絶望的エロゲ世界を救え!日曜朝ヒーロー!気弱女神!エロゲオタク!   作:ルシエド

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【2】ワクチンを二回摂取してワクワクチンチン!

 数え切れないほどの人型魔獣が、赤色の草原を疾走していた。

 彼らは群がる。

 敵に向かって。

 ただ殺すため。

 紫山水明を肉塊に変えるため、30を超える数で四方八方から彼に群がっていた。

 

 ファンタスティレットを振るう紫山が、それらを片っ端から切り倒していく。

 彼の手に嵌められた黄金の腕輪が、戦闘中であるのに軽快に歌い始めた。

 

『WOW WOW BREAKER 君の明日 僕の明日 全てのために 壁を越えるんだ~』

 

「何故歌を……?」

 

『特撮ヒーローは勝ちが決まった流れで処刑用BGMが流れるのがルールだろ』

 

「そんなルールは無い」

 

『あるだろ!!!!!!』

 

「あるのか……? 俺の知らないところで流れてるのか……?」

 

 斬り、撃ち、蹴る。

 ばったばったと魔物は倒れ、紫山水明は倒れない。

 戦闘が奏でる細かな音の織りなす調べが、既に一つの音楽だった。

 危なげなく圧倒するその攻勢が、耳に優しい音楽を創り出す。

 

 余談だが、中村がうろ覚えで歌ったのはファンタスティックVの前番組の処刑用BGMなので、とんだにわかを晒した形になっていた。

 やはり日曜朝の特撮を見ていた人間の中でも"浅い"ファンというものは、言動でそれが浮き彫りになるということだろう。

 

『うるせえな!!!!!!!』

 

 ひっ……いきなり大きな声出さないでください。

 

 十の敵を打ち倒し、十の新手をそつなく迎撃する。

 地面の下に潜っているモグラ型の魔物の存在も、気付けるがゆえに脅威ではない。

 中村の流儀に合わせたのか、紫山は己が知る歌を口ずさむ。

 TV版37話で彼が口ずさんでいたその歌こそが、番組の主題歌そのものだった。

 

「立て、立て、立て。君の見る空 抱く空 この空はみなのためにある~」

 

 ファンタスティックVのOP一番! うわぁ、紫山水明verかつアカペラverだぁ……

 

『オレはこのへんでやめとくわ。権利団体が異世界まで来ちゃたまらん。戦闘に集中して……』

 

 ふんふんふふーん、闇夜の内にー、空より地を打つ正義のいなずま~

 出会いはそうしてふってきて~、運命は君が惹きつける~、じゅー、りょく~

 そしてっ! 人は見るだろうっ! 君の―――

 

『バカ女神! 目をこっちに向けろ! 戦闘中だぞ!』

 

 ! あ、は、はわわわ! すみません!

 

『クソバカBGM女神として歴史に残ってろ!』

 

 この流れ始めたのあなたですよね!?

 

 紫山から見て右側の人型魔獣が最速の攻撃順に入る。

 しかし、それが分かっていれば、紫山は先んじてそれを撃ち据えられる。

 

 正面から三体同時に襲いかかる人型魔獣であったが、その足にダメージを抱えていることが神の視点では見え見えで、紫山からすれば与し易い的でしかない。

 案の定銃弾がその足を撃ち、耐性が崩れた三体をほぼ同時に紫山が切り捨てた。

 

 もののついでのように放たれた連撃の銃弾が、他の魔物の急所も撃ち抜いていく。

 かくして、事実上戦闘可能な魔物は0となり、あとはトドメを刺すのみとなった。

 

『しかし、変身できねえのは痛いな。単独戦闘だと耐久面に大分不安が出てきやがる』

 

「なんとかするさ。今は変身せず名乗りだけする形にするしかないけどね」

 

『クソバカBGM女神なら変身の名乗りも覚えてそうだなぁ』

 

 スカイクォンタムセット!

 青天霹靂!

 業火の使徒! ファンタスティックレッド!

