朱炎のバーナーダインという男は、どこまでも致命的にイカレていた。
ジンベリンが彼に出会ったのは、数年前。さびれた酒場で、アイアラスの騎士たちと言い争いになったときのこと。
ジンベリンの生まれ故郷の村は、魔王軍に襲われ、壊滅した。めずらしくもない、平凡な悲劇に見舞われた村だった。それだけならジンベリンもまだ、天災に遭ったようなものだと、見舞われた不運に納得していたかもしれない。
しかし、ジンベリンの村の壊滅は、明確な理由のある、人災でもあった。
ジンベリンの村は、見捨てられた。貴族と癒着関係にあった地方の騎士団はその護衛を優先し、魔物に襲われる村に救援すら出さなかった。辺境の土地を守る騎士たちの誇りとは、結局のところ、金と権力に尻尾を振る程度のものだったのだ。
酒場で吞気に酒を煽っている騎士たちを見かねて、ジンベリンは抗議した。
なぜ、力なき人たちを守らないのか?
なぜ、弱い人間を助けないのか?
騎士の剣は、なんのためにあるのか?
正々堂々と、正面から、理路整然と。声を張り上げるジンベリンを、しかし騎士たちは鼻で笑うだけだった。アルコールで酩酊した判断力で、ジンベリンを取り囲み、袋叩きにして、ついには剣を抜こうとした、そのとき。騎士の一人の頭を、後ろから鷲掴みにした男がいた。
──うるせえ。酒が不味くなるだろうが
朱炎のバーナーダインは、躊躇いなくその頭部を爆破した。
──知ってるかァ? 人間の頭って破裂するとこんな感じなんだぜ?
啞然とするジンベリンを見下ろして、バーナーダインは薄く笑った。
──お前の眼を見ればわかる。燻ってる。つまんねーヤツの眼だ
おもしろくしてやるよ、と。バーナーダインが告げたその瞬間。仕込まれていたすべての導火線に、火が点いた。
まず、彼が入店する際に開いた扉が爆発した。次に、彼が腰かけていたイスが爆発した。それから、彼が食べていたスパゲッティの皿が爆発し、彼が頬杖を突いていたカウンターも爆発した。さり気なく、彼が叩いた騎士の肩も爆発し、さらには彼が適当に放り投げた鼻をかんだちり紙までもが爆発した。もはや無差別に、彼が歩いた床板までもが、爆発した。
たった一瞬で、その空間にあったあらゆるものが爆ぜて、燃え盛る炎に変わった。
唯一、爆発させずに左手に握った酒の杯を煽りながら、バーナーダインは問いかけた。
あの騎士たちが、憎いのか?
ジンベリンは即答した。
憎いが、それは彼らは殺していい理由にはならない。
ご立派な答えだ。素晴らしい、と。放り投げたエールのグラスをまた爆発させながら、バーナーダインは賞賛と同時に、首を傾げた。心底、その返答が理解できない、とでも言うように。
──でもよぉ……爆発した方が、気持ちイイぞ?
剣を抜いてくる向かってくる騎士たちを一人。また一人、もう一人、と爆殺しながら、バーナーダインはジンベリンをゆったりと諭した。
──人間の心は、感情を抱え込んでおく器じゃねえ。心は火だ。入れたもんは燃やして、はじめて意味をもつ
なによりも苛烈で、なによりも悪辣なはずの彼の言葉は、けれどジンベリンにとっては、誰よりもやさしく寄り添ってくれる心の火種だった。
手当たり次第にすべてを爆破したその手で、バーナーダインはジンベリンの手を掴み、引き上げ、立ち上がらせて、力強く背中を押した。
──さあ、おまえも爆発しようぜ
ジンベリンの価値観は、その一言で爆ぜて散った。
残りの騎士たちは、ジンベリンが自身の槍で皆殺しにした。
痛快だった。あまりにも、爽快だった。
ジンベリンが『
心に、正義と信念の炎が灯った気がした。
──おめでとう。お前は、心の檻を突き破った。とじこめられている火が、いちばん強く燃えるもんだ
彼と交わしたあの日の酒の味を、ジンベリンは一生忘れない。
◇
「あの人の、娘さんかぁぁぁ!」
故に、ジンベリンは歓喜する。
「うれしいぜぇ! あの人の娘さんに会えるなんてなぁ! オレぇは今! 感動している! さあ、アンタも一緒に革命を……!」
