今週の土日にはきちんと更新します!
「あ、あれ……ここは……」
(い、いてて……そ、そうだった! 確かオーレリアさんと戦って……)
ユージオは身体を起こして周りを見つつ、目覚める前のことを思い出す。
オーレリアとの戦いで、彼女に全力で挑んだものの見事にやられてしまい、最近はとんと用が無くなっていた医務室に運び込まれたのだということを推察した。
「目覚めたか」
医務室の入り口にいたのは、先程ユージオを完膚無きまでに叩きのめした張本人だった。
痛みで動くことが出来なかった彼は、オーレリアが微笑みながら歩いてくるのを黙って見ていた。
「一応薬と
「……はい」
ここまで自分をボコボコにしたのはどこのどいつだと思ったのだが、ユージオは決して口には出さない。
そしてこのやり取りもなぜかとても懐かしい気持ちになっていたのだった。
「どうであった?」
「……え?」
「私との戦いはどうであったかと聞いている」
不意の質問に、意図が読めなくて聞き返してしまうユージオ。
そしてきちんと質問された彼は、先程の戦いを思い出して俯いてしまう。
「……完敗でした。僕は、僕は強くなったと思っていた。
オーレリアはユージオの言葉を黙って聞いていた。
「ですが、貴方には一切が通じなかった。……それがとても悔しかった。とても、悔し、かった……です」
「……そうか」
ユージオの目からは涙が零れていた。
戦いに負けたことへの悔しさだけからなのかは誰にも分からないが、オーレリアはただ相槌を打つだけだった。
そしてひとしきり泣いたユージオは、袖で目元を拭くと彼女に「へへっ」と笑顔を見せる。
「それでも、ここまで強くしてくれたオーレリアさんには感謝しています。本当にありがとうございました」
「…………」
ユージオは明日で出ていくことが分かっているので、オーレリアへ感謝の言葉を述べた。
その泣き腫らした笑顔に、彼女は抱きしめたい衝動に陥ったが必死に堪える。
「……明日は早いぞ。部屋に戻って準備をして、早めに寝るがよい」
「……はい」
オーレリアは一言だけ話すと、我慢の限界に達する前に翻って医務室を出ていく。
ユージオはその素っ気ない態度に、少し寂しい気持ちになったのだが仕方がないと諦める。
(そうだよね。だって僕はオーレリアさんに
オーレリアの言葉を「明日は朝早くに出ていけ。だから早く荷造りして寝ろ」という風に受け取っているユージオは、ため息をつくとそのまま起き上がって自室へと戻っていく。
この三ヶ月、
だからこそこの世界に来たばかりの何も知らないときの自分とは違う。
(まずは近くにある紺碧の海都《オルディス》に行ってみようかな。道中で魔獣を狩ればセピスも貯まるだろうし)
自室で荷造り──といっても、大したものはない──をしながら、今後の予定を考えていたユージオ。
そして、明日は最後くらい朝食を食べてから出て行きたいなと思いながらベッドに入った自分自身に、ルーリッド村にいた頃に比べて随分図太くなったとクスリと笑いながら就寝するのだった。
「……どうして顔がそんなに赤いのですか?」
「…………なんのことだ?
「……いや、まぁ。いいんですけどね。それよりも明日は──」
「ああ。明日は
執務室に戻ったオーレリアを出迎えたのはウォレスだった。そして彼女は彼の言葉を強引に流す。
そのまま明日の予定を伝える。
「まぁカイエン公はこのラマール州を治めていますからね。ルグィン家に養子を迎えるなら、報告は必要ですね。
「……ああ、大丈夫だ。私がルグィン伯爵家を継いでから十年以上も経つからな。今さら何かを言ってくることはない。事後報告で良いであろう」
オーレリアの父は彼女が学生時代に《百日戦役》に参戦したが、戦傷を負ってしまう。
その影響で彼女は一年で学院を卒業することになり、卒業と同時に領邦軍に入った経緯がある。
そこから少し経ってルグィン伯爵家を継いだのだが、今となっては何かを言ってくることは一切無くなっていた。
「《帝都ヘイムダル》にも行かないといけなくなりそうですが、素性の知れぬ者を貴族に迎え入れるとなると──」
「フッ、そこも問題はない。十年ほど前になるが、実例はあった。……邪魔をする者がいれば、力づくで認めさせるだけだ」
ウォレスは以前と同じように忠告をするが、オーレリアもまた以前と同じように邪魔する者は力づくというスタンスを崩さない。
過去にあった実例──シュバルツァー男爵家は相当嫌な思いをしたのか、領主は領地に引きこもってしまっていたのだが、ルグィン伯爵家は決してそういったことにはならなそうだと苦笑いを浮かべるウォレスだった。
◇
オーレリアとの戦いで破れた次の日、ユージオは彼女に言われたとおり朝早くから起きて出ていくための支度を整えていた。
