英雄伝説 青薔薇の軌跡   作:灰猫ジジ

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第六話 蒼の騎士とカイエン公

「カイエン、公爵……ですか?」

「なんだ、覚えていないのか? ここ、ラマール州を治めている《四大名門》のうちの一つだ。()()ルグィン家の寄り親でもある」

 

 オーレリアはユージオの勉強不足を軽く笑いながら、嬉々として説明をする。

 しかし、ユージオは覚えてなかったということではなく、なぜここに自分がいるのだということを言いたかったのだが、オーレリアにはそう受け取られないようだった。

 

(えっと、なんで僕がここに来ているんだろう……? もしかしてオーレリアさんの用事があるからそれに付き合わされているということか……?)

 

 ユージオの考えはほぼ当たりである。オーレリアは用事があってカイエン公爵に会いに来ており、ユージオもそれに付き合わされている。

 しかし、その用事の当人がユージオ自身であることまでには考えが及んでいなかった。

 

「では行くぞ」

「え、ちょ、ちょ……!」

 

 ユージオを置いて先に行こうとするオーレリアに対し、どうしていいか分からずその場に立ち尽くす。

 しかし、執事に「行かないのですか?」という目で見られてしまったため、頭を軽く掻くとオーレリアの後を追っていくのだった。

 

 

 

「オーレリア・ルグィンだ。カイエン公に挨拶に参った」

「お待ちしておりました、ルグィン様。執務室でカイエン公爵がお待ちです」

 

 屋敷の中に入ると、そこではカイエン公の使用人が出迎えをしており、執事が代表してオーレリアと会話をしていた。

 ここまで大きな屋敷に入ったことがないユージオは、オーレリアの後ろに立ちながら辺りを見回していた。

 

(うわぁ……外観を見たときにも思ったけど、中もすごい広いな。しかもここまでの出迎えを受けているなんて、やっぱりオーレリアさんって偉い人なんだよね……)

 

 オーレリアがエレボニア帝国で地位の高い人だということは分かっていたが、どれほどなのかまでは実感がなかったユージオ。

 ここまで大きな屋敷で彼女への出迎えの待遇を見て、やはり自分とは違う存在なのだと改めて気付かされる。

 

「そろそろいいか? カイエン公のもとへ行くぞ」

「え、あ、はい! ……すみません」

 

 ユージオが屋敷内を見回している様子を微笑ましく見ていたオーレリア。

 だがいつまでもカイエン公を待たせるわけには行かないため、ユージオに声を掛けると彼は慌てつつも恥ずかしそうに顔を赤くする。

 その様子を周りで控えているメイド達はクスッと笑っていたが、それ以上に彼の容姿に注目していた。

 

 ユージオはそこまで自覚していないのだが、彼は容姿に優れている。

 美男美女が多いとされるこの世界においても、それは変わらずであった。

 そのため、可愛い系が好みの女性(メイド)からは熱い視線を浴びていたのだった。

 

 本人はそれに気付かずに照れながらオーレリアの後ろについていくのだったが、彼の目の前にいる義姉だけは違っていた。

 

(ふむ、()()()が付かないように早速注意せねばならぬとはな。顔だけでも覚えておこう)

 

 周りに人がいるため、オーレリアは表情を一切変えることなく、ユージオに対して恋愛感情を持ちそうな視線の主の顔を覚えながら執事の案内についていく。

 その行動はカイエン公の執務室に到着するまで、続くのだった。

 

「こちらがカイエン公爵の執務室でございます」

「うむ」

 

 執事は執務室と案内した扉にノックをすると、「オーレリア・ルグィン伯爵がいらっしゃいました」と告げる。

 中から「入るがよい」という言葉がする。それを合図に執事が扉を開け、オーレリアに向かって頭を下げる。

 その様子を見たオーレリアはゆっくりと部屋の中へと入っていくのだった。

 

