英雄伝説 青薔薇の軌跡   作:ねここねこねこ

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遅くなりました。もしかしたら少し書き換えるかもしれません。



第十話 《Ⅶ組》発足

 魔獣を倒しつつ先に進むユージオ達。途中で「そなた達は……」という声がし、道の曲がり角から三人の女子生徒が歩いてくるのに気が付く。

 

「っ……!」

「あ……」

 

 金髪の女子生徒とリィンはお互いに目を合わし、片方は眉をひそめ、片方は気まずそうな顔をする。

 その空気を察したのかそれとも本心からか、エリオットが女子生徒達の無事を喜ぶ。

 

「よかった、無事だったんだね」

「みなさんも……ご無事で何よりです」

 

 眼鏡の女子生徒がエリオットの言葉に返事をする。

 青髪の女子生徒は「そちらの彼も少しは頭が冷えたようだな?」と皮肉交じりでマキアスへと声を掛け、マキアスはそれに対して自身が悪いのが分かっているのであろう、「ぐっ……おかげさまでね」と返事をするのが精一杯だった。

 全員大した傷もなく無事であることを確認したところで、自己紹介をしていなかったことに気が付く。

 オリエンテーリング自体がいきなりのことだったので、全員余裕がなかったのであろう。

 

「──遅ればせながら名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後、よろしく頼む」

「レグラム……」

「えっと、帝国の南東の外れにある場所だったっけ?」

 

 青髪の少女──ラウラが自己紹介をすると、出身地に対してリィンとエリオットが反応する。

 ラウラも「湖のほとりにある古めかしい町だ。列車も一応通っているが、辺境と言っても過言ではないな」と補足をする。

 そこでマキアスが反応をする。

 

「アルゼイド……そうか、思い出したぞ! たしかレグラムを治めている子爵家の名前じゃなかったか!?」

「ああ、私の父がその子爵家の当主だが……何か問題でもあるのか?」

 

 ラウラの疑問ももっともである。ユージオはマキアスが何を言いたいのか理解し、苦笑いをする。

 彼女(ラウラ)も察したのであろう、答えあぐねているマキアスに「そなたの考え方はともかく、これまで、女神に恥じるような生き方をしてきたつもりはないぞ?」と彼の目を見てはっきりと答える。

 それに焦ったマキアスは他意があるわけではないと伝えるが、彼の雰囲気を見るにそのようには全く見えなかった。

 空気が悪くなってしまったため話題を変えようと、眼鏡の少女の名前を聞くマキアス。

 少女は丁寧にお辞儀をして口を開く。

 

「エマです。エマ・ミルスティン。私も辺境出身で……奨学金頼りで入学しました」

 

 「よろしくお願いしますね」と微笑むエマに空気が少し和む。

 エマは主席入学者であり、奨学金を得てトールズ士官学院に入ってきたのである。

 マキアスは主席入学者が女の子であることに少し悔しそうな顔をする。

 ガイウスに「随分と優秀なんだな」と褒められるが、エマはたまたまだと謙遜していた。

 

「必修の武術にも縁がなくて……こんなものを勧められたんですけど」

 

 と言いながら手に持っていた魔導杖(オーバルスタッフ)を取り出す。

 エリオットが軽く驚きつつも自身の持っている魔導杖(オーバルスタッフ)と形が違うことに疑問を持つ。

 しかし、それについて明確な答えを持つものはこの場にはおらず、疑問符だけが頭に残っていた。

 

「………………」

 

 少しずつ和やかな空気になっていく一同であったが、ただ一人だけその空気に相応しくない雰囲気を纏っている生徒がいた。

 その空気を察したのはユージオとラウラ、そしてその生徒に睨まれているリィンの三人だった。

 リィンは気まずそうな顔をしており、ユージオも相手の気持ちを察してかあえて口を開かない。しかしラウラだけは「? どうした?」と元凶の女生徒に問いかける。

 

「そなたも自己紹介くらいしたほうが良いのではないか?」

「…………そうね」

 