「やかましいわよ。犯罪者」
魔女は、指先を荒くれ者たちに向けた。
ぴん、と伸ばした人差し指。その指先に、小さな火が灯る。
「
凝縮された炎が、一閃する。
シャナたちを包囲していた、敵の一団の足元。その爪先を、薄く焦がすように。地面が焼かれて、明確な境界線が引かれた。
燃える指先とは正反対に、ベルフィールはどこまでも冷たい目で告げる。
「これは威嚇よ。次は燃やすわ。死にたくなければ、さっさと杖と武器を捨てて、地面に這いつくばって土下座なさい」
これ以上踏み込んだら、燃やされる。
数秒後の自分の断末魔を想像して、悪党たちは喉を鳴らして唾を飲み込んだ。誰もが冷や汗を垂らして、顔を見合わせる。炎の圧力に負け、ひとりでに武器を下ろそうとする中、
「丸焼き希望ぉ! 一番槍ぃ! いきまぁす!」
たった一人。必然の如く、ジンベリンだけが嬉々として、その境界線を踏み越えた。
たとえ蛮勇であっても、無謀であっても。それは、集団を率いる長として、紛れもなく敵の炎に自ら飛び込んでいく勇気だった。
高々と掲げられた炎槍が、戦意を引き戻す。
リーダーの奮起は、集団の士気に火を点ける。戦意を消されかけた悪党たちの目に、再び炎が宿る。
「ビビんなお前らァ!」
「おうよぉ! カシラに続けえ!」
「魔女も賢者も騎士団長も、全員討ち取れぇ!」
杖を構え、剣をかざし、唾をまき散らす。
意気を吹き返した敵を見て、シャナはげんなりとため息を吐いた。
「ちょっと魔女さん。煽ってどうするんですか」
「し、仕方ないでしょ。実力差を考えれないバカばっかりなんだから!」
「もう止まりませんよ。どうするんですこれ」
「アタシに任せていいわよ。アンタたちは下がってなさい。仕方ないから、バカどもにはちょっと火傷してもらうわ」
右手を地面に突いて、ベルフィールは敵を見据えた。
次は、指先ではない。手のひら全体に集中した火炎が、地面を燃やす。
「
波打つように広がり、拡散し、爆裂する。
それは、地面から噴き出し、唸りをあげる炎の火花だった。伝播する炎が、咲き乱れて眼前のすべてを吹き飛ばす。絶叫と悲鳴が轟き、あるいは衝撃で完全に意識を失って、悪党たちが次々に倒れ伏していく。
数十人単位の包囲が、たった一撃で崩れ去った。想定以上の威力にシャナの隣でレオが口笛を吹く。
「わぉ。すごい火力じゃないか」
「……そうですね」
たしかに、想定以上の威力だ。しかし、それ以上に驚くべきは、魔術と魔法を組み合わせた、繊細なコントロール。単純な話、触れたものを『燃焼』させる魔法では、いくら攻撃性能が高くても、シャナたちを守ったような炎の防壁を作り出すことはできない。
指先に火力を凝縮し、集中して照射する、一番。
手のひらから地面に干渉し、回避しづらい地中から爆炎による範囲攻撃を行う、三番。
たった二つの攻撃を見ただけでわかる。この魔女は、シャナが目にしてきた魔導師の中で、誰よりも炎を扱うのが上手い。
自分自身の炎で燃えることのない、魔法の解釈。それを軸として、ベルフィール・バーナーダインは、魔法と魔術を高い次元で融合させ、己の魔導術式として昇華させている。
「ひゃお! 派手でいいねぇ! それでこそってヤツだなぁ!」
だが、そのバカは咲き乱れる火炎の包囲を、単独で抜けてきた。
どこまでも愚直に、真っ直ぐに。突進するジンベリンを見て、ベルフィールは小さく舌打ちを漏らす。
「なんで動けんのよ。大人しく燃えときなさいよ!」
「オレぇの闘志は! そんな雑な炎じゃ燃え尽きねぇんだよぉ!」
「じゃあ、お望み通り、もっと熱いのをくれてあげるわ」
指先を照準。今度は心臓を撃ち抜き、焼き切るつもりで、ベルフィールは『レイバーン』を放つ。しかし、照射された炎の一閃を、ジンベリンは紙一重で避けてみせた。
戦闘を開始してから、はじめて。ベルフィールは、僅かに虚を突かれて、目を見開いた。
