世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった   作:龍流

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勇者と少年の憧れ

 あーあ、決闘受けちゃったぁ……

 足元に広がる魔導陣を見ながら、おれは内心で頭を抱えていた。

 今のおれは盗賊である。勇者さんではない。学生たちを魔法で壊滅させ、橋を落として進行を食い止める、悪いヤツである。なので、一位くんの挑戦を受ける道理は、これっぽっちもない。でも受けちゃった。うん、一位くんがいい感じにアツいヤツだったからですね。

 だって仕方ないじゃん。若者がきらきらした目で挑んできてくれたら、おじさんとしてはそんな挑戦受けるしかないじゃん。おれはまだおじさんじゃないけど。全然お兄さんだけど。

 

「いきます」

「お」

 

 鋭い剣戟に、どうでもいい思考が断ち切られる。

 おれと対峙する気負いのような緊張も、ほぐれてきたのだろうか。自然な脱力を伴って放たれた斬撃は、なかなかに滑らかだった。模擬戦用の剣に、きちんと殺意がのっている。

 

「いいね」

 

 さすがに剣が欲しくなってきたので、先ほどの蹴りで叩き折った一振りを蹴り上げて、空中でキャッチ。片手で雑に振るって応戦する。折れてる剣なので、間合いはこちらが不利。剣だけではなく、拳の殴打を交えつつ、反撃する。少しでも触れられれば、さっさと魔法を起点にして畳んでやろうと思ったのだが、こちらの打撃が当たらない。おれの打ち込みは、ことごとく第一位くんに避けられ、剣でいなされる。

 彼は、防御のために下がる。おれは、攻撃のために前に出続ける。受けてばかりかと思いきや、こちらのその思考に反論するかのように、横薙ぎの一閃がきた。

 当然、こちらは避ける。しかし、完璧に避けた、という確信は、頬にはしった鋭い痛みに塗り替えられた。明らかに、見た目よりも剣の間合いが伸びている。

 

「……へえ」

 

 彼の手元。厳密に言えば、剣を握る手首を見る。

 袖口に、魔術用紙(スクロール)の仕込み。見たところ、系統は迅風(じんぷう)斬り合い(チャンバラ)の中で、主導権を握るための工夫だろう。どうやら、先輩に似た運用をしているようだ。

 最近は、純粋な肉体強化だけでなく、魔術を併用する騎士も少しずつ増えてきたとは聞くけど……当然、近接戦闘で剣を振るいながら魔術を使うには、それ相応のセンスが必要なわけで。

 

「まだ学生なのに、魔術も使えるのか。ほんと上手いな。きみ」

「どうも」

 

 賞賛と一緒に、打撃も軽く受け流される。内心で、おれは苦笑した。

 あの生意気な言動と性格から、攻めに偏重したスタイルかと思っていたが、なかなかどうして。思いの外。守りが硬い。いくらこちらが打ち込んでも、攻撃のテンポを握らせてくれない。その場しのぎの防御ではなく、きちんと先を見据えた戦い方をしている感じだ。

 じゃあ、これはどうだ? 

 

哀矜懲双(へメロザルド)

 

 魔法を発動。彼とおれの位置を入れ替える。

 振り向き様に、回し蹴りを見舞う。が、すでに蹴り上げるはずだった上半身は沈み込んでいて、おれの脚はきれいに空振った。

 下から、反撃。おれの喉元を射抜くような、鋭い突きが襲い来る。

 

哀矜懲双(へメロザルド)

 

 再び、魔法を発動。彼とおれの位置を入れ替える。

 転移と同時に、今度は足を払う。先ほどは派手な回し蹴りから組み立てたので、これは当たるかと思ったが、今度は上に飛ばれてかわされる。

 うん。避けられたけど、ちゃんと浮いたな。

 

哀矜懲双(へメロザルド)

 

 三度、魔法を発動。彼とおれの位置を入れ替える。

 上を取ったので、今度は踵を落としてみた。頭に当たれば普通に意識を刈り取れる程度の威力はあったはずだが、これはしっかりと剣の腹で受けられた。ぎしり、と耳障りな音が響いたが、今度は剣が折れない。うん。良い受け方だ。

