続くに当たって本編タイトルを変更しました。
よろしくお願いします。
「ただいまー!」
「帰ったか。おかえり、ヴィヴィオ」
今日は始業式。早めに学校が終わってお家に帰ると、いつものように「パパ」が出迎えてくれる。
「おーヴィヴィオか。進級おめでとう。邪魔してるぜ」
「ノーヴェ?またパパにデバイス見てもらいに来たの?」
「いんや。今日はちょっとお話があってな」
パパに続いて顔を出したのはノーヴェ・ナカジマ。わたしのストライクアーツの先生だ。
ストライクアーツはたまーにパパに見てもらう時もあるけど、パパはいつもスパルタで、前に一度スパーをやった時なんか、
「背中にも目をつけろ!」
「む、遅い!」
「踏み込みが足りないな!」
なーんて、わたしの攻撃を全部避けた上に先読みで攻撃を「置かれ」て一方的に負けちゃった。パパによると、わたしは才能があるからもっと経験を積めばいつか同じことが出来るようになる、とは言ってたけど一体いつになるのやら。
――もしかしてパパってわたしへの期待のハードル高い?
(当たり前じゃないですか。アムロは基本誰にでもこんなものですよ)
素朴な疑問を頭に浮かべていると、「もう一人のわたし」が頭の中に話しかけてきた。オリヴィエという名前の彼女は、何でもわたしのオリジナルでゆりかごの聖王本人なのだとか。その割には初めて会ったときより威厳もあんまり無いし面白い人みたいだけど。
(おっと、それ以上は戦になりますよ)
(冗談に聞こえないからやめて!?)
「もう一人のわたし」はいつもこんな感じだ。普段はわたしの中にいて、時たま表に出てきてはパパをからかったりして遊んでいる。
前にわたしがパパと一緒に暮らすことが決まった時なんか、勝手に私の体を使って「これからよろしくお願いしますね。パ・パ?」って言ってパパを困らせてたっけ。
(第一、基本ダメ人間のアムロが父親になるということ自体が面白いんですよ。しかも独身なんて)
(むー。パパはそんなダメじゃないもん)
(非番の時は食事も摂らず一日中下着姿で機械いじりばっかりしていた人が?デバイスマイスターになったのだって、自分は過去の亡霊だからだの何だの言っておいて、本音は趣味が十割に決まってます)
(う。それはそうかも……)
パパの機械好きは筋金入りだ。最近だとペットロボットにも手を出していて、パパが作った「ハロ」が大ヒットしたとか。もちろん学院のみんなの間でも人気で、最近リオが買ってもらったことをとても喜んでいた。
「通り魔か。随分物騒だな」
「ああ。で、ここからが本題だ。ヴィヴィオも聞いてくれ。――その通り魔は覇王イングヴァルトを名乗ってたらしい」
「……何ですって?」
あ、オリヴィエがわたしを押し退けていった。でも今回は真面目モードみたいなのでかしこいヴィヴィオちゃんはおとなしくしているのだ。
「ヴィヴィオ?ってあー、オリヴィエの方か。そっか、二人は知らない仲じゃないもんな」
「……クラウスが、通り魔?まさか彼に限ってそのようなことは……」
「ああ。もちろん単なる自称で終わる可能性も無くはねえ。あたしとしても自称で終わってほしいしな」
「同感です。……しかし万が一ということもあります。もし出くわしたらすぐにアムロに連絡を」
「俺なのか……まあいい。もし出くわしたなら無理に戦おうなどと思うな。もし本物なら、俺とガンダムでも勝てるかどうか……」
「お前がそこまで言うとは相当みたいだな」
「当然だ。あいつは俺が知る中でも最強の一角だった。……それが喪失の痛みから始まったのはやるせないが」
「アムロ……」
パパ……それは今言うことじゃないと思うんだけど。ほら、ノーヴェがやっちゃったって顔してるよ。気付いてー。
「あー!そういうわけだから、二人とも気をつけてくれって話だ!特にアムロは!」
「ああ、忠告ありがとうノーヴェ。そうだ、せっかくだから夕食食べていかないか?今日はヴィヴィオの進級祝いなんだ、祝いの席は大勢で囲んだ方が美味いだろう」
「いいのか?……って言いたいところなんだが……」
「どうしたんだ?何人か外で待っているみたいだが、何か用事でも?」
「……アムロの勘は誤魔化せないか。実はもう何人か祝いに来てるんだよ。あたしはたまたま合流しただけ」
「……なんだって?それを早く言ってくれ!」
