英雄伝説 青薔薇の軌跡   作:ねここねこねこ

5 / 11
お待たせいたしました。
今の仕事の量的に早くて週一(土日のどちらか)に更新する予定です。



第四話 羅刹の義弟(後編)

「今日で私を認めさせてみせるがいい」

「…………え?」

 

 ユージオがこの世界に来てから早三ヶ月。いつもの訓練が始まると思っていた彼は、突然のオーレリアの言葉に戸惑う。

 いや、彼はこの三ヶ月、オーレリアに戸惑いっぱなしだった。

 転移した初日から真剣でボコボコにされることから始まり、突然「ルグィン家に入り、私の義弟となれ」と言われたり。

 

 訓練の初期は気絶させられてばかりだったのだが、気が付くとオーレリアが医務室の同じベッドで添い寝をしていることもあった。

 ユージオが真っ赤になって慌てていると、その物音に気付いた彼女が起き上がり「ふむ、寝てしまったか」とだけ呟いてそのまま部屋から出ていく。

 彼の剣技が急成長したというのは、こういったことを防ぐためでもあったのかもしれない。

 

 実際に気絶しなくなってからは、そういったことは無くなった。

 しかし、次はふと後ろから何者かに見られている気配を感じることが多くなる。

 もちろん後ろを向いても誰もいない。ユージオは気付いていないが、何が起こっているのかを察するのは容易いであろう。

 

 そして今回だ。昨日まではいつもと変わらずの状況だったのだが、今日突然、何の前触れもなくオーレリアはユージオに伝えたのだ。

 彼女の腰にはいつもの木剣ではなく、ルグィン伯爵家に伝わる宝剣《アーケディア》が差してあり、その言葉が冗談ではなく、本気なのだというのが伝わってくる。

 

「今日で私を認めさせることが出来ないのであれば、ジュノー海上要塞(ここ)から即刻出ていってもらう」

「──!?」

 

 ジュノー海上要塞から出ていってもらうという言葉には周りにいた兵士だけでなく、副司令であるウォレスも驚いた顔をしていた。

 

(あなたって人は……誰よりもユージオを気に掛けているでしょうに。一体何の意図があって……?)

 

 ウォレスは、オーレリアがユージオに対してどれだけ思い入れを持ってこの三ヶ月を過ごしていたかを知っている。

 身近で誰よりもオーレリアのことを見てきた彼からすると、よもや嫉妬をしてしまうくらいには。

 時々彼女らしからぬ行き過ぎた行動に出てしまうことがあったので、そのときだけは全力で止めに入っていた。

 

 その彼女がお気に入り(ユージオ)を手放すことなど考えられない。

 何か意図があるのだと無理やり納得させるしかなかった。

 

(オーレリアさんのあの目は……本気だ……)

 

 目だけではない。彼女から発せられる闘気が冗談を言っていないと伝えていた。

 ユージオの額から一筋の汗がこぼれ落ちる。一瞬の挙動すら彼女にとっては致命的な隙になることは明白であった。

 彼のその姿を見たオーレリアは微かに笑うと口を開く。

 

「フッ……そなたは全力で戦えと言っているのに、()()で戦うつもりか?」

 

 オーレリアの目線の先にはユージオが持っている木剣があった。

 今日もいつもの訓練だと思っていた彼は、青薔薇の剣を訓練場の端に置いたままなのである。

 だが、取りに行く隙すら見当たらないのが現状なのだ。

 

「なんだ、まさか私が剣を取りに行く隙をついて仕掛けるとでも思ったのか……? それは随分と舐められたものだな」

 

 ユージオが固まっていることでその考えを察したオーレリアは、不快だと言わんばかりに殺気を漲らせていく。

 周りの兵士がその殺気に当てられて尻もちをついていく中、助け舟が彼の後ろから現れる。

 

「そんなに焦る必要はないでしょう。貴方らしくもない」

「ウ、ウォレス……さん……?」

 

 ユージオが後退りしたとき、その肩を優しくウォレスが支えてユージオの戦意が無くなるのを防いだ。

 オーレリアは「貴方らしくもない」と言われたことに一瞬だけムッとした表情を見せるが、何か思い当たる節があったのか口を開くことはなかった。

 

「ほら、青薔薇の剣(これ)が必要だろう。今のお前の全力を見せてみろ」

「……あ、ありがとうございます」

 

 ウォレスは練兵場の隅に立て掛けてあった青薔薇の剣を持ってきて、ユージオに手渡す。

 青薔薇の剣を受け取ったユージオは左手に持ったそれを見つめる。

 

(青薔薇の剣……三ヶ月前、僕はオーレリアさんに全力で挑んで完膚なきまでに叩きのめされた。それが今戦って、勝つことが出来るのか……?)