 柔らかい雰囲気で話しかけるラウラを邪険にするわけにもいかず、金髪の女性とは口を開く。

 

「──アリサ・R。ルーレ市からやって来たわ。宜しくしたくない人もいるけど、まぁそれ以外はよろしく」

 

 アリサはやや不機嫌そうに自己紹介をし、そこでようやく全員が先程の件が原因だったことに気付いて全員の中で若干気まずい空気が流れる。

 エマとエリオットがフォローに入り、マキアスがルーレ市には大陸最大の重工業メーカー《ラインフォルト》の本社がある街であると補足する。

 

(R……? ああ、()()()()()()())

 

 ユージオはなぜアリサがファミリーネームを隠したのかを疑問に思っていたのだが、マキアスの言葉である程度の予測を立てる。

 どうしても言いたくなさそうだったので、それ以上余計な口を開くことはなかった。

 余計な口を開いてしまったのは、彼の前にいたリィン・シュヴァルツァー。アリサの持っている武器について質問をしてしまったが故に、彼女の機嫌は更に悪くなる。

 

「……うっ……」

 

 何を話しかけても冷たい態度で返されるため、リィンも謝罪の取っ掛かりを掴むことが出来ずにたじろいでしまう。

 エリオットはすかさずフォローに入る。

 

「そ、そういえばこれからどうしようか? せっかく合流したんだし、このまま一緒に行動する?」

 

 その意見にマキアスや他の男子生徒も賛成していたのだが、ラウラだけが反対をする。

 「心配は無用だ」と腰に携えていた大剣を抜く。

 

「剣には少々自信がある。残りの二人を見つけるためにも、二手に分かれた方がいいだろう」

 

 その意見にはエマも賛成をしたため、今まで通り男子組と女子組で探索を再開することとなった。

 

「──アリサ、エマ。それでは行くとしようか」

 

 そう言い残したラウラが一瞬だけユージオを見るが、それ以上は何も言うことはなくエマ、アリサと一緒に先に行ってしまう。

 

「……はぁ…………」

 

 リィンは大きくため息を付く。

 全員がわざとではなく、不可抗力だということは分かっている。それでも彼女が感情的になっているため、これ以上何かが出来るわけでもなかった。

 ユージオは優しくリィンの肩に手を置き、「良いタイミングで謝れるといいね」と彼を慰める。

 

 そして話題はラウラの大剣の話に移る。

 「あれだけの大剣を女子の力で振るうことが出来るのか?」という疑問を解消したのは同じく剣の道を進んでいるリィンとユージオだった。

 

「レグラムの《アルゼイド流》──帝国に伝わる騎士剣術の総本山だ。彼女の父親、アルゼイド子爵は武の世界では《光の剣匠》と呼ばれ、帝国最高の剣士として知られている。恐らく新入生では最強クラスの一角を担うはずだ」

「そうだね。義姉上もアルゼイド子爵の下でアルゼイド流を極めていたはずだよ」

「《黄金の羅刹》の師匠の娘……ううん、なんだか凄い人と同じクラスになっちゃったなぁ……」

 

 エリオット、マキアス、ガイウスはラウラの強さを聞いて驚きつつも、リィンが()()()()()()と口にしなかった理由をこれからの授業で嫌になるほど知ることとなるのだった。

 

 

     ◇

 

 

 先を急ぐユージオたち一行。途中でユージオ、リィン、ガイウスが立ち止まる。

 

「……ふぅん、結構鋭いね」

 

 エリオットとマキアスは魔獣かと思っていたのだが、幼い女の子の声が聞こえ、柱の影から銀髪の女生徒が現れる。

 全員が彼女の無事に安心をするが、リィンは「その様子じゃ心配することもなかったかな?」とおどけて見せると、銀髪の女性とは淡々と頷く。

 

「うん、必要ない。わたし、小柄だし結構すばしっこいから」

 

と言いながら自己紹介を始める。

 

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

 

