お待たせしてしまって申し訳ございません!
万民堂の店主の頼みごとを終えた私は、店主が作った料理を食べていました。
香菱の行方を探すうちは気が紛れていたのですが、私はまだ刻晴さんに”休む”よう言いつけられています。それが解かれている様子はなく、食事を終えたら何をしようかぼーっと考えていました。
「……嬢ちゃん、大丈夫かい」
「は、はい! 大丈夫です」
箸を持ったまま暫く静止していたようです。その様子を見ていた万民堂の店主が心配して私に話しかけてきました。
「一体どうしたんだ?」
「えっと……、この後何をしようか考えていたんです」
店主は私の答えに頭を抱えています。
「つまりは、暇を持て余しているってことか」
「はい、そうなんです」
店主の言う通り、私は”暇”なんです。
私は箸をテーブルの上に置き、店主に詰め寄りました。
「私にやってほしいこと、ありませんか!?」
「え!? い、いや、お客さんにお願いすることはもうないよ」
「何でもいいんです。料理は出来ませんが、皿洗いでしたら――」
「人はもう間に合っているよ」
「そうですか……」
「切羽詰まった様子……、お金に困っているのかい?」
「いいえ」
私は店主に困ったことがあるか聞きましたが、香菱のような頼み事はもうないみたいです。
店の店主だったら、配膳や皿洗いなど人手に困っているはず、と私は店主に詰め寄りましたが、働き手は十分いるようで、断られてしまいました。
私の必死さに、店主はお金に困っているのかと心配されました。
私はすぐにそれを否定しました。
私が困っているのは――。
「”暇”過ぎて困っているのです!」
「は、はあ……」
私の答えに店主は困った顔をしていました。呆れてしまったのかもしれません。
人は用事がない、暇であることを喜びます。
ですが、”契約”に基づき、残業するまで仕事に明け暮れていた私はそれが奪われて不安なのです。
私はその不安は”頼み事”で埋められることに気付いてしまいました。
「それなら、軽策壮へ行って、タケノコと絶雲の唐辛子を注文してくれないかな」
「はい! どれくらい獲ってきたらいいですか?」
「それは、注文書に書いておくよ。代金は――」
「要りません。また料理を頂けませんか」
「はあ、分かったよ。ちょっと待ってくれ」
粘っていたら店主から新たな頼まれごとをされました。
璃月から軽策壮まで結構な距離です。その間は”頼まれごと”で不安が解消されます。
しばらくして、私は店主から注文書を貰いました。それを軽策壮の店主に渡せばいいとのことです。
「分かりました。では行ってきます!」
「よろしく頼むよ」
私は注文書を握りしめ、軽策壮を目指します。
「変な人……、いや、あの髪飾りは角? 人じゃない?」
店主の独り言が聞こえましたが気にしません。新しい頼みごとをくれた方なのですから。
☆
私は道なりに歩き、一週間かけて軽策壮につきました。
馬車に乗ることも考えましたが、それは商品を運ぶ帰りで良いと思い、辞めました。
刻晴さんの休暇はまだ解かれていません。時間をかけて歩くことで、その不安を紛らわしました。
「わあ、いい天気」
私は竹林を通り、木製のつり橋を渡ります。
棚田のように広がる草原では、瑠璃百合が人口栽培されていました。この花たちは観賞用として璃月で販売されます。他にも高地でしか育たない絶雲の唐辛子を栽培しており、香辛料が欠かせない璃月料理を支えている場所とも言えますね。
本日は晴れており、心地よい風が瑠璃百合の香りを私に届けてくれます。
人口栽培とはいえ、とても美味しそうです。
ですが、こちらは商品。無断で採取すれば、泥棒になってしまいます。
食べたい気持ちを堪え、私は店主が指定した店へ向かいます。
「あの、万民堂の依頼で来ました」
「ああ。注文書はあるかい」
注文書を渡すと、その人は大量のタケノコと絶雲の唐辛子を持ってきました。
やはり帰りは荷台を運ぶ気球を使うしかありませんね。
「これを運ぶ荷台は用意してあるが、護衛は何人いるかい?」
「いりません」
「え?」
「ですから、護衛はいりませんよ」
「でも、宝盗団が荷物を――」
「心配いりません」
私の発言に店の人は戸惑ってました。話が先に進まないと思った私は、”神の目”を彼に見せました。
それを見た店の人は「なるほど、お気を付けて」と素直に引き下がってくれました。私が実力者であることを分かってくれたようです。
「この荷物を璃月に運ぶだけですが……」
荷台がある分、帰りは早いでしょう。
でしたら――。
「少し、瑠璃百合を食べ――、観て行きましょう」
私は少し寄り道をすることにしました。美味しそうな瑠璃百合を食べずに帰るなんて勿体ないですからね。