【完結】甘雨さんを休ませたい   作:リヒス

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香菱……、どこにいるんですか?

万民堂の亭主に包丁と香菱の行方を追う手掛かりを貰い、私は璃月を出ました。

 目指すは萩花州にある望舒旅館です。

 香菱は放浪の旅に出ていますが、そこを拠点としているそうです。

 この間届いた手紙にそう書いてあった、という不確かな情報ですがないよりはましです。

 

「ふう……、いい運動でした」

 

 璃月を出るのは久しぶりです。

 これもお休みを貰ったおかげですね。

 萩花州は璃月とは違って、沼地が多くそこに生えているハスの花が美味しそうです。

 木造の橋、黄色に茂る木々を眺めながら、食事場で昼食を摂りたいところですが、頼まれごとを片付けるのが先です。

 

「お客さん、宿泊ですか?」

「いいえ、人を探しているんです」

「あら、宿泊かしら」

「香菱という料理人なのですが――」

「ああ、香菱さんね」

 

 私は望舒旅館のオーナーであるヴェル・ゴレットに話かけました。

 ゴレットさんの反応からして、香菱は手紙の通り、ここを拠点にしているようですね。

 問題は、望舒旅館にいるか外に出ているかです。

 

「ええっと……、ここにはいませんね」

「そうですか」

「彼女に用事があるのかしら? 一度外出するといつ戻って来るか分からないの。何か伝言があるのなら受け付けるけど」

「えっと」

 

 ヴェル・ゴレットに包丁と伝言を伝えてもいいかもしれません。

 ですが、万民堂の亭主は『香菱に渡してほしい』と言ってました。頼まれごとから察するに、この包丁は彼女に直接渡したほうがいいような気がします。

 

「香菱に直接渡したいのですが……、どちらへ向かったか何か、言ってませんでした?」

「そうねえ……、外に出かける前にフワフワ宙を浮いた物体と男の子と話していたわよ。その二人ももうここにはいないけれど」

「なるほど」

「もしかしたら、厨房の言笑が行方を知ってるかもしれないわ」

「ありがとうございます!」

 

 その二人は私も会ったことがあります。

 パイモンと旅人です。

 二人の行方を追うのは、香菱よりも難しいと思います。

 ここは、ヴェル・ゴレットが言った料理人の言笑さんに会いましょう。

 私は階段を下りて厨房へ向かいました。

 野菜・穀物・肉・魚・酒・調味料が貯蔵されており、言笑さんであろう男の人が真ん中のかまどで調理をしています。

 

「ん? 厨房に客が勝手に入ってくるなと――」

「ごめんなさい、言笑さん。実は――」

 

 私が厨房の中に入ると、その足音を聞いた言笑さんが振り返りました。

 険しい顔で私を睨んでいます。調理の邪魔をしてしまったようです。

 私はすぐに言笑さんに事情を話しました。

 

「あの子のことか」

 

 料理人ですから、香菱に見覚えがあったようです。

 言笑さんが腕を組んで眉をひそめていることから、香菱に良い印象を持っていないようですね。

 私も香菱の事は万民堂で見ています。天真爛漫な性格から閃く破天荒な料理は、客人を驚かせていたものです。特にスライムを使った料理には私も驚かされました。その時は、スライムは肉には入らないのか悩んでいて口には出来ませんでした。あの料理は美味しかったのでしょうか。

 

「水スライムを倒しに行く、と言ってたな」

「水スライム……」

 

 水スライムという情報だけでは場所を絞り切れません。

 香菱はスライムを使った料理を作っていました。その新作を作るために食材を狩りに向かったのでしょうか。

 

「そうだな……、アイシングなんちゃらを作るとか言ってたな」

「あ、ああ! ありがとうございます!」

「頼りになったならいいが……」

 

 言笑さんから有力な情報を得ました。

 香菱が作ろうとしているのは”アイシングスライム”です。

 パイモンと旅人が凝光に送った食べ物です。

 凝光の話によると、あれの材料は水スライムとスイートフラワーだと聞きました。

 確か旅人は水スライムを――、そうです、遁玉の丘です。

 私が目指す場所が決まりました。早速向かいましょう。

 

 

 遁玉の丘に着きました。

 璃月を経由して四日かけてしまいましたけど、香菱はここにいるのでしょうか。

 湖と朽ちた建物、自然が融合する場所。

 アイシングスライムを一口頂きましたが、スイートフラワーの甘さとは違う味がしました。あれが水スライムの味なのでしょう。

 

「はっ、私、スライムを食べていました」

 

 私、スライムを口にしていました。肉特有の嫌な臭いはしていませんでしたし、口にした時も美味しく、吐きだそうとは感じませんでした。

 だから、スライムは肉ではない。そういうことにしましょう。

 

「香菱……」

 

 場所を特定できたとしても、遁玉の丘も広いです。

 この中で香菱を見つけることが出来るかどうか――。

 

「きゃー」

「香菱の声です!」

 

 香菱の悲鳴が聞こえました。

 ヒルチャールに襲われたのかもしれません。

 私は弓を構え、悲鳴が聞こえたほうへ歩み寄ります。

 

「食材が襲ってくるよー」

 

 香菱が槍を振るい魔物と戦っていました。

 相手は水スライムと氷スライムです。大きな個体ですね。

 二体の攻撃を受けて、凍結状態になってしまい、苦戦しているようです。

 

「えい」

 

 私は水スライムに向かって矢を放ちました。水スライムを凍らせて身動きを止めます。

 

「へ、お客さん!?」

「早く倒しましょう」

「うん」

 

 私の援護により、香菱は火元素を使い、氷スライムを溶かしてゆきます。

 何度か攻撃したところで、二体のスライムが破裂しました。

 

「どうしてお客さんがここに?」

「あなたのお父さんからこれを預かりましたので」

「あっ、包丁だ!」

 

 やっと香菱に包丁を渡すという頼まれごとを果たすことが出来ました。

 

「お客さん、ありがとう!」

「どういたしまして」

「お礼に、さっき獲った鶏肉で料理を――」

「い、いえ……。私は草食主義ですので」

「そうなんだ。じゃあ、万民堂で一杯食べてね」

「はい。ではまた」

「またね!」

 

 用事を果たし、私は璃月に帰ります。


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