こんな感じで進めていこうと思っています。
夢を見ていた。それは自身の死後、親友が壊れてしまった夢。
自分がその場にいるにも関わらず、夢だと分かる。たまにあるそのような状態であった。
その夢では、人界とダークテリトリーの争いがあり、ノーランガルス帝立修剣学院の先輩であったソルティリーナ・セルルト、後輩であったロニエ・アラベル、ティーゼ・シュトリーネンが親友を守っていた。
そしてアリス────アリス・シンセシス・サーティも同じく親友の側にいた。
彼女は自分の親友の知り合い以上の関係であろう少女と険悪な雰囲気を醸し出しながらも、少しずつ打ち解けていた。
しかし、周りに大切な人が
(キリトが──なぜ僕の親友がこんなにも苦しんでいるんだ……!)
なぜ。その原因の一つが自分にあることには分かっていた。だが、それを知っても届かない声を叫び続けることしか出来ない無力な自分が、
これは夢なのだ。頭の中で理解はしているが、あまりにもリアルな光景に夢だと受け入れることが出来なかった。
そして彼が、彼のことを大切に思っている人たちが苦しむ様をただ見続けていた。
人界側、ダークテリトリー側の両方に助っ人が現れ、争い合い、そして散っていく。
それを煽動しているのは、大鉈を持った褐色肌の大柄の男。
その男は全てを誘導し、煽動し、戦いの炎を大きく燃え上がらせていく。
「同胞たちよ! これが日本人の本性だ! 軟弱な裏切り者を……そして汚い日本人どもを、一人残らず殺せ!!」
ここまで燃え上がった炎はもはや簡単には消すことは出来ない。
人界側、ダークテリトリー側の争いを止める手段を持つものは、誰も持っていなかった。
「…………キリトくん」
傷つき、倒れた栗色の髪の少女は愛する者の名を呟き、そしてキリトへ右手を差し伸ばしていた。
しかし、その手は大鉈を持った大柄の男によって踏みつけられる。
(キリト……なんで、なんで僕は何も出来ないんだ! 親友が、仲間達が、このまま身勝手に蹂躙されていくのを見ているしか出来ないなんて……!)
焦っているのは分かっている。だが、今の自分に何が出来るというのか。
そう思ったとき、頭の中で
────ステイ・クールだ、ユージオ
親友に言われた言葉が思い浮かんだ途端、彼は親友の中へと吸い込まれるようにして消えていった。
◇
キリトの中。暗闇が広がっており、その中でユージオは彼の今までの記憶が流れていくのを見ていた。
コンビニで友人を見捨てた光景。SAO内でモンスターの群れに囲まれていた少年を助けることが出来なかった光景。
アインクラッドの迷宮区。そこの隠し部屋で三人の少年と、一人の少女を助けることが出来なかった光景。
キリトはこれ以上先を見たくないと冷たい床にうずくまり、両耳を塞ぎ、
しかし記憶は次々と、まるで急流のように容赦なくキリトの中へと流れていく。
鋼鉄の浮遊城、妖精の国、黄昏の荒野。次々と光景が変わっていく。
そして、深い森に囲まれた先にある巨大な樹の根元で、キリトは彼と出会った。
アリスを助けるため世界の中央を目指したとても長く、だがとても短い旅。
いつだって彼はキリトの隣で穏やかに笑っていた。そう、彼となら何だって出来ると、そう思っていた。
ようやく辿り着いた白亜の塔を駆け上がり、強敵を打ち破っていく。
そしてその最上階で────
「う……うあああああ!!!!」
掛け替えのない親友を失ったキリトの心は既に壊れてしまっていた。
もう自分を許すことなど出来ない。代わりに自身が死ねば良かったのだと。
キリトはそう、思っていた。だが、決して、決して周りの人間はそう思っていなかったのだ。
「キリトくん……」
「キリト……」
「お兄ちゃん……」
三人の少女が現れ、光となってキリトへその意思と感情を伝えていく。
その気持ちを知るたびに、キリトは少しずつ自らを癒やされていくのを感じる。
だが──
「ごめんよ、アスナ。ごめん、シノン。ごめんな、スグ。俺はもう立てない。もう戦えない。ごめん……」
俺にはこの許しを受け取る権利なんか、あるはずがないんだと三人の少女が癒やした傷を、自らで再度傷つけようとする。
(キリト、僕はここにいる! 聞こえてくれ! 創造神ステイシアよ、お願いだ!! キリトに、僕の親友に、この声を届けてくれ──)
その願いも虚しく、キリトは自らで胸から
そして、心臓が破壊される、その寸前──。
力強く、温かく、包み込むような、その声がキリトへとようやく伝わる。
「キリト」
ゆっくりと顔を上げるキリト。何も見たくないと思っていた、何も聞きたくないと思っていた。
だが、その声は、もう一度会いたかった、もう一度聞きたかった──キリトの無二の親友。
「……ユー……ジオ、生きて、いたのか」
ようやく自分の声が届いた。そのことにホッとするが、キリトの言葉に頷くことは出来ない。
優しく、そして哀しさを少しだけ含みながらも微笑み、首を横に振った。
「これは、君の中にある僕の思い出。そして、僕が残した、記憶の欠片」
「思い……出……」
「そうさ。もう忘れてしまったのかい? あの時、僕らは確信したじゃないか。思い出は……」
