お父さんのお弁当を届けに行ったら、知らない男の子に話しかけられた。

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ややSFっぽい世界観です



ミーシュとシャド

 

「おまえ、もうここに来ない方がいいよ」

 

「え?」

 

 当然、誰かから話しかけられた。

 どこから? キョロキョロとあたりを見渡すと、くすくすと笑い声が漏れ聞こえた。

 

「上を見な」

 

「わあ!」

 

 言われるがまま上を見上げ、少し左に目線をやれば、人が立っていた。

 驚いたのはその人が大きな蜘蛛に乗っていたからだ。

 正確には、蜘蛛のような、大きな多脚機械の上に。

 

 持っている弁当——この工場で働く父の忘れ物だ——を落としそうになって、慌てて抱えなおす。

 沢山の建築用大型機械が並ぶひらけた場所だが、その機械の『蜘蛛』は当然のように同じ並びで鎮座していた。

 

 それらと比べても一回り大きい。

 まだ縮こまっている全ての足を広げたら、どこまで高くなるんだろう。

 何に使う機械なんだろう。

 

 そうやってまじまじと視線を送っていたところに、持ち主らしき人から声をかけられたのだ。

 

 影になっているとはいえ快晴の空が見える格納庫だ。

 眩しくて手をかざす前に見えた会話相手は、浅黒い肌の男の子のようだった。

 

「で、でも私、このお弁当を届けなきゃいけないの!」

 

「毎日のように?」

 

「うん、毎日!」

 

「誰がそんなに毎日、必要な物資を忘れてしまうんだ?」

 

「ジョー、私のお父さん!」

 

「……なるほど」

 

 若そうだがここにいる以上、この工場の人だろう。

 隠し立てする理由もないので正直に伝えると、彼は何か納得したように頷いた。

 

「あなた知り合いなの?」

 

「そりゃあこの工場に出入りしてる人間くらい、俺にはわかるさ。ここがみんなの帰り道だからな」

 

「私のことは知らないのに?」

 

「勤めているわけじゃないだろう」

 

「それはそうだけど……」

 

 自慢ではないが、毎日弁当を届けに工事用へやってくる私は、父やその仕事仲間たちの間では有名なのだ。

 チヤホヤされているともいう。

 

 なんとなく同じ場所に勤めている人に知られていないのは、この時の私には面白くなかった。

 それを彼にも察知されたのだろう、彼は言葉を重ねた。

 

「じゃあ今知ろう。おまえの名前は?」

 

「ミーシュ。あなたは?」

 

「シャド。大体ここでコイツの弄ってる」

 

 そう言って彼……シャドはコンコンと乗っている機械の蜘蛛をノックして示した。

 

「初めて見る型ね。何に使うんだろう」

 

「まだ試作中でね。言えないんだ」

 

「ちゃんと出来上がるといいね」

 

「ああ。ところでミーシュ、そろそろ昼だぞ」

 

「あ! お弁当持っていかなくちゃ!」

 

 急いで父のいるであろうエリアは足を向ける。

 ふと振り向いてバイバイ、と手を振ればシャドもひらひらと手をふり返した。

 

 あの男の子は、きっといい子なんだろう。

 私と同じくらいの歳に見えた。

 なぜ彼がここで働いているのかは知らないけれど、物騒な世の中なのでなんとなくは想像できる。

 家に帰ったら、彼の人生がうまくいくように祈ろう。

 

 ところでなぜシャドは……「ここにくるな」と言ったんだろう。

 頭に浮かんだ疑問は父に会う頃には忘れていた。

 

 

 

 次の日も同じように工場へ向かう。

 シャドは昨日よりも少し低い場所で『蜘蛛』を整備していた。

 しかし距離は依然として遠い。

 

「こんにちは! シャド」

 

「ミーシュ……また来たのか。昨日と……同じ時間か」

 

「意識してればいくらでも正確に刻めるよ!」

 

「すごいな」

 

