よろしくおねがいします!
「甘雨、ちょっといい」
「はい、刻晴さん」
帝君が亡くなり、新しい風が吹いてきた頃。
刻晴さんが七星の秘書として働いている私に声をかけてきました。
書類を何処かに運ぶ仕事? それとも七星の誰かへの伝言でしょうか?
私は、手帳と小筆を手にし刻晴さんの指示を待ちます。
「あなた、働きすぎだから今日は休んでちょうだい」
「働きすぎだから休んで……、はい?」
刻晴さんの言葉を手帳に綴っていた途中で、私は彼女に聞き返した。
刻晴さんは、呆けた私に対し、眉をしかめ深いため息を付いています。テキパキとしていて、問題を手早く処理するせっかちな性格の彼女にとって、同じことを私に言いたくはないのでしょう。
指示をすれば「はい、分かりました」と答える私が聞き返したことに対しても苛ついているかもしれません。
「今日は一切仕事をしないで、いい?」
「え、そ、それは……、刻晴さんに申し付けられた仕事を、ということでしょうか」
「あー、あんたに話すの面倒くさいわね」
他の七星に申し付けられている仕事があります。それは刻晴さんの指示で止められる訳がありません。今日中に確認しなければいけないもの、終わらせなくてはいけない仕事をやらなくてもいいのか、凝光さんに相談しないと……。
私が頭の中で仕事内容の整理をつけていると、刻晴さんがこう言いました。
「これは、七星全員で決めたことなの! それを私が代表してあんたに伝えてるの」
「七星全員……」
「だから、あんたの仕事内容は他の奴に引き継いでいるわ」
「今日の私の仕事はーー」
「なし! 無くなったの!」
「そうですか……」
「だから、今日はここへ来ないでちょうだい」
「分かりました」
今日の仕事は無くなったようです。
無くなったなら明後日ある仕事の下調べをと考えましたが、それでは七星の指示に逆らってしまうことになります。
「……では、明日の朝にまたお伺いいたします」
「お疲れ様。またね、甘雨」
顔をしかめていた刻晴さんが、微笑みを浮かべています。
私が部屋を出る最後の最後で。
部屋のドアが閉まり、私は建物を出ました。
港の香りと香辛料が混じった香りがします。
雲ひとつもない晴天、朝日は登ったばかりで商人が商売を始めています。
「帝君、私は、今度こそ追い出されたのでしょうか」
私は璃月の通りをとぼとぼ歩きながら、命令で仙人の元へ向かった出来事を思い出していました。
あれは私の勘違い、早とちりだったけど、今回はあり得ます。
私が部屋を出ていく寸前、刻晴さんが見せた笑顔。
あれは私を追い出せてせいせいしたからに違いありません。
「私の仕事は完璧だったはず。ミスも無いと皆さん言ってましたし……」
落ち込んでいる私の足は自然と万民堂へ向かっていました。
「まだお店はーー、お客さん、暗い顔してどうしたの!?」
「……下さい」
「え?」
「肉が入ってない料理、全部下さい!」
悩んでも解決しない問題に当たった私は、苛立ちを食事にぶつけました。