 もう半分は越えているから、この調子で行けばゴールは近いと助言をするフィー。

 

「……まぁそっちには《青薔薇》がいるから問題ないだろうけど。それじゃ」

 

 そう言うと壁を駆け上がり、先に行ってしまう。リィン達はあまりの身軽さに驚き、彼女の残した言葉を深く考えることはなかった。

 

 

     ◇

 

 

 全員で魔獣を蹴散らしつつ──ユージオはあくまでサポートに徹する──先に進む一行の前に現れたのは魔獣に囲まれている金髪の貴公子。

 しかしその数をものともしない様子で簡単に屠っていく。

 

「……凄い剣さばき……」

「どうやら助太刀の必要もなさそうだな。あれも帝国の剣術なのか?」

「ああ、貴族に伝わる伝統的な宮廷剣術……それもかなりの腕前だろう」

 

 目の前で切り伏せられている魔獣を前に驚く一同。

 最後の一体を倒した彼は一息つくとリィン達に振り返り、「──それで、何の用だ?」と冷たい反応を示す。

 その態度にマキアスは不快感を顕にし、リィン達は素直に彼の剣技を称賛した。

 それぞれが自己紹介を改めてすると、「ユーシス・アルバレア。一応改めて名乗っておこう」とユーシスも改めて自己紹介をする。

 

「フッ、それにしてもなかなか殊勝な心構えだな」

「な、何がだ?」

 

 ユーシスの言葉にマキアスが疑問を返すと、入り口でのやり取りをダシにしてマキアスを煽り始める。

 

「あれだけの啖呵を切ったくせに連れ立ってくるとは……。大方、直ぐに頭を冷やして、殊勝にも詫びを入れたのだろう。いやはや、“貴族風情”にはとても真似できない素直さだ」

 

 止まることのない煽りにマキアスも頭に血が上り始める。

 

「ぐっ、何様のつもりだ……!? その傲岸不遜な態度……君たち貴族はみんな同じじゃないか! 特にアルバレア公爵家といえば、帝国で一、二を争う大貴族……さぞ僕たち平民のことを見下しながら生きているんだろう!?」

 

 明らかに偏見ではあるが、マキアスの過去に何があったか分からないため、リィン達にはその部分には何も口を挟めない。

 しかし、ユーシスはそんなことお構いなしとばかりに口を開く。

 

「──そんなことお前に言われる筋合いはないな。レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

 

 マキアスはまさか父のことを知られているとは思わず、驚きの表情を見せる。

 リィンたちもそのことを知らなかったのか、マキアスとは違う意味で驚く。

 

(え……みんな知らなかったの? 僕はジュノー海上要塞にいた頃に当たり前の知識だと言われて習っていたから、常識だと思って話題に出していないのかと思ってた)

 

 ユージオはここまで一切口を開かなかったのだが、遠方に住んでいたガイアスはともかく、リィンとエリオットが気付いていなかったことに顔の表情を少しだけ変えていた。

 リィンたちが知らないと思ったのか、ユーシスは更に説明を加える。もちろん煽りを加えることも忘れない。

 

「帝都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官……それがお前の父親、カール・レーグニッツ知事だ──ただの平民と言うには少しばかり大物すぎるようだな?」

「だったらどうした!? 父さんが帝都知事だろうとウチが平民なのには変わりない! 君たちのような特権階級と一緒にしないでもらおうか!?」

「別に一緒にはしていない。だがレーグニッツ知事といえば、かの《鉄血宰相》の盟友でもある“革新派”の有力人物だ。そして宰相率いる“革新派”と四代名門を筆頭とする“貴族派”は事あるごとに対立している──ならば、お前のその露骨なまでの貴族嫌悪の言動……随分安っぽく、“判りやすい”と思ってな」

 