 

 天賦の才と認められたユージオ。だが、たった三ヶ月の鍛錬でオーレリアを超えることが出来たのかと問われると、即座に否定をするだろう。

 しかし、それでも彼女に勝たないと彼は今の居場所を失ってしまう。

 

(そうだ、僕はやるしかないんだ。キリトと別れてアリスと一緒に死んだはずの僕は……もう居場所を失うわけにはいかない!)

 

 決心したユージオ。彼は勢いよく青薔薇の剣を鞘から引き抜くと、アインクラッド流の構えを取る。

 その真剣な顔つきを見たオーレリアは一瞬だけ顔を緩ませそうになったが、すぐに気を引き締める。

 

「覚悟はできたか? ではユージオよ、来るが良い!」

 

 その言葉を合図にユージオはオーレリアへ突っ込んでいくのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

(まさか……これほどだったとは……)

 

 心の中で感嘆の声を上げているのはウォレスだった。いや、それはこの場にいる兵士達全員が思っていることであろう。

 実際に「なんだよ、あれ……」「将軍と互角に戦っているのか……?」と周りで兵士達が声を出している。

 

 初めは誰もがオーレリアの勝利は揺るがないと思っていた。

 なぜならいつもの訓練を見ていてもオーレリアが彼を圧倒していたし、そもそもユージオが《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンに勝てる道理などはなかったからだ。

 それでも今見ている光景は現実である。目の前には()()()()()()()()()()()()()()()()()()という現実があったのだった。

 

「はあああぁぁぁああ!」

「……ぐっ!」

 

 垂直四連撃スキル、バーチカル・スクエアを放つユージオ。斬り下ろしから始まるその攻撃を、アーケディアで防ぐオーレリアだったがその挙動からは余裕が感じられなかった。

 

(今まで見たことがない技が増えているな。ユージオよ、隠していたのか……)

 

 毎日のように行なっていた訓練でユージオはいくつかの新技をオーレリアに見せていたが、バーチカル・スクエアに関しては初めて見せる技であった。

 四連撃目の最後の斬り下ろしを防いだオーレリアは、鍔迫り合いの状態となっていた。

 

「この技は……初めて見るな。まさかこのときのために隠していたのか?」

「……いえ、ただ()()()()使()()()()()()()()ですよ!」

 

 オーレリアの言葉に返事をしつつ、このまま力の応酬だと勝てないと悟ったユージオは鍔迫り合いから逃れるべくバックステップで距離を開ける。

 後ろに下がったユージオを見て少し残念そうな顔をしたオーレリアだったが、アーケディアを肩に担ぐと笑みを浮かべる。

 

「フッ。よく分からんが、まだまだ楽しませてくれるということか?」

「そんな余裕が僕にはないですけどね……」

 

 ユージオの言葉に嘘はなかった。オーレリアを追い詰めているように見えるが、それは彼女が本気を出していないからだ。

 《黄金の羅刹》と呼ばれた彼女の闘気は現れていないし、息が上がっているのはユージオだけだった。

 

(この三ヶ月でかなり強くなったつもりでいたんだけどな……やっぱりオーレリアさんに勝つのは難しいか。ジュノー海上要塞(ここ)を出ていくのは寂しいけど、仕方がない。……でも僕はまだ全力を見せてはいない!)

 

 ユージオは覚悟を決めた顔をする。もうオーレリアに勝つことは諦めることにしていた。

 どうせジュノー海上要塞を出ていかなければならないのであれば、自分の出せる力を全て出してから出ていこうという覚悟だった。

 

(む……顔つきが変わったな。やはり男が覚悟を決めた時の顔は良いものだ。あとはこの私を認めさせてみよ!)