幸いにも朝食にありつけそうだったため、そこで会った早番と夜勤の兵士達に別れを告げ──事情を知らない彼らはとても意外そうに、そして寂しそうな顔をしていた──朝食を平らげると、ジュノー海上要塞の門をくぐり抜けて振り返る。
(最後にオーレリアさんに挨拶しておきたかったんだけど、執務室にもいなかったし。まぁ仕方がないか……)
大きな要塞を見上げて、寂しそうに目を瞑ったユージオは、その気持ちを抑えて橋を渡ろうと前を向いたところで驚きの顔をした。
「遅いぞ。今日は早いと言ったはずだ」
「……っ!? オ、オ……オーレリアさん!?」
目の前には一台の導力車と、そこの前に立っているオーレリア・ルグィンがいたのだった。
「どうしてここに……?」
「……? 何を言っている? とりあえず導力車に乗るが良い。話はそれからだ」
そう言いながら、ルグィン家の執事が開けた導力車のドアから中に乗り込むオーレリア。
そして執事に乗るように促されたユージオも、混乱しながらではあるが同じく中へと乗り込むのだった。
「えっと、どうして……ですか?」
導力車が走って少し経ったところで、ユージオはオーレリアに話しかける。
そもそも彼にとって鉄の塊が動くこと自体が驚くべきことだったのだが、それ以上にオーレリアの行動が理解できていなかったのだ。
「迷っても仕方がないからな。それに私にも責任がある」
「責任……」
ユージオとオーレリアはそれぞれの気持ちをきちんと伝えているつもりであった。
しかし、実は何かが違っていた。
(追い出した僕を
(どうせいつかはカイエン公に挨拶に行かねばならないのだからな。そんな些末なことでいつ行くか迷うなら、すぐにでも行けばよいのだ。ルグィン家に迎える以上、
追い出されたと思っているユージオ。カイエン公へ挨拶に行こうとしているオーレリア。
二人は全く違う意図で話していたのだが、なぜか話が噛み合っているように聞こえていた。
◇
紺碧の海都オルディス。エレボニア帝国西部、ラマール州の州都であり、大貴族《四大名門》の筆頭であるカイエン公爵家当主のクロワール・ド・カイエンが治める本拠地。
人口は約四十万人であり、帝国本土では帝都ヘイムダルに次ぐ第二の規模の都市である。
古くからラマール州を中心に、北は旧ジュライ市国から南はリベール王国までの、大陸西部沿岸部の海洋貿易における経済圏の中心的都市であり、巨大な港湾都市としても知られている。
「ここが紺碧の海都《オルディス》……!」
ユージオは知識としては知っていたものの、初めて見るオルディスの光景に目を奪われてしまう。
「フッ、驚くであろう。私も初めて見たときは驚いたものだ」
ユージオの反応を見て、オーレリアは薄く笑う。
ここまでの道のりを二人きり──運転手の執事はいたのだが、彼は空気に徹するのに長けていた──で話せていたことだけでも満足していたのだが、子供のようにはしゃぐユージオを見て、眼福のような表情をしていた。
「お顔が緩んでいますぞ。お気を付けくだされ」
「……そ、それにしてもそこまで喜んでくれると私としても連れてきたかいがあったというものだ」
執事の声を無視して、オーレリアはユージオに話しかける。
しかし彼は窓の外の光景に夢中になっていて、何も声が届いていないようだった。
「……フッ」
オーレリアは彼が満足するまで黙って見守ることにしたのだった。
「お顔が緩んでいま──」
「オーレリアさん! ここまで連れてきてくれてありがとうございました! もう一人で大丈夫ですので、ここで降りますね!」
執事が再度オーレリアを注意しようとした瞬間、窓からの景色を堪能したユージオがオーレリアの方を向く。
一瞬で元の顔に戻ったオーレリアは、ユージオの言葉を聞いて首を傾げる。
「……降りる? 何を言っているのだ?」
「え、ですからここまで迷わないように僕を送ってくださったんですよね? ここまで来ればもう大丈夫ですので」
「…………?」
二人の会話が微妙に噛み合っていないことに、それぞれが気付き出す。
少し気まずくなった空気に対し、運転をしていた執事はその空気を気にすることもなく目的地へ到着した旨を伝える。
「到着いたしました」
「……到着したか」
「到着……? え、ここは……?」
ユージオが導力車の窓から外を見ると、そこにはとてつもなく大きな屋敷があった。
「ここがラマール州を治めるカイエン公爵家のお屋敷でございます」
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次話ではちゃんとキャラが戻っているはずなので、許してください!