剣の刃で受ける。

 射撃を、剣の腹で受け流す。

 突撃を、横からぶっ叩いて逸らす。

 経験をもって爪の属性を見極められる中村の助言を受けながら、ファンタスティックバイオレットは全てを見事に処理していった。

 

《斬属性は射撃に弱い、撃て! 射属性はその逆だ、斬撃で落とせ!》

 

 斬の爪を撃ち落とし、射の爪を切り落とし、攻撃の際に出来た隙を必死で埋めつつ残りをかわして―――

 

 あ、魔王の魔法です! 回避して!

 

 全身全霊で対処しなければならない八つの爪で意識を引き、視界外から堂々不意打ち。

 まさに魔王の戦い方と言ったところか。

 しかし、バイオレットは跳んでかわす。

 

「フ、フフフ、フ。本当に、いくつ眼があるのかしら、貴方」

 

《突属性の弱点は打撃だ、殴れ! 打属性はその逆だ、剣先で突撃!》

 

 崩壊の過程で地面に突き刺さった大きな城の壁を駆け上がり、爪を引きつけ、強化スーツの拳で思い切り殴って粉砕する。

 地面に着地し、剣を構えて、突き出せば……

 

 地面スレスレと頭上から魔法で視認し辛くなった爪が来てます!

 

 ぐるん、と、バイオレットは跳んで回った。

 膨大な炎を纏って突っ込んできた地面スレスレの爪、氷の刃を連続発射しながら突っ込んできた爪を見事にかわす。

 そして無駄のない動きで、打属性の爪を剣先で突き壊した。

 

「ようやく半分か」

 

《四大元素は魔法がないと対の属性をぶつけられねえ、通常攻撃で根気強く対処!》

 

「いや、スーツがある今なら……一撃だ!」

 

《 ウーノ! ドース! クチラーダ! 》

 

 爪の数を半分にしたことで出来た、時間の余裕。

 一秒にも満たないその余裕で、銀剣のアーツレバーを二度操作。

 かくして、銀剣の五連撃が放たれた。

 

 操作一回は単発技、操作三回は最強技、操作二回は対多数技。

 射撃技(ティロテーオ)より更に力の収斂度を高めた斬撃技(クチラーダ)は、四つの爪を一瞬にして切り落とした。

 ばらばらになった爪が、それぞれの属性を宿しながら地面に墜落していく。

 

 ……そういう仕様だからしょうがないですけど、斬撃一回分余りましたね。

 

「フ、フフフ、フ。上がってくるじゃないの!」

 

「そうか?」

 

《実力が拮抗してないとたぶん盛り上がらん塩試合メーカーだなこいつ》

 

 踏み込むバイオレット。

 

「おっと……フ、フフフ、フ! 爪は再生できるのよ!」

 

 悠然と構え、爪を再生し、発射する魔王。

 

「だろうな」

 

 瞬間。

 

 踏み込んで、振るわれる、銀剣と光刃の一筋の閃光。

 

《 ウーノ! クチラーダ! 》

 

 その一閃が、発射直後の八つの爪と、八つの指を、まとめて両断していった。

 

 まさに、神業。

 

 バイオレットは研ぎ澄まし、研ぎ澄まし、この世界に来てから最高の精度で、一閃を放った。

 

「―――!」

 

「お前が苦しめた者。お前が殺した者。全てに懺悔し、地獄に落ちろ」

 

《チェックメイトだ》

 

 後は、トドメの一撃でフィニッシュだ。

 最強最大の攻撃を二度当て、瘡蓋の向こうに攻撃を届かせれば勝ち。

 魔王にもう奥の手はない。はず。

 原作を熟知している中村がそう言っていたのだから、そのはず。

 

 今日も正義は勝つ! 勝った!

 

 そして―――そして―――? これ、は……?

 

 来ます!

 

「っ!」

 

 光が、落ちてきた。

 

 その光に、女神と中村は見覚えがあった。

 

 後方に跳んで光を避けたバイオレットだが、光の中で魔王が変化していくのを感じ、身構える。

 

「ああ、ああ、スズキ様……感謝致します! フ、フフフ、フ!」

 

 魔王は恍惚の中に居た。

 何を感じているかは分からない。

 だが、恍惚の中に居た。

 何か、何かよく分からない変化が、魔王に起きている。

 

《鈴木……テメエっ……本当に、魂の底の底まで……!》

 

 ……。やっぱり、この光、鈴木さんのですよね……?