 

 オーレリアも最後の攻撃が来ると予感し、宝剣《アーケディア》を構える。

 そして数秒の沈黙が流れる。

 

「う、動かなくなったぞ?」

「……黙ってみているがいい。これが最後の決着だ」

 

 沈黙に耐えられず、声を出してしまった兵士を嗜めたウォレスは腕を組んで静かに見守っていた。

 

「…………」

「…………」

 

 さらに沈黙が続く。この沈黙はいつまで続くのだと思われたが、すぐに破られることとなる。

 ユージオが青薔薇の剣を逆手に持ち替えて地面へと突き刺す。

 

「む……それは……」

武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)!」

 

 地面へと突き刺さった青薔薇の剣を中心に魔法陣が展開され、そこから氷の塊が現れる。

 

「……それは前に見た技だな。一度破られた技を再度使うなど、愚策でしかないぞ!」

 

 オーレリアは期待外れだったと言わんばかりの残念そうな表情を浮かべる。

 氷の塊が連なって上空へと上がり、オーレリアめがけて突っ込んでくる。

 だが、ユージオの攻撃はそれだけではなかった。

 

「はああぁぁぁああ!」

 

 なんとユージオ自身も青薔薇の剣を引き抜き、低い姿勢で突撃してくる。

 上空に意識を集中していたオーレリアにとって不意を打たれたかのように見えるが、彼女にとってこの距離間では不意打ちとはならなかった。

 

「フッ、少しは考えたようだが、この程度の策では私を倒すことなどできんぞ」

 

 襲いかかってくる氷の塊をアーケディアによって一閃。砕かれた氷は(つぶて)となり、ユージオの身体を()()()()隠したが、それはもはや隠れ蓑にはならなかった。

 ユージオは目くらましのつもりなのか、二人の間にある氷の(つぶて)を青薔薇の剣で弾き、オーレリアに向けて飛ばす。

 だが、この程度では隙を作ることすら出来ない。

 

「……残念だが、これで終わりだ」

 

 オーレリアは最後の攻撃がこの程度だったかと心底残念そうな表情をして、ユージオの右水平斬りであるホリゾンタルの技に合わせてアーケディアを振るう。

 そのまま青薔薇の剣ごとユージオを吹き飛ばして終わりだと思ったのだが──。

 

「────なっ!?」

 

 アーケディアと青薔薇の剣が重なった瞬間、オーレリアにとって予想外の事が起きた。

 それは()()()()()()()()()()()のだった。

 折れたのではない。刀身から(つか)まで全てが粉々に砕け散った。

 

「うおおおおっ!!」

 

 ユージオは砕け散った青薔薇の剣を即座に手放すと、姿勢を低くしながら素手のままオーレリアに掴みかかる。

 彼女はアーケディアを振ったばかりのため体勢が崩れていた。

 すぐに体勢を立て直そうと足を踏ん張るが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(な……地面が凍っている……だと……!)

 

 ユージオの武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)によって、オーレリアが気付かないうちに彼女の立っている地面も少しずつ凍らされていたのだ。

 氷で作った青薔薇の剣を砕けさせたのも、全ては隙を作り、このときに彼女の体勢を崩させるため。足を滑らせた彼女に思い切り体当たりをしたユージオは、オーレリアごと倒れ込む。

 そしてマウントを取った状態で彼女の両手首を膝で抑え込むと、オーレリアから目を離さずに両腕を上に掲げた。

 

(う……え……?)

 

 オーレリアは倒されたときに受け身がうまく取れず、軽く頭を打っており、混乱した状態で上空を見ていた。

 そこには青く輝く一振りの薔薇がユージオの両手をめがけて舞い降りてくるのだった。

 

「これで! 終わりです!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()を掴んだユージオは、オーレリアの喉をめがけて振り下ろす。

 そして──。

 

「そこまで!」

 

 ウォレスの言葉によって喉元寸前に切っ先を据えたまま、ユージオは剣を止める。

 オーレリアは倒された状態のまま、静かに笑っていた。

 

「この勝負、引き分けとする!」

「…………え?」

 

 ユージオはウォレスの〝引き分け〟という言葉に驚く。

 なぜなら今のこの状態ではどう足掻いてもユージオの勝ちは目に見えているからだ。

 

「なんだ、気付いておらぬか? あと零コンマ数秒あれば、そなたの首を断ち切れたものを」

 

 オーレリアはユージオに笑いかけながら()()()()()()()

 そこで彼は全てに気付いた。

 

(確かに僕は膝でオーレリアさんの手首を抑えていたはず……! だが……なぜ……?)

