「弟と結婚できないなら、色情霊になればいいじゃない」~弟くんのことが大好きすぎてお姉ちゃんは今夜も弟くんを誘惑しちゃいます~ 作:水無飛沫
「で……」
放課後の屋上で、マナが滅茶苦茶怖い顔をしている。
「なんでふたりきりじゃないのよ」
マナの目線の先には
「ちょいーっす」
アイドルピースを決めるコウがいる。
「なんでふたりきりじゃないのよ!!」
苛立たし気なマナの蹴りがコウに炸裂する。
「痛い痛い!!」と大げさに痛がりながらも、コウはどこか楽しそうだ。
ふん、と鼻を鳴らしてマナが俺に向き直る。
「まぁいいわ。弁明があるなら聞いてあげる」
腕を組んで仁王立ちするマナ。
その高圧的な態度に、どうにも話を切り出しにくい。
「マナちゃん、なんで上から目線? これラストチャンスだろ??」
コウがマナをおちょくると、
「ちょ、アンタは黙ってて!!」
マナは慌てたように前髪をいじり始めた。
……なんとなく場は整ったようだ。
「その……さ……、ふたりに聞いてもらいたいんだけど」
俺は意を決して語り始める。
最近学校に出没し始めた幽霊のこと。
そしてそれが俺の姉であったこと。
もちろん、『色情霊』という情報は隠したけど。
「……嘘よ」
マナが何事かをつぶやく。
「信じられるわけないじゃない。じゃあ今朝会ったのは、アヤ姉って言うの?」
隣の家に住む幼馴染だけに、マナと姉は面識がある。
いや、どちらかというと昔からふたりは仲が良かったはずだ。
「俺もまだ実感がわかないんだけど、あれはアヤ姉ちゃんだよ」
「だって……」
未だ食って掛かろうとするマナに
「じゃあ、確認しに行けばいいんじゃね?」
とコウが提案する。
「確認って……」
「幽霊っていえば出てくるのは夜だろ?」
なんでもないことのようにコウは続ける。
「確認するなら、ハヤトの部屋に泊まればいいじゃね??」
「ちょ、ばっ!!」
マナが顔を赤くして怒りだす。
いや、けれどコウの言うことももっともかもしれない。
「まぁ、確かにそうしないと信じてもらえないなら、そうしてくれていいよ」
「ちょ、まっ、はやとっ!!」
マナの顔が耳まで赤くなる。
……これは怒っているのではなく、照れているのだろうか?
「決まりだな。マナちゃん、家にはちゃんと連絡入れておけよ?」
「……う、うん」
前髪をいじり、もじもじとするマナ。
照れてる理由はわからないけど、こうしてると可愛いんだけどなぁ。
「ハヤトも、ちゃんと女の子を泊める許可は取るんだぞ」
コウが俺に向き直る。
「あぁ。まぁマナがうちに泊まるのなんて、珍しいことでもないから大丈夫だよ」
アヤ姉ちゃんが生きてた頃は、よくお互いの家に泊まりに行ったりしてたなぁ。
なんだか懐かしくてつい微笑んでしまう。
「ばかっ!! いつの話をしてるのよ!!」
マナが慌てて俺の話を否定する。
あぁ、そういえばもうそんなに経つのか……。
「とはいえ年頃の男女が一つ屋根の下。
……マナちゃん。こいつがバカな行為に及ぶかもしれないから、これを渡しておくよ」
そう言ってコウがマナに何かを握らせた。
「……は?」
手の中を見たマナは、固まっている。
思いがけないものでも握らされたのだろう。
「いざという時もこれがあれば安心。メッチャ薄いゴ……」
ドゴォ。コウの言葉を最後まで待たずに、マナはコウの腹に綺麗な右ストレートを決める。
地に伏すコウを冷たく見下ろしながらも、手に握らされたそれを決して手放すことはなかった。
……何を貰ったんだろ。ちょっと気になるな。
「帰るわよ、ハヤト」
「あ、あぁ……」
マナは顔を紅潮させながらスタスタと学校の中へと入っていく。
慌てて着いていきながらもコウは……と振り返ろうとすると
「放って置きなさい、そんなバカ」
と、マナが冷たく吐き捨てた。
「マナちゃん」
そんなマナの背中にコウが声をかける。
「グッドラック!!」
親指を立てて、コウが爽やかに笑う。
こうして笑えばイケメンなのになぁ……。
「死ね!!」
けれど帰ってきた答えはその人間性を否定するものであった。
バタン、と校舎へ続くドアが勢いよく閉められる。
後に屋上に残されたのは俺とコウなんだが……
「俺は大丈夫だ。お前もはやく行きな」
「あ、あぁ」と空返事をして、俺はマナを追いかける。
「バカヤロー、男になっちまいな」
コウの意味不明な声援が、俺の背中に乗れず宙を漂った。