パパが慌てて玄関に行くとわたしがお世話になった人たちがいっぱいいて、みんなが祝ってくれた。
楽しい毎日。良くしてくれるみんな。お姉さんみたいなオリヴィエ。強くて優しくてちょっと抜けてるパパも。
たくさんの人に囲まれて、ヴィヴィオ・レイはすっごく幸せです。
私とパパの出会いは四年前だった。
「うん?子ども?……いや待て、そんな筈はない。その顔、その目は……」
パパを初めて見たとき、何だか懐かしい気持ちになった。私はその時、感覚を頼りに「パパ」とつい呼んでしまったんだ。
「お父さんだって?俺が、君の?参ったな……」
あの時のパパの顔はとにかく凄かった。嫌な顔ではなかったけれど、ものすごくリアクションに困る、みたいな感じで。まあ、友達によく似た人に「パパ」って呼ばれたせいなんだと思う。
それからは他のみんなから色々教えてもらいながら私に「パパ」として接してくれた。パパは子どもへの接し方がよくわかんなかったみたいで、すっごく苦労したみたい。
ちなみにオリヴィエはそれを見て私の意識の奥底で大笑いしていたとか。やっぱり面白い人なんじゃないかな。
でもそんな毎日も長くはなかった。
さらわれた私は「ゆりかごの聖王」にされて、パパが本当のパパじゃないってことを知った。
それだけじゃない、パパはベルカの時代からやってきた人でゆりかごを止めた人であることも、私がパパが死なせてしまった聖王のクローンだということも知ってしまった。
「やはり来ましたか、アムロ」
「ヴィヴィオ……ではない?その気配、まさかオリヴィエ陛下か!」
「その通りです。ゆりかごのサイコフレームの中を漂っていた私の意識はこの少女を器として宿りました」
「俺も貴女も過去の亡霊だ。それが今を生きる人々に害を加えるなど!」
「それは逆なのですよ。過去の亡霊だからこそ、人々は乗り越えなければならないのです。私ごときを止められずして次元世界の平和を守れるとでも?」
「そんな理屈、貴女らしくもない!それに纏わりついているその邪気は……!」
「そこまでです。相変わらず勘がいいのは結構ですが、今は……」
「自分と戦え、というわけか?操り主の思う壺だぞ!」
わたしの中で目覚めたオリヴィエは、何も言わずにわたしをわたしの中に閉じ込めた。後で聞いたのは、わたしとパパを戦わせないためだったそう。
そしてわたしはまるでテレビでも見るみたいに二人の戦いをずっと見ていた。
パパは絶対に攻撃してこなかった。「わたし」にされるがまま、一方的に傷ついていく。
もうやめて、と叫びたくて。でも体は言うことを聞かなくて。
『あらあら。英雄ともあろうお方が無抵抗だなんて、随分とお優しいわね~♪』
「この感覚……そうか、貴様が邪気の主だな!今すぐヴィヴィオから離れろ!」
『フフフ。美しい親子愛ですこと。ですがそれも所詮は偽り。あなたも本当は迷惑だったのでは?名も知らぬ少女に父よ父よと付きまとわれるのは、ねえ?』
『ご自身がそう称するように、所詮あなたは過去の亡霊。かつて陛下を救えなかった男が、代償行為に親子ごっこに興じるだなんてお腹がよじれてしまいそう。いい加減諦めて、死を受け入れられては?もう時代が違うのですよ。じ・だ・い・が☆』
わたしは怖かった。わたしはパパの本当の子どもじゃない。それが分かっていたから、パパの本当の言葉を聞くのが。
いや、そもそもパパなんて言ったのがおかしかったんだ。本当のパパなんて初めからいないのに。
――わたしなんか、生まれてこなければよかった。そう思ったその時。
「ふざけるな!いつの時代にも、娘を奪われて立たない父親がいるものか――!」
(だ、そうですよ?私の裔。あれがアムロ・レイという男です)
(あ……)
「戻ってこいヴィヴィオ!お前は強い子だと、俺は知っている!だからそんなものに負けるな!」
嬉しかった。こんなわたしを、本気で娘だと思ってくれていたことが。
『無意味ですわよ。貴方の声なぞ――』
「黙れ!俺はヴィヴィオと話をしているんだ!外野は引っ込んでいろ!」
でもこんなわたしが、オリヴィエの偽物のわたしが、本物を知っているアムロの手を取ってもいいんだろうか。
(でしたら、ぶつかればいいでしょう)
(貴女に掛けられた軛は私がある程度引き受けておきます。だから好きなだけアムロとお話しなさい。アムロならきっと受け止めてくれるはずですから)
(ぶつ、かる……?)