 

「知り合いか? といっても、この状況で君が出す名前という時点で、もう分かるが」

 

《裏切者だ。裏切ったあいつの、能力だ》

 

「能力」

 

《言ったろ!

 前任の女神はオレ達に力を与えたって。

 オレの分はもう綺麗サッパリ消えたが……

 裏切ったアイツには、鈴木には、まだ力が残ってる。

 『種族に対応した特別な力を覚醒させる』っていう能力がな》

 

「種族に対応した特別な力……?」

 

《地球人に使えば一戦闘分の身体能力強化。

 虫混じりに使えば一日マイナスイベントが起こらない加護。

 獣人に使えば半日妊娠率100%。

 魔族に使ったところは見たことなかったが……こいつは……》

 

 ぐんぐん、ぐんぐん、魔王が膨らんでいく。

 どんどん大きくなっていく。

 バイオレットの身長を超えて、建物の大きさを超えて、それでもまだ止まらない。

 

 ……。

 で、でっかい!

 加減を知らないくらいでっかい!

 全長72m21cm!

 第一形態の六十倍くらいまで大きくなってます!

 

《クソが! 魔族に使うとこうなるのかよ!

 雑に巨大化形態なんて追加しやがって!

 魔王の第一形態と第二形態で別々のエロシーン入れてた原作者の丁寧さを見習えや!》

 

「言ってる場合か!」

 

 こっち狙ってますよ!

 

 魔王が地上のバイオレットに手を伸ばし、掴もうとする。

 

 バイオレットは抵抗・回避をしようとしたが、サイズ差と瘡蓋に覆われた手は如何ともし難く、あっさりと捕まってしまった。

 

「フ、フフフ、フ。あんなに強かったのに……もうこんなにちっちゃいわねえ……?」

 

 ぎゅっ、と、巨大化した魔王がバイオレットを握る力を強める。

 

 ああ、やめてやめて、潰れちゃう……!

 

「ぐっ、あああああっ……!」

 

《相棒! 踏ん張れ! 何か、何か……そうだ! 女神! 今姫は何してる!?》

 

 え、姫? あっ。

 

 分かりました、見てきます!

 

 

 

 

 

 メル姫は、崩壊した城の一角で瓦礫をどけていた。

 

 一体何をしているのか、女神にも見当がつかない。

 

「腕輪さんは神器を求めていた。

 それを『女神』とやらに捧げると言っていた。

 捧げる魔法陣も一回見せてもらった。

 一回見せてもらったなら、私ならコピーできるはず。

 さ。頑張れ、私。きっと……そこに……希望がある……!」

 

 ……!

 その手が!

 ああ、でも、姫一人じゃ間に合わない……!

 12歳の姫の力じゃ瓦礫は……かといって魔法じゃ全部吹き飛んじゃう……!

 

 どうしたら……!?

 

「よっ、姫様」

「泥だらけやんけ」

「頑張ってんなあ」

「あんたいっつもそんなんやな」

「よっすよっす」

 

「えっ……あなた達、なぜここに……? 契約はもう終わったはずでは……」

 

「なんかあったと思てな。案の定なんかあったみたいやし」

「自殺行為する趣味はあらんけど、姫様かセレナちゃん抱えて逃げるくらいはできるかなと」

「この瓦礫どければいいのかな?」

「姫、怪我の手当てが優しかったからな。ま、こんくらいの恩返しは」

「しっかしあんなでかいのがうろついとるのに、姫はまだこんなとこにいて勇気あるのう」

 

「あっ……ありがとうございます! あなた達こそ真の勇者です!」

 

「ええてええて」

「はっ、真の勇者だってよ。普段商会の荷物運びしかしてねえのにな、おれら」

「ばかもん。セレナちゃんとミナアキ兄貴に迷惑かけた分をここで取り戻すんじゃい」

「なにせわしら」

「全員勇者じゃしな! がはは! 肩書きだけじゃが!」

 

「瓦礫の下で価値のありそうなもの、古そうなもの、全てを魔法陣の上に集めてください!」

 

 ゆ……勇者の皆さぁん!