 ユーシスは淡々と事実を述べていく。そこに分かりにくいが、彼なりの推論を抽象的に混ぜ込むことで聞いている周りにはその推論ですら事実に聞こえてしまうのだ。

 マキアスはその挑発に我慢出来なくなったのか、怒りの表情を浮かべてユーシスに近づいていく。

 エリオットはあたふたするだけで止めることが出来ず、リィンとガイウスが二人を止めようと動き出したところ──

 

「──いい加減やめようよ」

 

 ユージオが口を挟み前に出る。

 今まで一切口を開かなかった彼が前に出たことでユーシスとマキアスは少し驚いた顔を見せながら彼の方を向く。

 

「ユーシスの言っていることはほぼ間違っていないのかもしれないけど、そこに君の推測を混ぜて真実に見せるような言い方は良くないんじゃないかな? 第一、親の話題を持ち出すなんて品が良いとは言えないよ」

「……フン、確かに口が過ぎたようだ」

 

 ユーシスの反省を述べる言葉に、マキアスは少しだけ気まずい表情を浮かべる。

 

「マキアスも貴族に対してなんでそこまで邪険にするのかは分からないけど、今回のことには“貴族派”“革新派”の件は関係ないんだよね?」

「……ああ、そうだ」

「それならこんなところでこれ以上熱くなる必要はないよね。上に戻ってから、思う存分言い合えばいいと思う。ユーシスもそれでいい?」

「平民とこれ以上話すことはないがな」

「──このッ!?」

 

 マキアスがユーシスの言葉に反応するが、リィンがすぐに止めに入る。

 二人の頭が再度冷えたところで、先に進むこととなった。

 

「それにしても驚いたなぁ」

 

 エリオットの言葉に全員が耳を傾ける。

 

「ユーシスって公爵家の若様なんでしょう? なのにあんな殊勝な言葉が出るなんて……って、あ、すみませんゴメンなさい!」

 

 自らの口が滑ってしまったことにすぐに謝罪をするエリオットだが、ため息をついたユーシスは「無用に畏まるな」と口を開く。

 

「身分の区別はあるとはいえ、士官学院生はあくまで対等──学院の規則にもあっただろうが」

「そ、そうだけど……じゃなくて、そうですけど!」

「…………」

 

 エリオットとユーシスのやり取りを横目で見つつ、口を開かないマキアス。

 貴族・平民に関わらずマキアス以外にはまともな対応をするユーシスに思うところがあるのであろう。

 その後は全員で協力をして魔獣を倒しつつ、ついに最奥までたどり着いたのだった。

 

 

     ◇

 

 

「ここって……」

 

 一行が最奥にたどり着くと、そこは広い空間となっており、奥には出口と見られる階段が続いていた。

 

「……どうやらあれが出口に通じる終点らしいな」

「ああ、陽も差し込んでいるし、間違いないだろう」

「ようやく着いたのか」

「フン、とんだ茶番だったな」

 

 口々に安心した言葉を述べていくが、ユーシスだけは「大帝ゆかりの士官学校の試練にしては拍子抜けもいいところだ」と不満を漏らしていた。

 しかしユージオだけは口を開かずに斜め右方向を見ていた。

 

「そ、そうかな〜。結構ムチャクチャだと思うけど……でも《Ⅶ組》か。一体どんなクラスなんだろうね?」

「そうだな……」

 

 本当に辛かったのであろうエリオットだけはユーシスの言葉を否定しつつも、《Ⅶ組》とはどういうクラスなのだろうと疑問を口にする。

 身分も立場もバラバラで、留学生や年齢も分かれている者もいる。何か意図があって集められたとしか思えないメンバーだった。

 

「まだ女子たちは来ていないようだな。もう終点だし、ここで全員を待つ──」

「──まだだよ!」

 

 全員がユージオの方を見ると、彼は剣を抜き構えたまま右斜めにある石像を見ていた。

 確かに仰々しい見た目をしているが、動く気配がないただの石像である。

 

「ユージオ、どうしたの? 確かに見た目は怖いけどただの石ぞ──ってうわっ!」

「何だこの音は!?」

「あの石像からだ!」

 

