軽策荘へ来ましたので、瑠璃百合を購入しようと店屋で注文したのですが。
「え!? 売り切れですか!!」
「お嬢ちゃん、ごめんね。昨日、注文が沢山入ってね」
「いえ……」
私は店主の話を聞いて肩を落としました。
店主の後ろには束になった瑠璃百合が見えるのですが、それらはすべて購入済みだそうです。その客が大量に注文したため、次回の入荷も未定になっているとか。
これは、あれです”買占め”です。
このせいで、瑠璃百合の価格は一時的に高値となるでしょう。
意図してやっているのなら、七星の秘書として見過ごせません。
「あの、何故大量の瑠璃百合を注文したのかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「あー、顧客の情報だからねえ。そう簡単にはーー」
店主は私の質問をはぐらかしました。
「私は璃月で七星の秘書をしている甘雨と申します。一つの商品を大量に買い占める行為は価格を変動させ、市場を混乱させる要因になりかねません。それにあなたが加担したとなれば、罰せられる可能性も――」
「犯罪者になるのは嫌だからね、あたしが知っていることを話すよ」
店主は深いため息をついたあと、経緯を私に話してくれました。
瑠璃百合を大量に購入したいと注文を受けたのは三日前の事だそうです。
届いた注文書を見た彼女は早急に用意し、今に至るそうです。
「それで、大量に瑠璃百合を注文した者はーー」
「”往生堂”さ」
「なるほど……、葬儀に使うのですね」
「だから、買い占めて高値で転売することはないと思うよ。これであたしへの疑いは晴れたかい?」
「はい。話してくださりありがとうございます」
「またおいで」
注文者が往生堂でしたら、価格変動するのではないかと心配しなくてもいいでしょう。大量の瑠璃百合の用途も明確ですし。
でも、瑠璃百合を食べ損ねたのは残念です。
軽策荘に再び足を運ぶ機会なんて……。
いいえ、私は刻晴から長いお休みを貰っています。
万民堂のお手伝いが終わったら、また軽策荘へ行けばいいのです。
「はあ……」
そう頭では考えたものの、楽しみが無くなった私はため息をつきました。
「切り替えないとですね」
私には品物の護衛という”お手伝い”が待っています。
気持ちを切り替え、そちらに集中しなくては。
☆
私が寄り道をしている間に、注文の品はすべて荷台の上に乗ったようです。
「あ、お客さん。気球の準備をするからちょっとまってね」
「はい」
気球に温風を入れているところでした。
徐々に膨らんでゆき、あと少し経てば荷台が浮くでしょう。
「本当に一人で大丈夫かい?」
「はい」
「最近、弓を持ったヒルチャールがこの辺をうろついていてね、荷台を狙っているんだよ」
「そうですか。宝盗団の他にもヒルチャールが……」
「だから、金を上乗せしてくれたら護衛を――」
「そのヒルチャールたちはどこで見かけますか?」
「え!? 知ってるけど――」
「情報料をお支払いしますね」
私は五〇〇モラを彼の手の上に置きました。
彼はニヤついた笑みを私に向けます。
「まいどあり。ヒルチャールはここでよく見かけるね」
彼は私の地図に弓を持ったヒルチャールが出没するポイントに印を付けました。
三か所ありますね。
「ありがとうございます」
私はその場所を記憶します。
その間に、気球が浮かび、荷物を運べる状態になりました。
「では、注文の品を璃月の万民堂へ運びますね」
「頼んだよ。宝盗団とヒルチャールに気を付けてな」
「はい」
これで、璃月へ帰れます。
私は気球を操作しながら、軽策荘を出ました。
食料を積んだ荷台を私一人で運んでいれば、荷物を狙う敵は必ず現れるでしょう。
「敵が現れたとしても、仕事は完遂させてみせます」
私は独り言を呟き、気持ちを引き締めました。