ジンベリンのブーツの踵。そこから噴き出た炎が、瞬間的な回避機動のための、速力を与えていた。
ベルフィールの扱う炎熱系魔術には遠く及ばない。けれどたしかに、隙を生む炎の魔術の活用。
「小細工を……!」
「小細工してこその小悪党だろがぁ!」
叫びと同時。ジンベリンの指先から放たれた礫が、炎を操るベルフィールの腕を貫いた。
指弾。小さな石の礫を、弾丸のように指先で発射する、武道の技術。シャナの防御魔導陣を撃ち貫いた攻撃の正体にベルフィールが気づいたときには、すでに悪党は槍の間合いに入っていた。
「近接に弱いのはァ! 魔導師みんな同じだよなぁ!?」
「ちぃ……!」
いくら炎を纏っていようと。
いくら炎で防御しようと。
人間の急所は二つ。思考を回す頭と、血液を回す心臓。
正確にその二箇所を貫いたジンベリンは、しかし絶句した。
手ごたえが、ない。
「お、おぉ!?」
「……だぁから、言ってるでしょうが」
貫いたはずの頭部が、陽炎のように揺らめく。
貫いたはずの心臓に、ぽっかりと空いた穴を炎が埋める。
ジンベリンが誇る『
なぜか?
「アタシ自身が、炎なのよ」
答えは、まったく変わらない。先刻の宣言を、ベルフィールはもう一度繰り返す。
たしかに、ベルフィール・バーナーダインの身体は燃焼している。
しかし、炎を身に纏っているわけではない。
「燃えるってことは、炎になるってことでしょ?」
ベルフィール・バーナーダインは、その身の一片に至るまで、自分自身を燃え盛る朱色の炎として、正しく認識している。
それはたしかに『燃焼』と呼べる魔法効果ではあるのかもしれない。
しかし、魔女はさらにもう一歩。己の魔法を、さらに深く、色鮮やかに定義している。
自分自身と触れたものを『火炎』に変える。
それが、朱炎のバーナーダインを継ぐ、朱炎の魔女。
それこそが、ベルフィールの火色の魔法『
「すげえ!」
確信する。
狂喜と共に、ジンベリンは叫んだ。
「てめえも、バーナーダインかぁああぁぁぁ!?」
「だから、最初からそう言ってんでしょ」
「だからこそぉ! オレぇが挑み、燃え上がる意味があるっ!」
空中に飛び上がったジンベリンは、魔女の頭上を取った。人間の警戒が最も薄れるのは、頭上と直下。
槍の穂先ではなく、柄の後端から炎を吹き出し、刺突を加速。幾重にも幾重に降り注ぐそれは、さながら槍撃の雨。
「
しかし、意味はない。
ジンベリンのの魔法をいくら重ねたところで、揺らめく炎に、穴を穿つことはできない。物理的な攻撃の一切は、ベルフィールには通用しない。
「無駄だって何度言えば……!」
「いやぁ……無駄じゃないぜ」
「……っ! 魔女さん!?」
シャナが叫んだのと、ベルフィールが奇妙な浮遊感を覚えたのは、同時だった。
人間の警戒が最も薄れるのは、頭上と直下。
足元を見たベルフィールは、ようやくそれに気づく。
そこにあるべき……踏み締める地面が、ない。ぽっかりと、穴が空いていた。
ジンベリンの槍撃の雨の狙いは、最初からベルフィールの身体を穿つことではなく、地面を『貫通』させること。
「貫けねぇなら、落とすだけだ……じゃあな、お嬢さん」
「……ぁ」
「やっぱアンタ、バーナーダインじゃねぇよ」
底の見えない、穴の底へ。
ベルフィール・バーナーダインは、真っ逆さまに落下する。
◆
クソ親父のことは、大嫌いだった。
いつも酒に酔っていて、好き勝手に暴れて、人のことなんて考えずに自由気ままに振る舞って。
「人間は、火がなけりゃあ進化しなかったらしい」
「……? なんの話?」
「そりゃもちろん、オヤジのありがてえ話だ」
けれど、その話だけは、妙に記憶に残っている。
めすらしく、良い酔い方をしている日だった。
「オセロのジジイからの受け売りになるがな。火は、なによりも自由だ。鮮やかに揺らめいて、触れるものすべてを焼き尽くす。この世で人間が最も気ままに振うことができる力の概念の具現。それがオレとお前の魔法だ」