 流水の使徒! ファンタスティックブルー!

 夜闇の使徒! ファンタァスティックゥブラックッ!!

 慈悲の使徒。 ファンタスティックバイオレット。

 陽光の使徒ぉ、ファンタスティックピンクぅ~!

 天に雲、地には花、この手に正義の礎を!

 天空戦隊! ファンタスティックV!

 

『うわあいきなり一人五役のなりきり名乗りが熱演された!』

 

「ありがとう。よく覚えててくれてるんだね」

 

 えへへ。 あ、それで生存魔物は最後です。お疲れ様でした。帰りましょうか。

 

「ああ……この空に、正義在り」

 

『しかし』

 

 帰路についた彼の手首で、黄金の腕輪がきらりと輝き、辺りを見回す。

 そこに無数の魔物が、もはや"残党"でしかない魔物達が居た。

 かつて他の怪物に使われていた魔物達の最後っ屁のような攻撃は、今終わったのである。

 

『大したもんだ。たった一年で、原作で主人公の村を焼いた悪の大組織を一人で潰しやがって』

 

「一人じゃない。三人だ」

 

『へっ』

 

 えへへ。

 

 原作において、ゲームの主人公を曇らせるイベントがあった。

 魔族にけしかけられた魔物が、原作主人公の故郷を破壊し、友達や近所の知り合いも皆殺し尽くしてしまうという、悲劇のイベント。

 それを乗り越え、原作主人公は強くなった。

 悲しみと引き換えの強さを得た。

 だが、そうなることはもうないだろう。

 紫山はもう一年以上を過ごした村に辿り着く。

 

「おにーちゃーん!」

 

「やあ、イリス。今日も元気だね」

 

「うん!」

 

『へっ、健気じゃねえか。出迎えだとよ。ただいまだぜ』

 

「ナカムーのおっちゃん!」

 

『オレはァまだ28の中村なんですけどォ!?』

 

 紫山水明がイリスを救い、原作の希望を守ってから、一年が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁーおうちに紫山さん達が帰るとこっちまで安心しちゃいますね。

 いい人達の村だと思います。

 ほとんど何も聞かずに空き家の一つを紫山さんに貸してくれましたし。

 紫山さんが農業や魔物退治をしてたとはいえ、ずっと村に置いてくれてますし。

 

「そうだね。感謝が絶えないよ」

 

『週に一回はデカい戦いがあったからな……』

 

 日曜朝の因果なんですかね……? この世界だと因果ってあんまりバカにできないんですけど、それはそれとして、こほん。

 

 では、改めて世界観と現状を説明しますね。紫山さん。

 

「ああ、お願いするよ、アルナちゃん。うっかり忘れたら大変だからね」

 

『オメー授業内容を前日に予習するクソ真面目ムーブを毎日してるタイプだな……』

 

「俺は普通の学校行ってなかったからよく分かんないなあ」

 

『……あー、そうだったな。ワリ』

 

「何が悪いのか分からないな。君が優しいことは分かったけど。君が悪いのは口だけだ」

 

『ケッ』

 

 サークル:ティリスソフト作、『イリスクロニクル』。

 製作者デェゥス。

 個人制作のいわゆるインディーズR18RPGです。

 同人R18ゲーム総選挙一位最多獲得、Dから始まる販売サイトやFから始まる販売サイトでずーっと一位を取っていた有名なゲームだったようです。

 本編のナンバリングが10、外伝がいくつか、他作者のファンメイク作品もあるようです。

 

「へー、すごい」

 

『お前朝青龍のリプみたいな語彙してんな』

 

「相撲の? すまない、トークは上手くないんだ」

 

 どすこいどすこい。

 

 重厚で感動するストーリー、笑えるコメディチックなやり取り、後続がこぞって真似したRPG式戦闘システム、魅力的な数え切れないほどのキャラ。

 可愛さとエロさを両立した女の子の立ち絵、細いイケメンにゴツい中年に枯れ木のような中年まで見事に多様に書き分けられた男の立ち絵、ひたすら綺麗な風景画、最高のイベント一枚絵。

