「……食べました」
私が食べられるメニューを片っ端から頼んで、それらを全て平らげました。
夢のようなことをやり遂げてしまいました。
昼頃になると、璃月人に取り囲まれ――。
「いいぞいいぞその調子だ」
「姉ちゃん、良い食いっぷりだぜ」
「この子の胃袋は……、異常だ」
「どこに料理が入ってるんだよ」
声援を送ってくれたり、私のやけ食いを心配してくださる方もいました。
今日、誰かの話題にあがっているかもしれません。
有名人になった気分で、気持ちが晴れやかです。
ちょっと席を離れる以外は、日が暮れるまでずっと食べ続けていましたから。
「ふう……」
ですが、さすがに食べ過ぎました。
この満腹は翌日まで続くことでしょう。
「お客さん、お代を」
「ああ、それはこちらに建て替えを――、あ、いえ」
いつもなら、経費として処理するのですが……。
忘れていました。私、お休みを貰っていたのでした。
店主が提示した金額を払えません。
自宅へ帰れば払えるのですが、店主と顔なじみというわけでもありませんし。
「まさか……、払えない?」
「その、まさかです」
なかなかモラを支払わない私に、店主が心配した顔で声を掛けてきました。
私は正直に全額支払言えないと答えることにしました。
とりあえず、私の全所持金を店主に伝えます。
二万モラ足りません。
「良い客引きになったから、タダにしてもいいんだけどな」
「本当ですか!?」
「ただ、用事を一つ頼まれてくれないか」
「用事……、ですか」
用事と聞くと”仕事”を思い出してしまいます。
刻晴さんには「今日は仕事をしないで!」とお休みを貰っています。
店主の用事を引き受けたら、仕事になってしまうのでしょうか。
「お客さん、今から用件を伝えるよ」
「あ、は、はい!」
考え事をしてしまうと一人の世界に入ってしまい、会話がワンテンポ遅れてしまいますね。
私は手帳と筆を持ち、店主の頼みを書き記しました。
用事は店主の一人娘、香菱に包丁を渡すことです。
香菱は放浪の旅に出ていて、それを店主が直接届けに行くのは難しいとか。
放浪の旅……、出ているのでしたら私も大変なんじゃないでしょうか。
お休みは明日までしかありませんし、一日で済む用事ではなさそうです。
家まで帰り、足りない金額を払ったほうが効率的です。
「お客さん頼まれてくれないかい」
「明日は仕事がありますので……、家に残金がありますから、そちらをお支払いします」
「はあ……、そうかい」
頼みを断ると、店主は残念そうな顔をしていました。
「一時間以内に戻ります」
「……まいど」
私は自宅へ戻り、二万モラを握って万民堂へ戻ってきました。
残金を店主に支払い、背を向けます。
やっぱり、包丁の話を受けるべきだったでしょうか。
私は店主の頼みを断ってしまった事に良心が痛みます。
仕事がお休みになりましたら、店主の頼みを引き受けましょう。
そう心に誓い、私は今日のお休みを終えるのでした。
☆
「おはようございます」
「甘雨、おはよう」
翌朝、私は刻晴さんの元へ向かいました。
役人から仕事を引き継ごうと声を掛けたのですが、彼等は決まって『刻晴様の元へ向かってください』と言い、断られてしまいます。
どうやら刻晴さんに会いに行かないと、仕事が始まらないようです。
「お休みありがとうございました。早速ですが、仕事の話を――」
「しなくていい!」
「え……?」
「甘雨、今日もあなたの仕事は、ないわ」
「お休みですか?」
「ええ」
「確認なのですが、明日の仕事は――」
「ないわ。休みよ」
「……長期のお休みと捉えてよろしいでしょうか」
「ええ。ゆっくり休んでちょうだい」
「分かりました」
私は刻晴に頭を下げ、建物を出ました。
本当に、私が必要なくなったのかもしれません。
七星の秘書として仕えることが、帝君との”契約”。
その契約を七星から破棄しようとしています。
これから私はどう生きればいいのでしょうか。
「分かりません、全く分かりません!」
昨日はその苛立ちを万民堂の料理たちで発散しました。
ですが、今日は”用事”があります。
私は万民堂まで駆けて行きました。
店主は私を見て、鉄鍋を握っています。
「ち、違います。今日は料理の注文ではなくて」
「じゃあ、食材を買いに来たのかい」
「いえ、昨日の用事を引き受けに来ました」
私は香菱に包丁を届けに行ってまいります。