「なにそれ。意味わかんない」
「今はわからなくていいさ。お前はガキだからな」
「……自由自由って、よく言うけど。お父さんは、もう少し、人のことを考えたほうがいいと思う」
「はっはぁ! オレに説教なんざ百万年はえぇ! 説教ってのはオヤジがするもんだろ!?」
「うるさい。酒臭い」
「わはははは! はえー反抗期じゃねえか! 自由でいい!」
がしがし、と。酒杯を持っていない方の手でベルフィールの頭を乱雑に撫でて、クソ親父は笑っていた。
「人間の心は、感情を抱え込んでおく器じゃねえ。心は火だ。入れたもんは燃やして、はじめて意味をもつ」
史上最悪の賢者。そう呼ばれた父の、その一言が、ベルフィールの脳裏に焼きついて、今も離れない。
「自由に燃えろよ。ベル。お前は、オレの娘なんだからよ」
◆
「
地中から、炎の柱が噴き上がる。
空を焦がすように、天高く飛翔するその火炎の先を、ジンベリンは見た。
魔術による人間の自由飛行は、誰もが目指し、研究し、憧れ、そして未だに成し遂げられていない。
四賢の中で最優と呼ばれた賢者、ハーミット・パック・ハーミアですら、その技術と理論を、他の人間に教え伝えることはできなかった。百年を超える歳月をかけて、箒にまたがり、なんとか空を飛ぶように見せかけた真似事を、成立させただけ。
しかし、彼女は、空を舞っていた。
ジンベリンは言葉を失って、青空を駆ける火色を見上げる。思わず、見惚れてしまうほど美しい、灼熱の炎で形作られたその翼を。
「と、飛べちゃうのかよぉ……」
「飛べるわよ?」
啞然とするジンベリンを見下ろして、ベルフィールは薄く笑った。
「アタシ、自由だもの」
「…………やっぱアンタ、最高だなぁ!」
追いすがるように跳躍するジンベリンの槍と、急降下するベルフィールが、激突する。
交差は、一瞬。
「
振り下ろされた炎の拳が、ジンベリンの顔面を殴り抜き、地面に叩き伏せた。
「ごっ……がっはぁ……?」
「勝負はついたわ。終わりね」
「ど、どうじでぇ……オレぇを、殺さねぇ……? アンタの炎になら、オレは、焼かれても……」
「アンタに対して、訂正したいことは、二つ」
焼け焦げた喉で疑問を吐き出すジンベリンの言葉の、その一切を無視して、ベルフィールは告げる。
「一つ。アタシはたしかに魔導師だけど、べつに近接が弱いわけじゃない。むしろ、気に入らない悪党をぶん殴るためにこの仕事やってるまであるわ。で、二つ目」
朱炎のバーナーダインは、四賢の一人。世界最悪の賢者。歴史にその名を刻まれた、炎と爆発の大犯罪者である。
その悪名は、決して覆ることはない。
「
自由に生きろ、と父は言った。
だからベルフィールは、その悪名を焼き尽くすと決めた。
「安心なさい。派手に焼いたけど、アンタのお仲間たちも全員息はあるから」
「……」
完膚無きまでの、完敗。
ジンベリンはもう、声を発さなかった。
「さ、終わり終わり! じゃあ賢者さんと騎士団長さん。悪いけど、あっちで伸びてる悪党どもを全員ふん縛ってくれる? あと、ヤバそうな火傷してるやついたら軽く治療してあげてね」
「あー、魔女さん。それはいいんですけどね……」
「なによ?」
「あの、言いにくいんですが、あなたの服が……」
「服? ああ、心配ご無用よ。アタシの魔法、触れたものを炎にするだけだから。魔法で燃やした服も、触れてるならもとに戻るのよ。だから平気な……きゃああああ!?」
説明とは裏腹に、ベルフィールは悲鳴をあげた。
黒のパンツスーツ。上から羽織ったローブ。そして、魔女帽子に至るまで。
そのすべてが、
「な、ななな、なんでぇ……!?」
「服を『貫通』された結果は、残ったんでしょうね……」
「くく……オレぇが、風穴を空けてやったぜぇ……」
「このクソ変態盗賊ぅ! やっぱり焼き殺す!」
火よりも顔を真っ赤にして呻くベルフィールに、シャナはやれやれとため息を吐いた。