 どこから入っても楽しめるナンバリング10作、外伝なども多々の大長編。

 何より天才的な伏線、神がかった伏線回収、それによる最高最強のストーリーが最高クラスに評価されている。

 それがこのゲームであり、この世界である……らしいですよ。

 中村さんと一緒に来ていた方達の受け売りですけど。

 

「へえ、いいゲームなんだ。ゲームは子供の遊びだと思ってたから全然……あ、一回遊んだな」

 

『そういやあそんなギャグ回あったか』

 

 私の前任の女神であるケツアルコアトル様はこの世界を、実在世界と、ゲーム世界の両方として好んでいたらしいですよ。

 私はまだえ……えっちなゲームはまだちょっと触る気になれませんけど。

 管理者の補佐としてこの世界をもう数年、見守ってきました。

 

「ケツアルコアトル……」

 

『おう、前任のクソ女神だ。もう死んでる。だいたいこいつが悪い』

 

「ケツナシコアトルも居るのかい?」

 

『いるわけねえだろ!?』

 

 ケツナシケツアルコアトル様ならいらっしゃいますよ。

 

『居るの!?!?!?!?』

 

「神様は不思議な名前してるんだなあ」

 

『ほざけぇっー!!』

 

 話を続けますね。

 

 とはいえ基本は女主人公でりょ……陵辱メインの個人制作R18RPGです。

 原作主人公イリスが冒険し、えっちな目に合うルートやそういう目に合わないルートをプレイヤーが選んで遊ぶという、インディーズエロゲーとしてはベーシックな作りらしいですよ。

 なんでしょうね。

 個人制作のえっちなゲームにおける、マリオみたいな作品なんでしょうか?

 

 話の緩急・上下・伏線回収のストーリーテリングや画力が飛び抜けて居るだけで、それ以外はベーシックなインディーズエロゲーの名作とそう変わらない、とか。

 製作者のデェゥス氏はよくユーザーに「最後にキャラ本人が満足していれば全て良しだと思っている性格異常者」と褒めるように罵られていた、とか。

 ケツアルコアトル様がおっしゃってました。

 ケツアルコアトル様は中村さんの世界の匿名掲示板の常連だったみたいです。

 

「女神……?」

 

『お寒いクソオタク女神は死んで~、あ、死んでたわ! ガハハハ!』

 

 記録を再確認しましたが、『イリスクロニクル』初代は1980円で10万本以上売れてたみたいですね。2億円くらいでしょうか?

 

「へぇ……合体神のファンタスティックカイザーのメインカメラの値段くらい売れたんだ」

 

『金銭感覚狂いすぎだろ』

 

 ファンタスティックVの巨大ロボは国の補助金と戦隊の一族の資産で維持してるんでしたね、そういえば……ともかく、ゲームとしては破格に売れたみたいです。

 多くの創作者が影響を受けて、市場をまるごと塗り替えたくらいだとか。

 人気作だったんですねえ。

 

 あ、ファンタスティックVの方が稼いでましたし影響大きかったですし人気作でしたよ!

 紫山さんがもー人気で、紫山さんの専用武器が一時期転売屋に目をつけられてたくらいで!

 レッドの方が売れてましたけど!

 実質人気はまー紫山さんが勝ってる感じで!

 それでねそれでねっ!

 

『ステイ』

 

 はい。

 

「はははっ、それぞれ別の世界から来て、それぞれの世界を知ってるというのは面白いね」

 

『面白いか? まあいい、女神、大雑把でいいから人間の世界の説明をしろ』

 

 そうですね。

 この世界には三つの大陸があります。

 三つの大陸それぞれに大陸を代表する三大国家があります。

 三つの大陸、三つの国家、そしてそれらを睨む北の果て、空に落着した真正魔王の城。

 最初はこれだけ覚えておけばイメージしやすいんじゃないでしょうか。

 魔物、魔族、魔王を倒せれば、世界を救うことができます。

 