ユージオは右手を自分の胸にそっと当てる。
「──ここにある」
キリトも左手を自分の胸にそっと当て、ユージオと声を重ねて呟く。
「永遠に、ここにある」
今度は心の底から嬉しそうな笑みを浮かべたユージオ。その隣にアスナ、シノン、
キリトの奥深くへ今度こそ伝わったのか、彼の両眼からは温かく、そして優しい涙が溢れ出していく。
そして、ユージオの美しいグリーンの瞳を見て、口を開く。
「いいのか……ユージオ。俺は、もう一度、歩き始めても……いいのかな」
「そうとも、キリト。たくさんの人たちが、君を待っているよ。さあ……行こう、一緒に、どこまでも」
ユージオは何のためらいもなく、キリトへ手を差し伸べながら答える。
そしてその手を掴んだキリトへ、全員の気持ちが流れ込んでいくのであった。
◇
キリトが自己を取り戻した時、ユージオはキリトの体内から外へと出ていた。
(もう大丈夫、キリト。さあ、全てを。すべてを取り戻しに行こう)
ユージオは倒れているキリトの背中へ手を差し伸べ、もう片方の手を折れてしまっていた自らの愛剣の柄へと持っていく。
そして、キリトとともに愛剣を握りしめる。
彼らの周りでは数万もの赤い鎧を着た兵士達が争っていた。
キリトの仲間の誰もが、全てが終わったと思っていた。しかし、その争いの中に少しずつ霧が立ち込めていき、少しずつ場を支配し始める。
「これは…………薔薇の、香り……?」
誰かが呟く。微かに香る程度ではあったが、それは確かにその場にあった。
これが誰の仕業か、すぐに気付けた人間が何人いたであろうか。
しかしそんな些末なことに構うことなく、二人の青年の声が小さく、そして鋭く、辺りに響き渡った。
────エンハンス・アーマメント
全てを凍らせる青薔薇の剣、その武装完全支配術。
そこにいたキリトの敵は、全てが凍りついていくのであった。
◇
「あ、あれ……ここは……」
夢の中とはいえ、親友を助けることが出来たことが彼にとっては嬉しい出来事であり、微かに笑みを
(い、いてて……そ、そうだった! 確かオーレリアさんという方と戦って……)
ユージオは身体を起こして周りを見つつ、目覚める前のことを思い出す。
オーレリアとの戦いで、少しだけ力を出した彼女にものの見事にやられてしまい、この部屋──おそらく医務室であろう──に運び込まれたのだということを推察した。
キリト達の夢を見ていたのもあって、どちらが夢でどちらが現実かが一瞬分からなくなっていたのだが、それは声を掛けられてすぐに判明したのだった。
「目覚めたか」
医務室の入り口にいたのは、先程ユージオを完膚無きまでに叩きのめした張本人だった。
戦闘態勢に入りそうになったユージオであったが、痛みで動くことが出来なかったことと、彼女から戦闘意欲が感じられなかったため、すぐに警戒を解いた。
そのことを感じ取ったオーレリアは微笑みながらユージオの方へと歩いてくる。
「一応薬と
「は、はぁ……」
ここまで自分をボコボコにしたのはどこのどいつだと思ったのだが、ユージオは決して口には出さない。
そして
「それで、ユージオよ。
「────ッ!」
不意に核心を付く質問をされ、ユージオは目を見開く。
「そなたは帝国の人間ではないな? だが他国の諜報員にしてはあまりに行動がお粗末過ぎるし、猟兵などにも見えぬ」
「…………」
「一番気になったのは、そなたが持っていた
オーレリアの言っていることがほとんど分からなかったのだが、ここが自分のいた場所ではないということだけは理解したユージオ。
彼女はそれ以上を語らず、ユージオの瞳を見続ける。
そしてユージオはその視線に耐えきれずに、事情を話すことにしたのだった。
「……にわかには信じられん内容だが、そなたが嘘を付いているようにも見えん。そしてルーリッドの村、カセドラル、人界、ダークテリトリー……全て聞いたことがない言葉だな」
「そう……ですよね……」
自分が知らない場所というだけでなく、もしかしたら自分はここの世界の人間ではないのかもしれないと思う。
オーレリアはユージオの言葉を聞いて、真面目に考えていた。ユージオも邪魔をせずにそれを見守る。
お互いの沈黙が十分程続いた時、オーレリアが口を開く。
「ところでユージオよ」
「は、はい」
「そなたはこれからどうするのだ?」
どうするのか。それは故郷もなく、住むところもない。仕事もなければ身分もない。
もちろんお金もないため、その日を暮らしていくことすら難しい。
そんな単純なことにすら考えが及ばなかったことに、ユージオは内心で少しだけ恥じていた。
「えっと……その……どうすればいいのでしょうか? オーレリアさんの話だと、このままでは僕はその日のご飯すら食べることが出来ないです……」
「…………」
ユージオが素直に彼女に相談をしたのだが、オーレリアはその言葉を聞いても反応をしなかった。
何かまずいことでも言ってしまったかとユージオは焦ったのだが、彼女はユージオの顔を見て笑うだけであった。
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