「失礼する」

「おお、オーレリア将軍。よく来たな」

 

 クロワール・ド・カイエン。ラマール州統括者である彼は、元々家督を継ぐはずではなかった。

 兄であるアルフレッドが八年ほど前に海難事故で死去したことがきっかけとなり、カイエン公爵家当主の後継者となり、ほどなく当主の座に就く。

 そのときに邪魔になりそうな存在は遠ざけていたのだが、それはまた別の話。

 

 両手を広げてオーレリアを出迎えたカイエン公は、横にいるユージオをちらりと見て今回の用事が何であるかを察するが、それをすぐに自身の口から話すことはない。

 そしてソファーに座るように促すと、貴族特有の本題に入る前の雑談をする。それは時事的な話から、最近の貴族間での流行りなど流石《四大名門》の当主の一人だけあって、話は豊富にありその話し方は人を惹きつけるものがあった。

 ユージオもそれを感じており、話に引き込まれていたのだが、ある程度話したところでカイエン公は上手い流れでようやく本題に入るのだった。

 

「……ところで今回はそちらの青年についての話かと察するが、もしかして遂に身を固める決意をされたということかな?」

「フフ、カイエン公も冗談が上手いですな。私と彼では年齢が離れすぎているではないですか」

「ふむ……それでは彼のことをご紹介いただいても?」

 

 カイエン公は雑談しているときからユージオのことを観察していた。

 社交界でも見たことがない顔。これだけの容姿であれば、どこかの場に出ていれば必ず噂になるのだが、そういった噂も聞いたことがない。

 まさかオーレリアの〝燕〟なのかと考えるが、それならばわざわざ紹介に来るはずがないと即座に否定する。

 

 わざわざここまで挨拶に来るほどの内容。そこにユージオが絡んでくるとなるといくつかの推測が立つ。

 だが、それならばもう直接聞いてしまったほうが早いため、オーレリアに紹介を促したのだった。

 

「ああ、今回の用事は彼のことでな。彼の名はユージオ……ユージオ・ルグィンだ。私の義弟になる男だ。ルグィン家に入るのでな、先にカイエン公へ紹介をと思い、本日は参ったということだ」

「────ッ!」

「…………」

 

 オーレリアの言葉に違う反応を見せる二人。

 ユージオは驚きのあまりオーレリアの顔を見て、口をパクパクさせている。

 カイエン公は顎に右手をやり、何かを考えている様子であった。

 

「ふむ……そういうことであったか。元々の出自は貴族なのかな?」

「フッ、ルグィン家がそのような些末なことを気にするとでも?」

「…………そうであったな。貴公にとってはその程度は些末なことだった」

 

 念の為、カイエン公はユージオの出自を聞くが、オーレリアからの返答は予測されていたことである。

 だが、貴族としての血を持つ者と持たざる者。そこには明確な差があるというのが《貴族派》であり、出自が不明なものを迎えたということが知られてしまうと問題があるのも事実であった。

 この会話を聞いても、ユージオはまだ口をパクパクさせている。

 

「確か……十年ほど前に出自不明の子供を養子にしたという男爵がいたが──」

「〝シュバルツァー男爵〟のことですな」

「あのときは得体の知れない子どもを養子としたと周りからの非難が酷くてな。男爵自身も社交界から離れて、領地に籠もるようになってしまったと聞くが……」

 

 暗に「貴公は大丈夫なのか?」と言わんばかりに言葉を切るカイエン公。

 しかし、それをオーレリアは軽く微笑むと、はっきりと言葉にして自らの方針を告げた。

 

「批判など我がルグィン家には大したことはない。もし邪魔をする者がいるのであれば、当主である私の力を持ってねじ伏せるだけだ」

「…………フッ、そうであったな。貴公はそういう人物であった。それならば私も何も言うまい」

 

