字数ノルマを課していると全然文章が浮かんできませんね。
「え…な、ぁ…!?」
ゆっくりと此方を振り向いた彼女は、信じられないとばかりに驚愕の表情を露にしていた。
喜んだ表情、悲しんだ表情とこの数日で色々と見てきた訳だが──これは中々新鮮だ。
切羽詰まった状況下にも関わらず不謹慎だが、してやったりと思ったりもする。
「う、嘘……!?」
それにしても──実に数時間振りの再会を遂げたスピネルは、非常にみすぼらしく見えた。
100人中100人が美少女と評する美貌は苦痛に歪み、掻きむしったのかズタズタになった頚から溢れ出す血が紅白のドレスを真っ赤に染めている。
控え目に言って心も体も重傷だ。
寧ろ骨が見えそうなんじゃないかと言う位に頸の肉を削ぎ落としているにも関わらず「重傷だ」で済ませられる辺りがサーヴァントの強靭さとやらなのだろう。
なら──先に「話」から始めても問題は無い筈だ。
「やっほ、来ちゃった」
「あ……アンタ、一体何で……っ!?」
「そりゃいきなりいなくなったら心配するでしょ」
「……違うっ、そんなんじゃない!」
向日葵畑の前で、草むらに血で汚れた手を突いたまま彼女は吼える。
何故来てしまったのか、どうして自分の頑張りを無駄にしてしまったのか、と悲嘆と絶望が入り雑じった瞳で此方を見上げている。
確かに、スピネルからすればそれが真実なのは間違いない。
何らかの方法で「ひだる神」に呪われ如何ともし難い食欲に襲われ、最も近くにある吸血妖精の食料──即ち僕を吸い殺してしまいそうになった彼女は、何とかしてそれを避けるべく必死に距離を取ろうとしたのだ。
自分の頸を爪で抉りながら歩き続け、疲れ果てても互いの為にはこれしかない、と。
「私は……っ、アンタの為を、想って……!」
それをこうして追い掛けられもしたら、怒りもするし絶望だってするだろう。
況してや立ち上がる事すら儘ならない彼女では、息を切らしてはいるもののまだまだやる気満々な僕を振り切る事など夢のまた夢。
スピネルの決死の策は、よりにもよって(自意識過剰でなければ)守りたいと思った相手にぶち壊されてしまったのだ。
その点については本当に申し訳ないと思う。
なので──ぶち壊した責任を取る。
「──ひぃっ!?」
特に何も言わぬまま1歩踏み出せば、スピネルは大袈裟過ぎる悲鳴と共に飛び退いた。
恐怖と言うか、化け物を見るような目線が突き刺さるが一体どうしたと言うのだろうか。
生意気な面をしているのかもしれないが、特に怖がられるような表情とかをしたつもりはない。
自分で言ってしまうと途端に信憑性は失せるが、寧ろ誠実なつもりだ。
────いや、違うか。
よく見ればスピネルは何か言いたい訳でも無さそうなのに口元をモゴモゴとさせているし、驚愕に混じって時折物欲しげな視線が送られてくる。
つまり彼女は未だに「ひだる神」の影響下にあると言う事だ。
絶えず呪われ、明らかに常軌を逸した食欲を抑えられない己に恐怖すると同時に、近くの人に対しても食欲を抱いてしまった事に怯えているのだ。
そりゃ僕を視界に入れたかないだろうし近付かれたら悲鳴も上げるだろう。
「なる、ほど」
理解は一瞬。
されど焦りや困惑はない。
寧ろ
そう、自画自賛っぽくてどうにも寒気が走るがこのクソ面倒な問題をどうにかする道筋はもう見えている。
誰も死なず、誰も悲しまず、全てが丸く収まる最高最善の解決策は直ぐ其処にあるのだ。
必要なのは多少の度胸と、スピネルを信じる心だけ。
それさえあれば高々5メートル位────
「く、来んなっ!」
「──ぃっつ……!?」
叫びと共に頬に走る、鋭い痛み。
何事かと顔を上げれば、深紅の少女はその手に昨日見た琴を構えていた。
そして痛みを感じた箇所にそっと手を当ててみれば、指先にべっとりと絡み付く生暖かい感触。
────攻撃された?