 現在地は東の大陸の南東端、つまり世界地図の右下の端っこです。

 設定的には、異世界エリニュエスの、東にあるクロト大陸の、南に存在するアマリリス王国の領、その南東端にあるスタルト村になります。

 

「なるほど」

 

 ここはゲームであり現実である世界。お二人が生きてきた世界よりは単純な整合性が選ばれている度合いが高く、また分かりやすいと思います。

 たとえばお二人の地球にもあったマドナルドを想像すれば分かりやすいと思いますが、世界中に点在するマドナルドのように、この世界には世界中どこにも同じ系統の武器屋やアイテム屋が存在して―――

 

「ん?」

 

『ん?』

 

 え?

 

「ごめんもう一回言って」

 

 世界中に点在するマドナルドのように、

 

『チームは解散だな』

 

 なんで!?

 

『マックをマックと呼ばねえやつは駄目』

 

「いや……俺は解散とかそういうのはしないけど……マドナルドかぁ……いや、いいと思うよ」

 

『よくねーわ。ドラゴンボールをドラゴボって言ってる奴らに匹敵するわ』

 

「いや、ほら、そこは自由でいいんじゃないかな。呼び方なんてそんなもんだろうさ」

 

『こんなのYahooで一週間はトップ記事になってるレベルの恥だろ』

 

「ならないと思う」

 

 紫山さん優しい……かっこいい……素敵……

 

『うるせーぞマドナルド野郎、一生FFのことファイファンって呼んでろ!』

 

 ……うおーっ! なんやかんや三人の喧々囂々、されど二人は大人の男らしい余裕を見せ、未熟な女神のちょっと変なところにも寛容で、以後マクドナルドをマドナルドと呼ぶことで合意を見せてくれたのでした! めでたしめでたし!

 

『あっ女神の反則手使いやがって! クソが! オレは認めねえぞマドナルド女神!』

 

 めでたしめでたし!

 

 翌日!

 

 

 

 

 

 翌日。

 村を魔物から守る紫山水明。

 倒されるは村近隣で増えた魔物たち。

 もはやこの地方においては、魔物の討伐数は彼と辺境巡回騎士団のツートップ。そこは間違いないだろう。

 彼はいかなる世界でも人々の味方で、人の敵の敵である。

 

 魔物を倒して村に帰った彼に、神父が『世界のシステム』を代弁し、彼が敵を倒した数によって得た称号を授けた。

 

「チンポスレイヤーの称号を贈与します」

 

「………………………そうですか、ありがとうございます」

 

 ちんちん型魔物の討伐数500。

 

『チンポ型な』

 

 ……チンポ型魔物討伐数500!

 空を飛び、魔法を軽減し、一気に大量に出現するため、よほどの強さか物理全体攻撃が無いと苦戦してしまう、空を飛ぶ男性器の形の魔物。

 最初に思いついた人の頭の中を覗いてみたい、エロゲRPG界隈ではさして斬新でもない(らしい)、女性を犯すためだけに生まれた生き物。

 銃弾を撃ち落とし慣れている紫山からすれば、いとも容易く。

 このゲームに無数にあるやりこみ要素の一つ、実績解除が達成されたのだった。

 

『よかったな、実績解除だぞ』

 

「よくないが」

 

 こういう世界なんですよね……あ。

 魔物討伐実績報酬はギルドで受け取れますよ。

 この村にはギルド無いのでお金は受け取れませんけど。

 お金受け取るなら街に遠出しないといけませんね。

 

「得が無い……」

 

『そうだぞ』

 

 ううう、推しに最初についた二つ名がこれって最悪に嫌……!

 

『女神の責務雑にやったから天罰が下ったんだろ』

 

 これまで以上に真面目にやります……

 

「いやあ、いいんじゃないかな。特に悪いことしたわけでもないと思うし。いいと思うよ、マドナルドもドラゴボも……」

 

 推せる……

 

『ドラゴボはない』

 

 ぐすん。

 

 

 

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