「本当にそう思ってる??」

 

「ああ、声の調子に感情が乗りにくいんだ。気にするな」

 

「そう? あ、ねぇシャド! お昼は済んだ?」

 

「いいや」

 

「じゃあね、今日作ってきたの! はい、ここに置いとくね」

 

「!?」

 

「2時間後くらいにはここを通って帰るから、食べ終わったら置いててね! じゃあね」

 

「ま、待て……ミーシュ!?」

 

 思うにシャドは小柄……というよりは肉付きが悪く見える。

 瞳の色すらわからないほど遠目にしか見ていないけれど、確実にそう。

 私は立ち止まってシャドの方に向き直す。

 

「……やっぱり」

 

 そして原因は栄養失調寸前だからだ。

 慌てて降りてくるシャドを見て確信した。

 頬はこけているし、不自然に力が抜けることがある走り方。

 疲れたような黄色い目と私の目が合う。

 

「絶対ご飯ちゃんと食べられてないでしょ」

 

「そ、そういうわけじゃ」

 

「ある。お父さんにも相談したら『作ってあげるべきだ』って弁当箱も買ってくれたわ」

 

「ジョーさんが……」

 

「うん。そういうわけだから、食べてくれると嬉しいな」

 

「……」

 

 この国は治安が良いとは言えない。

 大人でも夜出歩くのは危ないし、大国に挟まれた力のない国だから、違う国の軍人がたくさん街を往来している。

 資源も人口も少なくて、しかし無くなると両隣の2つの国が隣接するから困る。

 学校に通える住民は数えるほどしかいない。

 そんな不安定な国。

 

 資源の方は戦場から回収した戦闘用の機械のスクラップを再利用することでやりくりしている。

 この工場もそうやって動いているし、父はその状況から前に進むための研究員として働いている。

 

 母は戦争に巻き込まれて死んだ。

 だからか父は、あまり私が目の届かないところで1人でいるのが不安らしい。

 

 シャドもまた、そうやってどうしようもない状況に飲み込まれてここにいるだろうという察しはついた。

 

「……わかった。ありがとう。ジョーさんにもよろしく……いや、俺が会えるなら会いにいくけど……」

 

「うん!」

 

 元気よく返事して、今度こそ私は父の元へ行った。

 私は父の娘ということで特別に研修室に入れてもらえるが、接点もないいち整備士らしき彼では会うのは難しいと思う。

 

 それでも一度でいいからあって欲しいとも思う。

 父のことは当然好きだが、すでに出会ったばかりのシャドのことも、私の心の半分を占めていた。

 

 理由はわからないが、シャドは最初から私のことを心配してくれたような気がする。

 そうでなければ、見ず知らずの相手に忠告なんてしないだろうから。

 

 

 

 この日は父が手すきだったため、たくさんお話をした。

 最近は数分話すくらいしかできなかったから。

 この頃は少しだけ話して、他の仕事仲間の人たちに相手をしてもらっていた。

 

「整備士のシャド、だね。いい友達を持ったなミーシュ」

 

「うん! あのね、お弁当も残さず綺麗に食べてたのよ」

 

「ああ」

 

「紙の切れ端にわざわざ『美味しかった』って! 押し付けがましかったかなって少し不安だったから……」

 

「彼は誠実な子らしいね。当然明日も彼に持っていくんだろう?」

 

「うん。おかずはどうしようかな?」

 

「肉が手に入ったから、それを使うといい」

 

「本当!? お父さんお肉好きだもんね。よかった! 明日入れるよ。シャドも喜んでくれるといいな」

 

 シャドは言葉の抑揚も少ないが、表情豊かな方ではない。

 喋らないわけじゃないが、あまり元気がない。

 

 それでも私は今日見た彼の驚いた顔を何度も思い出す。

 疲れたような目を思い出す。

 

「人に何かしてあげたい」と思うのは、父以外に初めてだった。

 

 

 

 朝目が覚めると、1人だった。

 父は一度は帰ってきた痕跡はあるが、ご飯と睡眠をとってまた朝早くに工場へ行ったんだろう。

 汚れた食器がシンクに置いてあった。

 服が脱ぎ散らかっていた。

 慌てていたのか椅子も倒れていた。

 

 ……慌てていた? 

