「わぁ、、
電車に乗ってるうちに、、、空、晴れてたんですね。
緑がいっぱい陽を浴びてて、、、綺麗、、、、。」
電車に揺られること暫く。
何処か、遠く人知れず建てられた駅へと彼らは足を踏み入れた。
ホームを降りて直ぐ、サイレンススズカは、自分の目の前に広がる光景に圧倒されていた
彼女が良く練習で走る道路などとは違い、ただ一面に緑が広がるのみだった。
走りを阻害するような物は一切なく、目の前の光景を見ているだけで、少女の脚は自然と足踏みをしていた。
「はぁー、肩こった―、ッ、、ふぅ、、どうだ。
ここならどれだけ走ったって良いし、誰に断る事もない。」
「良いんですか?」
「あぁ、勿論だとも」
「でも、、、私は、ッ」
「言っただろう、息抜きは大事だって?、街中じゃ人も多い、専用のレーンじゃなければ、外も走れない
ここだったら、君は走っても構わないんだ。、トレーナーと何を話したかは知らないけど
今のサイレンススズカは、君の走りで全力で駆けまわっても大丈夫なんだよ。」
「、、、、私行ってきます、、ッ!!」
「行ってらっしゃい、、。」
彼女は、何処までも続く道を興味深そうに眺め
尻尾が左右に動いている、今にも走り出しそうなのは傍目でも分かるほどだ。
それでも足踏みをするように、前と動かせない彼女に向かい
好きなだけ走り、自分の走りたいように走っても構わないと彼は伝えた。
瞬間、目の前の少女の瞳に光が宿り、学園であった頃に感じさせた影も徐々に消え始めている。
促されるように、背中を押されるように彼の言葉と共に栗色の髪を靡かせて少女は野を駆けた
「はぇー、、」
彼女の姿が見えなくなるのは、あっという間だ。
『行ってきます』の言葉と共に脚を地に、それでいて跳ねるように走り出す
ずっと溜め込んでいた物を吐き出すように彼女は、緑豊かな道をただ突き進むのみ
今の少女に中には、悩み考える事よりも純粋に走る事のみが、原動力となっているのだ。
________________
(まだ、、脚がちょっと重いでも、、、)
一人の少女は野を駆ける
何も阻む事のない場所で、自分自身の走りを貫く事を否定もされる事もなく
思いのまま走る事を許された。
どれだけ走っても満足出来ず、走りを許可されても他の者に決められたレールとルールに基づく走りを強要され、その走りを続けていくうちに何時しか、自分が愛してやまない
走るという行為自体が、何処か嫌なものへと変わり出そうしていた。
一歩一歩前に出している筈の脚が、ずっしりと重くなり、前に出たい思ういながらも
自分が、やるべき走りは別にあるのだと脳が信号を出す事で、更に減速を始め
気づけば、周りの者はずっとずっと前に、走り続けたいと決めていた彼女は、彼らをただ後ろから見ている事しか出来なかった。
『トレーナーさん、、私はやっぱり、、』
『大丈夫よ。あなたの本当の走りまだ、完成してないだけ、今は追いつけなくても
絶対に、あなたを最高のウマ娘にして見せるから、、信じて!』
『私は、、もっと走れるんです、、。』
今だって、『新島早苗』を信頼している。
学園最強と名高いチームメイトを指揮する彼女の判断なのだから、それに従うのは道理だと
少女は、自分の意見をぎゅっと心にしまい続け、期待を寄せ背中を押してくれる彼女たちの為にターフを走り続け来たのだ。
けど、、あぁ、、ダメだ、、前に出て走り続けたい
先頭の景色を見続けたいと言う欲求が、自分の底にある思いが、『今のサイレンススズカ』を否定する。
そうして過ごすうちに、サイレンススズカの中で、走るとい行為自体が何か別の物へと変わり始めようとしていた。
『走りを楽しむ』『先頭の景色を見続ける』かつての自分の願いと裏腹に彼女は、ずっと走り続けていた、少しでも走る事で自分が、抱える自分の気持ちを『これで良いと』抑え言い聞かせながら、誰にも相談することなく………。
そんな絶不調が、続くサイレンススズカの前に、彼が現れた。
『気分転換ってのは、そうすれば見てくる景色も変わってくるさ』
名も知らぬ、一人のトレーナーだ。
自分に走りとは何かを聞き、気になったと言う理由で一人の生徒を探し回るほどに、少々変わった人だ。
その男性は、自分の異変に気づくと、少しでも良いと環境を変えるべきだと手を差し伸べ
深く事情を聞かないままに、サイレンススズカを連れ出した。
「風が、気持ちい、それに、、、。
さっきよりも脚が軽いわ、、私走ってる。」
此処へ訪れてから、不思議と『今のサイレンススズカ』は自然と脚を前に出せていた。
ここ暫く感じていた重りもいつの間にか消えており、前へ前へと足取り軽く少女は思うままに駆けていた。
「何処まで続いてるのかしら、、本当にいい景色、、、、、」
