絶望的エロゲ世界を救え!日曜朝ヒーロー!気弱女神!エロゲオタク!   作:ルシエド

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【3】オナホ学園の劣等生(正史ヒロインの5chでの通称)

 ゲームであり現実でもある、異世界エリニュエス。

 その世界で最も緑に溢れると言われる東の大陸、クロト大陸。

 クロト大陸の南に存在する、世界三大国家に力では劣るものの、最古の国家であり初代勇者を排出したことで知られる、伝統と格式のアマリリス王国。

 その南東端に存在するのが、原作主人公イリスの故郷、スタルト村である。

 紫山はここを拠点に、しばらく活躍していた。

 

 地球と同じく降り注ぐ光は白色透明に近いのに、空に輝く赤い太陽。

 その太陽の横に昼間であるにも関わらず輝く青い月。

 奇天烈な葉の形をした木々が立ち並ぶ緑の森。

 空を舞う一本足の巨大虫。

 この世界では一般的に信仰される大英雄フェラクレスのチンコ丸出しの銅像。

 そこにフンをぶっかけてるコインランドリーに翼が生えて飛んでるみたいな子淫乱鳥。

 

 女神アルナは実はちょっとだけ、この世界に紫山水明が馴染めないのではないかと、心配していたが、杞憂だったようだ。

 

『AV業界に落ちた清純派アイドルのこと心配してるみてえだな、うける』

 

 やめてください。

 

 朝早くから村の農業に必要な仕込みの手伝いを終わらせ、剣を振っていた紫山に、村のおばちゃん軍団が話しかけてきた。

 

「あらー、ミナさんおはよう!」

「今日もイケメンねー!」

「昨日は収穫手伝ってもらっちゃって悪いわねー、今度うちにご飯食べに来てちょうだい!」

 

「おはようございます。今日も皆さんお美しい」

 

「「「 あらぁ~ 」」」

 

「外に出る時はお気をつけて。最近物騒ですからね。大声を上げていただければ駆けつけます」

 

「「「 あらぁ~ 」」」

 

「それでは」

 

 紫山さんに色目使わないでよ既婚者軍団……!

 紫山さんに色目使っていいのは敵女幹部レジィ、百歩譲ってファンタスティックピンクだけなんですよ!

 こんなえっちなゲームのモブが夢見ていい存在じゃないんですよ!

 見てくださいよこのご尊顔を!

 日曜朝に女の子達の性癖を狂わせた顔です!

 変身すると隠れるのもったいない!

 

『だいぶうるせえなこいつ』

 

「まだ子供の神様みたいだし、子供は元気なくらいでちょうどいいと思うよ」

 

『あいつロリなのは見た目だけだと思うが』

 

 こほん。

 

 現在、村に特に危ういところはない。

 敵もなく、危機もない。

 神の眼で見る限り、今日何かがあるということはなさそうだ。

 

「ありがとうね」

 

 いえ、このくらいは。

 

 曲がり角の向こうからやってきた男が紫山に気付いたので、男と紫山は互いに頭を下げ、すれ違った。

 

「おはようございます。いい朝ですね」

 

「おう」

 

 何事もなくすれ違い、そこで女神はふと気付いた。

 外伝で出たキャラのような気がする。

 全知位階に到達していない女神はまだ未熟も未熟で、神としてはありえない"見覚えがある"などという人間のようなことを思ってしまう。

 そんな女神を脇に、腕輪がはちゃめちゃに粘着質な声を漏らした。

 

『あいつサイクロプスのメタルチンポに頭ぶつけて死ねばいいのに~~~』

 

「コラ。人の死を望んじゃいけないよ。というかそんなに悪い人かね、彼」

 

『あいつ外面は良いけどな。

 外伝見る限りやしろあずきアンチスレに四六時中常駐してるオタクみたいな性格してるぞ』

 

「たとえが分からない」

 

『有名人の訃報スレが立つと"誰?"って無意味にコメントするやつくらいだな。

 無視されると"こんな無名の奴誰も知らねえよ"って書き込んで誰かが怒ると喜ぶやつ』

 

「だいぶ悪だな」

 

『オメーが番組内で一生戦うことが無さそうなタイプの悪だよ。今はまだ無害だ』

 

「今はまだ、か」

 

 村人を迷いなく悪く言う中村。

 村人を悪く言われるとむっとする紫山。

 日常の中でなら、こういった些細な諍いはよくあることかもしれない。

 だがこの会話の"ズレ"はもっと根本的な問題に根ざしており、会話を通して、察しの良い中村はその根本的な問題に気付いていた。

 