 

「…………?」

 

 父の研究は大変だが、そんなに急を要する事があったならそもそも家に帰ってこないはずだ。

 家に帰るならここぞとばかりにゆっくりしたいタイプだから、そんな時は遅刻していく。

 

 本当に緊急の案件だったのだろうか。

 夕飯は食べたようだが……。

 食器が割れたりしていたら、すわ空き巣に入られたかと思ったかもしれない。

 家の中を見回ってもその痕跡もない。

 

 少し不審に思いつつ、弁当を持っていく準備をする。

 不安が確信に変わるのは、すぐだった。

 

 

 

 

 

 

「ミーシュ、今すぐ身を隠せ」

 

「……シャド。お弁当……持ってきたよ」

 

 同じ格納庫、同じ目線の遠さ。

 忠告を投げかけられる。

 しかし一昨日よりも固い印象を受けた。

 

「これは俺の言葉じゃなくて、ジョーさんの伝言だよ」

 

「お父さんが……!? ……なにか、あったんだよね? ねえシャド、お父さんは大丈夫なの?」

 

「……おまえがいると危なくなるんだ」

 

「どう……して……」

 

 なぜ私がいると危ないんだろう。

 なんで、どうして。

 

「……ジョーさんの研究がなにか知ってるか?」

 

「建築機械の研究じゃないの……?」

 

「どう考えても、今の情勢なら建築より戦闘用の方が需要があるに決まってるだろう」

 

「……」

 

 わかってる。

 わかってた。

 血縁とはいえ仕事の内容は部外者の私に言えないこと。

 またこの国が戦争地帯になりそうなこと。

 武器になる機械兵器を売りつけるのが利口なこと。

 

 ここに並んでいる建築用の機械だって究極的には、戦闘に使える程度の武装や装甲が積んであるのも、よく見れば誰でもわかることだ。

 わかっていて、無視をしていた。

 公然の事実だから、私はこの工場に出入りできていた。

 

「それで、ここからはおまえの親父さんから聞いた話だが。……ジョーさんはこの時代で最も画期的と言える技術を生み出した」

 

「シャド、お父さんに会えたの!?」

 

「ああ。夜明け前に。色々任されてしまった」

 

「私のことも……」

 

「含まれる。……ミーシュ、ちょっとこっちに登ってこい」

 

 私は知りたい。

 何が起こっているか。

 知らなければならない。

 

『蜘蛛』の上になんとか登る。

 わかっていたけどかなり高い。

 立ったらギリギリ格納庫の天井部分に届かないくらい。

 ……この『蜘蛛』も、戦闘兵器なのだろうか、なんて想像してしまう。

 

「わ……!」

 

 足場に慣れなくて体勢を崩したが、いつのまにか近くに来たシャドがガシッと体を支えてくれた。

 

「あ、ありがとう」

 

「……いい。それより下を見てみろ」

 

「下?」

 

「絶対に奴らが消えるまで声を出すなよ」

 

 研究棟の方から大人たちが出てくる。

 父と同じように白衣を着ているが、それ以外にもボディーガードのような屈強な人々も忙しなく動いている。

 

 かなり高さと距離があるのだが、不思議と下にいる人たちの声が聞こえてきた。

 そういえばシャドもこの距離から私と話していたな。と呑気なことを考えている余裕はなかった。

 

「やつの研究成果がどこかにあるはずだ」

 

「あの男、ダミーの研究レポートでこちらを欺こうとしていましたね」

 

「あれも使えるがな。それ以上のものを隠されては困るよ」

 

「ジョーめ……口を割らん頑固者よ」

 