 

 オーレリアの手首を抑えていたと思っていたユージオであったが、実際には抑えられておらず、マウントを取られながらもアーケディアを彼の首の後ろに添えていたのだった。

 ユージオは最後の一撃に集中するあまりそのことに気付くことが出来ず、勝ったと思いこんでいた。

 

(いつから僕の首には剣が添えられていたんだ? これは引き分けではな──)

 

「ユージオよ、これは引き分けで良いのだ」

「…………」

「それよりもそろそろどいてはくれまいか? この態勢も悪くはないが、将軍として周りの目も気にせねばならないからな」

「……え、あ! ご、ごめんなさい!」

 

 ユージオはオーレリアの上に乗っている今の状態に気付いて、顔を真っ赤にしてその場から離れる。

 ウォレスからは微妙な目で見られていたのだが、慌てているユージオはそれに気付くことはなかった。

 オーレリアは慌てている彼を見て、少し嬉しそうな表情をしながら起き上がる。

 

「よもや私を前にして剣を放り投げる者がいようとはな……」

「僕の……師匠でもあり、親友でもある相棒から教わったんです。戦場に存在するあらゆる物が、武器とも罠ともなり得るって」

「まさにその通りだな。やはり、そなたの師匠とも剣を交えてみたかったぞ」

 

 オーレリアの言葉にユージオは鼻下に指で擦り、嬉しそうな顔をして答えた。

 この言葉は以前セントラル・カセドラルにて、ベルクーリ・シンセシス・ワンと戦った際にも同じことを言われていた。

 まさかこの世界に来ても同じ言葉が聞けると思っていなかったため、親友(キリト)の技や考えは達人相手にも通じると改めて分かり、どこか誇らしげだった。

 

「だがユージオよ、そなたはこの引き分けということに納得しているようには見えなかったが?」

「……ええ、これは僕の負けです。最後の最後、あの場面が実戦ならば僕は確実に斬られていた。それが引き分けということに納得ができていない理由です」

「……そうか。それなら、最後の決着をするか?」

 

 オーレリアはユージオの言葉に納得したような声を出した後に、金色の闘気を纏い始める。

 先程は見せなかった《黄金の羅刹》の本領をこの場で見せようとしていたのだった。

 

「……いいのですか?」

「良いもなにも、最後の決着だ。これで心残りも残るまい」

 

 ()()。この言葉でユージオは悟った。

 

(もう僕はジュノー海上要塞(ここ)にはいることが出来ないのだな……それなら……)

 

 ユージオは青薔薇の剣を持ち、構える。

 この戦いの最後の決着を付けるべく、オーレリアも闘気を集中させていく。

 

「行くぞ!」

「行きます!」

 

 二人の全力の一撃が練兵場を揺らし、衝撃波が何人かの兵士を吹き飛ばすほどの威力を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……う……」

「私の一撃を受けてまだ意識があるとはな。随分と成長したものだ」

 

 二人の戦いは本当に一瞬であった。

 ユージオは今の彼が出せる最高の技、片手直剣七連撃ソードスキル〝デッドリー・シンズ〟を放つ。

 しかし、彼のその攻撃を彼女は一撃で叩き伏せた。

 

 闘気を剣に集中させて、斬撃のオーラを放つクラフト技〝覇王斬〟を全力で放つオーレリア。

 ユージオはその攻撃に抵抗するものの、威力を少し弱めることに成功しただけで、そのまま吹き飛ばされてしまうのだった。

 そして意識が朦朧としたままの状態のユージオの前に立っているオーレリアは続けて口を開く。

 

「……そなたの師匠の代わりに私が認めよう。ユージオよ、そなたは今日からアインクラッド流の《奥義皆伝者》を名乗るが良い。

そして、認めよう。そなたは今日から我がルグィン伯爵家の一員となるのだ。我が()()よ、そなたの前に立ち塞がる者は、私が全て断ち切ってみせようではな──」

「ユージオ、もう意識がないですよ」

 

 嬉しさからか長々と演説をするオーレリアの言葉を前半しか聞くことが出来ずに気絶してしまったユージオ。

 だが、圧倒的な強者である彼女からアインクラッド流の《奥義皆伝》を授けられたことに満足した彼は、そのまま意識を失ってしまった。

 ジュノー海上要塞を出ていく前に彼にとっては大きな自信になったと思ったのか、眠っているその表情はどこか嬉しそうだった。

 




ちょこちょこ気付いている方もいるかも知れませんが、これから少しずつオーレリアは姉バカになっていきます。
キャラをなるべく崩壊はさせるつもりはないのですが、姉バカになっていきます。

面白い!また続きが見たいと思ったら、ぜひ高評価、お気に入り登録、感想をお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。