この慎重すぎる勇者に祝福を! 作:プロパティ
聖哉に放り投げられてから下界の時間で約一日が経った。
けれど私は少しだけ安心していた。何故なら、私は忘れていたのだ。転生特典というものの存在があることを。
私たちは地球人を異世界に送る代わりに何か一つだけチートなアイテムを渡さなければならないとになっている。
まだ誰も転生させたことがなかった私はそれを完全に忘れていたのだが、聖哉が修行すると言って考える時間ができたおかげでそれを思い出すことができたのだ。
──あー危なかったー。送る前に思い出せてよかった……よし、聖哉にその存在があることを伝えに……でもなんかまた放り投げられそうね……やっぱり今は……うん、どうせ聖哉も直ぐに私を呼び出すだろうし、あとで伝えよっと!!
そう考えてその日は外から部屋に穴を開けておにぎりを置くだけにしておいた。ちなみに毒は入っていない。いや当たり前なんだけどなんか言わなくちゃいけない気がして……。
……あれから一週間が経った。聖哉はその間私を全くもって呼び出さず、今日、イライラしながらおにぎりを置きに行った時に遂に入っていいとお許しが出た。
──いやなんで女神がお許しをもらう立場になってるわけ!?
「聖哉。もう転生させてもいいのね?」
もはや私は猫をかぶるのをやめていた。イライラしすぎてめんどくさくなっていたのだ。
「ああ、いいだろう。さっさとしろ」
!!いや待たせておいてなんでそんな偉そうなのよ!!
「さぁ、魔法陣の──」
私が魔法陣の上に立つよう指示しようとすると…… 聖哉が遠くを見つめながら呟く。
「
な、何その決め台詞みたいなの!?もしかしてこれが所謂厨二病ってやつなの!?そんなの言わなくていいわよ!!
やっぱりパーになっちゃったのかな、と思いながら聖哉が魔法陣の上に移動したのを確認した私は魔法陣を光らせる。ってえっ、ちょっと待って……なんで私の足元にも出てきたわけ!?え??
そんなことを考えているうちにも魔法陣の輝きはどんどん増していく。すると、突然何もないところが白く輝き突然羽の生えた女性が現れる。
「リスタルテ様…… あなたもアクア様と同じく異世界へと飛び立つのです」
「!?へ!?いやどういうこと!?」
聖哉の方を見ると今まで表情があまり変わらなかった聖哉も顔を歪ませていた。っていや何歪ませてんの!?もしかして私について来られるのが嫌すぎる、とか!?いやいやそんなわけないわよね!?
「リスタルテ様、転生特典、とだけ言えば理解できますでしょうか?」
!!……あ……ああ……わ、忘れてた……ま、まさか!?私が転生特典があることを言わずに聖哉を飛ばそうとしたせいで、無理矢理私が転生特典にされちゃったの!?
「おい、どういうことだ。転生特典?まさかお前、重要なことを俺に隠していたのか?」
鋭い目つきで私を見てくる聖哉。キャーッ!カッコイイ!なんて言ってる場合じゃないのよね……今回ばかりは本当に私の過失だわ……
というか、つまり私って向こうに飛ばされちゃうの!?いやまぁ別に今までも何回か世界の救済のために色んな世界にいってたから構わないんだけど……
「転生特典。これは転生する人間が何か一つ特典としてチート、つまり凄く強いものを選んで向こうに持っていける権利のことです。ですが、リスタルテ様が本来選ぶはずの特典を選ばずにあなたを向こうに飛ばそうとしたのでリスタルテ様自体を転生特典にすることになったのです」
聞き終えた聖哉は鬼のような形相で私を睨んでくる。
──いや、聖哉の顔ヤバいって!!あれは人殺しの顔だわ!!私あとで絶対殺される!!
「では、行ってらっしゃいませリスタルテ様。あとのことはまたお任せを。アクア様がいなくなったあと、しばらくは私がここの担当をしていましたので、魔王を討伐するまでリスタルテ様は帰って来れませんが安心してください」
いやちっとも安心できねーけど!?というか魔王を倒すまで帰って来れない!?つまり天界への門使えないの!?
「……おい、そこの羽女。この馬鹿アホ間抜け無能駄女神の返却は?」
「いりません」
!!?いやたしかに私が悪いけど言い過ぎじゃない!?つかいりませんってどういうことよ!?
「……チッ、ならば俺が魔王を倒した場合、報酬はあるのだろうな。無論、どんな願いでも叶えてくれるような特大の報酬が。……世界を救うのだ。割りにあっていなければ俺は動かない」
「勿論です。貴方様が魔王を討ち取った場合、たとえどんな願いでも、たった1つだけ叶えて差し上げましょう」
「ふん、いいだろう。交渉成立だ」
!?いやいつから交渉してたの!?ていうか相変わらず偉そうね!!