 急に物音がし始め、翼の生えた獣姿の石像が少しずつ動き出す。

 

「あれは……!」

「な、なにあれっ!?」

「古の伝承にある石の守護者(ガーゴイル)か……!」

 

 全員が構える前に、石の守護者(ガーゴイル)が飛び上がると、リィンたちの前に立ちはだかる。

 石の守護者(ガーゴイル)《イグルートガルム》。今回のオリエンテーリングの最後に用意された強敵。

 《イグルートガルム》は大きな咆哮を上げると、突然リィンたちに襲いかかってきた。

 

「うわぁぁぁぁっ……!」

 

 エリオットが腰を抜かしそうな声を上げながら顔を覆うが、大きな物音がなったかと思うとユージオの声が響き渡る。

 

「全員武器を抜いて! 石の守護者(ガーゴイル)を倒すよ!」

 

 《イグルートガルム》の前足攻撃をいとも簡単に防いだユージオ。

 彼の言葉に全員が武器を構える。

 

「……帝国というのはこんな化け物が普通にいるのか?」

「少なくとも古い伝承の中だけだ!」

「くっ……いずれにせよ、こいつを何とかしない限り地上には戻れない……! みんな、ユージオに続いて何とか撃破しよう!」

 

 ユージオが《イグルートガルム》を牽制しつつ、バックステップで下がるとリィンとユーシスが代わりに前に出て攻撃を加える。

 そして中距離からガイウスが槍で突くのと同時に、マキアスが導力銃で、エリオットが魔法(アーツ)を使って攻撃を加える。

 

「gyaaaa!!」

「物理攻撃が全く効かない! エリオットとマキアスの魔法(アーツ)を中心に戦うぞ!」

 

 リィンの号令をもとに前線でリィンとユーシスが牽制、ガイウスが後衛を守りつつ、エリオットとマキアスが魔法(アーツ)と導力銃で攻撃を仕掛けていく。

 ユージオは遊撃として、前衛と後衛のフォローをする。

 

「gularalaralara!!」

「よし! 効いているぞ! ここまま押し込め──」

「待て! なにか様子が!?」

 

 追い詰められた《イグルートガルム》が突然翼を広げたかと思うと、空を飛び始め、部屋の上を飛び回りながら旋回する。

 

「速すぎて魔法(アーツ)を当てられないよ!」

「突進してくるぞ!」

 

 《イグルートガルム》が旋回しながら攻撃の要となっている後衛に突進してくる。

 ガイウスが突進を止めようと前に立ちふさがるが、石の守護者(ガーゴイル)の圧力と勢いに押されて吹き飛ばされてしまう。

 その余波を受けたマキアスとエリオットも吹き飛ばされ、この時点で半分がすぐに戦線復帰できない状況となった。

 

「……ぐっ!」

「くそぉ!」

「うわぁぁあ!」

「みんな!」

 

(このままではみんながやられてしまう──こうなったら……)

 

 再度飛び上がった《イグルートガルム》に対して、リィンが対抗すべく目を瞑って集中し始めたところで女生徒の声が響き渡る。

 

「下がりなさい──!」

 

 上空にいる《イグルートガルム》にオレンジ色の光線のようなものが数発放たれ、避けようとするも追尾型のためかそのまま全ての光線が《イグルートガルム》に当たる。

 

「Gyawoooo!!!」

「皆さん、大丈夫ですか!? 今回復します!」

 

 先程の光線を放っていたのは導力弓を使っていたアリサであり、魔法(アーツ)の光でガイウスたちを回復しているのはその後ろにいるエマ。

 そして戦線を立て直すために、地上に落ちた《イグルートガルム》に大剣による攻撃を加えているラウラもいた。

 

「き、君たちは……!」

「お、追いついたか……!」

 

 安心した表情を浮かべるのが回復が終わったエリオット、ガイウス、マキアスの三人。

 

「ふう……どうやら無事みたいね!」

「す、すみません! 遅くなりました……!」

「いや、助かった!」

 