つまり今頬を引き裂いたのは、真空の刃か。
そう理解した時には血に濡れた彼女の指が再び弦を弾いていた。
「……っ、うぅ、あぁぁぁぁぁぁっ!来んな!来んなぁっ!私の傍に近寄るんじゃねぇっ!」
葉が裂ける。
土煙が舞い上がる。
樹木に傷が刻まれる。
取り乱したスピネルが叫ぶ度に無差別に何かが切り裂かれる。
それは僕だって例外ではない。
全く不可視の刃を防いだり避けたりするのなんて一般中学生風情が出来る筈も無し、瞬く間に服がズタボロになり腕や足にはみみず腫や切り傷が増えていく。
逆に言えば
「──今から、そっち行くわ」
「な……っ、何でぇっ!?来るなって言ってんだろぉっ!?」
再び1歩踏み出せば、スピネルの悲鳴は増々上擦ったモノに変わった。
当然だ。
彼女からすれば今僕が近付こうとするのは嫌がらせにしか感じられないだろう。
必死に抑えようとしているのに、遠ざかろうとしているのになんで態々寄ってくるのか、と。
だが、こうして僕と顔を会わせてしまっている時点で彼女の企てはご破算となってしまっているのだ。
大して体力の無い僕が追い付けているのだからスピネルがもう1度距離を取れる訳がないし、どこまで逃げようが僕に地の果てまで追いかけ回されるのはもう確定している。
それに、だ。
「お前、本気で傷付ける気無いだろ」
「────っ!?」
琴を弾く指が止まる。
動揺を隠せず視線が右往左往する。
それだけで如何に彼女が軽く傷付けるだけに留めると言う
「そーいう所で優しさ隠せてないんだよ、お前」
「──ち、違うっ!」
しかし未だにスピネルは己の優しさを隠せるつもりでいるらしい。
震える絶叫と共に再び放たれた不可視の刃が地面を滅茶苦茶に切り裂く。
それだけ。
全く以て、これっぽっちも痛くない。
「ほら、当ててこない。流石に手加減無しで当てたら死んじゃうからな」
「──違うっ!違う違う違う!」
余程思い通りにならないのか、スピネルはガリガリと頭を掻きむしり始める。
それはつまり片手が塞がっていると言う事で──琴を弾けない今が、近付くチャンス。
だけどこそこそと足音を忍ばせて近寄るつもりはない。
そんな事ではスピネルは救えない。
だから──声高らかに宣言しつつ、1歩踏み出す。
「今から、お前の所に行く」
残り4メートル。
決意は身体を動かす動力になり、すっかりヘトヘトな上に血でベタベタな全身に活を入れて進む。
「そんでお前に血を飲ませる、覚悟しやがれ」
「ひぃっ────!?」
残り3メートル。
琴を抱えて踞っていたスピネルがハッと顔を上げる。
そりゃそうだろう。
吸血しない為に逃走した彼女からすれば、僕の発言は自殺行為以外の何物でもない。
けど──信じてる。
根拠なんて何一つ無いけれど、スピネルならギリギリの所で調整してくれるって、決して殺しやしないって信じてる。
「そんでもって、影の原因をチャチャっと解決する!」
「で、出来ないわ……貴方には、出来ないの……!」
「まぁ、僕1人じゃあ無理だわな。魔術の才能無いし」
残り2メートル。
怖じ気づいたのか、或いは未だに自分を信じられないのか、スピネルは尻餅をついたまま後退ろうと琴を放り出して両手をバタつかせていた。
彼女に迫っているのは此方だが、此処まで怖がられると何だか申し訳ない気分になってくる。
ひょっとして、今僕は凄まじい形相をしているのだろうか。
自分からは何も分からないが──まぁ、何だって良い。
恨まれようが殺されようが彼女を救うと言う決意に揺るぎはない。
「──でも、キミがいれば出来る」
「────!?」
残り1メートル。
それに、さっきは「根拠なんて何一つ無い」と断言したけれど影が本当にひだる神なら──或いはひだる神としての性質を持つ某かなら希望が無い訳ではなかった。
対策も解決法もあるなら、後はどれだけ彼女を信じられるかが全てだ。
「君の力が──いや、キミが必要なんだ」
「あっ……あっ、ぁ……だ、ダメ……やだ……食べたくない……!私食べたくないのに……!」
残り──ゼロ。
今僕は、スピネルの眼前に立っている。
食欲と理性に翻弄され、焦点の合わない瞳を此方に向ける彼女の前に確固たる意志を持って立っている。
僅か5メートルとは言え、英霊の暴力を耐えきったのだ。
ならば────
「その為だったら、腕1本位惜しくもない」
人間離れした挙動で跳ね起きたスピネルの前に、僕は真空の刃で出血した右腕を差し出した。
何て事をするの、と最早何者かも定かでない少女は思わず叫びそうになった。
しかし実際にそう思わざるを得ないだけの行為を眼前に立つ少年はしたのだ。
蛮勇を超え、単なる自殺行為でしかない挺身を行ったのだ。
そう────
「血、吸って」
「────っ、い、いやよ」
彼はよりにもよって吸血妖精であるバーヴァン・シーに向かって、幾つもの裂傷が刻まれた
それがどれだけ恐ろしい行為なのか、少年はまるで理解していない。
飢餓状態に陥ったライオンの檻に自ら進んで入っていくのと同義──いや、それ以上におぞましい獣が牙を剥こうとしているのにまるで「これで助かった」とでも言いたげな安堵の表情を浮かべてすらいる。