 

 あああああ!

 

 私……私! 私!

 

 この世界を守ってって……この世界の人を守ってってお願いして……よかっ……よかった……うわあああああああんっ!!

 

「姫、十個くらい集まりました! これ全部神器ってやつなんですか!?」

 

「はい! 今から魔法陣でこれを全て奉納し消し飛ばします! 余波に気を付けて!」

 

「あの、姫、俺古物査定知識あるんすけど、これ普通に国家予算数年分くらいあるんじゃ……」

 

「構いません! 王国が滅びればそんなものはガラクタです! す! やってしまいます!」

 

「怖いよぉ……姫も怖いけどこの国の来期の損益計算書が怖いよぉ……」

 

 ひ、姫様! ありがとう! 紫山さんが握り潰される前に間に合……あれ!?

 

 ま、魔王! 魔王がこっち気付いて……ああああ! 攻撃を! 逃げて逃げて!

 

 駄目だ私の声が聞こえてない! 私の声が聞こえる人も近くに居ない!

 

 気付いて気付いて、早く気付いて、皆を魔王が狙ってるの! 逃げて! 早く!

 

 あああああ……魔王が魔法を……やめてえええええええええっ!!

 

「うなれ王家の淫魔術―――『男根千本咲き』!」

 

 !

 

 割り込んできた王様が、杖を地面に突き立てると、無数のだんこ……おちん……柔軟性と硬度に優れた何かが地面から大量に生え揃い、姫達を守る壁となった。

 

「王!」

「王!」

「お父様!」

 

「ふむ、久しぶりだから鈍っているか」

 

 アマリリス王家の先祖、水天の聖王子がサキュバスに逆レイプされ、生まれてきた子供こそが、アマリリス王家の先祖であるとされる。

 これはあまり公にはなっていない、けれど知る者は知っている、"一般人も割と知らない"程度の秘密であった。

 代々『魔の因子を抑える訓練』を重ねてきたアマリリス王族は、それを特殊な道具で引き出し『淫魔術』を行使することができる。

 その一つが、これだ。

 

 性技能が上がりやすく、快楽落ちしやすいアマリリス王家は、性技が上手いが、性行為に弱い。

 

「魔王がこっちを見てない今がチャンスじゃ!

 皆、武器を探し、拾え! 流れ弾から娘たちを守れ! 王命である!」

 

「「「 はっ! 」」」

 

「武器が全然見つかりません! 鎧は見つかったのでこの身を盾とします!」

 

「その意気やよし! 後で特別手当をやる! 死ぬなよ! 王命である!」

 

「「「 はっ! 」」」

 

 王が引き連れてきた兵士達も加わり、魔法陣の前で詠唱するメル姫を守る。

 

 防戦一方、しかし沢山の人が防御にリソース全力を注ぐことで、僅かなれども時間は稼げる。

 

 何故、魔王は魔法で攻撃するだけで彼らの武器を奪わないのか……そう思った女神が魔王の方に目を向けると、苦しみながら、スカイクォンタムで魔王の能力を妨害するバイオレットが居た。

 

 今、ここに。

 頑張っていない人間は、いない。

 女神はずっと、それを応援している。

 皆ずっと、頑張っている。

 

「―――今、この儀の主へと捧げます(ጪጫ ጮጮጪጮ ጫጩጪጬጮ ጫጫጬጫጩ)。詠唱、終わりました!」

 

 だから。

 

 女神も、頑張らないと。

 

 ここで応えられなければ―――いや、応えてみせる。絶対に応えられるはずだ!

 

 私に、人を愛する女神の資格があるのなら!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王が笑い、バイオレットを握る強さを強める。

 みし、みしみし、と音が鳴る。

 スーツの耐久限界が、スーツ越しの肉体限界が迫っている。

 

「フ、フフフ、フ。終わりよ。さようなら、ファンタスティックバイオレット」

 

「俺は……信じてる……」

 

「何を?」

 

「仲間を……絆を……そして……『戦隊』を……!」

 

「はぁ?」

 

「戦隊は、無敵ではない……

 いつも、何人も、倒されてから、本番が始まる……!