「はぁ……レオさん。この人にも服出してあげてください」
「……」
「レオさん?」
「強気な女性が肌を晒すことに対して抵抗を見せる純粋な恥じらい。親友や死霊術師殿の羞恥心の欠片もない脱衣で、ボクは忘れてしまっていたんだ……! この恥じらいこそが、服を抜いだ先にあるべき可憐さと健気さであるということを! 素晴らしい! 素晴らしいよ魔女殿! あなたのその感情が、ボクに新たなる創作の強烈なインスピレーションをもたらす!」
「いいからさっさと服出しやがれって言ってんですよこの変態官能小説家騎士団長」
◇
「さあ、飲むわよ!」
「くれぐれもほどほどにしてくださいね」
ジンベリンの一団を捕縛したギルドの酒場は、すでにお祭り騒ぎになっていた。ベルフィールが「全員盛大に飲みなさい! 今日はアタシの奢りよ!」と言ってしまったものだから、もう止まらない。ただ酒にたかりにきた冒険者が次から次へと押し寄せてきて、祭りになっている。
「では、あなたはバーナーダインの汚名を晴らすために、アイアラスの宮廷魔導師に?」
「ぷはぁ! そんな大した理由じゃないわ。ただ、アイアラスの王様とご縁があったから、この仕事をやってるだけ。アタシ、べつに忠誠心とかあるタイプじゃないし。父親のことも好きじゃないし。アタシは自由な女なのよ。わかる? シャナ!」
「気安く名前で呼ばないでください」
吐く息と組んでくる肩がすでに酒臭い。
シャナは、ベルフィールの腕をはらった。
「でもあなた、実際にこうして人助けしてるじゃないですか」
「そりゃそうよ。だって、気に入らないヤツを爆殺するよりも、こまってる人を助けて、気に入らない悪党をぶん殴った方が、人生気持ちいいでしょ?」
「……はぁ。なるほど」
この女、そういうタイプか。
シャナは、なんだか納得してジュースをちびちびと口に運んだ。
「それで、これからどうするんです?」
「極彩天武会に出るわ! アタシが最強の魔導師であることを、世界に知らしめるためにね! まあ、アイアラスの王様にも出ろって言われてるし……」
「なるほど」
「そんでもって、黒輝の勇者をぶっとばす!」
「え、なんでそうなるんですか?」
「クソ親父をぶっとばした勇者をぶっとはせば、アタシが間接的にクソ親父よりも強くなった証明になるからよ!」
「……一応、私もその人のパーティーの一員なんですが」
「シャナは特別よ」
「スカートの下に手を伸ばすのほんとにやめてもらっていいですか? 出るとこ出ますよ」
脚の下に伸びてきた手をはらいながら、シャナはげんなりとため息を吐いた。
我がパーティーの勇者様は、また厄介な女に目をつけられてしまったらしい。
「さあ! 今日は酒が尽きるまで飲むわよ!」
触れたものを火に。自身を炎に変えることができる、魔法と魔術を融合させた天才。
真火の魔女、ベルフィール・バーナーダイン。
大火を以て、大義を成す。
そんな彼女の在り方は『朱炎のバーナーダイン』の悪名を、少しずつ塗り替えていくことになる。
炎の翼で弱き者の窮地に駆けつけ、火の拳で悪党を打ち飛ばす。そして、派手に酒を飲んで、去っていく。
賢者でありながら義賊のような彼女の在り方は、奇しくも父親と同じ名で、後世に語り継がれていった。
──
「おぇえええええ……」
「だから飲み過ぎるなって言ったんですよ」
翌朝。ベルフィールは、また吐いた。
こんかいのとうじょうじんぶつ
・魔女さん
黒髪ロング酒カス灼熱爆炎黒スーツお姉さん。ベルフィール・バーナーダイン。おせっかいで、お人好しで、かけた情けはいつか返ってくるだろうし、返ってこなくてもまあ自分が気持ちよければいいか、酒を飲み干して笑う生粋の善人。それゆえにだまされやすかったり、悪酔いしやすかったり、凹みやすかったりする一面もある。かわいい。
誰にも縛られず、自分は自由である、と豪語しながらも、父の犯した悪行と、その悪名を超えることを心の底から望み、それに縛られている。
