「弟と結婚できないなら、色情霊になればいいじゃない」~弟くんのことが大好きすぎてお姉ちゃんは今夜も弟くんを誘惑しちゃいます~ 作:水無飛沫
姉は色情霊になったと言った。
「えっと、ごめん。アヤ姉ちゃん。
今、なんて?」
聞き間違いであればいい。そう思って俺は聞き返す。
ゾクゾクした嫌な予感が纏わりついて離れない。
「だからね。おねーちゃん、色情霊になったんだよ」
ぎゅっと、姉が俺を強く抱きしめて耳元で囁く。
ゾクゾクしているのは彼女の冷たい体だけが原因ではない。
「しきじょーれーって……」
「えっちな幽霊だよ」
「なんで……」
「なんで? 私ね、はーちゃんと結ばれるために帰って来たんだよ」
姉の手が俺の手を握る。
本来なら懐かしさとか嬉しさを感じるべきなんだろうけど、
「アヤねえちゃんっ……」
空いた方の姉の手が俺の身体を服の上からまさぐっている。
「どうしたの、はーちゃん」
姉の囁きがくすぐったい。
嬉しさと懐かしさと、締め付けられるようなもどかしさ。
俺の情緒は破壊されかかっていた。
「霊体なら、姉弟とか関係ないでしょ? 好きにしていいんだよ」
姉が俺の身体から少し離れ、向かい合わせる。
記憶通りの姉が、優しい笑みを浮かべている。
けれど瞳の奥には確かに未知のものが浮かんでいて……
「私のこと、嫌い?」
「嫌いなわけ……」
「じゃあ、私のこと好き?」
「……」
コクリと首を縦に振る。
「じゃあ何も問題ないね。私は君が大きくなるまで5年待ったんだよ」
姉が俺を教室に引きずり込む。
いくつか机をくっつけて、そこに俺を横たえると、自らの服に手をかけて……
「待って待って!! それとこれとは話が違うし、そもそも心の準備が!!」
いきなり幽霊になった姉とどうこうするだなんて……
常軌を逸しすぎた展開に、俺の頭は爆発してしまいそうだ。
「私ね、はーちゃんと結ばれることができないって知ってから、ずっと悩んでたんだ。
ずっと苦しかった」
どこか遠くを見るように語った姉は最後に「だから自殺したの」と言い、スッと顔から表情を消した。
「……俺だってアヤ姉ちゃんがいなくなってから、ずっと悲しかった」
それは本当だ。こんな形でも会えたことは嬉しくある。
「ねえ、はーちゃん」
そんな俺にやっぱり無表情のまま姉が語り掛けてくる。
「死ぬほどつらかった?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
アヤ姉ちゃんの咎めるように冷たい声。怒っているのだろうか。
「だってほら、はーちゃんは生きてる。
……私は、死ぬよりつらかったんだよ」
姉の瞳から涙が一筋流れた。
あぁ、そうだ。姉は誰に相談することすら許されない想いを抱いたまま死んだのだ。
「……ごめん」
そうだ。俺は自分のことしか考えていなかった。
アヤ姉ちゃんとちゃんと向き合っていなかった。
あの頃はまだ子供だったから……アヤ姉ちゃんはただの姉だったけど……。
「ねぇ、だからいいでしょ?」
姉がニタリと笑い、僕の上に覆いかぶさる。
「やっぱダメ!! こういうのはゆっくりと時間をかけて!!」
「だーかーらー、私は5年かけたんだってぇ」
姉が冷たい手を服の内側に差し入れてきたから、俺の口からは変な声が漏れてしまう。
「そうじゃなくって……。アヤ姉ちゃんのことは好きだからさ、手を繋いだりキスをしたり、たくさん甘酸っぱいことをしたいんだよ」
姉の動きがピタリと止まる。
「……私のこと、好きって言った?」
コクリ。首を縦に振る。
「うんわかった。じゃあ我慢する」
安堵したように微笑む姉の表情に、ドキリと胸が高鳴った。
気が付くと俺は一人で机の上で横になっていた。
……姉はどこへ行ったのだろう。
「……何してんだ、お前」
そして懐中電灯で俺を照らす男が一人。
「……お前こそ」
俺は身体を起こし、コウと向かい合う。
「俺は美人を拝みに来た」
お前は? と問いただすような目つきでコウが俺を見ている。
「俺は……その……」
なんて答えるべきなのか。姉に会いに来たと?
それはそれで信じてはもらえないだろう。
「なんだよ。お前も結局ムッツリなんじゃねーか」
なにかを勝手に納得したらしいコウが俺の肩をバンバンと叩く。
「ちげーし!!」
「はいはい。夜の学校は怖かったでちゅねー。一緒に帰りまちょーねー」
くそっ、昼のこと根に持ってやがる。
俺はコウにからかわれながら学校を出た。
「……『拝む』つもりだったんだけどな」
別れ際、コウが不機嫌そうにつぶやいた。
「ん?」
「いや、なんでもない。夜道に気を付けて帰れよー」
「お前もな」
手を振り合って、それぞれの帰路についた。