 かなり危うくなっていた状況だったため、素直に喜びの声を上げるリィン。

 

石の守護者(ガーゴイル)。暗黒時代の魔導の産物か。どうやら凄まじく硬いようだ」

「ああ、しかもダメージを与えても再生するようだ……!」

「だが、この人数なら勝機さえ掴めれば──」

 

 人数が増えたことで勝機を見出したリィンだったが、更にメンバーが追加される。

 そこに現れたのは銀髪の少女フィー。

 

「まあ、仕方ないか」

 

 気だるそうな表情をしつつも、両手に持った双銃剣で《イグルートガルム》に攻撃を加える。

 

(硬いね。私とは相性が良くないかも。でも……)

 

 《イグルートガルム》の後ろに回ったフィーは、後ろ足の付け根の脆いであろう部分に追撃をし、体制を崩す。

 

「これは……勝機だ!」

「ああ……!」

 

 これならいける。全員がそう思ったとき、それぞれが青い光を放つ。

 

(え……これって……!)

 

 ユージオだけが気付いていたが、急に全員の動きが格段に良くなっていく。

 もちろん急に強くなったわけではない。

 それはまるで《個》でしか動いていなかった者たちが《長年の連携》を覚えたかのような洗練とされた動き。

 

 ユージオとキリトが何年も一緒にいて覚えた連携を、突然何かのピースが填まったかのように全員で取ることが出来るようになっていた。

 彼らの連携攻撃に《イグルートガルム》の動きが次第に遅くなっていく。

 

「……今だ!」

 

 体制を崩した《イグルートガルム》に止めを刺そうとラウラが「任せるがよい」と気合を溜め始める。

 

「はあああああっ!! ──これで終わりだっ!!」

 

 ラウラが飛び掛かり、上段から《イグルートガルム》の首を落とそうと大剣を下ろす。

 誰もがこれで終わりだと確信していた。

 

 

 

 

 

 ────ユージオ以外は。

 

 

 

 

「……なっ!?」

 

 ラウラの渾身の一撃は決まった──はずだった。

 しかし、《イグルートガルム》の首は落とされておらず、傷ひとつ付いていない状態でその場に留まっていた。

 

「Guraaaaaaa!!!」

「……危ない!!」

 

 ラウラに反撃をして彼女を吹き飛ばそうとする《イグルートガルム》。

 それを察知したリィンが彼女を抱えてその場から下がる。

 

「すまない……」

「いや、大丈夫か?」

「ああ。しかし、今の一撃で倒せないとなると……」

 

 この場に自分以上の威力を出せる攻撃はないと確信した言い方をするラウラ。

 通常であると確実に首を落とせていたはず──このままでは絶体絶命である。

 いつも以上の動きを見せていた彼らの体力も限界を迎えていた。

 

(これ以上は不味いのでは……?)

 

 ユージオは許可を得るべく、階段の先で様子を伺っている人たちの方を向く。

《イグルートガルム》との戦いに集中するあまりにリィンたちは気付いていなかったのだが、そこにいた人たちが頷くとユージオはようやくかとばかりに前に出る。

 

「みんなは下がってて」

「ユージオ!?」

「一人では危ないぞ!」

 

 彼を心配する声を無視し、ユージオは剣を構えて集中する。

 そして青薔薇の剣を逆手に持つと、地面に突き刺す。

 

 

 ────武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)

 

 

 彼がそう唱えると、周りの温度が下がり始め、突き刺した地面から氷の塊が現れる。

 そして《イグルートガルム》に襲いかかる。

 

「Gyaaaaaaaaaa!!」

 

 嫌がるように飛び立とうとする《イグルートガルム》だったが、足を氷に絡め取られるとそのまま全身が氷漬けにされてしまい、一切の動きを封じられてしまう。

 

「……綺麗」

「ああ、なんて美しさだ……」

「それにこの匂いは……薔薇の香り……か?」

 