 何人倒されても……何人追い込まれても……

 無事だった奴が、仲間を助け、最後には勝つ……俺達はっ……戦隊だっ……!」

 

「あっ、そ。じゃ、そのへん盲信しながら死んで行きなさい。フ、フフフ、フ」

 

 ファンタスティックバイオレットは死なない。

 彼は死なない。

 だって。

 

 彼の言っていることは、正しいんだから。

 

「!?」

 

 青い新幹線が、空に引かれた光のレールを通って、魔王テルーテーンに衝突した。

 

 混乱するテルーテーンを、空中でUターンしてきた青い新幹線がまた跳ね飛ばす。

 

 跳ね飛ばされたテルーテーンが尻もちをついて、街が揺れた。

 

「ぐっ、あっ、なっ、何事!?」

 

 倒れたテルーテーンの腕、バイオレットを握っている方の腕に、赤い恐竜が噛み付く。

 噛みつき、振り回す。

 噛まれた痛みと振り回す力で、魔王はバイオレットを離してしまい、バイオレットが宙を舞った。

 

「フ、フフフ、フ……なにこれぇ!?」

 

 宙を舞うバイオレットを、紫の戦闘機が拾い、彼を乗せたまま空中でぴたりと静止する。

 

「な……なんだ……誰が、乗って……」

 

『しっかりしろ相棒! お前も乗り込め!』

 

「あ……ああ。俺のロボに……ゴウカのロボと、ソウカイのロボ……!?」

 

 バイオレットは戦闘機に乗り込み、懐かしい機内風景に心安らげつつ、他の二体、列車と恐竜の内部へと通信を繋げた。

 すると。

 聞き覚えのある声が二つ、バイオレットの耳に届く。

 

「武芸百般を舐めるなぁぁぁぁぁ! あたしに使えない武装あったら祖先への恥だわ!」

 

「なんかおにーちゃんの技能大体見切ってたから難しかったけど使えた!」

 

『セレナ!? イリス!? 無法すぎんだろ!?!?』

 

 バイオレットの笑い声が。

 そりゃもう、愉快そうな笑い声が。

 機内に響いて、少女二人も通信が繋がったことを理解した。

 

 夕焼の恐竜、ファンタスティレックス。

 其は天空が生み出した赤き幻想。

 搭乗者はファンタスティックレッドから、白地に赤線が入ったローブを纏うイリスへ。

 

 青空の新幹線、ファンタスティトレイン。

 其は天空が生み出した青き幻想。

 搭乗者はファンタスティックブルーから、青き髪の女騎士、セレナへ。

 

 嵐雲の戦闘機、ファンタスティファイター。

 其は天空が生み出した紫の幻想。

 搭乗者は変わらず、ファンタスティックバイオレット。

 

 夜空の重車ファンタスティレーサー、朝陽の忍獣ファンタスティニンジャ、及び強化武装と追加戦士の分はちょっと力が足りませんでした! すみません!

 

《はっ。十分すぎるわ。ダメ女神は卒業だな》

 

 ……! はい!

 

「イリス、セレナちゃん。心を落ち着けて、心を一つに。"あの魔王を倒す"とだけ思って」

 

「はーい! おにーちゃんの言う事ならー!」

「? 了解しました」

 

「コールだ中村! 天聖合体!」

 

『お、おお!? 天聖合体!』

 

 おっ。よしっ!

 

 ガコン、ガコンと、"コール"によって、三つのロボが変形していく。

 

 赤き恐竜が、まず人型へ変形。

 青き新幹線が、変形して足回りに合体。

 そして紫の戦闘機が、変形して背中と肩に合体。

 それぞれのパーツがスライドし、一つの巨人の型を成す。

 

 光る赤。

 輝く青。

 煌く紫。

 巨大な青き足と、巨大な紫の翼を見せつけ、腕を組み、悠然と魔王を見下ろす赤き巨人。

 

 

 

「『 天聖合体! ファンタスティックバロンα! 』」

 

 

 

 ああああああああ!

 リアルで!

 三身合体!

