世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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すいません今までで一番頭がおかしい回かもしれません


世界を救った勇者の卒業試験
イト・ユリシーズVSランジェット・フルエリン


 イト・ユリシーズは怒っていた。

 より端的に言えば、キレていた。

 勇者が、飛空船の試験飛行飛行(ついでに墜落して消息不明)という、なかなかに規模の大きい冒険の旅から帰ってきたにも関わらず、まったく自分のところに帰ってこないからだ。

 婚約者である自分を放置し、あまつさえ無事に帰ってきた報告すら怠る、その所業は到底許されるものではない。いかに温厚なイトといえども、我慢できる限度というものがあった。

 あちらから来ないのであれば、こちらが取る手段は唯一つ。

 

 

「ここが後輩のハウスかぁ」

 

 

 急襲である。

 イトははじめて訪れる勇者の家の外観を、じっくりと観察した。どこにでもあるような民家。世界を救った英雄の家にしては随分とこじんまりとした外観だが、それなりに立派な構えの、二階建ての一軒家だ。二人で住んでも手狭ではなさそうで少し安心する。

 

(あぁ……でも子どもができたらちょっと狭く感じるかもなぁ。いざとなれば引っ越しも検討するべきかな。うん)

 

 脳内で結婚後の家族計画を含めた生活シミュレーションを素早く行いながら、イトはドアノブに手をかけようとして、しかし一旦手を止めた。

 

「……臭うな」

 

 他の女の臭いだ。

 片目の眼帯を引き上げて、魔眼を起動。イトは家の周囲の精査を開始した。案の定、玄関前に転移用の魔導陣と、いくつかの不審者対策の防衛用魔導陣が張られているのが確認できた。

 十中八九、シャナ・グランプレの仕業だろう。かなり巧妙に隠蔽されているが、王都第三騎士団団長の眼は、そう簡単には誤魔化されない。

 

「まったく……ワタシと後輩の愛の巣に、勝手にこんなものを仕込むなんて……はいはい。断絶断絶」

 

 イトは、呆れを多分に含んだため息を吐いた。

 仕方ないので指先で発動させた蒼牙之士 (ザン・アズル)で、魔導陣を入念に切り刻んでおく。自分は不審者ではないが、今日はじめてこの家にやってきたので、罠が作動するかもしれない。不審者ではないが、不審者対策の防衛用魔導陣も、丁寧に切り刻んだ。

 とはいえ、こういった防衛用魔導陣は今後また入り用になるかもしれない。ここは世界を救った勇者の家だ。いつどんな敵が襲撃してくるかもわからない。世界を救った勇者が変な人間に襲われないように、対策は厳重にしておくべきだろう。

 家の周囲の魔導陣の断絶排除(ごみそうじ)を終えたところで、イトはドアノブに手をかけた。

 ガチャガチャ、と。むなしい音が鳴る。

 

「……しまった。合鍵忘れた」

 

 合鍵を忘れてきた己の迂闊さに、イトは思わず「あちゃ〜」と自分の頭を軽く叩いた。イトはまだこの家の鍵を貰っていない。もちろん、今日貰う予定ではあったが、そもそも鍵がないと自分の家には入れない。当然のことだ。

 仕方ない。今日のところはとりあえず斬っておこう。

 ドアノブに手をかけ、イトは蒼牙之士 (ザン・アズル)でシリンダー内部の錠前部分だけを破壊した。潜入任務などで、敵に気づかれずに建物内に突入する際に、イトがよく使う手である。世の中、何が役に立つかわからないものだ。

 玄関の鍵は壊してしまったが、これはあとでイトの方から業者に頼んで新しいものに代えてもらえばいいだろう。お揃いのキーホルダーを何にするか悩むところだ。

 イトは音もなく玄関ドアを開き、勇者の家の中にするりと体を滑り込ませた。

 一人暮らしの男の家にしては、小綺麗に片付いている。逆に言えば、小綺麗に片付きすぎている。たとえ魔眼を通さなくても、女の影がイトの目にはありありと見えた。

 洗面所に行ってみると、やはりというべきか。コップと歯ブラシが計三組。当たり前のように置いてあった。

 

 間違いない。

 勇者は、定期的に女をこの家に連れ込んでいる。

 

 重ねて、深く深く。ため息を吐きながらも、イトは気持ちを切り替えた。

 英雄、色を好むとも言う。結婚したあとに女遊びを許すつもりはないが、今はまだ婚約の段階。多少の女遊びには目を瞑ってやるのが、良妻の器というものだろう。

 とりあえず、洗面所に自分の分のコップと歯ブラシも置いておく。黒地に深い青色のアクセントがあしらわれた、イトお気に入りの一品である。ついでに、バスタオルも目に見えるところに引っ掛けておく。

 

「よし」

 

 これで、いつでも迅速なお泊りが可能になった。

 生活空間の一角を自分色に染め上げて満足したイトは、軽い足取りで足音を完璧に殺しつつ、リビングに向かった。

 今日の訪問は、勇者の不意を突いたもの。サプライズというやつだ。イトのバッグには、今日のために買い込んできた高級食材が満載してある。これでお料理を行い、後輩の胃袋をがっしりと掴み、婚約者の存在感を思い出させる。そんな完璧な作戦だ。

 副官のサーシャには「団長が、料理……? え、切る以外に何かできるんですか?」と本気で心配されたが、今日のために任務の合間に料理本を読み込んできた。脳内シミュレーションは万全だ。

 リビングの方からは、人の気配と物音が聞こえてくる。勇者がいるのは間違いない。

 イトは満面の笑みを伴って勢いよくリビングのドアを開いた。

 

「やあやあ後輩! ワタシが遊びに来たよ! 今日は合鍵をもらうついでにご飯でもつくってあげようと思って」

 

 しかし、明るい来訪の言葉は、最後まで続かなかった。

 たしかに、リビングに勇者はいた。しかし、勇者以外の女もいた。

 具体的には、服装だけは聖職者っぽいやたらエロい雰囲気女が、ソファーで勇者を膝枕して耳かきをしていた。

 家主に許可を取らず鍵を破壊して不法侵入し、防衛用魔導陣を切り刻み、洗面所に無断で自分の分のコップと歯ブラシを設置した女……イト・ユリシーズは、絶叫した。

 

「ふ、不倫だぁ!? 誰よその女ぁ!?」

「あは〜?」

「先輩。勝手に入ってこないでください」




こんかいのとうじょうじんぶつ

イト・ユリシーズ
不審者。不法侵入
婚約→してない
合鍵→鳴らしてない
結婚→してない

勇者くん
ひさびさに休みだし家に誰もいないタイミングで聖職者さんに「ゆうくん耳かきしてあげよっか〜?」と言われて、最初は断っていたがその圧に負けて耳かきされていた世界を救った勇者。平静を装ってはいるが、出会わせてはいけない二人を出会わせてしまい、内心クソ焦っている。

あは〜?
聖職者さん。ひさびさに勇者を甘やかしてやるかと思い、耳かきをしていたら良い感じにオモチャにできそうな女が現れ、内心テンションが上がっている。
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