 

「っ……ちぃ!」

「おっと」

 

 振り払うようにはじかれ、地面に着地。再び、間合いを測り直しながら、一息を入れる。

 

「やるなぁ。近接仕掛けながら哀矜懲双(へメロザルド)の入れ替えを三発いれたのに、全部きっちり対応されるなんて。ウチの騎士ちゃんと師匠以外だと、なかなかいないぞ」

 

 本当に純粋に感心してしまって、おれは思わず褒め言葉を口にした。

 

「ありがとうございます。貰えるもんは貰っておきます」

 

 すっきりとした簡潔な返答。その受け答えにすら、隙がない。

 今の攻防だけで、なんとなく彼の戦い方が見えてきた。まだまだ習熟が甘いとはいえ、今のおれの手持ちの中で哀矜懲双(へメロザルド)は最も使い込んでいる魔法の一つだ。だが、彼はその魔法特性を即座に見抜いて、的確に捌いてくる。

 観察眼と頭の回転の速さ。受け主体で相手の土俵に乗りつつ、魔術で間合いを伸ばした剣で反撃を狙う、防御とカウンター主体の組み立て。そしてなにより、相手の接触を徹底的に避ける、我慢強い立ち回り。

 これは、魔法使いを倒すための戦い方だ。

 結論は出た。おれは、彼に向かって問いかけた。

 

「第一位くん。きみ、もしかして魔法持ってないのか?」

 

 

 

 ◇

 

 

 特別な出会いがあっても、決意を新たにしても、いくら努力を重ねたとしても、魔法が確実に発現するわけではない。

 結論から言えば、ジーク・ラヴェルは魔法の才には恵まれなかった。

 

「第一位くん。きみ、もしかして魔法持ってないのか?」

 

 勇者の問いかけに、ジークは身を固くした。

 来るべき問いが、来てしまったと思った。

 

「はい。オレには魔法がありません」

 

 震えを抑えて、言葉を紡ぐ。

 ジークが今、対峙しているのは、黒輝の勇者だ。その身に、数え切れないほどの魔法を宿してきた、史上最強の魔法使いだ。数多の心と色を、欲しいままにしてきた存在だ。

 七光騎士の第一位が『色無し』であることに、彼は何を思うだろうか。

 失笑されるだろうか。

 失望されるだろうか。

 もしも、ずっと手を伸ばしてきた憧れに、嘲笑われてしまったら、

 

 

「すごいな!? 魔法ないのに一位なのか!?」

 

 

 

 迷うことなく、言葉を選ぶ様子すらなく。

 勇者は、魚が釣られた餌に食いつくかのように、即座に声を発した。

 

「……はい? あ、はい」

「まじか。多分、同期に魔法持ちが多いから、触れられないために色々工夫して、考えて、その戦い方に行き着いたんだろ? もう正直に話すけど、きみ、おれが学生だった頃より普通に強いんじゃない? まだ若いから、これから経験積んでもっともっと腕上がるだろうし……受け寄りのスタイルだからこそ、剣に魔術でギミック仕込んでるのもおもしろいし……」

 

 勇者がとめどなく紡ぐ言葉に、ジークは呆気に取られたまま。

 けれど、心の中に凝り固まっていた重いものが、すっと抜け落ちていくことだけは、わかった。

 ひとしきり熱く語って満足したのか。勇者は、ジークを正面から見つめて、言葉をまとめる。

 

 

 

「惜しいなぁ。もしも世界を救いに行く前に、きみがおれと出会えていたら……仲間にほしかった!」

 

 

 

 自分の中で抱え続けていたものが、何もかも砕け散る音がした。

 朗らかに笑う勇者に釣られて、思わず笑ってしまう。

 ああ、そうだ。そうだったのだ。

 英雄に意味はあるのか、とか。

 英雄を目指すことに意義はあるのか、とか。

 魔法使いになれない自分自身に価値はあるのか、とか。

 わざわざ難しい言葉で飾りつけてきた言い訳は、こんな簡単な一言で消し飛んでしまうほどに、くだらないものだった。

 