「ジョーには娘がいただろう。そいつが何か知っているかもしれん。成果を持たせている可能性も……」

 

「家には不在でした。いつも兵器工場(ここ)へ遊びに来ていたそうですが……」

 

「いいからさっさと探せ! 全くあの男……さいごまで……」

 

 声が遠ざかって、やがてこの場には誰もいなくなった。

 私と、シャド以外。

 

「……ジョーの研究。人口の少ないこの国にとって救いの手となる技術さ。君は自覚のないまま、それを手にしているんだ」

 

「!? そう……なの?」

 

「ミーシュが奴らに連れて行かれたら、間違いなくひどいことになる。それを恐れたジョー研究員は、父親であることを選んだ」

 

「……助けに、行かなきゃ……お父さん」

 

「無駄だ」

 

「どうしてっ!!」

 

 思わず今まで出したことないくらい大きな声が出た。

 衝動的に『蜘蛛』から降りようとした私を、彼の言葉は縛りつけた。

 

「…………もう、……死んだんだ」

 

 

 

 

 

 

「…………うそ」

 

 うそ。うそ。嘘。

 信じられない。

 だって、昨日はお話して、今日の弁当はお肉料理だって、だって、なんで。

 

 言いたいことは沢山あって、でも口から外には出なかった。

 私は泣いていた。

 目の前にいるシャドも泣いていたのだ。

 

 言葉にできたのが意味のない八つ当たりでなくて、よかった。

 

「泣くほど……泣くほど、私のお父さんと面識なかったでしょう?」

 

「ああ、でも、少し話したんだ。さっき。そう、ついさっきだ」

 

 さっきの話を続けよう。シャドは言った。

 

 

 

「ミーシュの言っていたシャドくん、ここにいると聞いているよ」

 

「ああ……シャドです。はじめましてミスター・ジョー」

 

 俺は自分の家も同然の『蜘蛛』の上で作業をしていた。

 と言ってもほぼ点検しかやることはなく、いつでも動かせる状態なのだが。

 念には念をというやつだ。趣味ともいう。

 

 その時、まだ始業時間にもなっていない……というか日さえ登っていない時間にミーシュの父親はやってきた。

 

「はじめまして。部署が違うんだ。上司というわけでもない、気軽にジョーと呼んでくれ。お義父さんでもいいぞ」

 

 初対面で何言ってんだこの人。

 ……言いたいことを飲み込んで、言うべき言葉を繰り出した。

 

「……ジョーさん、俺は弁当をミーシュからもらった。あなたにも感謝する」

 

「ミーシュが言い出さなきゃぼくは何もしなかったよ。娘に言ってあげてくれ」

 

「もう言った」

 

「いい子だ。うちのミーシュに負けず劣らず。この格納庫の機械整備もほとんど君がしていると聞いてるよ」

 

「……どうも」

 

 なんの話をしに来たんだろう。娘自慢か? 

 当然現れた男の話の方向性がよくわからず、短い返事しか返せない。

 なので、俺は俺の聞きたいことを優先した。

 

「この『蜘蛛』もいいね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。素晴らしい腕だ」

 

「そのステルスを、あなたの娘は裸眼で看破した」

 

「ああ。自慢の娘だよ」

 

「だからつい声をかけた」

 

『蜘蛛』はこの兵器工場の正式な商品ではない。

 俺が……いや、俺よりもっともっと前の代から少しずつジャンクパーツを集めて、繋ぎ合わせて今に至る傑作だ。

 

 元々近くに落ちてきたステルス機が原型になっているらしく、幾多の整備士たちが趣味で隠れていじるのにちょうどよかったらしい。

 

 当然、人間の肉眼なんかでわかるはずもない。

 昨日、再びミーシュに会う時にはたしかにステルス機能を使っていた。

 見えていたのなら、それはきっと普通の人間ではない。

 

「それに時間に正確だ。格納庫に足を踏み入れる時間が2日連続で同じだった。コンマ1秒もズレてない」

 