「さあ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています……さあ!旅立ちなさい!」
その言葉と共に私と聖哉は眩い光に包まれて──
◆
──気づいたら私たちはレンガの家々が続く、中世ヨーロッパのような街の道路に立っていた。
隣を見るとあまり感情を表に出さなそうな聖哉が本気で悲壮な顔をしていた。……ホームシックかしら?あらあら可愛いところもあるじゃない。
「まだ俺は甘かったようだな。お前がここまで馬鹿だとは思ってもいなかった。もっと……もっともっともっと慎重にしていればお前が転生特典のことを俺に隠してる可能性に至れたというのに……!」
「!?ってそっち!?……いえ、確かに今回のは本当に私が悪かったわ……ごめんねさい……でもね、流石に言いすぎじゃない……?聖哉は今でも十分に慎重だし、私、別に聖哉に転生特典を隠してたわけじゃなくてただ忘れてただけなんだけど……」
これ以上聖哉が慎重になったらきっと、あり得ないくらい慎重の『くらい』が抜けてあり得ない慎重、になって矛盾しちゃうわね。
「それならお前の記憶力があまりにも酷すぎるという話なのだから、結局お前が馬鹿という事実は変わらないではないか。……いや、確か女神の見た目は歳を取っても変わらないのだったな。ならばお前が単なるババアだから記憶力がないというだけか。ババリスタ、すまなかった」
「!?ババリスタ!?いや絶対悪いと思ってないでしょ!?」
「悪いと思っているに決まっているだろう。事実、お前の頭は悪いのだからな。……それに、ババリスタは歳を取っているのだからどっかで俺が魔王を倒すまで休んでいろ」
「!!だからそのババリスタってのやめてってば!!大体、女神は歳を取らないんだから!!」
「何を痛々しいことを。……いや、リスタ婆さんの癖に面白い冗談だな」
!?いやババリスタがダメなのに、なんでリスタ婆さんはいけると思ってんのこの勇者!?しかも冗談じゃないし!!
「……まぁいい。さっさとこの街を案内しろ。そしてそのあとはどこかで休んでいろ」
!!……偉そうだけど、休んでいろ、だなんて優しいところもあるじゃないの!!
「せ、聖哉!」
私はうっとりした表情で聖哉に抱きつこうとして──避けられて地面にぶつかった。
「近寄るな。悪い菌が移る」
「!?いや悪い菌なんか持ってないんだけど!?」
「……ふん、お前はもう今すぐ休んでいろ」
「せ、聖哉!」
「俺が魔王を倒すまでずっとどこかで休んでいろ。足手纏いだ」
!!いや休めってそう言うことかい!!私の期待を返せ!!いやもうなんとなくわかってたけど!!
「はぁ、騒がしい奴だ。今すぐどこかへ行く気がないのならさっさと案内しろ」
いや、アンタのせいなんだけど!?……ま、まぁ一旦落ち着きましょうリスタ。ふー、ふー……よし。
「一応この世界に人を送るってことでこの世界の知識はあるけどあんまり当てにしないでね?私がこの世界を救うとは思っていなかったから……」
「なんだ、使えん奴だ」
……くっ、我慢、我慢よリスタ。
「……ここは駆け出し冒険者の街、アクセル。あ、ゲームとかで知ってると思うけど、冒険者っていうのは街の外にいるモンスターっていう人に害を与えるモノの討伐を請け負う人のことね。だからまずはこの街にある冒険者ギルド、つまり冒険者が依頼とかをうける場所を目指しましょう。確か、ここをまっすぐ行って右に曲がったところだったと思うわ」
私が説明をすると聖哉は礼も言わずにその方向に歩き始める。礼くらいは言って欲しいところだけど……私のせいで転生特典が私になっちゃったから何も言えな……あれ?よく考えたら転生特典が私って凄いことなんじゃないの?
転生じゃなくて勇者召喚で呼び出された人間は世界を救済するために動くから女神がついてくるのは当たり前だけど、今回みたいに沢山の人を転生させて世界を救えっていうので女神がついてきてるって凄いことじゃないの?
なんだかよくわからない思考になってきた私の意識を現実世界へと戻したのは聖哉の手が私の背中に触れた瞬間だった……っていたっ!ちょ、聖哉絶対今私のこと押したでしょ!おかげでこけちゃったじゃない!
そう思って聖哉の方を見ようとすると、周囲に沢山人が集まってきていることに気がついた。
「──なんだなんだ?」
「──いやドアが空いたと思ったらこの金髪の美人さんが突然ここに入ってきてこけたんだよ」
「──ふーん、ここじゃ見ない顔だな」
……ここって……冒険者ギルド!?
「どうやらここに罠は張られていなかったようだな。俺がここに入った途端この建物ごと爆破され殺されるかと思っていたが、杞憂だったか。……とはいえまだ油断はできん」
「!?病気よ!!アンタ絶対病気よ聖哉!!ってか私なら爆破されても良かったってわけ!?」
「??……神なのだから死なないのだろう?」
いや……まぁそうなんだけどさ……そんな、何言ってるんだこいつ、みたいな顔で見られても……。
「さっさと受付に行くぞ」
そう言ってさっさと歩いていく聖哉。そしてそれに続く私。なんか凄い奇異の目で見られてる気がする……いや、聖哉と私の容姿がいいからかな?きっとそうね!……ふふ、私たちがお似合いだなんて……私たちはそんな関係じゃ
と、私がそんな妄想をしているといつの間にか聖哉が美人な受付嬢の人と話をしていた。
「……なるほど、登録料がいる、と。──おい、そこのもう一人の受付嬢。この女の言っていることは本当か?」
「は、はい」
「──ならばそこの冒険者、この女達の言っていることは本当か?」
「あ、ああ」
!!いや何やってんの!?普通に登録料を払いなさいよ!いや払うお金ないけど!!
「本当か?このギルド全体で俺たちを騙し、金を奪おうとしているのではあるま──」
「わーわー!気にしないでください。この人ちょっと病気なんです!そう、心の病!!」
「なんだと?俺は別に病気になど──」
私は反論をしようとする聖哉を無理矢理引っ張って冒険者ギルドから出る。
──これはもう完全に病気!疑心暗鬼ってレベルじゃないわよこれ!!これが『あり得ないくらい慎重』……いやなんかもうただの病人に見えてきたわ……。