ユージオがこの世界に来てから一週間が経ったが、彼は未だにジュノー海上要塞に留まっていた。
一週間前の医務室での出来事。オーレリアの言葉を聞いたユージオは叫び声を上げる。そして騒ぎを聞きつけたウォレスを含めた数名の兵士達が医務室に飛び込み、事情を聞いて全員が更に驚くこととなった。
今回の騒動の張本人は、素知らぬ顔でこの騒ぎを傍観していたのだった。
(それにしても……いきなりすぎる、よね)
ユージオはため息をつきながらも、兵士に指示されたとおり運んでいた荷物を指定の位置に置く。
オーレリアの言葉にはウォレスをはじめ、その場にいた兵士達全員が驚いており、現在ではジュノー海上要塞内全体で知れ渡っていた。
彼女の言葉を聞いたときに驚きのあまり言葉を失っていると、「しばらくはここで過ごして、色々と学ぶと良い」とオーレリアはそのまま去っていってしまった。
その場にいたウォレス達に事情を聞かれたが、突然言われたことという話だけをすると一応その場では納得してくれていたが、明らかに何かがあると思われていた。
決して口には絶対に出さなかったが、〝燕〟なのではないかと要塞内の一部の兵士達には勘違いされていたりもする。
しかし、それを決して口には出すことはない。誰しも命は惜しいのだから。
ユージオはこの一週間、悩みながらもやることが決まっていた。
午前中は座学。そもそもこの世界──ゼムリア大陸──のことや、この世界の常識などが全く分からなかったため、それを学んでいた。
文字や言葉などが生前にいた世界となぜか同じように出来たため、読み書き計算などで苦労することがなかったのが幸いであった。
午後になるとジュノー海上要塞内の雑用をする。〝働かざるもの食うべからず〟というオーレリアの言葉により、邪魔にならないように仕事を割り振られてそれをこなしていた。
そして夕方近くになると、
「……どうした? これで終わりか?」
「ま、まだまだ!」
ユージオは木剣を片手にオーレリアへと斬りかかる。しかし、それを彼女に柳のようにあしらわれて一撃で沈められるということをこの一週間繰り返し続けていた。
何度も繰り返し、最終的に気絶させられて医務室に運ばれ、一日のやるべきことが終了となる。
「……初めて見たときも思いましたが、驚くべき才能ですね」
気絶したユージオを兵士が運んでいくのを横目に、ウォレスがオーレリアへタオルを渡しながら話しかける。
「私が
「ええ。まだまだこれからではありますが」
彼女達は冷静にユージオの実力を測っていた。オーレリアは帝国の二大剣術流派であるアルゼイド流とヴァンダール流の両方を修めるほどの達人であり、ウォレスはバルディアス流槍術という槍術流派の伝承者である。
武術を修めた達人の二人を持ってして、ユージオの才能は凄まじいと言えるほどであった。
「あくまでまだ才能というだけだからな。今は〝中伝〟の半ばといったところであろう」
「フッ、そうですね。……それで、そろそろ彼が何者なのか話していただけるのでしょうか?」
ユージオがこの世界に来てからの一週間。彼の事情に関しては、オーレリアの口からは一切聞くことが出来ていなかった。
もちろんユージオも話すことがなかったため、それがなおさら先程のような疑念を抱かれてしまっている一因になっているのも否定できない。
そしてこの場でも彼女は微かに笑うだけで、それ以上何かを話すことはなかった。
「……まぁいいでしょう。私も彼がここでどこまで強くなるのか気になるところではありますし」
「そうだな。
二人はユージオがどこまで伸びるのかを楽しみにしながら、各々の部屋へと戻っていくのであった。
◇
「七耀歴1150年にC・エプスタインによって
「七耀歴1192年に起こったエレボニア帝国とリベール王国による《百日戦役》、そこではリベール王国の国土の大半を占領することに成功したエレボニア帝国でしたが、カシウス・ブライトが警備飛行艇を用いた画期的な戦術を使い、帝国軍を分断各個撃破する反攻作戦を立案し、その侵攻を食い止めることにより、リベール王国は現在も残っています。
ここでは、飛行艇を戦争で活用したということが今までの常識を崩し、これからの争い方を一変させたのだと言われています」
ユージオは歴史を学んでいた。教えている兵士は、トールズ士官学院という身分制度のある帝国にありながら、出自の差に関わらず優秀な人材を集めることを特徴としている学校の卒業生であり、その中でも比較的優秀な方であった。
オーレリアからは「何も知らない人間に教えるつもりでやれ」と指示されているため、懇切丁寧に説明していたが、初めはそこまでやる必要があるのかと思っていた。