「ああ。そういうプログラムも入っていたね」

 

「……」

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、ミーシュはたしかに人間だよ。半分機械の体かもしれないけれど、生きてるんだ」

 

 人工知能ではなく、サイボーグ。

 しかしこれは無人戦闘機だって作れる足掛かりになる技術だ。

 あくまでも男は、穏やかに語る。

 それが俺には怖かった。

 

「妻は助からなかったけど、娘の体はあの時まだ小さかったから手持ちのパーツで足りて、奇跡的に助かった」

 

「『でも不安が残るから、毎日研究室に呼んでメンテナンスしていた』?」

 

「君は優秀だね。今でもまだ足りない、不安だらけだ。お父さんと呼んでくれることも、弁当を持ってきてくれるのだって。今までだってぼくに見せてくれる好意は、ぼくが作ったただのプログラムなんじゃないかってどこかで疑っていたんだ」

 

 過去形。

 

「でも君だ————シャドくん、君が証明してくれた。ミーシュが人間だと、君が証明したんだ。あんなに……あんなに他人のことを気にかけるなんてこと、今までなかった」

 

 自発的に行動した娘について語るジョーは、父親の顔をしていた。

 俺がまだ少し覚えている————幼少期、俺を抱き上げた時の親父のような。

 

「それで」

 

「今日、このサイボーグ技術のことが上にバレそうなんだ。技術だけなら提供してもよかったんだが、ぼくのかわいい一人娘を差し出したくないからね。今1番信用できる人に託しにきたんだよ」

 

 ジョーは俺にデータメモリを渡してきた。

 真っ青な小さい端末。

 ジョーとミーシュ、父娘(おやこ)の色だった。

 

 その数時間後、研究から運び出されるジョーの体を見た。

 

 

 

 

 

 

「私、サイボーグだったんだ……」

 

「このデータメモリにはおまえに関するデータやジョーさんの研究データも入っている。あとでミーシュにもインストールしてやる」

 

「あとで?」

 

「もうここから離れた方がいいから。逃げよう」

 

 逃げる? 

 シャドは何を言っているんだろう。

 

「逃げるって、どうやって」

 

「この『蜘蛛』に乗って」

 

「逃げるって、どこに」

 

「ジョーさんが用意してた区画へ行く。場合によっては他の国に行ったっていいが」

 

「それで」

 

「金に困るなら俺が傭兵として働く。傭兵じゃなくても機械の整備くらいはできるしな」

 

「違うっ!!! なんで、なんでシャドはそこまでするの!!!!」

 

「返したいからだ」

 

 涙が止まらない。

 父が死んだと聞かされた時から、感情が止まらない。

 

 シャドの言葉も止まらない。

 彼の顔つきは……ほんの少しだけ父に似ているかも、しれない。

 

「もちろんジョーさんに託されたと言うのもある。だがな、俺が先に会ったのはミーシュだ。人から弁当もらったことも、『蜘蛛』について語ったのも、おまえが初めてで、すごい嬉しかったんだ。でもこれじゃ俺がもらってばかりだ!」

 

 なんだ、言葉に感情乗せられるじゃん。

 

「こんなに、人に何かしてやりたいと思ったのは生まれて初めてなんだよ!」

 

「私だって、お父さん以外でこんなに何かしてあげたいと思ったことなかった!!」

 

 私たち、似たもの同士だったみたい。

 なんだか笑えてきて、ぐしゃぐしゃな笑顔になってたと思うけど。

 滲んだ視界から見えたシャドの顔も、笑っているように見えた。

 

「はやく乗れよ。誰のアイデアか知らないけど『蜘蛛』は複座なんだ」

 

「うん。ねえ」

 

「なんだ?」

 

「お弁当、あとで食べてくれる?」

 

「もちろん。ミーシュがよければ、明日も明後日もずっと先まで」

 

「ふふ、よろこんで」

 

 

 

 


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