 まるで氷の彫像が出来たかのような美しさと、青薔薇の剣から発せられる薔薇の匂いに呆気にとられるリィンたち。

 ユージオは剣を引き抜くと誰もが見えない速度で《イグルートガルム》に接近し、その首を落とした。

 

 首を落とされた《イグルートガルム》は、光を放ちながら消えていく。

 そこでようやく戦闘が終わったと全員が確信して武器をしまう。

 

「あ……」

「やった……!」

「よかった、これで……」

「ああ、一安心のようだ。それよりも──」

 

 全員がユージオの顔を見る。

 ユージオ・ルグィン──《黄金の羅刹》と呼ばれたオーレリア将軍の義弟の強さを目の当たりにして、驚きを隠せないようだった。

 少し前にリィンがラウラのことを“新入生最強クラスの一角”と評していたが、ユージオの今の強さを見て、新入生最強は誰かと言われたら間違いなく彼だと答えるだろう。

 いや、士官学院最強だと言われても誰も疑問に思わないのではないかと思うほどの実力の差を感じていたはずだ。

 

(《青薔薇》……流石噂に聞くだけのことはあるね)

 

 フィーは気怠そうな表情をしつつも、彼を観察する。

 ユージオが名を挙げてきたのはここ一年とはいえ、この若さなら早い方だ。

 

「そ、それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

 

 全員の疑問に答えるつもりがないユージオのことを察したエリオットが話題を変えるべく石の守護者(ガーゴイル)戦での話を持ち出す。

 

「そういえば……何かに包まれたような」

「ああ、僕も含めた全員が淡い光に包まれていたな」

「なんだと……?」

 

 戦闘の途中で何人かは全員が淡い光に包まれていたことに気付いていた。

 しかしこれが何だったのかまでは分からないままだった──それはユージオも同じである。

 

「ふむ……気のせいか皆の動きが手に取るように“視えた”気がしたが……」

「……多分、気のせいじゃないと思う」

「ああ、もしかしたらさっきのような力が──」

 

 リィンが推測を述べようとしたところで、階段の方から女性の声が聞こえた。

 

「──そう。ARCUS(アークス)の真価ってワケね」

 

 声とともに拍手の音が聞こえたため、そちらを見るとそこには《Ⅶ組》の担任であるサラ・バレスタインが立っていた。

 

「いや〜、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね。うんうん。お姉さん感動しちゃったわ♡」

 

 ふざけながら近付いてくるサラ。

 

「いや、あれは最後ユージオがいたから……」

 

 とは誰も言い出せず、黙って彼女が目の前に来るのを待った。

 サラは右手を腰に当てながらオリエンテーリングの終了を告げる。

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

「よ、喜べるわけないでしょう!」

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

「さっきも本当なら僕たちやられていてもおかしくなかったですよね……」

 

 エリオットの言葉にサラは、「あれは……まぁ勝てたんだから良かったじゃないの」と誤魔化すが、明らかに誤魔化されてはいなかった。

 そこでユーシスは核心を突くように質問をする。

 

「──単刀直入に問おう。特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

「身分や出身に関係ないというのは確かに分かりましたけど……」

「なぜ我らが選ばれたのか結局のところ疑問ではあるな」

 

 ユーシスに続き、エマとラウラも口を開く。

 サラは「ふむ、そうね」というと、彼らが《Ⅶ組》に選ばれたのは色々な理由があるのだが、一番の理由としてARCUS(アークス)だと話す。

 エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した最新鋭の戦術オーブメント──様々な魔法(アーツ)が使えたり、通信機能など多彩な機能を持っているが、ARCUS(アークス)の真価は《戦術リンク》にあるとのこと。

 

「《戦術リンク》──先ほど君たちが体験した現象にある」

 

 全員が淡い光に包まれて繋がっていたかのような感覚。この恩恵は絶大である。

 例えば戦場において、どんな状況下でもお互いの行動を把握できて、最大限に連携できる精鋭部隊。

 仮にそんな部隊が存在すればあらゆる作戦行動が可能になる。まさに戦場における“革命”と言ってもいいレベル。

 しかし、そんなARCUS(アークス)にも欠点がある。

 