それ故に何なんだコイツ、と少女の内で妖精騎士トリスタンが悪態を吐く。
正気じゃない、イカれてる。
かつて妖精國でも蔑まれた吸血を自ら望むだなんて、何かしらの気狂いとしか思えない。
──けど、ひょっとしたら信じて良いのかもしれないと思う少女がいた。
「止めて……止めて!貴方を殺してしまいたくないの!」
「さっき言ってるだろ、僕は死なないしキミは僕を殺したりなんてしない。何なら賭けてもいい」
信じられない、と少女の内でバーヴァン・シーも呟く。
普段ならいざ知らず、「影」によって異常なまでに食欲を肥大化させられたバーヴァン・シーが少年を
寧ろ圧倒的に吸い殺してしまう可能性の方が高いと彼女は考えており、だからこそ優しい少年に襲い掛かる事だけは避けたかった。
──けど、ひょっとしたら信じて良いのかもしれないと思う少女がいた。
「不器用だからこれしか言えないけど、安心させる言葉なんて思い付かないけど…信じて欲しい」
「でも…でもぉっ!」
どうして理解してくれないの、とスピネルもまた呻いた。
誰の為に逃げようとしたのか、誰の為に吸血を拒絶したのかこの阿呆は何にも理解していない。
全部。
全部この少年の為だ。
妖精國で「終わり」を迎えた後に初めて出来た「友達」の為にスピネルは自己犠牲を選んだのだ。
勿論カルデアにだってガラテアのような気の合う相手がいなかった訳ではないが、何の気兼ねも無くはしゃげるのはこの出会ったばかりで大した取柄も無い凡人の前だけだった。
それは間違いなく彼女にとっての「運命」だ。
何をしても笑い者な自分が
それをぶち壊すとか言う。
身勝手にも血を吸えと言う。
本当に、何なのだろうか。
何を考えているのだろうか。
曖昧な思考と飢餓に侵されたスピネルは、殆ど無意識の内に読心の魔術を発動させ──思わず、呻いた。
(な、何よコレ────)
それは、スピネルにとって全く未知の情動──否、受け取っている筈なのにどうにも感じられない1つの感情だ。
彼女の「お母様」が不器用ながらに捧げた感情の対であり、人類最後のマスターがそれとなく与えてくれる感情を極限まで高めたかのような、凡そ今まで感じた事のない程直接的で無遠慮な情熱だった。
(
好き。
それもLIKEではなく、LOVEの方の。
突然妙な挙動を始めた少女に少年は怪訝な顔をするも──それどころの騒ぎではなかった。
「────?」
「え、なに。どした」
「ちょっと黙ってろ」
「あ、はい」
そんな筈はない、有り得ないと首を傾げるも変わらない。
魔術に何かしらの問題があったのではないかと確認するも、何も異常はないと一目で分かる。
つまりそれは、一切裏表なく本心で好かれている──恋をされている、と言う事で。
「────ッ!?」
かつて特に理由もなく訪れた刑部姫の部屋で読み、下らないと放り投げた少女漫画さながら頬がカッと熱くなる。
尋常じゃない空腹感などという
何とか彼の顔を直視しようとして──出来ない。
突如として湧き上がってきた謎の熱に全身を焦がされ、少女は顔を真っ赤にしたまま俯くしかなかった。
──けど、ひょっとしたら信じて良いのかもしれないと思う少女がいた。
ああ、そうだ。
今も昔も「お母様」は不器用過ぎるあまりに回りくどい形でしか愛を捧げられなかった。
人類最後のマスターは常識的な範囲の、ごく一般的な形の親愛で以て接していた。
しかし此処まで直接的なら、
その思いを確信に変える為、少女は呟く。
「────そう言う、こと」
好きだから、恋しているから信じられる。
それが全て。
少年にはそれ以上もそれ以下もないのだ。
そして──トリスタン/バーヴァンシー/スピネルもまた、
自分を信じられるようになりたいと、心の底から願った。
「……し」
「し?」
「信じて……良いの?」
故に、問う。
最後の一押し、変われるか否かを少女は彼に問い掛けた。
言葉とは裏腹に彼を
「そりゃ勿論────」
そんな紅の少女の信頼に、少年は応える。
学は無いけれど、妙に小難しい事を考える癖に肝心な所では考えるのを止めるけれど、これだけはハッキリと言えるのだ。
あぁ、きっとそれなら大丈夫。
精一杯気取った風に見せる少年の返答を聞くと同時に、少女は彼の腕にかぶりついた。
◯少年
当人がそれを恋だと自覚してない(ただの友達相手にここまでするのは変だなとは思ってる)だけで内心一目惚れしてたヤツ。
一応吸い殺されないと確信してるとは言え好きな子の為ならナチュラルに腕1本位OK!なやべー感性してるけど好きになっちゃったんだからしょうがねぇんだ。
ホントはこんなパーフェクトコミュニケーション野郎にする予定はなかったしもっと話は拗れる予定だったけど6章後半があんなだからトリ子救済全力でいいかな…って。
◯トリスタン/バーヴァン・シー/スピネル
やだ…私の事好き過ぎ…!?で少年を信じる事に決める。
パーフェクトコミュニケーション野郎がパーフェクトコミュニケーションするのでこの後はイチャイチャしながらひだる神周りを解決するだけになると思われる。