(ええ。言葉と拳を交わすことで、互いを理解するのです。それが誰にでもできるシンプルなやり方ですよ)
『そうだ、衝突を恐れるな』
(え……?)
『偽りの命。偽りの関係。始まりはそうであったとしても、それでも君はここにいる。それは決して偽りではない』
『迷ったときは、心に従えばいい。それだけが答えなのだ。その先に何を見るかは、すべて君次第だ』
『ただ一つはっきりしているのは――アムロは君を待っているという揺るがない事実だけだ。君がアムロを待っていたように』
(あなたは、だれ?)
『私はかつて多くの愚行を繰り返した男さ。それ以上でもそれ以下でもない』
(あ、待って――!)
『行きたまえ。私の為すべきことは終わった。未来は、老人が作るものではない――』
その人はそう言ってわたしの頭を撫でるとゆっくりとお空へ昇っていってしまった。
それからはいっぱいお話をした。パパは全部聞いて、全部受け止めて、全部受け入れてくれた。
パパと一緒にいたなのはママも手伝ってくれた。全力全開、心の全部をぶつけ合って、わたしたちは「親子」になれたんだ。
そうやってわたしはここにいる。
それから色々あってパパと暮らすようになって。最初の頃は料理なんて出来なかったみたいで、はやてママのお家で一緒に食べたり、なのはママやフェイトママのお家にお邪魔したりして色々習ってた。
わたしは覚えてないけど、パパのごはんがまずくて泣いちゃったのが効いたとか何とか。正座で三人に怒られるパパの姿はちょっと見てみたかったかも。
三人をママと呼んでるのはその時の癖がまだ抜けないせいだ。三人とも優しいしごはんおいしいんだもん。しょうがないよね。
もちろん今のパパのごはんもおいしいよ?
それにしても、あの時わたしの背中を押してくれたのは誰だったんだろう。何だか懐かしい感じがしたけど、聞いてみたらオリヴィエもパパも寂しそうな顔をしてたからちょっと聞きにくいかも。
もしまた会えたら、お礼を言いたいな。
―――――――――――――――
「貴方ですよね。あの時、あの子の背中を押したのは。死してなお私を救いたいと願ったその献身は時を越えて確かに届きました」
「私が何を引き起こしたのかは理解しています。それはきっと、私が永遠に背負うべき罪なのでしょう。――あるいは、こうして意識を持って生き永らえたのも生きて償えという罰なのかもしれません」
「私は知ってしまった。クラウスと共に私に挑み、敗れた貴方がその後どのような凶行に走った――いいえ、私が走らせてしまったのか」
「言い訳がましいですが、私は皆を笑顔にしたかったのです。ベルカの戦乱を終わらせることさえ出来れば、きっと皆が笑い合える日が来ると無邪気に信じていました。でも、そのために私は一番大切な人たちから笑顔を奪ってしまった」
「許してほしい、とは言えません。私はゆりかごに乗ったことを後悔していませんから。でもそれは、貴方たちにとってはただの独善だったのでしょう」
「どうか、私を恨んでください。憎んでください。許さないでください。永久に」
そして私は浅ましく許しを乞い続ける。罰せられたいがために。
「ごめんなさい、クラウス。ごめんなさい、リッド。ごめんなさい、アムロ。ごめんなさい、クロチルダ」
「ごめんなさい――シャア」
今日も私は生きています。寄生虫のようにこの少女の中にへばりついたまま。
私を救おうとしてくれた貴方たちの死を踏み台にして。
ああ。それはなんて醜く、罪深い――