「……ありがとう、ございます。最高の褒め言葉です」

 

 胸の内から、熱いものが込み上げてくるのを感じる。

 それは、どこまでいっても、ただの言葉だ。

 記録に残るわけではない。勲章のように飾っておけるわけでもない。耳から聞き取り、頭で記憶されるたった一言の言葉でしかない。

 それでも、彼の言葉は自分の心に刻み込まれたまま、一生消えることはないだろう。

 憧れに、認めてほしかった。

 あまりにも単純な自分自身に、また苦笑して、

 

「でも、悪いね。勝つのはおれだ」

「……いいえ。一本、取らせてもらいますよ」

 

 ジークは、剣を構えなおした。

 人間は強欲な生き物だ。認めてもらったら、次は超えたくなってしまうのだから。

 ジークは、思考する。

 三度使われた、相手と自分を入れ替える魔法、哀矜懲双(へメロザルド)。間違いなく、あの魔法が勇者の格闘戦の軸だ。だが、転移する方向は、視線の先。それさえわかっていれば、ぎりぎり対応はできる。

 

(次に哀矜懲双(へメロザルド)を使われた瞬間が、勝負。一騎打ちを強要する決闘魔導陣の中なら、オレと位置の入れ替えをするしかない。カウンターを決めて、仕留める)

 

 勇者が、大きく地面を踏み締めて、飛ぶ。

 見極めるべきは、魔法の使用タイミング。そんなジークの思考を打ち抜くように、勇者は拳が届かない距離から、両手を大きく振りかぶった。打撃ではない。魔術でもない。それは、もっと原始的で、物理的な、

 

(石っ!?)

 

 投石だ。

 いつの間に、ひろっていたのか。世界を救った勇者が、まるでゴブリンのように、石を投げてきた。

 その事実に戸惑いながらも、ジークは飛んできた一つを叩き落し、もう一つは首を曲げて避けた。子ども騙しのような攻撃は、たしかにジークの体勢を大きく崩した。しかし、それでも勇者の選択肢は変わらない。

 

哀矜懲双(へメロザルド)

 

 待ち構えていた魔法の使用に、ジークは剣を振るい……眼前から勇者の姿が消え失せたにも関わらず、自分が入れ替わっていないことに、目を見開いた。

 いや、入れ替わったものは、ある。

 ジークが避けた、拳大の石。

 

(人間以外とも、入れ替われるのか!?)

 

 答え合わせは、背後からの強烈な一撃だった。

 

「魔法の特性は、見抜いたと思っても、相手が意図的に伏せている場合がある。思い込みで、相手の力を測るのはやめておいた方がいい」

 

 多人数相手の大立ち回りと、自分との一騎打ち。これまでの戦闘で、魔法の対象を人に絞って位置の入れ替えを行い続けたのは、人間にしか魔法が使えないと、相手に印象づけるため。

 場数も、経験も、すべてが違う。

 薄れていく意識の中で、ジークは小さく呟いた。

 

「やっぱ、つえぇなぁ……」

 

 

 

 ◇

 

 

 さてさて。将来有望な第一位くんを倒したことで、決闘魔導陣も解けた。これで、おれは自由に動ける。

 前衛と後衛は潰したから、残る馬車は一つのみ。さっさと追いつきたいところだが……

 

「盗み見してる子いるでしょ? 気づいているから、さっさと出ておいで」

「す、すみません!」

 

 がさがさぁがさぁ、と。

 茂みの中から頭に葉っぱをのせて出てきたのは、昨日おれが相談にのった三つ編みちゃんだった。たしか、この子も七光騎士の一人。さっきの一位くんには負けると思うけど、相応の実力者のはずだ。なにやら、布地に包まれたごっついものを、背負っている。アレが得物だろうか? 

 

「おれと第一位くんの戦い、見てたでしょ? 加勢しなかったのは、なんで?」

「は、はい! すいません! えっと、作戦を考えれば、彼が決闘魔導陣を使う前に私も一緒に戦うべきだったと思うのですが……彼、勇者様に憧れてて大好きなので……一騎打ちしたいかなぁ、と思って」

「……作戦よりも、個人の感情を優先した、と?」

「い、いえ! 他にも、一応理由があって……私も、勇者様と決闘がしたいんです!」

 

 えぇ? マジかよ。どっちにしろ個人の感情じゃねえか。勇者さん大人気か? 