人前で肌を晒すことには、ちゃんと抵抗があるタイプ。かわいい。
超スーパー初期プロットでは、高い実力を持ちながらも自分の魔法で火傷が絶えず、顔を隠しがちな出来損ないの魔法使いが、勇者との交流を通じて魔法の解釈を深めて完成に至る……みたいなヒロインポイントを持っていたが、本編後半での登場に伴い、メラメラの実も真っ青なスーパー上方修正を受け、強化と同時にヒロイン力も跡形もなく焼き尽くされた。がんばれ
・チンピラ槍使い革命家
ヒャッハー系ちょっと強い枠。ジャック・ジンベリン。またの名を炎槍のジンベリン。バーナーダインの爆炎に魅せられ、いろいろ歪んでしまった人。
部下たちからの人望が厚かったり、勇猛果敢であったり、ヒャッハーしながらもきちんと魔導師の弱点を突いたり、さらには全身炎になるベルフィールを生き埋めにしようとしたりと、なかなか見どころのある強さの持ち主。
賢者ちゃん
二回目はきちんとバケツを持って回避した。シャナ・グランプレ。ゲロンプレ回避。勇者さんがまた変な女に変な因縁をつけられそう……!と酒カス魔女の今後の動向に細心の注意をはらっている。
親友
レオ・リーオナイン。恥じらいこそが、エロスの秘訣。NO全裸、YESチラ見え。官能の筆を綴るものとして、本当に大切なものを今度こそ取り戻した。
余談だが、魔女さんにはくまさんパジャマを貸そうとして、焼かれかけた。
こんかいの登場魔法
『
ベルフィール・バーナーダインの、火の色魔法。自分自身と触れたものを『火炎』にする魔法効果を持つ。触れたものは炎になるので、はたから見れば魔法効果は『燃焼』に見えるが、そんな常識に留まらないのがベルフィール・バーナーダインの自由な心の真骨頂である。
他の普通の人間がこの魔法を使おうとすると、自分自身が火達磨になる事実に耐えきれなくなり、自滅する。が、幼い頃から父の爆発を間近で見てきたベルにとっては火は親しむものであり、炎は友人だった。自分自身の身を『火炎』として定義することに、何のためらいもない。
ベルはこの魔法と魔術を組み合わせ、ナンバリングした術式を技として使用する。魔法で発火させた炎を魔力でコントロールしているので、発生が早く、魔導陣も利用せず、杖も基本的には使用しない。地味にチートである。
・『
火翼の一。指向性炎熱射術。指先に集中させた炎を、ビームのように撃ち出す。射程と狙いの正確性が特徴。
・『
火翼の二。近接格闘炎熱打術。身体の一部を炎に変化させ、ジェット噴射の要領で加速。拳で殴り抜く。近接が弱いという魔導師のセオリーを無視した技。基本的には遠距離からレイバーンとクジャルリリーを撃っていればほとんどの敵は死ぬのだが、ベルは気持ちよく悪党を殴って死なせず捕縛するために多用する。
・『
火翼の三。中距離広域炸裂型炎熱射撃。地面に手をつき、魔法で干渉。広範囲に火炎を噴出させる制圧技。咲き乱れる炎の花の凄まじさは無差別攻撃のようにも見えるが、ベルの腕にかかればきちんと手加減も可能。
・『
火翼の五。身体変化型炎熱飛翔術式。背後に火炎の翼を生やして飛翔する。飛行速度も一級品で、自由に飛べる魔法使いとしては、屈指……というよりも、唯一無二に近い空中機動能力を誇る。
なお、ベルフィールの技は九番まであるらしい
『
ジンベリンの魔法。触れたものを『貫通』させる魔法効果を持つ。槍を絶対貫通の穂先にしたり、指弾を絶対貫通の銃弾にしたりする。色魔法ではないが、なかなか強力な魔法。
全体的に攻撃性能が高めで、本人の槍捌きも申し分なく、炎熱系の魔術を活用した搦手も用いるため、闇討ち性能も高い。なんで負けたんだろうコイツ。
・
ジンベリンの切り札。空中への跳躍で敵の頭上を取り、槍撃の雨を降らせ、同時に地面を『貫通』させて、相手を落とす。二段構えの大技。大抵の魔法使いはこれで仕留められそうだが、ベルさんは物理無効なうえに飛行可能なために一切通用しなかった。クソゲーである。