なぜなら余程の場所で育てられていない限り、幼い子供が通っている日曜学校などでも学べることも多く教えていたからだ。
しかし、教え始めて三週間。オーレリアの言っていることがなんとなく分かり始めていた。
ユージオは本当に
読み書き計算などは完璧であったが、この世界、ゼムリア大陸の歴史などについては全くと言っていいほど知らなかった。
そんなことがあり得るのかと思っていたのだが、上司の命令である以上、深く追求することも出来ずに教え続けていた。
実はユージオが真面目で一生懸命に学ぼうとする姿勢があったため、あまり気にならなくなっていたというのが真実なのではあるが。
「はああぁぁぁ!」
「──むっ!?」
ユージオは右から水平斬りをし、後ろに避けたオーレリアに突っ込み左下から右上へと斬り上げる。
それを受け流した彼女に向かって、今度は垂直から斬り下ろす。オーレリアはその三連撃に対し、最後の一撃を受け流しきれずに木剣で受け止めた。
彼女はそのまま木剣を強引に振り切り、ユージオもバックステップで後ろへと下がった。
「やるではないか。……今のは何という技なのだ?」
「サベージ・フルクラム、という技です」
汗をかき、息を乱したユージオは一息つくと、オーレリアの質問に答える。
「それも《アインクラッド流》という剣術の技なのか?」
「はい……僕の親友から教わった大切な技です」
「フッ。そなたの親友か、さぞ強かったのであろうな」
「──!? ええ、それはもちろん!」
不意に笑って
この三週間、まだルグィン家の一員になるという結論を出せていなかったユージオであったが、新しい世界に徐々に馴染み始めていた。
そしてオーレリア、ウォレスの二人はこの三週間で別人のように強くなっていくユージオに更に驚きを隠せていなかった。
初めて戦ったときは初見、そして青薔薇の剣という神器を使って一矢報いたレベルだった。今日はお互いに木剣で、純粋に剣技のみでの訓練である。
と言っても、オーレリアによる直接の訓練は領邦軍の兵士達からしても地獄のようなしごきのため、それを訓練という軽い言葉で片付けていいものなのかは疑問なのだが。
それに付いていくことが出来ているのも、ひとえに彼の才能であり、どんな形であれ彼女の訓練に音を上げないユージオを見て、初めは懐疑的であった兵士達からも一目置かれるようになっていた。
しかし、強くなったといってもまだまだオーレリアの足元にも及ばない。結局は叩き伏せられて気絶し、医務室に運ばれていくのだった。
「三週間でついに貴女に片手を使わせるようになりましたか」
「フフ、
「今後はどうするつもりですか? ルグィン家は由緒正しき伯爵家。迎えるにしても色々と手続きもあるでしょうし、確実に反対もある。何よりも本人がOKしないとでしょう」
「そこに関しては問題ない。あとは女神の導き次第だな」
◇
ユージオがこの世界に来てから二ヶ月あまりが経っていた。
この二ヶ月、座学とジュノー海上要塞での手伝い、そしてオーレリアとの訓練と毎日同じことの繰り返しであった。
しかし、彼は徐々にこの世界のことを知り、この世界に馴染み始め、そして剣の腕前が二ヶ月前とは比べ物にならないくらい上がっていた。
理由は単純。キリト以上の剣の達人と毎日手合わせをしていたからである。
それも《黄金の羅刹》という二つ名を持つ、エレボニア帝国でも最上位を争う者からの指導となれば、ユージオの才能を更に伸ばしてくれる可能性は高かった。
実際に、キリトからもその才能を認められているほどだったため、達人から学ぶことでの成長度は凄まじいものがあった。
しかし、オーレリアがなにか懇切丁寧に指導したということではない。
その状況の中、三週間でオーレリアに片手を使わせるまで成長し、一ヶ月が経つ頃には服の袖に微かな傷を付けるまでに至った。
そして二ヶ月経った現在では──
「よし、ここまでにしておこうか」
「あ、ありがとうございました……」
ユージオはオーレリアとの模擬戦にて気絶することなく立っていることが出来ていたのだった。
ちなみに未だに一本取ることはおろか、服と木剣以外に触れることは出来ていない。
立っているとはいえ、虫の息状態のユージオはなまじ意識があるせいで自分の足で医務室まで行かなくてはならず、木剣を杖代わりにして必死に歩いていくのであった。
「ふむ……
「そろそろというと?」
ウォレスの問いには答えず、「フッ」とだけ笑ったオーレリアは
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