自分が走りたいと自分の脚がもーダメだと言うまで、存分に走っても構わないと言われ
目の前の景色に追いつこうとするかのように、脚を止めることなくただ前に進み続けている。
ずっと、ずっと、、、
この先頭の景色を見ていたかった、純粋に走る事を楽しんでいたかった。
「私は、、、、、この景色を見続けたい、ずっと前を見ていたい、、、そう
私は、、、走り続けたい!!、、そうして何時かは、、、、私だけが感じる私だけの景色を掴みたいんだ。」
もう迷わない、、自分が何の為に走りを続けて来たのかを確かに少女は思い出し
再び前に出した脚は、その思いに応えるかのように風を切り、更に加速していく。
誰もが追い付けないと思わせる程にずっーーと、、、少女は先頭を走り続けた。
________________
「さてさて、、そろそろ、、、っとお疲れさん、
だいぶスッキリしたんじゃないか?」
「、、はい、スッキリしました。
頭空っぽになるまで、思いっきり走ったから、、、」
「連れて来た甲斐があったよ。」
木陰で休憩中だった松山風文は、先ほど走り出したサイレンススズカが戻ってきた事を確認
存分に走ってきたのだろう、肩で息をする少女へと『お疲れ』と労いの言葉を送る
今の彼女からは、学園で会った時の悲観的な一面は一切感じ取れず、はにかむように見せた表情からは、確かに走る事への情熱が戻ってきていると感じ取れた。
目的の一つは、完遂したとなれば、学園へと戻ろうかと思った彼だが、ふと少女が発した『思い出した』と言う言葉を耳にし、少女の方へと再び視線を戻すと聞き返す様に彼は、言葉の意味を少女へと問う
「小さい頃から走ることばかりいた私に、
ある日、両親からレースへの出走勧めてくれたんです。」
「楽しく走る娘を見れば、親は黙ってないもんだよ。」
「ふふ、そうですね。
それで走れるのならいいかな、と思って出て見たレースは、
最初、、、、すごく苦しいものに感じられました。
たくさんの子たちに囲まれてしまったので、、騒がしくて窮屈で、だから誰もいない場所まで行こうって思って先頭に出たんです。、、その方が私らしいって思って」
「大逃げか、確かに誰にも囲まれないって言えばそうだな。」
「はい、私昔から、誰もいない、絶対においつけない先にまで行こうって思ってて
それが自然と私の走りになっていて、、だからそのレースでも前に出て、、先頭の景色を見たんです。静かな、、、誰もいない景色にたどり着けたんです。」
両親が、幼い頃のサイレンススズカにとあるレースに参加をさせた。
走る事が大好きで、ずっとずっと前にいた少女にとってのそれは、同世代に囲まれ
自分が思い描いていた、静かな景色とは正反対のものだったと話す。
よーいドンの掛け声と共に始まったレースで、一斉に走り出す子供たち、
周りの声を少しでも減らそうと考えた幼少期のサイレンススズカは、普段と変わらず
自分が今までどうやって走り続けていたのかを再確認すると、一気に前へと躍り出た
勢いは止まらず、進み続ける足と目に見える景色と並び立つ物がいない故の静寂を耳で感じる
今、自分が見ているこの景色を最初に捉えたのは、他でもない自分なのだ、
誰にも囲まれる事無く静かにその空間の中を駆けまわったあの日は、確かに彼女の中で残り続けていた。その筈なのに、、何時しかその景色と思い出を忘れてしまう程に自分は、自分を追い込んでしまっていた。
「、、、私、先頭を走りたい。
もう一度、何度でもあそこにたどり着きたい。
この気持ちだけは、譲れない!、、譲っては行けないものなんです!!」
自分が、何の為に走り、何を思っていたかを思い出した事で、抑えていた気持ちは一気にあふれ出す。
誰にだって譲れないものは、ある、、それは自分にもあるのだと少女は話す。
きっとこのまま何もせず、変えようとする努力をしなければ、自分は先頭の先に広がる景色を見る事は、きっと叶わないのだと、
だからこそ決心した、自分を信じ、自分に可能性があると話してくれた、あの女性に伝えなければならない言葉があると松山風文へ話した。
「私、担当トレーナーさんにお話しようと思います。
『逃げない走り方は、出来ません』って、、、」
「、、、、」
サイレンススズカの出した答えは、担当トレーナーである。『新島早苗』へと話し合いだ。
自分をスカウトし、走りに才覚があると述べた彼女だが、在籍して暫くだった。
彼女からサイレンススズカへとある指示が、飛ばされた。
『大逃げは厳禁、、勝機が見えるまで、窺う差しでの走りをすること』
一番に得意とし、彼女が求めるそれは、トレーナーである新島早苗に封印されてしまった。