 カイエン公としても貴族でない者を入れるなど許されることではない。

 しかし、彼には今()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と分かっている。

 彼女を敵に回せば、ラマール領邦軍の戦力を失うに等しい。それは《貴族派》にとってはあってはならないことなのである。

 

「それならば良かった。それでは私はこれで失礼する。このあとヘイムダルまで行かなければならないのでな」

「……陛下にも挨拶を?」

「ええ。()()()()()()()()()()として、挨拶をしておかねばならぬからな」

 

 立ち上がったオーレリアと座ったままのカイエン公は目を合わせる。

 数秒間そのままであったが、どちらかともなく目を逸らすと「ユージオ、行くぞ」とだけ伝えてオーレリアは執務室を出ていった。

 

「小娘が……しかし私の大望──我が公爵家の果たすべき使命のために、今、あやつを敵に回すわけにはいかぬからな」

 

 ソファーから自分の席に座ったカイエン公。そして出ていった扉を見ながら、彼は呟く。

 

(すでに賽は投げられているのだ。そして、私の元には駒が揃いつつある。あとは()()()()()()()()()())

 

 カイエン公は両肘を机の上に立て、両手を口元で組むと笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「あの、オーレリアさん」

「……なんだ?」

「先程の話ですが──」

「先程の話とは?」

 

 オーレリアは周りの目もあるため、ユージオの質問に対して口数少なく答える。

 いつもと、そして先程導力車に乗っていたときと反応が違うため、ユージオは戸惑いながらも言葉を続ける。

 

「あの、僕がルグィン家の養子になるという話……です……」

「ああ、そのことか。案ずるな、邪魔する者は私が排除するからな」

「いや、そうではなくて……」

 

 話が噛み合わない。まったくもって噛み合わないというのをユージオはモヤモヤした気持ちで話していた。

 彼は「自分は負けたのだから、その話はなかったことではないのか?」と聞こうと口を開こうとしたところで、オーレリアが立ち止まる。

 ユージオは突然立ち止まった彼女を見るが、その目線の先にいたのは灰色の髪をした青年であった。

 

(……誰だろう? 僕と同い年くらいに見えるけど……)

 

 灰色髪の青年は廊下の壁を背もたれにして、誰かを待っているようであった。

 そして、それはオーレリア・ルグィンであるというのは、彼を見ていれば一目瞭然だった。

 

「《蒼の騎士》殿か」

「よぉ。かの有名な《黄金の羅刹》様が男を連れ込んだって聞いたもんでな、つい見に来ちまったぜ」

 

 《蒼の騎士》と呼ばれた青年は、オーレリアに対して他の使用人が取るような態度ではなく、まるで友人が話しかけるかのような気さくな態度で接していた。

 その挑発するような言い方に、彼女は子供を相手にするかのように接する。

 

「フッ、カイエン公に我が義弟を紹介しに来たのだ。恐らくそなたとも歳が近いであろう、仲良くしてやってくれ」

「……ちっ」

 

 挑発に乗らないオーレリアに舌打ちをする青年。そしてユージオを見ると、ゆっくりと近づいてくる。

 ユージオの前に立つと、彼を見下ろすようにしてじっと観察していた。

 

「えっと、ユージオ、です」

 

 黙ったままの青年に何か話さなければならないと感じたユージオは、とりあえず名乗ることにした。

 青年の威圧をなんとも思わない様子で自己紹介をしたユージオにポカンとした表情になる青年。

 そして、再度舌打ちをすると、踵を返して歩いていこうとするが、その途中で立ち止まって口を開く。

 

「……クロウだ」

「え?」

「クロウ・アームブラストだ」

 

 クロウと名乗った青年はそれ以上何も言わずに去っていく。

 その雰囲気に聞きたいことを聞く空気ではなくなってしまい、そこからカイエン公の屋敷を出るまでは二人とも口を開くことはなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 導力車に乗った二人はジュノー海上要塞へと戻っていた。