『つか、あのな、この世界どこだと思ってんだ。個人制作のエロRPGだぞ?』

 

「……? それは、知ってるが」

 

『あのな、こういうゲームの一般人の役割は"竿役"が多いんだよ。

 味方ポジにいりゃ"裏切り"とかもだ。

 なんでかっていうと主流のジャンルが大体女主人公だからだ。ここならプラネッタだな』

 

「……主人公が女性だと、何か関係があるのか?」

 

『ああ、あるね。

 主人公が民衆を守って倒れた後強姦される。

 助けた子供に薬で眠らされて陵辱される。

 信じてた仲間に欲望を操られて襲われる。

 そういうのがよーくあるのがこの手のエロゲだ。

 覚えとけ、人々の善性を信じる正義の味方サマ。

 こういうゲームの民衆やモブってのは、大まか全員クズ寄りなんだよ』

 

「……」

 

 この世界の民度に関しては、中村より詳しい人間はそう居ない。

 彼はプレイヤーとして世界を知り、この世界の人間として七年生きている。

 紫山水明よりもずっと正確に世界を知っていると言えるだろう。

 彼はいじわるを言っているわけではないし、口からでまかせを言っているわけでもないのだ。

 

 それでも紫山は納得していない表情で、まだこの世界に生きる人々の基本的善性を信じており、中村の忠告を無視も却下もしないくせに、自分の中で折り合いをつけようとしている。

 とことん善人で、中村の語る性悪説に基いた事実を受け入れないくせに、中村の言葉を仲間として受け止めようとしているそのスタンスが、少しばかり中村の癇に障った。

 

『……おい女神! やっぱ一般人の善性信じてる特撮ヒーロー様じゃ駄目だろ!』

 

 ファンタスティックバイオレットに救えない世界なんてあるわけないじゃないですか!

 

 大丈夫ですよ、中村さんの知識と彼の力が合わされば無敵です! 無敵!

 

『クソが! オイ、とにかく忠告は聞いておけ。この世界についてはオレが一番詳しいんだ』

 

「ああ、そこは信頼してるよ。仲間だからね」

 

『……ケッ』

 

 腕輪から、照れたような声が漏れた。

 善の女神。

 善のヒーロー。

 二人の善性に当てられると中村は妙に調子が狂う上、無性に不安になってしまう。

 ここは同人エロゲー世界。

 善なる者が食い物にされる世界である。

 

 個人制作の同人エロゲRPGは、"女主人公市場"と言われるほどに寡占的なマーケットである。

 加え、人を信じる女主人公、無垢な女主人公、無防備な女主人公が非常に多い。

 その方がエロがしやすい。

 かつ、その方がエロの評価が高くなりやすいからだ。

 

 そのため、大抵のエロRPGで様々の登場人物が『善人を嵌める』ことに特化している。

 それはもう、最悪なくらいに対善人主人公で強い。

 善良な女の子を陵辱する技能が、そこかしこに生えている。

 当然ながら、この世界でありゲームである『イリスクロニクル』も然りだ。

 

 原作主人公も、特撮ヒーローも、最後の女神も、全員善人。

 それも底なしの善人だ。

 この先どうするかを考えると、それだけで中村の頭は痛くなった。

 

 紫山水明が理屈抜きで動き、それが結果的にイリスを救い、イリスが彼に特別な印象を持つ―――あの日、中村は絵に描いたようなボーイ・ミーツ・ガールを見た。

 ああ、いいもんだな、と思った。

 なんとかなるかもな、と思った。

 しかし今では、紫山水明らへの信頼だけではなく、その善性への不安も抱いていた。

 

 そんな彼の心情を、女神もまた分かっている。

 いつも深く深く考えてくれている中村に、女神アルナは深く深く感謝していた。

 

『いいか? 最初にプラネッタを守った時の戦いを思い出せ。

 明らかにこの辺に居ない魔物。

 クソ多い数。

 ピンポイントで出歩いてた原作主人公一人を狙う動き。

 疑う余地もねえ。

 ありゃオレと同郷……地球人が魔王に話をしてけしかけたんだろうよ』

 

「だろうな」

 

 地球出身の人間であれば、当然ながらイリスの生家の位置も把握している。

 原作において、イリスが旅立ったのは19歳。

 今のイリスが13歳。

 成長前に殺してしまえという考えは正しい。

 

 おそらく、というか、間違いなく。

 あの日に直感的に動いた紫山水明がイリスエイル・プラネッタと出会っていなければ、この世界は、ひいては全並行世界は滅亡していた可能性が高い。

 あの『出会い』だけが、魔族側の最大の誤算だったはずだ。

 

