「弟と結婚できないなら、色情霊になればいいじゃない」~弟くんのことが大好きすぎてお姉ちゃんは今夜も弟くんを誘惑しちゃいます~ 作:水無飛沫
「だーっはっは!!」
登校して自分の席に着くなり、鼻にティッシュを詰めた俺を見てコウが爆笑してくる。
……まったく、笑い事じゃないっての。
「マナちゃんのカバンも持って来たんだから、どうせケンカでもして投げられたんだろ?」
図星っちゃ図星だけど、内容は少し違う。
はぁ、と大きくため息を吐く。
マナになんて言い訳しようか、朝からずっと考えていた。
「まぁまぁ、傷は男の勲章ってな。ティッシュを鼻に詰めてると少しは男らしくブフォwww」
堪えきれなかったようでコウが再び爆笑する。
ちょっと黙っててくれないかな……。
チラッとマナの席を様子見する。
俺の席が窓際の一番後ろ、マナの席は廊下側の前の方なので彼女の表情までは見て取れないが、
全身から醸し出す不機嫌オーラに普段は仲のいい友人たちも近づけないようであった。
できることなら機嫌が直るまでは声をかけたくない。
……とはいえ、カバンを渡さないことにはマナが困るだろうしなぁ。
「ほら、早く行けよ」
コウはそれだけ言うと、俺に興味を失くしたかのように別の友人と話し始める。
あー、はいはい。わかりましたよ。
俺は椅子から重い腰を上げると、セミロングの赤髪を器用にお団子のように編み込んだ少女へと歩み寄った。
「あの……さ……」
「なによ」
マナの低く唸るような声。
今にも怒って大声を出しそうな雰囲気である。
「カバン……」
彼女を刺激しないように机の上に置く。
「そう」
マナはそれを眺めながら無感情にポツリと返答した。
よし、今なら少し話せるかな……?
俺は今朝のことをマナに説明しようと口を開く。
「それで、さ……」
「サイテー」
俺の言葉をやや食い気味に、マナがボソリとした声で言う。
「え?」
「ハヤトってば、サイテーよ」
キッと俺を睨みつけるようにして、声を荒げるマナ。
ざわざわしていた教室が一転、周囲が口を閉ざして何事かと俺たちを見る。
「なんでだよ」
できるだけ穏便に済ませようと、身振り手振りで無害アピールをする俺。健気。
「だってそうでしょ?
よりにもよって、アヤ姉とそっくりの女をカノジョに選ぶなんて!!」
ポロポロと涙を零しながら、訴えるマナに俺は
「ちょ、ちょっと待って」
ちょっと頭の整理が追い付かない。
え? ん? そっくりさんだと思ってる?
あぁ、確かにそういう見方もできるのか。
「あんたがシスコン気味だったのは知ってたけど、不潔よ!!」
号泣しながら俺のあらぬ罪をでっちあげる幼馴染。
クラスメイトは一様には「うへぇ」という表情を浮かべて、ただでさえ低い俺の地位が、どんどん酷いものになっていくのが手に取るようにわかる。
「マナ、聞いてくれ!!」
はやく真実を告げないと酷いことになる。
そう思い俺は彼女の肩に手をかける。
「聞きたくない!! もうあたしに関わらないで!!」
パシンと俺の手を払いのけるマナ。
キーンコーンカーンコーン。
クラスの静寂を埋めるかのように、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。
「誤解なんだよ」
「何がよ」
「あれは……」
ガラガラと教室の引き戸を開けて中年の教師が入ってくる。
「とにかく、ちょっと話があるから、放課後ふたりきりで……」
「……ふたりきり?」
「そう、ふたりきりで」
ほらぁ、席に着けー。と教師が声を上げる。
「じゃあ、あとでな」
「ちょ、ハヤト……!!」
彼女に背を向けて自分の席に着く。
いつも以上にだらしない顔をしていたコウのことは無視するに限る。
出席で名前を呼ばれるのを待ちながら、俺はほんのり赤く染まったマナの頬のことを考えていた。