攻撃(精神)が得意な恵に物理を習得させたいなぁっと
高校2年。6月の末。外は雨が降ったりやんだりして、じめじめと蒸し暑い。
倫也の部屋には詩羽を除くサークルメンバーがゲーム制作を口実に集まっている。
「恵。お腹空いた」
「加藤ちゃん。お腹へったー」
「あの・・・?わたしはみんなのお母さんじゃないんだけど?」
「カップ焼きそばでいいなら作るけど?」
「また!?」
お昼に近づいて、みんなのお腹が減ってきていた。英梨々は絵を描くし、美智留は音楽を制作する。やることがないのはメインヒロインの恵だけである。そんな理由と性格も合致して料理に掃除と主婦業はだいたい恵が担当している。のちの勝因である。
「で、安芸くんは何しているの?」
「あいつはスカイプで霞ヶ丘詩羽とシナリオについて議論しているわよ」
「へぇ・・・」
絶対つまらない話だと恵にはわかる。
『だからね、倫理君。結局のところ、面白い作品を書けなければ何をしても無駄なのよ』
『でも、人気作品のパロディーの方が人を集めやすいですよね?』
『もちろんそうよ。その分、競争も激しいでしょう?』
『たくさん読んでもらうことが大事なのでは?』
『それって宣伝すると言い換えてもいいけれど、宣伝しても駄作は駄作なのよ?』
・・・ほらね。
「何作ろっかなー」
「冷やし中華」
「あたしは辛い物がいいなー」
英梨々も美智留も適当である。だいたい役割分担といいながら、2人でジェンガしている。恵が参加していないのは、恵がうますぎたからである。戦いは同レベルの方が面白い。
「まぁ、なんか作ってくるよ」
恵が立ち上がって、キッチンへと向かう。茶色のくまさんのエプロンをする。冷蔵庫を開けて中の食材を見ながらメニュー考える。
※※※
『才能、努力、運。いろんな要素があるけれど、そんな過程なんて関係ないでしょ?できあがった作品だけが読者の目に止まるのだから』
『その作品が面白くないと意味がないと?』
『そうね。信用の問題よね』
『信用?』
『読んだものが面白ければ他のも読もうと思うじゃない?』
『そうですね』
詩羽と倫也はいたって真面目だ。
英梨々と美智留だって真剣にジェンガをやっている。際どい勝負が続く。英梨々はツンツンとあちこちを触って大丈夫そうなところ探すのに対して、美智留は勢いよく引き抜く。
一方。恵はきゅうりを千切りにしている。
※※※
『だから、毎日更新なんて無理なことはせず、一週間に一度ぐらいでちょうどいいのよ。分相応っていうのかしらね』
『前日に慌てて書いていますよねぇ!?』
『締め切り前が作家の本領が発揮されるのよ?』
『身につまされるなぁ・・・』
ガシャ!とジェンガの崩れる音がする。
「はい、澤村ちゃんの負け―」
「はぁー?あたしはちゃんと引き抜いたでしょう。氷堂美智留がのんびりやっているから崩れたんでしょうよ」
「それは言い訳だよー。だってグラグラしていて今にも崩れそうだったじゃん」
「納得いかないわ」
「潔くないのはよくないと思うよ。ジェンガも恋愛も」
「恋愛関係ないでしょ!」
一方。恵はひき肉を炒めている。
※※※
『信用を失うぐらいなら、作品なんて作らない方がいいのよ』
『それって、もう投稿できないんじゃ・・・』
『それにつまらない話で文字数を稼ぐなんてやめた方がいいわね』
『はいぃ!?ちょっと待ってください詩羽先輩。言っていることが矛盾してますよ!』
『だって仕様がないじゃない?私がつまらない話をするのが大事なのだから』
『面白い話ができるなら、その方がいいんじゃないですか?』
『これだから童貞は、ものの道理が分からないのよね』
『童貞関係ないよねぇ!?』
美智留は崩れたジェンガを集め、3つを並べて英梨々に渡す。英梨々はそれを積み重ねていった。こういうことは自分でやらないと気が済まない。美智留は英梨々が自分でやらないと後から文句をずっと言うのを知っているので積み重ねたりしない。勝っても負けてもいいと思っている。
一方。恵は鍋にお湯を沸かして麺を茹でようと準備している。
※※※
『作品だって、デートだってメリハリが大事でしょう?わかるかしら』
『ええわかりますよ。デート中に本屋に座り込んでラノベを読破する人を知っていますから』
『そう?その人、美人で知的で洒落のわかる方なのね』
『自分で言いますか?』
『そういうメリハリが大事ってことよ。ずっと面白いことなんてできないじゃない?』