 原作でイリスと共に戦っていたはずの仲間も、もう数人魔物による殺害が確認されている。

 知識があるということは、そういうこと。

 この世界をゲームとして熟知している者が敵だということはそういうことだ。

 時間は紫山達に味方しない。

 魔王側に時間を与えれば与えるほど、人間側は詰む。

 しかし、だからといって、『原作主人公』という切札がまだ子供である以上、選べる道筋は多くない。

 

「……これはまた。昔戦ったどの悪よりも強敵だな、なんとなく分かる」

 

『迂闊には動けねえ。

 "原作主人公だけが使える"切札がある。

 あちらさんが恐れてるのはそれだけだ。

 原作主人公がのこのこ出てくるのが一番嬉しいだろうよ。

 じゃーまあ、こっちの最強戦力を原作主人公に貼り付けておくのが最善だろ?』

 

「切札。ファンタスティックレッドのクリムゾンブレイドのようなものか」

 

『まあ……戦隊レッドの最強武器も似たようなもんか……?

 いやなんだろう……なんだこの釈然としない気持ちは……!』

 

「中村はよく考えているな。

 いや、アルナちゃんもか。

 頼もしいし、己が情けない。

 首だけで飛んでいる魔物を見て、

 "小学生のドッジボールなら無敵だな"

 などと思っていた脳天気な自分が不甲斐なく感じるよ」

 

『それはテメーが脳天気だからとかじゃなく思考が天然だからだな』

 

 顔面セーフ。ドッジボールは顔に当たったらセーフで、顔が良くて性格がかっこいい人は大体何やっても愛嬌でセーフなんです。

 

『こいつ……』

 

 中村は非常に優秀である。

 裏切った一人を除けば、召喚された六人で最後まで残った地球人だ。

 女神は彼に感謝しつつ、その労をいたわろうとしているが、相応の恩賞を与えることさえできないでいるため、"いつもありがとう"と遠巻きに言うしかない。

 

 一年前までは彼自身が、それ以後は彼が生前に残した仕込みが、魔族側の手を防いでいる。

 侵攻先の土地の多角的罠。原作キャラ達へのテコ入れ。原作で厄介だった魔族複数体への同士討ち工作。魔族にぶっかけると全身から永遠に射精しながら死ぬ媚薬の開発。その他諸々。

 ここ一年、イリスの村に魔族側の最強格戦力が来ていないのは、間違いなく彼の功績だ。

 

『おう、もっと褒めろ。つっても、実際どのくらい魔族の妨害できてるのかは知らんが』

 

「魔族……かあ」

 

『耳慣れねえか? ま、お前が戦って来たのは大地の悪意とかだったしな』

 

「ん、まあね。俺にとっては知らない怪物ってやつさ」

 

『強い奴はマジで強いぞ。光速のやつとかいるしな』

 

「まいったな。光速戦闘を行う怪人とは二回しか戦ったことがないんだ」

 

『なんで特撮ヒーローは光速の敵が珍しくないし定期的に光速の敵に勝ってんだ……』

 

 ファンタスティックVですからね。

 

「だけど、分かり合うことが不可能な敵というのは分かりやすくていい」

 

 魔族。

 異世界ファンタジーの代名詞。

 人外。

 化物。

 人に似て非なる者。

 人類種の敵対種。

 この世界に存在する魔族は、諸事情あって人間との共存は不可能で、人間の倫理基準で見て品性下劣な者が大半を占めます。

 ファンタスティックVの敵、大地の悪意の化身ガイアデビルより人間から遠いものです。

 

『ゲーム実況者が投稿した動画に

 "なんでイベント全部回収していかないんですか? 半端で気持ち悪いです"

 ってコメントするカス視聴者より民度が低い種族。

 それが魔族だ。あいつらゲーム買う気がねえから全イベント実況で見れないとキレんだよ』

 

「急に分かりにくくなった」

 

『分かりやすいだろ!?』

 

 あ、イリスちゃんだ。

 

 村を歩いて見回っていた紫山は、イリスを発見する。

 イリスはいつものように、13歳の身で……あれ?

 このゲームには18歳以上の登場人物しか出てないんでしたっけ?

 じゃあイリスちゃんも18歳?

 あれ、でもイリスクロニクル2からちっちゃい女の子のえっちなシーンがあるとか聞いてたような……あれ……?