 黙ったままの二人。だが、ユージオとしては先程クロウのせいで止まってしまった話をどうしても聞かないといけなかった。

 そのため、意を決して口を開く。

 

「あの、オーレリアさん」

「……なんだ?」

「先程の僕がルグィン家の養子になるという話ですが、僕はオーレリアさんに()()()()()()()のだから、出ていかないと……」

「…………」

 

 オーレリアは遮られないようにと一気に話したユージオの言葉を聞いて黙ってしまう。

 ようやく伝えたいことを話すことが出来た。だが、そのことを聞いた途端に難しい顔で考え込んでしまったオーレリアを恐る恐る見る。

 数十秒ほどそのままだったが、ようやく口を開いた彼女からは予測もしなかった言葉が出てくるのだった。

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………え?」

 

 ユージオはぽかんとした表情になる。

 

(え? え? いやいや、オーレリアさんは言ってたでしょ! 出ていけって!)

 

「確かにジュノー海上要塞から出て行けとは言った。だが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったのだ」

「…………え?」

 

 ユージオは再度ぽかんとした表情になる。

 そして、あのときオーレリアが伝えた内容を必死に思い出す。

 

(……()()()()()()()が出来なかったら? あれ、それってオーレリアさんに勝てってことでは、な……い……?)

 

 そして言葉の意味をようやく理解したユージオは、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせてしまう。

 オーレリアは合点がいったとばかりに、今までのユージオの言動を思い出していた。

 

「そういうことであったか。そなたの今までの行動や言動、何かおかしいと思っていたが、出て行けと言われていると思っていたのか」

「え……いや……その……」

 

 ユージオはやらかしてしまった失態に、オロオロするばかりで何も返すことが出来ない。

 それもそのはずだ。自分の勘違いで出て行けと言われてしまったと思い込み、今までの行動を取ってしまっていたのだから。

 

「フフッ、そなたの戦っているときの顔もなかなか良いものだが、そういう顔もなかなか悪くないぞ」

「か、からかわないでください!」

「だが、あのとき確かに伝えたぞ。()()()()()()()と。だからそなたの師匠の代わりにアインクラッド流の奥義皆伝者を名乗れと伝えたし、我がルグィン家の一員となるようにとも」

 

 あのときというのが、昨日のオーレリアにやられたときのことであることはユージオにも分かった。

 アインクラッド流の奥義皆伝者のことは確かに覚えているからだ。

 しかし──。

 

「……後半のことは聞いていないです」

「確かそのとき、ユージオ様は気を失っていたかと存じますが……」

 

 ユージオが正直に聞いていないことを伝え、執事があのときユージオはすでに気絶していたことを伝える。

 執事がユージオに〝様〟を付けているのは、手続きが済んでいないとはいえ、彼の中ではもうユージオはルグィン家の一員だからである。

 ルグィン家に仕える者として取るべき応対をしていた。

 

「そういえばそのようなことをウォレスも言っていたな。まぁ良いではないか、そのような些末なことは」

「……よくないとは、思います」

 

 オーレリア・ルグィンは帰りの景色を導力車の窓から眺める。

 夕日に照らされる彼女は、誰から見ても見惚れるほどの美しさであった。

 




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あと、もし登場人物の話し方でおかしい部分があればご指摘くださいませ!
この話はちゃんと書きたいと思っているので、こんな感じで話すのでは?というところは言ってもらえると嬉しいです!
一応伝えておくと、敢えて原作のキャラと違うように話してある部分もあるので、その場合はちゃんと意図を伝えますね!

ゆるふわさんは聖アストライア女学院にいらっしゃいます。
クロウはトールズ士官学院ではないかって? あのサボり魔がいるわけないじゃないですかー。まだ入学して一ヶ月だからって、真面目に授業を受けているなんて、ないのですよ

そして年代は実はちゃんと読めば分かるようになっているのですが、1203年(閃の軌跡1の一年前)です。

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