何度か、走りを変えたいと言って見たが、どんな事でも寛容なトレーナーは頑なに首を縦に振る事無かった。
「その様子だと、意志は固いって感じだな、、、、よし俺もついて行くよ」
「あの、それで、、、、えっ?、、来てくれるんですか?」
「そのつもりだよ、乗りかかった舟と言うか、ここまで来たなら最後まで付き合うさ。」
「トレーナーさんって、、変わってますね。」
「まぁ、付き合いは良い方だと自覚してる、、、はぁ」
えっと、、と自分ながら情けない声が出てしまったと思った事だろうか、
いまだ『来て欲しい』と伝える前に彼は、トレーナーの元まで同行してくれると述べるのだ。
特にこれと言った理由は、なく。
ただ単にここまで付き合ったのならば、最後までと言うのみ。
自分と同じチームに属するエアグルーヴからは、この男性には近づかず、信用もするなと常日頃から忠告を受けていたのだが、何の疑いもなくついて来た自分も自分だが、
エアグルーヴが、口うるさくいう程、信用出来ない人物ではないだろと感じていた。
だからこそ、こうして自分の事も伝えられたのだから、、。
「でも良かった、、私、あまり話は得意ではなくて、、
トレーナーさんにもうまく伝える事が出来なくて、」
「トレーナーが言う事は、絶対って訳じゃない、、自分を曲げてまで突き通すやり方はしちゃいけないんだよ、、、本当にさ」
「、、?トレーナーさん」
「おっと、悪い悪い、、んじゃ学園に戻って、新島トレーナーに早速伝えるか、」
同行を快く承諾した松山風文だったが、何処か重い雰囲気を漂わせる彼は、先ほどまでの表情とは一転し、何処か悲壮感を抱いた。
首を傾げ、彼を呼ぶサイレンススズカ、じーっと視線を向けると
それに気づいたのか、少女へと謝罪の言葉を述べると気合を入れ直すのか、少し深呼吸すると異常はなしと再度、少女へと伝えた。
「はい、よろしくお願いします。」
「ОK、、、、、(まぁ、、ここまであの子が頑固な理由は、もっと別な気もするし簡単に解決するかどうか、、、はぁ不安だな」
サイレンススズカは、自分の気持ちと向き合い、自分がすべきことを思い出した。
もう一度、自分が全力を出せる為に担当トレーナーである『新島早苗』に自分の思いをぶつけ
あの頃のような走りをさせてもらう事だ。
その為に彼らは、もう一度学園へと戻るべく駅へと戻った。
先ほどは、見当たらなかった彼女だったが、今の時間帯なら学園へど戻ってきていると彼は考えた
順調に、それ出ていて問題なく進んでいると思わしきサイレンススズカの事情
ただ、彼女の隣で電車を待つ、彼は此処から先が、最も厄介な問題なのではないかと、少々頭を抱えていたのだった。
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「そうですか、、、そうですか、、、、はいスズカの話は分かりました。
先輩もスズカの為に時間を割いて頂いてありがとうございます。」
「ふぅ、、、俺は、思ったままにやっただけだよ。新島トレーナー」
「貴方の気持ちは、理解しました、、貴方がどのように走りたいのかも
私もトレーナーですからね、どうすべきなのかも承諾しています。」
「じゃ、、トレーナーさん!」
「はい、、スズカ、、、、、決まりました」
松山風文は、サイレンススズカの不調の理由や自分が同行する理由を彼女へと話した。
隣で何度か、言葉がつまりそうになったサイレンススズカも何とか自分の思いをトレーナーに伝え
自分が出来る、自分が思い描く走りをさせて欲しいと彼女へと頭を下げていた。
彼女の熱意と彼女の気持ちを感じ取った事のか、穏やかな表情を浮かべる新島早苗
担当トレーナーの表情を見て兆しが見えたのか、サイレンススズカの表情にも変化が見える
ただ、彼女等と同席する松山風文の表情は、何処か強張っていた、ここまで来れば緊張の糸も解けるものだろうが、いまだ安心出来ないと彼は、後輩の表情を見て直感してしまった。
ふぅーーと、息を整えた後に新島早苗は、重い口を開く
「やはり、、、、、、あなたに大逃げをさせる訳には行きません。
サイレンススズカ、、貴方の走りは原石です、それをむざむざと壊すような事を私はする訳には行かないんですよ、」
「えっ、、トレーナーさん」
「っ、、早苗ちゃん」
「サイレンススズカ、、、もう一度言います。あなたに大逃げの走りを許可する訳には行かないんです。」
微かな希望は、なく
望んだ答えも回答もなく、伝えられた言葉を彼女の耳は捉えてしまった。
『新島早苗』と言うトレーナーはウマ娘の走りと自由を重んじ、その言葉と共にトレーナーとして日々、粉骨砕身、、ただ彼女は、決してサイレンススズカの走りを、、彼女の大逃げを許容はしなかった。