「現時点で、ARCUS(アークス)は個人的な適正に差があってね。新入生の中で君たちは特に高い適性を示したのよ。それが身分や出身に関わらずに君たちが選ばれた理由でもあるわ」

 

 このことに納得をしつつも、ここにいる全員が揃った偶然に驚く一同。

 それはもはや運命と言っても過言ではないだろう。

 

「トールズ士官学院はこのARCUS(アークス)の適合者として君たち十名を見出した。でもやる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか──改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

 「もちろん約束通り文句も受け付けるわよ」と付け加えたサラ。

 全員が顔を合わせてどうするか考える。《Ⅶ組》を辞退したら本来所属するはずだったクラスに行くことになるとはいえ、“選ばれた“と言われて嫌な気持ちになる人の方が少ないのも事実だ。

 

 一番初めに足を前に出したのはユージオとリィン。ほぼ同時に《Ⅶ組》参加を口にした。

 サラは最初に名乗りを上げた二人には何か事情があるのだと察する。

 

「一番乗りは君たちね。何か事情があるみたいね?」

「いえ……我儘を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであればどんなクラスでも構いません」

「ルグィン家は必ず士官学院を卒業するのが習わしというのが一番の理由ですが、《Ⅶ組》で少しでも義姉上に近付けるのであれば断る理由がないです」

「ふむ、なるほど」

 

 リィンの理由には納得したサラ。ユージオの理由には全員がこれ以上強くなるつもりなのかと心の中でツッコミを入れていたが、誰も口に出さない。

 二人の理由を聞いて参加を表明したのはラウラとガイウス。修行中の身であるラウラは過酷な状況を是とするだけでなく、ユージオの強さがどれほどのものなのか立ち合いをしたいと考えていた。

 そこからは続々と参加者が増えていく。マキアスとユーシスに関してはひと悶着ありそうだったが、意外にも二人とも何も揉めることもなく参加することを表明する。

 

(あら……何も無いのは意外ね。ユージオ(あの子)が何かしたのかしら?)

 

 ユージオの顔を見たサラであったが、目を合わせるつもりがない彼に肩をすくめる。

 そしてユーシスたちのことを意外と思っていたアリサとリィンも目が合うが、アリサはプイっと身体ごと彼から逸した。

 ため息をつくリィンにエリオットは同情の視線を向けていた。

 

「これで十名全員参加ってことね!

──それでは、この場を持って特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい──!」

 

 嬉しそうな顔をするサラ。そしてその後ろの階段の先にはヴァンダイク学院長とオリヴァルトが立っていた。

 

「やれやれ、まさかここまで異色の顔ぶれが集まるとはのう。これは色々と大変かもしれんな」

「フフ、確かに──ですがこれも女神の巡り合わせというものでしょう」

「ほう」

「ひょっとしたら、彼らこそが“光”となるかもしれません。動乱の足音が聞こえる帝国において、対立を乗り越えられる唯一の光に──」

「だから急遽()も無理やり《Ⅶ組》に入れたのですか?」

()を入れたのは、アルフィンのことも考えたのと──面白いからですよ」

 

 オリヴァルトはこの先に始まるであろう動乱の一助の光を求めて《Ⅶ組》を作り、そして妹であるアルフィンのため──決して面白いというのが一番の理由ではない──に彼が成長できる場所として《Ⅶ組》を用意していた。

 ここから大陸を巻き込む戦争を止める光となった《Ⅶ組》、そしてこの世界に巻き込まれたユージオの物語が始まるのだった。

 




これで閃の軌跡1の序章終了です。
《Ⅶ組》発足までは丁寧に書きたいと思っていたのでかなり長くなりましたが、書きました。
ここからは……場合によってはもっと丁寧に書くかもしれませんし、少し駆け足で書くかもしれません。

とりあえず《イグルートガルム》戦は難易度を上げて書きました。
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