 

『そこは考えなくていいぞ』

 

 あ、はい。

 

 イリスはいつものように、13歳の身で色んな人を助けて回っていた。

 村の真ん中を流れる川に行っては、婦人らの洗濯の手伝い。

 北に走って、若い木こりが皆のためにしている薪割りの手伝い。

 かと思えば南に駆けつけ、お爺さん達がしている種まきの手伝い。

 東に行っては生まれたばかりの赤ん坊のお守りを代わって、西に飛んでは紫山が借りている空き家の掃除をこなしている。

 

 いつも誰かを助けているイリスは、まだ顔つきも幼気で、でも体はだいぶ女性らしく……胸尻10cmくらいずつ私に分けてくれないかな……女神アルナが羨ましいと思うくらいの発育で……紫山と中村に守られ、すくすくと育っていた。

 誰にも輝かんばかりの笑顔を向けていたイリスは、近付いてくる紫山を見て、明らかに他の人に向けるものとは違う笑顔を浮かべて、ぶんぶんと手を振る。

 

「あ、おにーちゃーん!」

 

「おはよう、イリス。朝早くからみんなのお手伝いしてて偉いね」

 

「えへへ。わたし、将来なんでも屋になるのが夢なんだ!」

 

「なんでも屋……」

 

 紫山は、元居た世界で自分達戦隊を自宅兼事務所に住まわせてくれていた、丸山丸尾という一般人のことを思い出していた。

 

 ファンタスティックV、第一話。

 いきなり拠点と先代が残してくれていた巨大ロボを悪の組織に完全破壊されてしまい、なんとか勝利を収めたものの、ファンタスティックVは行き場所を無くしてしまった。

 そんな彼らを自宅であり事務所である所に住まわせてくれたのが、第一話でファンタスティックVが命がけで助けた一般人のなんでも屋、丸山丸尾だった。

 鍛錬と戦闘しか知らなかった紫山に、ゲームや友情を教えてくれた、かけがえのない親友……紫山が掛け値なしに称賛する一般人である。

 好き。

 

 ファンタスティックVの面々は、世界を守りながらなんでも屋を手伝うことになる。

 時には、なんでも屋の依頼を受けて行った先で、怪人に出会い。

 時には、怪人の出現に駆けつけ、なんでも屋の依頼をヒントにして勝利し。

 怪人をついでのように倒し、30分全てなんでも屋の奮闘で終わらせる異色回まであった。

 そういう形式の特撮番組だったのが、ファンタスティックVであった。

 好き。

 

 "なんでも屋"というものは、紫山にとって特別な意味と響きを持つ言葉だった。

 

『オタク、すぐ長文語りする』

 

 うるさいですね。

 

「おにーちゃんも一緒にやらない? 世界中の人困ってる人を助けるんだよ!」

 

「素敵だね。いつまで一緒に居られるかは分からないけど、それまでなら手伝えるよ、イリス」

 

「いつまでも! どこにも行かないでよ、おにーちゃん!」

 

「……困ったなぁ」

 

「ねー、ねー、どこにも行かないでよ。おにーちゃんと結婚してあげるからぁー」

 

 は?

 

「こら、イリス。よく分かってないんだろうけど、結婚はそんな軽いものじゃないんだ」

 

「んむー、子供扱いしてー。いいもん。おにーちゃんをメロメロにしてみせるもん」

 

「いいかい、イリス。

 結婚とは不滅の契約。

 愛とは宇宙の理をも凌駕する強靭なる感情だ。

 そして、戦隊はそれを守る者であって、それを享受するものではない。

 俺はともかく、君には愛し、愛される資格があるんだ。

 幼い頃は愛や恋と勘違いすることもあるけど、それは未発達の感情の勘違いで……」

 

「……なんかもう、下手すると一生結婚できなそうで、本当に放っておけない……」

 

 あ、紫山さんの腕抱いた。イリスちゃん?

 

「俺そんなに君に好かれることしてないと思うけど」

 

「うーん、恋愛レベル1! そんなんじゃ駄目だよ、おにーちゃん」

 

「……むぅ」

 

「ちなみにー。

 おにーちゃんには最低一日一個好きになれるとこあるけどー。

 昨日のおにーちゃんで一番好きになれたとこ、発表、じゃじゃん。

 映えある一位は、昨日皆が避ける糞の肥料化処理を進んでしてたおにーちゃんです!」

 

「そこ好きになるとこかい?」

 

「おにーちゃんは分かってないなー」

 

「ごめん、分かんない……」

 