『まってください。詩羽先輩。そのケースの場合失敗していますよね?』
『どういうことかしら倫理君』
『だって、詩羽先輩も恋愛に負けたじゃないですか?』
『・・・泣くわよ?』
『わっ!わっ!』
「どうして、霞ヶ丘詩羽とトモの場合は理屈っぽい会話になるのかしらね?」
「さぁー。あたしに聞かれても困るよー」
再びジェンガを始める2人。もう少し有効な時間の使い方はないものか。
一方。恵は麺を茹で始めた。
※※※
『デートなんていうのは一緒にいたらデートなのよ。その時に好きなことをしていて何が悪かったのかしら?』
『デートは相手との関係を縮める行為なのでは?』
『倫理君。そういう表現を使うから理屈っぽいって言われるのね』
『じゃあ、霞ヶ丘先輩はなんでデートするんですか?』
『それは・・・私のデートを餌に、澤村さんと加藤さんが追跡するというイベントを描くことでメインヒロインの性格が表現できるからよ。本題は私と倫理君のデートじゃないわけ。だって、私には脈が最初からないのだもの』
『脈?』
『そうよ。私はサブヒロインとして物語全体の中で役割を果たしているだけでしょう?そんなデートに全力で倫理君にアタックするなんて、悲しいじゃない?』
『役割を演じているだけということですか?』
『そうよ。この会話みたいにね』
英梨々はジェンガのブロックを中抜きするのが好きだ。間のブロックを指で押し出していく。そして反対側からつかんで引き抜く。上手くいくと満面の笑みを浮かべる。八重歯ちらりと見えてとても可愛い。
「澤村ちゃん、その笑顔はもうちょい・・・効果的に使わないと・・・」
美智留が残念そうに英梨々をみている。
一方。恵は麺をザルにあげて冷水で冷やしている。
※※※
『こういうワンアイデアのショートショートで3000文字はいささか冗長よね』
『余計な描写を必要としない流れは、時代を感じますね』
『いろんなことがファスト風土化しているのよ』
『なんですかそれは?』
『無個性化ね。均一化と言うべきなのかしら?投稿小説でいうところの、なろう系なんかがそれにあたるわね』
『なるほど・・・それと簡略がどうして関係あるんですか?』
『長文でしっかりとした描写がケータイで読むのには不利なのよ。かといって簡略化された文章では表現が限られるわけ、その結果としてお約束が大事になってくるのよ』
『なるほど!さすが詩羽先輩です』
『納得してくれて嬉しいわ』
『いえ!絶妙なつまらない話だなって思って!』
英梨々と美智留はジェンガに飽きた。ドミノにしようか相談しているが、そろそろ話しも終わりそうだからと、何もせずにぼんやりしている。
そもそも自分達が今日ここにいる理由がわからない。
一方。恵は皿に麺を盛り付け、キュウリの千切りとひき肉を盛り付ける。あとはタレをかければ冷やし担々麺の完成だ。
※※※
恵は料理が完成したので、2階へみんなを呼びに行く。
「できたよー」
「あいよー!」
美智留が返事をして、立ち上がる。
「恵。何作ったの?」
「冷やし担々麺。冷やし中華と辛いものというリクエストに応えてみたのだけど」
「さすがね!」
英梨々も立ちあがる。
「倫也くん。お昼ごはんできたよー」
「あーうん」
倫也が生返事をする。
恵と英梨々と美智留が下へ降りていく。
『そういうわけで、私も役目を終えたわね』
『俺、殴られるか、首でも落とされるのかと思ったけど』
『そうね。どんなオチでも受け入れる姿勢に愛を感じるわよ』
『でも、こういう作品構成なら冴えカノは関係ない気がするんだけど・・・』
『それはね倫理君・・・加藤さんだから許さえる行為っていうのもあるのよ』
詩羽の講釈がまだまだ続く。
リビングのテーブルでは美智留と英梨々が「いただきます」を言って、食べ始める。
恵は倫也が降りてこないので、ちょっと機嫌が悪い。
「ほっとけばいいのよ。どうせ、詩羽としゃべっていて御飯のことなんて気が付いてないんだから」
「トモはそういうところがあるよねー」
「わたしとしては、できたてを食べてもらいたいんだけどなっ!」
「そう?じゃあ、ランチのお礼にいいこと教えてあげるわよ。洗面所にいって壁の上を眺めてきなさい」
「?」
「あははっ、澤村ちゃんが伝授するんだね。必殺技。」
「?」
恵はなんだろうと思って洗面所に行き、壁を見る。そこで英梨々の言っている意味が分かった。
恵は2階のブレーカーを落とした。
(了)
のちのママである。