「弟と結婚できないなら、色情霊になればいいじゃない」~弟くんのことが大好きすぎてお姉ちゃんは今夜も弟くんを誘惑しちゃいます~ 作:水無飛沫
俺は家に帰るなり、自分の部屋へ直行して布団に突っ伏した。
「はぁ」思わずため息が出てしまう。
チラリと机の上を見ると、そこには姉の写真が飾られている。
いつもなら悲しい気持ちで見るその写真を、今日は……
いやいやいや。
首を横に振って目を瞑る。
俺は姉に邪な気持ちなんて抱いてない。
『死ぬよりつらかった』
という姉の言葉を思い出す。
「だからって、どうすればいいんだよ……」
誰へともなく言葉を放つ。
姉のことは好きだけど、この好きは家族として、姉弟としてのものだ。
恋愛としてのものでは……
ない、と言い切れるのか?
姉に抱き着かれて、押し倒されて俺は嫌悪を感じていたか?
「あー」
声にならない呻きが漏れる。
もうどうしていいのかわからない。
……とりあえず寝よう。うん、こういう時は寝るに限る。
リモコンを操作して部屋の明かりを消す。
今日はたくさんのことが起きすぎた。
部屋が暗くなった途端、スゥっと意識が落ちていくのを感じる。
……そういえばあれ以来姉の姿を見てないな。
やはりまだ教室にいるのだろうか。
その思考を最後に、意識がプツンと途切れた。
キーン。
耳鳴りのような音が部屋を支配している。
空気は凍り付いたように尖っている。
――これはあれだ。
夢うつつに考える。
――金縛りの前兆だ。
考えがそこに至った瞬間、全身が痺れたようにピリピリとした感覚に襲われる。
身体に力が入らず、まったく動かすことができない。
唯一、瞼は空いてくれたようで、暗闇の中ではあるけどうっすらと周囲を見ることはできた。
「おねーちゃん、思ったのぉ」
少し離れた場所から、聞きなれた間延びした声が聞こえてくる。
姉が俺の机のそばに立って、何かを見ていた。
「……何を?」と問いかけようとして、声すら出せない事実に気づく。
「はーちゃんにカノジョができてたり、私のことを忘れてるなら、スパッと一発決めて成仏しようかなって」
不穏すぎる発言にツッコみをいれることもできないなんて……。
「けどね」と俺のジレンマなどおかまいなしに彼女は続ける。
「ありがとう、ずっと忘れずにいてくれたんだ」
姉の視線の先には、写真が飾ってある。まだ小学生だったころの俺と、今とそう変わらない姿の姉が二人で仲良く映る写真だ。
「あとはカノジョさんの有無だけど……」
一歩、姉がこちらに近づいてくる。
いやいやいや、居ないって。カノジョとかできたことないって!!
必死に目で訴える俺だが、姉には伝わってくれないようで、
「身体に聞くしか……ないよねぇ」
姉の瞳の奥が光る。
女子高生のするとも思えない妖艶な表情に、俺はこのまま食べられてしまうのではないかと恐怖すら覚える。
さらに姉が近づいてくる。
もうベッドのすぐ脇から俺をのぞき込むような姿勢だ。
金縛りは相変わらず続いている。
姉の顔がさらに近づく。
動けないことが、恐怖をいっそう助長する。
「さっきは上手くはぐらかされちゃったけど……
ねぇ、はーちゃん。おねーちゃんは色情霊なんだよ??」
すぐ目の前で姉の唇が蠱惑的に動く。
ホラー映画にお色気シーンはつきものだというが、俺はなんとなくその意味がわかったような気がしないでもなかった。
(人間本当に追い込まれると、どうでもいいことを考えるもんなんだな……)
などと馬鹿なことを考えてる間も、姉が止まってくれるわけがなく。
「ほぉらぁ。今まで誰と付き合ってきたのか、白状しなさいよぉ」
ポフっ、と姉の胸に抱きしめられる。
柔らかな感触に包まれつつも、俺の呼吸は非常に困難だ。気持ちいいが、苦しい。
「ほらぁ。はやく白状しないと、どんどんエスカレートしていっちゃうよぉ??」
……いや、金縛りで白状できないだけなんですが。
もしかして、そのことに気づいてないのか? このポンコツ姉は。
「んもうっ」
怒ったような声を出して、姉の冷たい手が俺の首筋にかかる。
このまま締め上げられるのではないかという恐怖に背筋が凍り付く。
「悪い子にはオシオキしなきゃね」
一体俺、これからどうなっちゃうのぉぉぉぉ!?!?!?!?
……それから俺は、一晩中姉におもちゃのように撫でまわされた。
金縛りは、まだ解けない(号泣)
チュンチュンと鳥の声が聞こえる。
朝。
朝チュン。
ぼーっとした頭で考える。
その頭には姉の手が乗っかっている。
……まさか朝まで金縛りの中で撫でまわされるとは思わないじゃん?
「こら、ハヤト!! いつまで寝てるのよ!!」
ドスドスと階段を上がってくる音が聞こえる。
声の主はそのままの勢いでバシンと扉を開けて中に入って来た。
「あ……」
「あ……」
見つめあう姉と、部屋に入って来た赤髪の少女。
彼女の名はマナ。隣の家に住む幼馴染だ。
「いっ!!」
マナの表情が驚きから恐怖へと変わる。
あー、死んだはずの人が目の前に居たら、そういう反応になるよね!!
「不潔よっ!!」
マナが叫んで俺を指さす。
そうだよね。死んだ人間に撫でまわされてるなんて、不潔だよね。ん????
どういう反応なのかな????
「ハヤトのバカっ!!」
涙目のマナが右足を一歩踏み出す。
大きく振りかぶられた左手からは、黒革の学校カバンが俺めがけて射出された。
「ちょ――!!」
絶賛金縛り中の俺に避ける術などなく、そのカバンは見事に俺の顔に命中するのであった。
泣きながら逃げていくマナ、鼻血を出して動けない俺。呑気に笑っている姉。
「だいじょうぶー?」
姉がティッシュで俺の鼻を拭いてくれる。
……とりあえず金縛り解いて(切実)