 ひぇっ。

 距離が近い。

 この……クッ……推しにベタベタと……いや……でも見る目がありますねイリスエイル・プラネッタ……紫山水明は間違いない選択ですよ。

 原作で名もなきおじさんやチャラついた男と結婚してた子だとは思えません……だいぶイリスちゃんの男を見る目評価を上方修正したくなります。

 うう、おなかが痛い。

 メンタル弱い自分がいや。

 シリーズ通算個別エンドの三割が脂ぎったおじさん、三割が魔族か魔物、二割が性格カス男だったイリスちゃんが……こんな……なんて変則的な救い。

 

『お前言い方考えろ』

 

 すみません。

 

「ね、ね、おにーちゃん、手を繋いで行こ! 村のおねーさん達牽制したい!」

 

「イリスは賢いなあ。でもね、あんまり牽制にはならないと思うよ」

 

『イリスエイル・プラネッタ、こんなに卑しい女だったか?』

 

「おじちゃん、人間は成長するんだよ」

 

『おじちゃんじゃねえつってんだよ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 二人と一個でわちゃわちゃと騒いで半日が過ぎる頃、村に定期便がやってきた。

 村と街の間を安全に行き来するため、人が集まって移動する商旅団のようなものである。

 村の特産品を商人が買い、護衛の傭兵が村人と楽しそうに談笑し、学者が植生調査の事前準備を始め、工芸士が村人にアクセサリーを売っている。

 にわかに、村がにぎやかになっていた。

 

『あの新聞っぽい羊皮紙のやつ買ってくれ。世界情勢を再確認してえ』

 

「分かった。すみませーん、一枚くださーい」

 

 紫山が新聞もどきを一枚買い、中村はそれをじっと見て、唸る。

 

『……ぼちぼちそういう時期か』

 

「そういう時期?」

 

『年表は頭に入ってるからな。

 大まか次に何が起こるか分かる。

 覚悟しとけ、水明。今月はだいぶ最悪だ』

 

「なるほど。分からないが分かった。それまで鍛え直しておこう」

 

『頼もしさがすぎる』

 

 わかりみがすぎますね。

 

 二人が新聞を読んでいる間に、学者らしき人物が、イリスに話しかけていた。

 

「おお、君が。噂はかねがね聞いているよ。最近この村でも特に勉学の意志がある子だとか」

 

「? そーですね。おにーちゃん、たぶん賢い女の子が好きなので」

 

「ふむ、恋愛感情が動機か。

 まあ構わない。

 勉学はどんな動機でも始めることが大事だからね。

 ここの村長に打診されているのだけれど、王立学園に通ってみる気はないかね?」

 

「おーりつがくえん、ほほー、頭良さそう」

 

「最初は分校からになるだろうがね。成績が良ければ本校にも移れるだろう」

 

「えーどうしよっかなー、おにーちゃんも一緒ならいいかなー」

 

 学校にイリスを誘う学者を見て、腕輪が鈍く光った。

 

『おいヒーロー、オレをあいつの近くまで持っていけ』

 

「? 分かった」

 

 よく分からないまま腕輪の彼を学者に近付けた紫山だが、次の瞬間びっくりする。

 

『あんな多国籍オナホ学園にプラネッタを通わせられるか! 帰れ帰れ!』

 

「多国籍オナホ学園!?」

 

「!?」

 

 八割事実なのが、あまりにも酷い。

 

 アマリリス王立学園は、シリーズを通して何度も何度もエロシーンの題材に使われ、シリーズを通して四回ほど学園女子総肉便器展開がIFとして存在する、処女輪姦喪失のメッカである。

 催眠で学園が支配されたりオークに占拠されたり女に飢えた傭兵軍団に襲撃されたり、その危険度はSランク。

 "異世界ファンタジーでエロ無双する体育教師ヤバい"とユーザーに絶賛された……とか、なんとか、前任の女神ケツアルコアトルが熱弁していたことを、女神アルナは覚えている。

 

 が、今のところは清廉潔白で何も起きていない学園なので、学者は腕輪の暴言にキレた。

 

「学園創設以来最大の暴言吐いたぞテメーッ! クソ腕輪が! 便槽に沈めてやる!」

 

『事実陳列罪は存在しません~~~。迎え撃て水明! ぶち転がしてやれ!』

 

「ええ……」

 

『そして言ってやれ!

 学園では何を教えてたんですか?

 快楽屈服した時の情けないチンコに媚びた口上の語彙なんですか? ってな』

 

「こ、この口調と暴言……まさか学園史上最大問題児のナカムラ!? 死んでなかったのか!?」

 

 女神は中村ほどではないが色々知っているため、悲しいことに中村の暴言を否定できない。

 

 学者が帰路につくまで、紫山水明は学者と腕輪の間に立ち、ずっと仲裁していた。

 

 

 

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