 憧れてくれるのは嬉しいが、敵の盗賊兼指導役としては微妙な気持ちになる。

 しかし、メガネの奥の目を伏せて、三つ編みちゃんはさらに聞いてくる。

 

「えっと。ダメ、ですか?」

「いや、ダメじゃないけど、なんていうかおれ今、勇者じゃなくて盗賊で……」

「彼の挑戦は受けたのに……私の挑戦は受けてくださらないんですか?」

 

 気弱に見せかけて、意外と押し強いなこの子。

 たしかに、それを言われてしまうと、おれとしても非常に弱い。一位くんの挑戦を受けたのに、三つ編みちゃんを拒否したら、差別になってしまう。決闘差別だ。

 

「わかった。わかったよ。きみの挑戦も受けよう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 ご丁寧に頭まで下げて、彼女は黒い肩幕をやさしく撫でた。つくづく、礼儀正しい子である。

 昏倒している第一位くんを近くの木の幹に寝かせて、少し距離を取って離れる。せっかく消えたと思ったのに、再び地面に決闘魔導陣が展開された。これで、おれと三つ編みちゃんの一騎打ちが成立する。

 足元に広がった魔導陣の光を見下ろして、三つ編みちゃんはどこか安心したように息を吐いた。

 

「ああ、よかった……」

 

 武器を構えるまでは仕掛けるのを待っていてあげようと思ったのだが、なぜか彼女は布地に包まれたままのそれを地面に放り出して、自分の鎧の胸当てに手をかけた。

 

「ようやく、勇者様と二人っきりになれました」

 

 かちゃかちゃと。

 三つ編みちゃんは、躊躇なく手早く、全身の装備を外していく。

 要するに。

 おれの目の前で、服を脱ぎはじめた。

 

「え? いや、ちょっと?」

 

 最初は、身軽に動くために鎧を外したのだと思った。

 しかし彼女は、胸当て、膝あて、腕の手甲。そして、鎧下のインナーまで、躊躇なく脱ぎ落していく。

 おいおいおい!?

 いくらなんでも、それはさすがに脱ぎすぎだ!

 

「なっ!? まてまてまて!」

 

 そもそも、人前で服を脱ぐなんて、正気か!? 

 しかし、焦って止めようとするおれを、まるで嘲笑うかのように。

 薄い下着を露にした彼女は、静かに微笑んで。

 両の手のひらを広げて、何にも触れぬまま。

 

 

 

──『藍毀骨立(キル・キュアノス)

 

 

 

 おれに、魔法の名を告げた。




こんかいのとうじょうじんぶつ

勇者くん
魔王を倒すためになりふり構わず欲しい人材をパーティーに拉致……もとい引き込んでいたが、さすがに仲間が美少女&美女(&幼女)ばっかになってしまったことに多少の思うところと肩身の狭さはあるのか、気心が許せる男の仲間が欲しかった感は若干あるらしい。
真面目に考えた時、攻撃に偏重した自分以外に頭の回る前衛が欲しい、という気持ちもある模様

ジーク・ラヴェル
第一位くん。勇者に焼かれた(心情的に)。浄化完了
魔法なしで魔法使いどもを個人戦で転がし、実技と座学もトップを維持し続けている、まあまあマジモンの天才。魔術を織り交ぜた守りの剣技は非常に守りが厚く、硬い。人望も厚いので基本的に弱点がない完璧超人に近いが、魔法がないという唯一その一点のみでいろいろと拗らせていた青少年

リーナ・ハーコート
三つ編み地味メガネ脱衣美少女。七光騎士第七位
急に服を脱ぐという奇行により、作品の雰囲気をエロ同人にした。


こんかいのしんとうじょうまほう

藍毀骨立(キル・キュアノス)
リーナ・ハーコートの色魔法。藍色の魔法。名前からしてもうヤバそう
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