 ファンタスティックバロンが見られたああああああああああ!!!

 

 天聖合体は互いへの信頼関係があって心を一つにできないと不可能だからイリスちゃんセレナちゃん紫山さんあと中村さんもその心は一つでうわあああああああああああ!!!!

 

「……フ、フフフ、フ。こけおどしね。くっついたからって何だって言うの!?」

 

 トン、と、羽毛が地面に落ちるように軽やかに、ファンタスティックバロンは地上に降りた。

 

 魔王は放つ。八つの爪を。バイオレットの背筋をひやりとさせた、九対一を作るそれを。

 

 しかし、踏み込んだファンタスティックバロンが腕を組んだまま、左足で立ち、右足で八度、目にも留まらぬ速度で蹴ると、即座に全ての爪が消し飛んだ。

 

「!?」

 

 腕を組んだまま更に踏み込み、ファンタスティックバロンは魔王に蹴り込む。

 一発一発が非常に重い。

 一発一発が非常に速い。

 狙いが正確で、魔王の顎を蹴り上げたと思えば、顔を庇った魔王の膝を蹴る。

 足首を狙っているように見えた蹴りが、急に曲がってこめかみを蹴る。

 

 変幻自在の蹴りの猛攻に、魔王は加速度的にダメージを積み重ねていき、目に見えて一方的に押し込まれていった。

 その間、ファンタスティックバロンはずっと腕を組み、一度もそれを解かない。

 動かすのは足と翼だけである。

 

「なっ、くっ……速い!? このサイズ、この重さでこの速さですって……!?」

 

「皆の力が一つになる。

 だから合体は強い。

 だから今の俺達は強い。

 デカいから強いんじゃない! 一つになっているから強い! それが戦隊の合体だ!」

 

 強烈なキックが、魔王を吹き飛ばす。

 

「フ、フフフ、フ……わたしの知らない正義……わたしの知らない勇者……」

 

 王都の外まで蹴り出された魔王は立ち上がろうとするが、ダメージでふらついている。

 

 "ここだ"と、バイオレットがその経験から号令をかけた。

 

「心を落ち着けて。

 心を重ねて。

 心を研ぎ澄ませるんだ。

 これは『合体』だ。

 俺達の心が一つになってないと何もできない。

 逆に、俺達の心が一つにさえなっていれば……なんでもできる!」

 

「自分にできることであれば、やります」

 

「心を一つにー、心を一つにー、正義ー、平和ー、おにーちゃんー」

 

《……お前らたぶん何も考えねえのが一番心一つになるぞ》

 

 それは……そうですね……はい。

 

 それぞれが、自分が乗り込んだ乗機を操作するための、輝く宝珠に手をかざす。

 

 少しずつ、少しずつ、互いの心を重ねて……皆の心が、ピタリと重なった時。

 

 皆の心に、一つの名が浮かび、誰かが掛け声を口にするまでもなく同時に、叫んだ。

 

 

 

『「「「 来たれ閃光! 天空一刀両断! 」」」』

 

 

 

 背中から抜き放たれた紫の剣が光を纏い、ファンタスティックバロンが空へと舞い上がって、そこから急降下。

 雷のような光を纏い、雷の如くジグザクに落ち、雷の速さで紫電一閃。

 瞬く間に、巨人はそこを通り過ぎて。

 

 後には、両断された魔王、それだけが残った。

 

「善を踏みつけ、悪が栄えた試しなし。―――この空に、正義在る限り」

 

 膨大なエネルギーが、魔王の残骸を爆散させる。

 

 その爆発を背景に、ファンタスティックバロンは剣を背に収め……勝利を確認して、バイオレットは倒れた。

 倒れるバイオレットを、左右からセレナとイリスが抱きかかえる。

 

「お疲れ様です」

 

「おつかれ、おにーちゃん」

 

 あー。

 

 ふぅ。

 

 ……勝ちましたね。

 

 勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 

 やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

《うるせえ、ダメガキ女神》

 

 はい、すみません。

 

 うぅ、ダメ女神に戻っちゃった……

 

《ま、おつかれ。よくやった》

 

 ……はいっ!

 

 

 




次回、一旦最終回
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